感染して体が化物になっても自我は消えませんでした   作:影絵師

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夢でおわらせない

 

 研究所の最深部に繫がるエレベーターの前に一匹の兎が待っている。元アンブレラの研究員であり、T‐ウイルスに感染し兎の能力を持ちながらも自画と理性が残ったB.O.W.のラピンだ。洋館のホールの階段裏に隠された通路の先にある研究所にたどり着いたラピンとカーミラ、そしてS.T.A.R.S.の生き残りたちはそこを捜索しているところだ。

 ラピンとカーミラのB.O.W.は単独で、S.T.A.R.S.はクリスとバリー、ジルとレベッカに分かれた。彼らが襲いかかる怪物を倒しながら調査を進めている時、ラピンは“あのB.O.W.”が眠る培養室に繫がるエレベーターが来るまである子供を思い出していた。

 

「リサ……」

 

 ラピンはそうつぶやいた。

 

 

 

 このアークレイ研究所、洋館の設計者であるジョージ・ドレヴァーをアンブレラは口封じに幽閉し、その妻と娘は被験者にした。その娘がラピンの心に残るリサ・ドレヴァーだ。

 ……あの子はもうあの世に行っている。いや、行ってると思いたい。両親を失っただけでなく、死ぬこともできない怪物にされたからせめて楽にして欲しい。バイオハザードに巻き込まれる前の人間だった頃のラピンはリサのことをそう思っていなかった。むしろ、「生き続けるだけの屑」と呼んでいた。

 だけど研究所に向かう前にリサと遭遇し、戦闘することになった時は心が痛くなった。化物となったリサは「母の顔をつけた偽物から顔を取り返す」という目的で女性研究員を襲っていた。しかし、ラピンとカーミラに攻撃をしている時はそんな目的ではないと二人は気づいた。

 向かってくる腕と背中から生えた触手を避け、どれだけ斬りつけても、撃っても、貫いても死なない彼女からある思いを感じ取った。

 

 わた…しを……ころ……して…

 

 同じB.O.W.だから思いが伝わるといったファンタジーは絶対にありえないが、確かに伝わった。それに悲しそうに頷いたカーミラは彼女を奈落に突き落とした。リサの体が暗闇の底に消える直前にまた思いが伝わった。

 

 あり……がと……

 

 どうして私にも感謝するの? 感謝の気持ちを伝えたいならカーミラだけに伝えてよ。できるんだったら、クリスとジルとバリーとレベッカにも伝えなさいよ。自分の好奇心のために多くの人間を実験台に使って生物兵器を生み出してきた人でなしに伝えなくても……兎になってから人間の心を取り戻すような皮肉なやつなんかに……

 あのあと、カーミラとジルとレベッカに慰められたけど、そんなことをしてもらう理由がない。せめてS.T.A.R.S.を脱出させないと。

 

 

 

 自分でも変わったなと思いながらエレベーターが来るのを待っていると、後ろから誰かがやってきた。振り向くと、バリーとレベッカの二人だ。ラピンは彼らに訪ねた。

 

「二人ども、それぞれの相棒はどうしたの?」

「ジルはこの研究所で行われた実験のレポートを集めると近くの部屋で別れたわ」

「俺は……クリスの足手まといになってるみたいだからな。お前さんといることにした」

 

 ……バリーの様子がおかしい。

 ラピンがそう思っているとエレベーターがこの階に来た。エレベーターに乗って下りた先には“暴君”がいる。二人を連れて行くわけには……

 そう心配するラピンのビクビク動く長い両耳を見たバリーが言った。

 

「おいおい、俺たちのことを信用してくれ。あの時は思わずお前らを撃とうとしたが、今は協力するべきだ。信じて欲しいぜ」

「バリーの言うとおりよ。ここに来るまでゾンビやほかの怪物に襲われたけど、なんとか倒してきたわ。この先にもいたとしても、私たちなら大丈夫よ」

「……そう、そうね。なんだろう、あなたたちもそうだけどクリスとジルも生物兵器以上の強さを持ってる気がするんだけど」

「それは流石に失礼だぞ」

 

