感染して体が化物になっても自我は消えませんでした   作:影絵師

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小さかった時の夢

 

 カーミラを連れて洋館に戻ったラピン。この館に残っているバリーとレベッカに合流しようと探し始めた時だった。後ろから何かが追ってくる。人間やゾンビの足音ではない。

 確認しようとラピンが振り向く。彼女の後ろに立っていたカーミラも後方を見るが、彼女の首が飛んだ。

 

「えっ?」

 

 今の光景に頭が追いつかないラピンを床に押し倒す“緑の怪物”。鋭い爪でカーミラの首を切り離したのもこいつだ。その怪物がラピンの首元を押さえつけ、もう片方の腕を振り上げている。短剣をどうにか取り出して怪物の胸に突き刺し、怯んだそいつの腹を蹴り飛ばすラピン。

 立ち上がった彼女はあまり使っていない拳銃を構えて怪物の頭部を撃ち抜く。一発目は死なないが、もう二発撃って殺した。鋭い爪を持ち、緑の鱗に覆われているその怪物をラピンは知っている。アンブレラ社が開発しているB.O.W.の一つ、“ハンター”だ。

 

「こいつも逃げ出したのね……S.T.A.R.S.が生き残れるか不安になってきた」

「これと戦える私たちが守らなければいけません。罪滅ぼしにはなりませんが」

「私はそんなのどうでもいいけど―」

 

 そこで気づいた。ハンターにやられたはずのカーミラと会話しているのを。

 彼女を見ると、傷一つないカーミラが立っている。彼女の足元に数匹の蝙蝠の死骸が落ちていること、少し背が縮んでいるのが気になる。混乱しているラピンにカーミラは説明した。

 

「首などを狙われたとしても私たちの一部がやられるだけです。だからといって無敵というわけではないですが」

「……マジですごい生物兵器だよ」

「私たちはそんなものではありません」

 

 そう返すカーミラにラピンは頷き、バリーとレベッカの捜索を再開する。ただし、ゾンビがいなくなってその代わりとなるハンターがうろつく洋館の中で。彼女たちは苦戦した。ゾンビは剣だけで倒せる雑魚だが、兵器として作られたハンターは強敵で何度も斬りつけられている。こいつには銃を使わないといけない。

 倒し続けていたラピンは壁に寄りかかり、座り込んだ。シャツの一部が破れて赤く染まっている。一緒に行動しているカーミラが彼女を心配そうに見守る。

 

「大丈夫ですか? 少し休みましょうか?」

 

 その言葉にラピンは首を横に振った。なんとか立ち上がり、二人を探し続ける。……なにやってんだろう私は。S.T.A.R.S.の生き残りが減っていっても構わなかったのに……リチャードが死んでからほかの皆をどうにか助けようとしている。

 突然、真上から悲鳴が聞こえた。レベッカ!

 カーミラを置いてすぐに走るラピン。階段を駆け上がり、二階の部屋の扉を開ける。そこにはレベッカにゆっくりと近づくハンター。ラピンはその間に割り込み、ハンターに蹴りを食らわす。だが、あっさりと避けられてしまった。

 まっすぐ伸びている彼女の足を掴んだハンターはラピンを引っ張る。そして腹に爪を突き刺した。

 

「がはっ!!」

 

 口から血を吹き出すラピン。なんとかハンターを離そうとするが、壁に押し付けられてトドメを刺されそうになる。武器を掴む力は持っていない。……私、死んじゃうな。

 ハンターが自分に爪を振るう直前に銃声が聞こえたけど、それから何も見えずに何も聞こえなくなった。

 ラピンに重傷を負わせたハンターの後頭部に穴が空き、その場に倒れる。部屋の入り口にマグナム銃を構えたバリーが立っていた。彼はハンターに近寄って死んでいることを確認したあと、ラピンの体を抱き上げる。気を失っていてまだ生きているが、腹部から血が出ている。手当しないと危ない。バリーはレベッカに言った。

 

「レベッカ! こいつの手当をしてくれ! 仲間を救ってくれた奴を死なせられん!」

「……分かりました!」

 

 レベッカはそう返し、毛皮に覆われている獣人の治療は初めてだが、なんとか怪我を治す。

 彼女がラピンの怪我を治し終え、安堵の息を漏らす。横たわっているラピンの腹は包帯に巻かれている。治療する間に怪物が来るのを見張っていたバリーはレベッカを褒める。

 

