感染して体が化物になっても自我は消えませんでした   作:影絵師

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人外恐怖症の人外

「……落ち着いたにゃ?」

「うん……あなたも私と同じなのね? おじいさん」

「ああ……以前、お前さんと別れたあとに薬が足りないと思ったが、まさか飲んだとはにゃ」

「仕方なかったの。仲間を置いていって、ゾンビに食われるなら自殺するしかないと、おじいさんが忘れた薬を……」

 

 警察署のホールでそれを聞いた年老いた民間人だった三毛猫―チェシャは呆れながら元女性警察官の桜色ドラゴン―リスベットの額を撫でて慰める。二人は人外になる前、いや、ゾンビが発生する前に知り合った関係だ。

 孫が幼かった頃、学校でいじめられて帰ってきた彼女をこうやってなぐさめていたな。思い出しながら撫で続けていると、リスベットが手から離れて、目元から漏れてる涙を拭き取りながらチェシャにたずねた。

 

「ところでおじいさんの名前は? 私はリスベットって言います」

「チェシャ……人間だった時の名前は捨てたにゃ」

「チェシャね? あなたが持ってた薬はいったい……」

「まだアンブレラで働いてるかはわからん私の孫、ラピンが作ったものにゃ。ただし、私から隠してたにゃ。孫から連絡が来なくにゃってから見つけたんにゃ」 

 

 それはゾンビが発生する前、つまり自分たちが人間だった頃に聞いた。今のチェシャである老人が連絡が来なくなった孫を探して欲しい警察署に来たときにリスベットもその場にいた。しばらくして老人は署長に追い払われてしまうが、彼をほっとけないリスベットがパトロール中に老人と会うたびに話を聞いたりした。

 ……その時は自分が竜になった原因の薬をおじいさんの孫が作っていたなんて思わなかった。そのおじいさんも猫になるとは思わずに薬を飲んでいたようだけど……クリスさんたちがアンブレラを調べていたのってそのことなの? しかもゾンビだけじゃなく、今の私たちみたいになる薬も作っているなんて……

 そう考え込むリスベットから離れるチェシャ。彼も孫がアンブレラで何をやっているのかを気になっていた。ただの製薬会社が猫や竜になってしまうような薬を作るなんておかしすぎる……いったいどういうことなんだ? しばらく頭を働かせるが、はっきりとした答えは出なかった。それに人喰いが襲ってきてもおかしくないこの場所に居続けては危険だ。リスベットに振り向き、これからのことを話す。

 

「リスベット、ここで考えても時間の問題にゃ。何か脱出に使えそうにゃものをここから探すべきにゃ」

「……ゾンビが彷徨いているここから?」

 

 彼女が恐る恐る言うと、すぐに首を真横に何度も振った。

 

「いや、絶対にいや! あの恐ろしいのに噛まれたらどうするの!?」

「……お前、竜だろ? その鱗は硬そうにゃけど」

「私はこうなりたくなったの! あの時、猫のを飲むべきだった~!」

「にゃんだ!? それでも警察にゃのか!? ドラゴンにゃのか!?」

「警察!」

 

 くそッ、まともな警官はほかにいないのか!? できればあの腹立つ署長以外のを頼む!

 ドラゴンのくせに臆病なリスベットにチェシャが苛立っている時だった。ホールの何処かの扉が開く音がした。チェシャとリスベットが口を閉じると、聞こえた方にチェシャの後ろにリスベットがべったりとくっつく形で少しずつ近づく。「動きにくい」とチェシャが小声で言っても首を振って彼女は離れなかった。

 どうやら玄関のそばに立っている二人組が扉を開けて入ったらしい。一人はリスベットとは違う制服の男性、もう一人はポニーテールに赤いベストと短パンが特徴の女子大生だ。二人共銃を握りしめて辺りを見渡す様子を見て、ゾンビではないと安心するチェシャ。しかし、だからといって今の姿で彼らの前に出たら命が危ない。なるべく刺激しないように彼らに近づくが……

 

「よかったぁ、普通の人間だ!」

 

 チェシャの背後に隠れていたリスベットが喜びを隠せずに二人に駆け寄った。おい待て! 確かにほかの生存者と会いたいが、今のお前だと……!

 次の瞬間、銃声が何発も鳴り響いた。ほら言わんこっちゃにゃい……

 

 

 

「いきなりひどいじゃないの! 別の生存者に撃つなんて!」

「いや、数発撃たれても生きてるお前が人間に見えんにゃ。迫ってきたら誰だって抵抗したくにゃるにゃ」

「……ゾンビの次は化け猫にドラゴンか。俺が勤めるラクーンシティは異世界にでも飛ばされたのかい」

「ダークファンタジーはあまり好きじゃないわ」

 

 鱗で銃弾を防いだとはいえ、二人が撃ってきたことに怒るリスベットを呆れながらもなだめるチェシャ、その光景を少し信じられない新米警官のレオン・S・ケネディと兄を探しに来たという女子大生のクレア・レッドフィールド。この二人は本日来たばかりで事件のことを知らなかったらしい。

 ようやくリスベットが落ち着き、彼女をなだめたチェシャはレオンとクレアに説明をする。

 

「信じられにゃいと思うが、私とこいつはもともと人間でアンブレラにいた孫が作った薬を飲んだらこの体ににゃったんだ。人外といえば人外だが、襲ってくるゾンビとは違うことをわかってほしいにゃ」

「……少し信じられないけど、こうして話をするほどの知能は残ってるのね。襲わないのなら安心よ」

 

 クレアは納得したようだが、レオンの方は腕組みしてリスベットを睨みつくのを見てまだ信用できないかとチェシャは少し困る。

 しかし、彼は別の意味でリスベットを信用できないことを彼の発言でわかった。

 

「するとこのドラゴンが俺の先輩になるはずの人か? 臆病そうで頼りなさそうだが」

「ちょっと、先輩に向かってそれはなに!? 別に私は臆病じゃないし!」

「ついさっき、猫の私に怖がってたのはどこの誰にゃ?」

「ドラゴンなのにか?」

 

 レオンが驚いてそう言うのでチェシャは大きく頷くと、リスベットは何も言えずにチェシャを睨む。

 ……こんなことをやっている場合じゃない、ゾンビだらけのこの街から脱出しないと。最初は羽を持つリスベットに乗って空を飛んで逃げることを提案するが、墜落する危険性が高いので没になった。どうやら警察署の中から脱出に使えそうなものを地道に探すしかなく、レオンとクレア、チェシャとリスベットの二人組に分かれて探索しようとするが、組み合わせにリスベットが反対した。

 

「できればレオン君と一緒のがいいな……警察官同士だし」

「本音は?」

「化け猫と一緒にいるのが怖い」

「ドラゴンといるレオンのことも考えろにゃ」

 

 チェシャがそう言うが、リスベットがどうしてもと駄々をこねるので渋々レオンとリスベット、チェシャとクレアという組み合わせに変わり、探索を始めた。

 女って面倒だにゃ……

 

to be continued




 ちょっとギャグがメインになったバイオらしくない回だと思います(公式で豆腐とか出るけど)。ここからクレア表、レオン裏という形で進めていこうと考えていますが、原作とは違う展開になるかもしれません。
 

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