 バリーにそう返されたラピンは微笑み、彼らとエレベーターに乗り込んだ。

 ……カーミラはもちろん、クリスとジルならどんな生物兵器にも勝てそうな気がするからその心配はない。気になるのはサングラスの男だ。研究所に入る前からS.T.A.R.S.の隊長―アルバート・ウェスカーの姿を見てない。アンブレラの研究員だった頃の写真は調べている時に見つけただけで、本人を見かけてない。おそらくこの先にいるかもしれない。

 下の階に到着したエレベーターから降り、通路の奥にある培養室に入った。そこである人物に出会った。それと同時に後ろから撃鉄を起こす音がラピンの耳にはいった。

 彼女が振り向こうとした時、出会った人物がこう発言した。

 

「後ろを見るな、女が死ぬぞ」

 

 レベッカが人質ってことはやっぱりバリーは……

 悪い予感があたってしまったと思うラピンの表情を見て彼女の前で銃を構えている男―ウェスカーが興味深そうに言った。

 

「洋館に来てから気づかれないように貴様を観察していたが、やはりただのB.O.W.ではないな。人間の体をベースにウサギやコウモリといった動物の性質を持ちながらも、自我や理性、知性を失っていない。兵器として使うなら自我と理性は不要だがな」

「まったく、あんたみたいな奴に目をつけられるなんてね。私とカーミラがホントかわいそう」

「ついでにその話し方も余計だ」

 

 そう付け出してラピンの後ろにいるバリーに顎でラピンの斜め前に移動するように命令した。バリーはレベッカに拳銃を突きつけながらウェスカーが指摘した場所に立つ。

 そんな彼をラピンが睨みつけると、ウェスカーは言った。

 

「バリーを責めないでくれ、うさぎ君。私の命令を実行しないと可愛い娘と妻の命が危うくなるそうだ。彼も思わず、その事を言っていたがね」

「……あの時の」

 

 ラピンはバリーの言葉を思い出した。

 

“仲間が死んだのはこいつらのせいだ! 俺の家族―”

 

 その言葉の意味を理解した瞬間、ウェスカーに怒りが込み上がった。家族を人質にして悪事をやらせたわけ? 私が言えることじゃないけど、こいつはマジでクズだ。

 

「ふっ、アンブレラに勤めていたからそうだと思っていたけど、あなたよりB.O.W.の方がマシね」

「貴様とあの女のような自我と理性が残っているモノだけのことだな? 貴様らのようなゴミが自分で生物兵器になるとは思わなかったが」

「……わかってるのね、私とカーミラがなんなのかは」

「そっくりの研究員を知っている、うさぎを研究室に持ち込む女とどこかの貴族の娘のような女を。ここのバイオハザードに巻き込まれて死んだか、怪物になったかは想像したが、まさかこんな見たこともない怪物になるとはな」

 

 ……褒められたって嬉しくない。

 そう苦虫を噛み潰したような顔をするラピンからレベッカに顔を向けるウェスカーは彼女に言った。

 

「君からも質問を許可してやろう」

「……いつからアンブレラに?」

「その様子だとあのコウモリ共から聞いていないようだな。君は私がS.T.A.R.S.をアンブレラに売ったと思っているが、それは勘違いだ。私はアンブレラの人間であったことを隠し、S.T.A.R.S.の隊長になったというのが正しい」

「まさか、この洋館でバイオハザードが起きたのを知っていて私たちを連れて!? どうしてそんなことを!?」

 

 思わず大声を上げるレベッカにウェスカーは答える。

 

「S.T.A.R.S.のような強者共を相手にした場合のB.O.W.の実戦データを取るためだ。まさか、君たちが生き残るとは私も驚いたが、ラピンとカーミラの存在を知った今ではS.T.A.R.S.はもう用済みだ。生き残りの一人は必ず死ぬだろうな」

 