「よくやった。しばらくすればウサギも元気になるだろう」

「ラピンは私をかばって……」

「誰のせいでもない。ゾンビには慣れたが、あの緑の化物まで出てくるとはな。あれもバイオハザードで生み出されたやつか?」

「……バリー、洋館に来る前に私はある施設を調べていました。そこもここと同じように怪物が彷徨っていました」

 

 バリーがレベッカの話を聞こうとした時だった。部屋の扉が開き、そこには黒いドレスを着た少女が立っていた。S.T.A.R.S.にはこんな子はいないし、ゾンビが着ているボロい服装をしていない。おそらくラピンのような感染者だろう。

 そう考えたバリーは銃を向けるが、レベッカに止められる。

 

「バリー! この子は知っています! 私を助けてくれました!」

「レベッカさん、無事だったんですね……ラピンさん!? その怪我は!?」

「……今回は獣ではないか」

 

 

 

 

 

 

 私、おじいちゃんが長生きできるようにしたいの!

 

 それは小さい頃に大好きなおじいさんに言っていた言葉だ。

 おじいさんは小さかった私が寝る前におとぎ話をしてくれた。彼が話す言葉を聞いて、私は頭の中でその物語の世界と住人を想像してワクワクした。特に『不思議の国のアリス』が好きで、懐中時計を欲しかったり、ウサギを飼い始めたの。

 ある程度成長してからおとぎ話は聞かないが、私はおじいさんが好きだ。ヒゲが長く、シワだらけで怖いけど、とても優しいおじいさんだ。一緒にご飯を食べたり、散歩をしてたりした。

 私が高校生の時、おじいさんは弱っていた。昔は元気いっぱいで動いていたのに、その時はベッドで寝て一日を過ごすことがあった。死なない人なんていないってのはとっくにわかっているけど、私は死んで欲しくなかった。彼をどうにか長生きさせようとして、好きじゃなかった勉強をたくさんしてなんとかアンブレラ社に入った。

 

 ……その時から間違っていたかもしれない

 

 アンブレラ社の研究員になった私はT-ウイルスを使って、ある薬を作った。寿命が延びるという薬だ。身体能力が高まるっていう副作用があるけど、デメリットには見えないね。それを上部に発表した。そしてこの言葉が来た。

 

「君の腕は確かだが、この薬は売れん」

 

 薬を売ろうとは考えていない。おじいさんに使ってもらうだけだ。

 だけど、そんなのはいやだと後に思った。

 アンブレラ社は製薬会社だ。そして、生物兵器を作って売っている。私もそうするように命令された。

 最初は嫌だった、醜い化物を作るなんて。だけど、いつの間にか自分からB.O.W.を作って実験をした。私の手で生み出された怪物がどのように行動するのか、どのように殺すのか、どのような弱点を持つのか……そんな好奇心が私を動かしたのだ。

 悪魔のような私が作った薬をおじいさんに飲ませるわけなんていかない……今更すぎる

 

 結局私は何をしたかったの……?

 

 バチが当たったのか、バイオハザードに巻き込まれて化物になるし……

 

 それに自分が作ったB.O.W.に殺されたし……

 

 

 

 

 

 

 両目を開けたラピンはベッドに横たわっているのに気づいた。あれ? あんなに痛かったのに死んでないの?

 上半身を起こそうとしたが、腹に痛みが走る。うめき声を上げて、起き上がるのを諦める。すると、視界に誰かの顔が映り、ラピンを見下ろしている。クリスとジルだ。名前を呼ぼうとした時だった。

 

「ラピン、お前はアンブレラ社の研究員だったか?」

 

 クリスの言葉に目を見開く。何も言えずにいると、彼は続ける。

 

「仲間のエンリコがここはアンブレラ社の研究所だと言っていた。その直後に殺されてしまったがな」

「ねえラピン、本当にそうなの?」

 

 そう聞くジルにラピンはどう答えるのか悩んだ。もう隠せそうにないが、自分がアンブレラ社の生物兵器を作っている研究員ですって言ったら面倒なことになりそうだ。

 ……もう本当のことを言おう、疲れてきたし。


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