感染して体が化物になっても自我は消えませんでした 作:影絵師
気がつけば真っ暗なところで寝ていた。ラピンは体を起こし、周りを見渡しながら耳をあらゆる方向に向ける。何も見えず、何も聞こえない。一緒に引きずり込まれたカーミラの気配が感じない。寄宿舎の中にこんなところがあったっけ?
そう思いながら立ち上がる彼女の耳に銃声が入った。聞こえてきた方向に体を向け、走っていく。しばらくすると、クリスとジルの姿が見えた。ラピンは手を振って、呼びかけた。
「何か見つかったかしら」
二人のそばに来た時だった。クリスがラピンに銃を向け、発砲した。胴体に飛んでくる弾丸を横に避け、彼を睨みつけるラピンは自分を狙っているジルに気づく。ラピンは身構えながらクリスとジルに言った。
「どういうわけ? まさか手のひらを返すの?」
「……そういうことになるな」
そう返す彼とその隣に立つジルの格好が変わっていることにラピンは気づいた。S.T.A.R.S.の制服ではなく、特殊部隊の物を装備している。それにどういうわけか老けているように見える。自分は夢に似たようなものを見ているのではないかとラピンは疑う。
夢か現実なのかはわからないけど、この二人が自分を撃ち殺そうとしていることは確かだ。ラピンは大きくため息をして口にした。
「結局こうなるのね。自我が残っていても、感染者とは一緒にいられないってこと?」
「私も残念に思っているわ。でも、ウイルスを拡大させるわけにはいかないのよ」
「だから処分するのね? まあ、私も黙ってやられないけどね!」
「楽にはできなさそうだ……恨むなよ」
そうつぶやいたあとに構えなおすクリスとジル。ラピンは双剣を構え、二人に飛びかかる。
人間と感染者が共存できないのはラピンも知っている。ウイルスが広がって普通の人間がいなくなるか、人間がウイルスを滅ぼすか、どちらが生き残るかの問題だ。
「いつまで寝ているんですか!? ラピンさん!!」
突然の叫び声に飛び上がったラピン。暗いところでクリスとジルを相手にしていたはずが、何らかの植物に張り巡らされた大広間で寝ていたようだ。天井には大きい花がぶら下がっている。それを見上げていると、何かが迫ってきた。長剣を握りしめて、斬りつけるラピン。
それはバーでラピンとカーミラに巻き付いた触手だ。ラピンに斬られた先端が床を転がる。近くにカーミラが立っていて、襲ってくる触手を爪で切り裂いている。夢から覚めたラピンがようやく立ち上がったことに気づいた彼女は文句を言った。
「全く危ないところで気を抜きますね、バーの時もアレをしようとしていましたし。臆病なウサギとは思えませんよ」
「ウサギは性欲あるし、私は普通じゃないもん」
「そんなこと言っている場合ではありません! あの植物をどうにかしなければここから出られません」
そう言って天井を見上げるカーミラ。この場所が観測ポイント42と指定されたことで『プラント42』と名付けられた怪植物。大広間に自分たちを連れてきたやつだ。
そいつの触手がカーミラに襲いかかる。彼女は無数のコウモリに分離し、攻撃を避ける。離れたところでコウモリが集まり、カーミラに戻った。そして、鋭い爪で触手を輪切りにする。
ラピンも長剣と短剣を構え、天井にぶら下がっている本体のそばまで跳ぶ。目の前まで近づいた時に斬りつけるが、花弁に食い込んだだけであまりダメージを与えられなかった。長剣を抜けずに落下するラピンは着地し、刺さったままのそれを見上げる。
「あの花弁は硬すぎるか、剣がダメなのか」
そう言いながら伸びてくる触手を体をそらして回避し、短剣で斬る。カーミラが答える。
「両方だと思います。まあ、私たちがトドメをさします」