 その言葉を聞いたラピンはバリーと行動していたクリスの姿が頭に思い浮かぶ。

 

「クリス!」

「そう、彼はバリーによってこの研究所のどこかに閉じ込められている。じきにB.O.W.の餌になるだろう」

「あんたってやつは!」

 

 ベルトにぶら下げている短剣を鞘から抜き、ウェスカーに飛びかかろうとするラピン。

 次の瞬間、床から離れている彼女の膝に弾丸が貫通し、その場に落下した。引き金を引いたウェスカーが近寄り、膝の傷を押さえているラピンの耳を掴み上げてこう吹き込んだ。

 

「馬鹿な女だ。あの男に惚れたかは知らんが、その感情は兵器に必要ない。お前とカーミラを回収して調教してやる」

「誰があんたみたいな男にッ……」

「バリー、レベッカをこいつに殺されたように見せかけて始末して地上で待機しろ」

 

 ウェスカーの命令に頷いたバリーはレベッカを無理やり連れて培養室から出た。レベッカは抵抗していたが、無駄だった。その場に残ったウェスカーはラピンにこう言った。

 

「お前には仕事がある。こいつは知っているな?」

 

 彼の近くにある一回り大きい透明なカプセル。その中に人間……いや、人間に似た怪物が入っている。ゾンビのように皮膚が腐ってないが、右胸に巨大な心臓が飛び出ており、左手の爪はかなりの長さだ。

 ウェスカーとこの場にいないカーミラと同じようにアンブレラの人間だったラピンが知っている怪物だ。「究極の生命体」として作られたタイラント。コンピュータでそのカプセル内の液体を抜くウェスカーは言葉を続ける。

 

「お前がこいつの相手になった場合のデータを取っておきたいものだ。私を失望させるな」

「偉そうなことを言わないでちょうだいッ! 私だって簡単に死ぬつもりはないんだからッ!」

 

 床に落ちたメガネとシルクハットをかけ直し、膝の痛みを耐えながら立ち上がるラピン。両手それぞれに長剣、短剣を握り締め、戦闘に備える時計うさぎの格好をしたB.O.W.にウェスカーは首を横に振った。

 次の瞬間、液体を抜かれたカプセルから爪が飛び出し、ウェスカーの腹を貫く。彼の体が持ち上げられ、横に投げ飛ばされた。ウェスカーを殺害したB.O.W.―タイラントがカプセルから出ると、ラピンに視線を向ける。

 

「かかってきなさい! このハゲ頭!」

 

 殺意を向けられたうさぎはそう啖呵を切る。戦いの始まりだ。

 左手の爪で切り裂くためにラピンに近づくタイラント。ラピンは武器を構え直してタイラントの隙を探る……そしてあることに気づいた彼女は一歩一歩下がる。タイラントが詰め寄ってくる。背中が何かに当たらないようにラピンが後進すると、タイラントがゆっくりと歩いてくる。

 獲物が距離を取るとタイラントは接近するのは当たり前。でも走らずに歩きで近づく。

 彼女は確信した。こいつは鈍すぎる!!

 

「これが最高傑作!? 遅すぎるじゃん!!」

 

 呆れたラピンは短期戦に持ち込んだ。床を蹴ってタイラントの懐まで接近し、でかい心臓に短剣を差し込んだ。そこから血が噴き出してラピンを赤く染めるが、タイラントの動きは止まらない。右手で彼女の首を掴み上げた。

 その右腕を掴んで脱出しようとするラピンに左手の爪を向けるタイラント。それを見た彼女は思いっきりタイラントの頭を蹴りつけ、どうにか解放された。

 最高傑作ってのはある意味間違っていないね……

 呼吸を整えるラピンは短剣が刺さっている奴の心臓を見て考えを改めて、長剣を両手で構える。たとえこいつに弱点がないとしても、もう一度あそこに攻撃をすれば!

