着物+革ジャン+ブーツ 作:スネーク
悲しいことにどうやら銀時が持っていた荷物は爆弾だったらしい。私が蹴り飛ばした拍子に飛んで行った爆弾は大使館の入り口の柱を吹き飛ばし、大使館は無残なガラクタへと姿を変えてしまった。爆発した瞬間に逃げようとしたがみんな考えることは一緒のようで、逃げるのを阻止しようとして大使館の守衛は銀時の足を掴み、倒れている銀時は逃げようとした私の手を掴み、私は逃げようとしたメガネ君の手を掴み、メガネ君はチャイナちゃんの手を掴んだ。
「この腐れ天パ!!てめえが爆弾魔かァァァァ!!!」
「違う違う違う!!濡れ衣だって濡れ衣!!式てめえ久しぶりに会ったと思ったら何してくれてんだよォォォ!!」
「とりあえず手を離せ腐れ天パ」
「そうですよ爆弾魔さん!いい加減手を放してください!っていうかあなたは誰ですか!!」
「私にかまわず逝って3人とも!!」
どうやら全員「(自分の)いのちをだいじに」の方針らしい。自分が助からない以上、手近な相手を地獄に引き込むこいつらはまったくもって自分勝手だ。私はもちろん自分が一番大切なので手を放すつもりはないが。すったもんだしているうちに大使館の残骸から復活してきた戌威族が武装して襲い掛かってきた。
「ぬわァァァ!!ワン公いっぱいきたぁぁ!!」
メガネ君が喚いているのでそろそろワンちゃんの相手をしようかと考えているとどこからともなく再び懐かしい声が聞こえてきた。
「---手間のかかるやつらだ」
大使館の近くに座っていた修行僧のような男はそう言うと立ち上がり、ひとっとびで戌威族の頭を踏みつけた。踏みつけられた戌威族は潰されたような声を出して倒れる。修行僧は次々に彼らの頭を踏みつけて私たちの前までやってきた。
「逃げるぞ銀時、式」
かぶっていた傘を取り、そういった男もまた、私たちの戦友だ。かける言葉はただ一つ。
「よお、ヅラ」
「おまっ…ヅラ小太郎か!?」
そういった私たちにヅラはアッパーカットを仕掛けてくる。私は銀時を身代わりにして難を逃れたが、代わりに銀時は上空へ吹っ飛ばされる。
「ヅラじゃない桂だァァァ!!」
「ブフォ!」
このコントを見て懐かしい気持ちに浸っていると、背中にジリジリと視線を感じた。気取られないようにチラリとその方向を見ると建物から双眼鏡と思われる反射光が見えた。大使館が爆破されたのにもかかわらず即座に出てこない以上、恐らく御庭番集以外の隠密か真選組だろう。私は吹っ飛ばされた銀時の首元を掴みヅラの耳元で囁いた。
「おい、見られてる。とっとと逃げるぞ」
「む、そうか……では違う拠点に匿うとしよう。ついてこい」
私は駆け出したヅラを追いかけようとしたがメガネ君とチャイナちゃんは私たちについて行っていいものか迷っているようだ。私は銀時を放り投げ
「お前ら逃げ場がないんだったらついてこい」
と言った。
そこで銀時も起き上がり、
「あ~……こいつらは大丈夫だ。お前ら、とりあえず逃げるぞ」
こうして5人でヅラの用意した隠れ家に逃げ込むことになったのだ。
◇ ◇ ◇
逃げた5人を監視していた男は驚愕していた。尻尾を出した桂を発見したためではない。彼らと一緒にいたのが数年前に死亡したと思われていた女だったからだ。ただでさえ逃がすことのできない大物テロリストである桂に加えて死んだはずの亡霊が現れたのだ。これで自分たちの網に超大物の獲物がかかった。
「山崎、何としても奴らの拠点を抑えてこい。」
指示を出した男は「はいよっ」と答えた部下に軽くイラッと来たがタバコをふかすことでそのイライラを抑えた。
「天人との戦で活躍した英雄も、天人様様の世の中じゃただの反乱分子か……」
男は手配書を見ながら呟くがその言葉に同情の気持ちなど欠片もこもっていなかった。なぜなら彼は同情などしていないからだ。手配書を丸めながらさらに呟く。
「この御時世に天人を追い払おうなんざ、たいした夢想家だ」
これが彼の気持ちなのだ。いかに過去で英雄視されようが今の世の中を乱そうとする以上自分たちの敵なのだ。そもそも彼は正義感から警察をしているわけではない。
丸めた手配書をムカつくアイマスクをしている部下にぶつける。
「おい、沖田起きろ。……っていうかお前、あの爆音の中よく寝てられるな」
起こされた沖田と呼ばれた男は気だるげにアイマスクを取り
「爆音って……またテロ防げなかったんですかィ?」
と寝起き一番に男を罵倒する。男はこめかみに青筋を立てるが沖田はさらに罵倒を続ける。
「なにやってんだィ土方さん、まじめに働けよ」
「もう一回眠るかコラ」
切りかかってやろうと思ったが、この後に思う存分攘夷志士を切れるのだと自分を諫める。そして刀を抜きながら自分の気持ちを口に出す。
「そもそも天人の館がいくら吹っ飛ぼうがしったこっちゃねえよ。連中泳がして雁首揃ったところをまとめて叩き切ってやる」
そう言って刀を見つめ
「真選組の晴れ舞台だぜ。楽しい喧嘩になりそうだ」
こう言い放った真選組の副長、土方十四郎の瞳孔は開き切っていた。