その言葉にラピンが振り向くと、カーミラの体を構成しているコウモリの一部が彼女の周りを飛んでいる。次の瞬間にそのコウモリたちが一つになり、鋭利な槍に変化した。その光景を見てラピンが驚いていると、カーミラが槍を掴んでプラント42に投げる。
花弁を貫通して、本体を貫く。槍が数匹のコウモリに戻り、カーミラの周りに集まる。穴を空けられた本体は花弁を落としながら縮小していき、完全に止まった。落ちていた花弁の中に長剣が刺さったものがあり、ラピンはそれを引き抜く。長剣を取り返したラピンはカーミラの方を見て言った。
「あなたはB.O.W.の最高傑作かもね」
「……私たちはそのように作り出されましたが、嬉しくないです。こんな人間離れの力を持つなんて」
「そもそも元から人間じゃないけどね、私と違って」
カーミラは何も言わない。そんな彼女をほっといてラピンは蔓で閉ざされていた扉を開けて出ようとした時に彼女のことを考えた。
クリスとジルたちがカーミラと遭遇したらどうなるだろう。ゾンビや私と違って、人間に近い彼女をすぐに撃たないで普通に接するかな。でも、ここでバイオハザードが起こったことをS.T.A.R.S.はもう知っているし、感染するのを恐れるはず。下手すればさっきの夢に出たクリスとジルと同じ行動に出るかも。
目を閉じてため息をして、片耳を動かして誘う。黙っていたカーミラがそれに気づくと、ラピンはこう言う。
「一緒に来なさい。S.T.A.R.S.のみんなには私から説明するから」
「レベッカさんの仲間たちにですか? お願いします」
大広間から出る二人。クリスとジルを探そうとした時にどこかから銃声が聞こえた。きっと、その二人だろう。聞こえた方へ歩くラピンとカーミラ。
そこで怪物を倒していたのはクリスでもジルでもバリーとレベッカでもない。金髪にサングラスをかけた男だった。その姿を見たラピンとカーミラは驚き、カーミラは思わずその男の名を口にしてしまった。
「ウェスカーさん……!!」
ラピンが彼女の口を塞ぐが、遅い。アンブレラ社の研究員がS.T.A.R.S.の隊長になっているのも驚きだが、洋館についてすぐに姿が見えなくなっていた彼がこんなところにいたなんて。
さて、カーミラがウェスカーの名を言ってしまったからアンブレラ社の元研究員(一人は研究員の記憶と人格をコピーした生物兵器そのものだが)だと気づいて口封じに殺すか、ただのクリーチャーとして殺すか、そのどちらかの行動をすると思っていたラピン。しかし、彼は銃を下ろして言った。
「君たちはクリスとジルが言っていた味方か。彼らから撃たないでくれと言われた」
「クリスたちにあったの?」
「ああ、あの二人は私と一緒にここを調べている。君たちは洋館を探索してくれないか? バリーとレベッカの様子も見てきて欲しい」
「……やけに私たちを信用しているようね。初めて会った時のクリスとジル、バリーと違って」
少し疑うラピン。ウェスカーは彼女たちに背を向けて、こう言い残した。
「君たちはS.T.A.R.S.と同じように重要だからだ。私を失望させないようにしてくれ」
その場を立ち去るウェスカー。彼が行った方向を見ながらラピンとカーミラは会話をする。
「あいつも私と同じように自分のことを隠しているのね」
「では、ここに来たのはアンブレラ社の研究員だった証拠を消しに……」
「化物だらけの洋館にそんな目的で来るかしら?」
少し話し合ったが、ウェスカーがここに来た目的がわからない。とにかく洋館に戻ってレベッカとバリーに聞いてみようか。
寄宿舎の玄関を出て、中庭を通って洋館へ戻る二人。そんな彼女たちを寄宿舎の窓から観察するものがいた。アルバート・ウェスカーだ。
「あの二つはおそらく偶然できたモノだが、人間並の知能があって性能も最高だ。しかし、自我があることは兵器として使えん」
to be continue