 再び接近するラピン。さっきの行動を覚えたのか、タイラントが左腕を振ろうとしている。首に当たりそうなそれをしゃがんで回避し、心臓に向かって長剣を突き出す。

 剣が心臓に入り込み、その反対側の背中から先端が突き出た。

 すぐに手放し、距離を取るラピン。二本の剣に貫かれた心臓に右手を伸ばすタイラントだが、うつぶせに倒れ込んだ。それを見たうさぎは深呼吸し、つぶやいた。

 

「勝った―」

『非常事態発生 起爆装置起動……』

「え?」

 

 突然のアナウンスに黙るラピン。そしてあることを思い出した。タイラントのようなかなりヤバイB.O.W.が暴走する程だったら研究所が爆破することを。

 ……得物を回収する暇がない! 膝の痛みが収まったラピンはタイラントに刺さったままの双剣を抜かずに培養室の扉へ向かう。エレベーターに乗る直前に背後から近寄る何かに気づいた。

 バリーだ。彼は申し訳なさそうにラピンに言った。

 

「お前さんがあの化物を倒すとはな……ウェスカーもくたばったようだし……」

「見てたの? バリー」

「ああ、レベッカを先に逃がしたあとにな。本当にすまねえ……家族を殺すとあいつに脅されて」

「今はそれどころじゃないって! この研究所が爆破するから早く!」

 

 バリーの腕を掴んでエレベーターに乗り込んだラピン。上の階に到着して降りた二人に駆け寄る者がいた。黒いドレスが特徴の美女―カーミラだ。

 

「ラピンさん、バリーさん、無事ですね! この研究所から早く逃げましょう! ジルさんとレベッカさんは屋上へ繫がるエレベーターの前にいます! あとはあなたたち二人とクリスさんを―」

「バリー! クリスはどこに!?」

「監禁室だ!」

 

 バリーから聞いたラピンはすぐに走り出した。監禁室までの通路にはゾンビだけでなく、ハンターやキメラなどのB.O.W.がいたが、彼女はそれを蹴り飛ばして行き、監禁室の前に来た。

 怪物の鳴き声が中から聞こえる……遅かった……

 突然、銃声も聞こえ、ラピンは扉越しに声をかけた。

 

「クリス! まだ生きてる!?」

「その声はラピンか! なんとかやってる!」

「えっ!? マジで生きてるの!? そんな密室で化物共と戦ってんの!?」

「バリーに閉じ込められた時、武器を奪われずに済んだ! しかし、このままでは不利だ! 早く開けてくれ!」

 

 扉の横に電子ロックがあることに気づき、それを操作するラピン……この電子ロックも一種のパズルになっていて、全てのマスを光らせないと開かないというやつだ。彼女は頭を働かせてマスを押しまくり、なんとか光らせた。

 扉を開けるクリスが監禁室に何かを投げてから扉を閉める。彼の無事に喜ぶラピンだが……

 

「クリス!」

「耳を塞げ!」

「え?」

 

 次の瞬間、監禁室から爆発音が広がり、ラピンの耳にダメージを与えた。クリスが監禁室に向かってこう吐いた。

 

「どうだ! 俺を楽しませてくれたお礼だ!」

「クリス! 私のことも考えなさいよ!」

「ああ、すまん。つい熱くなってな……それよりここは危険だ。早くみんなのところへ!」

 

 彼の言葉にラピンは頷き、二人は屋上行きのエレベーターに向かう。そのエレベーターの前にはジル、レベッカ、バリー、カーミラの姿があった。ジルがクリスに気づくと駆け寄った。

 

「クリス、無事だったのね! よかった……」

「ラピンに助けられたんだ。それより屋上に行けば助かるのか?」

「ヘリを操縦しているブラッドが上空で待機しているわ。彼が私たちを気づいてくれたら……」

 

 通路から怪物の鳴き声が聞こえてきた。それが大きくなっていくことは奴らが近づいてきてることだ。戦闘に備えるラピンとカーミラにクリスは指示した。

 

