感染して体が化物になっても自我は消えませんでした   作:影絵師

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少しは協力

 

「……冗談はやめてくれないかしら」

 

 うさぎ人間―ラピンから話を聞いたジルは呆れたように言った。クリスとバリーも同じ様子だ。

 ラピンが言うにはここはジルたちがいた世界とは異なる世界にある館であり、三人が倒してきたゾンビや化け犬はここの住人だと言う。本当はラクーンシティのそばにあるアークレイ山地に研究所として建てられている洋館で、ゾンビや犬、そして私はここで起きたバイオハザードに巻き込まれて変異したんだけど。

 でも、下手にそういうことを言ったらいろいろ面倒なことになりそうだし、感染されないように私を殺して燃やすかもしれない。だから適当なことを言って追い返そう。と思ったんだけど、信じてくれない。まあ、普通に信じられるわけないか。

 別の言い訳を考えているラピン。その時、自分を睨むヒゲの男―バリーに気づき、彼の顔を見る。

 

「何?」

「何を隠している? 怪しすぎるぞ」

 

 うん、怪しまれて当たり前だね。そもそもここは別世界だなんて言うのはまずかったのかも。とりあえず、あんな腐った連中とは一緒じゃないことを伝えよう。

 

「これだけは言うけど、私はゾンビじゃないからね。現にこうやって私と話してるじゃない」

「だが、人間ではないことは確かだ」

 

 クリスはそう言い、友好的とは思えない態度を見せる。……なにこれ。私が化物みたいにされてるけど。いや、本当にバケモンなんだけど。

 どうにかしようと考えている時に、ジルはバリーとクリスに向かってこう言った。

 

「少し落ち着きましょう。人間じゃないとはいえ、こうやって話し合っているわ。ここが異世界だと言うのが嘘だとしても、この館のことは知っているかもしれないわ」

「……仕方ないな、うさぎの話でも聞いてやるか」

「重要な手掛かりがあるならな」

 

 彼らの会話を聞いて一応、自分のことを信じてくれるようになったと思うラピン。とはいえ、アンブレラの研究所だと知ったらいけないからね。それ以外の情報でも教えてあげようか。

 彼らにこの洋館の一部を説明を始める。

 

「前に住んでいた人たちはちょっと厄介な動物に襲われていたからね、そこらへんに銃や弾薬があるから拾っといた方がいいんじゃない? まあ、私は人間のご……人間と違ってそんなのは必要ないね。この蹴りであの世に逝かせてやるから」

「ああ、ありがたく使わせてもらうぜ。腐った連中をどうにかするためにな」

「それで? ほかに大事なことは?」

 

 銃や弾薬が多くあると聞いて頷くバリー。たずねるジルにはこう言った。

 

「そうね……ちょっといろいろな仕掛けがあってね。それを解かないと開けられなかったり、下手したら罠みたいのもあるし」

「……ここは一体どういうものなんだ?」

「知らないよ。私は自分の部屋と食料庫を行き来してたから」

 

 クリスにそう返して最後に「バイオハザードが発生してからね」と、心の中で付け出すラピン。まあ、この三人が重要なところにたどり着くはずがないし、ゾンビになったらなったで処分すればいいし。

 そう思いながら長い両耳を動かす彼女を見つめたあと、バリーは食堂へ向かう扉の前に立って言った。

 

「クリスに言われた通り、俺はこっちから調べる。お前たちも気をつけな」

「ああ、無理はするな」

 

 クリスに頷き、玄関ホールから出る。クリスはジルにこう言う。

 

「俺たちは二階に行って分かれて調べるぞ」

「ええ、わかったわ」

 

 クリスとジルの会話を聞いて、ラピンは思わず言った。

 

「えっ? どうしてそれぞれ単独で調べに行くわけ?」

「固まって行動するよりは効率がいい。それに俺たちはそう簡単には死なない」

「そういうことよ。あなたのことも期待してるからね、ラピン」

 

 階段を上がり、二階で二手に分かれ探索を始めるクリスとジル。彼らはそれぞれこれからも信頼できる相棒を持っているのだ。

 

 

 

 一方、玄関の前に残されたラピンは大きくため息をついて、こうつぶやいた。

 

「まったく兎使いの荒い人たちね」

 