「お前たちは先に行ってブラッドに伝えてくれ! ここは俺たちが引き受ける」

「いや、普通はあなたたちが伝えるべきじゃないの? いろんな意味で」

「二人共目立ちやすいからブラッドも気づいてくれるはずだ!」

 

 そう言ってクリスは拳銃を握りしめてB.O.W.の襲撃に備える。ジル、レベッカ、バリーも武器を構えているのを見て、ラピンとカーミラは頷き、エレベーターに乗って上がった。

 屋上に上がる途中、カーミラがラピンに話しかける。

 

「もうすぐここから脱出できますね。レベッカさんとS.T.A.R.S.の皆さんを帰せますし、私たちもここから抜け出せます」

「私たちが抜け出したらどうするの?」

「少しは平穏に暮らしていきたいと思います。人が来ない自然の中でゆったりと生活しようと考えています」

「あなたってほんとに変わってるね……」

 

 カーミラのこれからについてラピンがそう言いながら考えた。

 ……バイオハザードが起こってこんな姿になってから一度も外に出たことはなかった。もしもS.T.A.R.S.が来なかったら一生この洋館にこもり続けていたかもしれない。クリスとジルに感謝しないとね。まあ、彼らが来た理由はウェスカーの企みだけど。

 屋上に到着した二人はエレベーターから降り、周りを見渡す。床に不自然な穴が空いているが、ヘリが着地できる程の広さはある。あとは上空を飛んでいるブラッドにどう伝えるべきか…… 

 信号弾を見つけたラピンは空にめがけて発射する。しばらくするとエンジンの音が近づいてきた。背後からエレベーターが到着した音も聞こえ、振り向くと四人のS.T.A.R.S.が降りてきた。

 

「ブラッドが気づいてくれたのね……」

 

 レベッカが安心してそう漏らす。これで地獄から抜けられる……

 その瞬間、穴から何かが飛び出してきた。それは床に着地するとラピンたちを睨む。ウサギはその姿に驚きを隠せない。

 二種類の剣が刺さっているむき出しの心臓の持ち主―タイラント。奴は確かに死んだはずだ。そんなヤツが特にラピンを睨んでいる。

 それに気づいた彼女はクリスたちから離れた場所に跳んだ。バリーがラピンを止めようとしたが、ラピンに対するタイラントの反応に気づく。

 

「あの怪物、ラピンに恨みを持ってるのか!」

「そりゃあ、心臓にグサグサと刺したらね。とにかくあなたたちは安全なところにいて!」

 

 そう話すラピンにタイラントが走って爪を振り下ろした。ノロマだったやつの高スピードに驚くラピンはすぐ横へ避ける。彼女が立っていた床が砕かれた。

 体勢を立て直すラピンのそばに無数のコウモリたちが集まり、カーミラに変化した。彼女はラピンに話す。

 

「のんびりしてはいられません。研究所が爆破する前に早く暴君を倒して彼らをヘリに乗せないと間に合いません」

「それはそうだけど、流石の私でもあれを倒せるかは……」

「だったら私たちに任せてください」

 

 カーミラはそう言うと、自分の体から数匹のコウモリを分離し、それを槍に変化させた。それを構えてタイラントに突撃する。そんな彼女を返り討ちにしてやると言わんばかりに奴も走り出した。

 タイラントの左腕がカーミラに直撃する、瞬間に彼女は無数のコウモリに分離して攻撃をかわした。獲物を失い、ラピンを標的にするタイラントの背後にコウモリが集まっていく。

 そのコウモリがカーミラに変化し、持っていた槍を背中に突く。

 しかし、皮膚が硬くなっているため弾かれた。彼女に気づいたタイラントが右腕で殴り飛ばした。壁に激突したカーミラは意識を失ってしまう。

 

「カーミラ! ッ!!」

 

 彼女に駆け寄ろうとしたラピンをタイラントが捕まえた。右手に力を込めてウサギの首を絞めていき、左手の爪で引き裂こうとしている。培養室の時のようにこいつを蹴飛ばす力もなく、完全に殺される直前まで来た……

 その時、ラピンの長い耳に銃声が聞こえた。それと同時に首を解放された感覚を感じた。床に落ちた彼女が見上げると心臓から血を噴き出しているタイラントの姿、そして銃声が聞こえた方向に視線を移す。

 銃口から小さい白煙が出ているマグナムを下ろすジル。そのそばにはどこから持ってきたかはわからないロケットランチャーを構えるクリスの姿があった。彼はラピンに叫んだ。

 

「離れろ!!」

 

 すぐに床を蹴ってタイラントから距離を取るラピン。それを確認したクリスは引き金を引く。ロケットが発射され、タイラントにまっすぐ飛んでいく。

 着弾、そして爆発。周囲に奴の一部が飛び散る。

 その光景を瞬きせず見ていたラピンのそばの床に何かが刺さった。それぞれ長短の双剣だ。彼女はそれを引き抜き、鞘に収める。これで終わった。

 目を覚ましたカーミラも例の光景を見ていてクリスにたずねた。

 

「クリスさん、それはどこで?」

「ヘリから落ちてきたんだが……」

「なんでヘリにそんなものがあるんですか?」

「犯人はもうわかるが」

 

 そう言うクリスに睨まれたバリーは知らん顔した。

 

 

  

 数分後、洋館から遠ざかるヘリと人影を乗せた無数のコウモリたち。さらに約十秒後、洋館が大爆発し、瓦礫が周囲に飛び散るが、朝日が照らす空を飛ぶものに当たりはしなかった。

 クリス、ジル、レベッカ、バリーを回収したブラッドは隣に並んで飛んでいるウサギ付きの無数のコウモリたちを不気味がり、それから逃げるようにラグーンシティへ帰還する。クリスたちは窓越しにラピンとカーミラに笑顔で手を振ったり、感謝の言葉を送ったりしたが、臆病ブラッドのせいで二人から離れていった。

 S.T.A.R.S.のそれを見ていたラピンは嬉しそうな表情でカーミラ=無数のコウモリに話しかける。

 

「これからどうする? 自然豊かなところで暮らす?」

「まあ、あくまでそう考えているですが、あの人たちと約束しましたし」

「……『アンブレラの悪事をバラす』ってこと? 長生きできないよ」

「別にあなたの手を借りるつもりはありません。私たちはご主人様の後始末をしなければいけません」

 

 カーミラが言う「私たち」とは彼女の体を構成しているコウモリたちのことでラピンは含まれていない。

 

「別に私は長生きできないって言っただけで協力しないとは言ってないよ。あいつらに借りがあるし」

「特にクリスさんにですよねえ? 彼がヘリコプターに乗る前にキスしようとしてたんですよねえ? ジルさんに止められたんですけどねえ?」

「……あんたマジムカつくとこあるのね。そこはコピーしなくても良かったんじゃないの?」

「すいませんねえ。ご主人様のすべてをコピーしていたんで」

 

 朝日の光の中、自我を持った人外たちの揉め事はしばらく続いた。

 この先、再び自分だけでなく身内もアンブレラに関わることを彼女たちはまだ知らなかった。

 

―Fin




 どうも久しぶり影絵師です。
 この頃pixivをやっていたのでハーメルンの小説は投稿できませんでした。すみません。

 今回で初代BIOHAZARDの物語は終わりです。
 原作ではそれぞれのルートでレベッカ、バリーのどちらかだけを救えるシステムでしたが、この小説ではどちらも生還しました。クリスたちが地獄から抜け出してほっとしているエンディングでしたし、ラピンたちも明るい感じで終わらせました。
 さて、これから「バイオハザード2」を元にした物語を考えていますが、これにも二人のオリジナル味方人外を登場させます。その人外の設定を少しここに載せます。

・ラピンかカーミラのどちらかの身内
・見た目的には強そうな生き物だが臆病者、もうひとりは弱そうだが勇敢な人
・二人共女ではなく、男女である

 それでは続編もお楽しみに!
 

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