 床を無意識に足ふみしながら行動を始める。とりあえずバリーがいる食堂の方でも一緒に行こうか。

 バリーのあとを追い、食堂に入るラピンの長耳に柱時計の音が一定間隔に入る。そこにはバリーの姿はなく、先に進んで行ったんだろう。奥の扉を開けて廊下を出る。

 そこには真新しい死体がそこに転がっていた。服装からしてS.T.A.R.S.の一員のようだ。首を食いちぎられている。……さっき、銃は必要ないって言ったけど、念の為持っていこう。

 死体のそばに落ちている拳銃を握り締める。廊下の先を進んでいくと、階段があり、そこにも死体があった。ゾンビとして起き上がらないように頭部を蹴り潰し、階段を上がっていく。

 その先にあった扉を開け、二階の廊下に立つラピン。姿は見えないが、奴らのうめき声が耳に入ってくる。慎重に歩くと、前方の曲がり角からゾンビが現れた。拳銃で排除しようとするが、B.O.W.でもないこいつは蹴ればいいだけだ。噛み付こうとする下顎を蹴り上げ、絶命させる。

 そんな死体を見下ろしていると、廊下に置かれている首のない天使の像の胸に刺さっている黄金の矢が目に映る。気になって引き抜くと、矢尻がペリドットでできている。

 それを見てラピンはあることを思い出した。洋館の近くにあるいくつかの墓の中に天使の絵が彫られたのがあり、この矢尻はその鍵であることを。そして、そこにはあの赤い化物が封印されていることも。

これはS.T.A.R.S.には隠しとこ。あれが解放されたら私も危ないし、あそこには重要な鍵があるし。

 そう思いながら食堂への扉を開けると、そこにはクリスが銃を構えて立っていた。ラピンは両耳を一旦縮めて伸ばし、矢尻を落としてしまう。そんなラピンの姿を見て、銃を下ろすクリス。

 

「お前か。驚かすな」

「そっちこそ! 兎はこういうのに弱いのよ!」

 

 そう返してしゃがんで矢尻を取ろうとする。だが、それに気づいたクリスが先に取った。緑色のそれをしばらく眺めてからラピンに言った。

 

「これを貸してくれ。お前が言う墓場にある仕掛けに必要だと思うんだ」

「いや、それは関係ないやつだって」

 

 どうにか取り返そうとするが、ラピンから矢尻を遠ざけるクリス。彼の行動にイライラしてきて蹴り飛ばそうと考えたが、矢尻を持ってない方の彼の手が拳銃に伸ばしているのが見えて、諦める。化物に食い殺されちゃえ。

 クリスから距離を取り、心の中で罵倒しながらメガネをかけ直すラピン。長い耳を後ろに倒して足ふみしている彼女を見て、クリスはある疑いを持つ。

 

「ラピン……お前に聞きたいことがある」

「何よ」

「お前もここのゾンビと同じ人間だったのか?」

 

 ……まさかと思うけど、否定せずにどうしてそう思うのかを聞いてみる。

 

「どうしてそんなことを聞くわけ?」

「あまりにも人間らしいからな、兎の割には。奴らよりはマシだが」

「私にとっては嬉しい言葉だけど、ただの人外よ」

 

 今はね。心の中で付け足して玄関ホールへ戻るラピンと一緒に歩くクリス。彼は墓場に行くつもりだろう。

 玄関ホールにつき、その場でラピンと分かれて墓場に向かうクリス。そんな彼の姿を見送るラピンは「もしもあれが私みたいになるとしたらゴリラかもね」と想像する。さて、反対側の方も調べに行くか。

 そこに行く前に窓に映っている自分の姿を見た。白シャツとベストとネクタイ、長ズボンを着た白い毛皮に覆われ、長い耳が特徴の兎だ。まさかT-ウイルスでこういう風に変異するなんてね……

 誰かに見下ろされる気配を感じ、振り返って見上げるが、玄関ホールの二階には誰もいなかった。気のせいかと思い、もう片方を調べに行く。

 

to be continue




 よくよく考えてみると、クリスとクレアを救ったクリーチャーもいましたね。前者は同僚、後者は彼氏。
 今回は兎人間のラピンを見たクリスたちの反応や、洋館のひみつを隠そうとするラピンの行動でした。
 次回はクリーチャーのラピンが人助けをします。そのことで多少は信頼されますが、感染者の遺書などを見つけてラピンからウイルスが移るかもしれないという疑いをするかもしれません。
 次回もお楽しみに!

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