着物+革ジャン+ブーツ 作:スネーク
春の日差しが窓から差し込み、私は目が覚めた。
気だるげに体を起こすといつもと変わり映えのない打ちっぱなしのコンクリートが夢の世界から現実世界に戻ってくる私を出迎えた。眠気がまだ少し残っているのか動く気にはなれずボーっとしていると肌寒さでくしゃみをしてしまった。いくら暖かくなってきたとはいえワイシャツ一枚では風邪になってしまう。私はベッドを降りるとワイシャツを脱ぎ、いつもの着物に袖を通す。帯を締め、ブーツを履き、最後に革ジャンを羽織る。服を整え鏡の前に立つ自分はどこからどう見ても両儀式だ。よし、と一つうなずくと私は枕元にある九字兼定RS-Ⅱを腰に差す。実家にあった九字兼定の柄の部分だけを音楽プレイヤーに改造したこの世にただ一つの私の愛刀だ。最後に左腕の義手にナイフを仕込み、イヤホンをつけてこの部屋から出た。
◇ ◇ ◇
最近話題となっている寺門通の「お前の母ちゃん何人?」を聞きながら小春日和の江戸を歩く。なんでも彼女は近々、初ライブを行うらしい。一度だけ路上ライブをやっているのを見かけたことがあるが、親衛隊的なものがウザったらしかったことしか記憶していない。
ぶらぶらと町を歩いているといつもは来ない場所まで歩いてきたことに気付いた。すぐそばには戌威星の大使館があったはずだ。ちらりと見て帰るかと考えていると近くの定食屋からいい匂いがしてきた。そういえば今朝は朝食を食べていなかったと思い出すと急に小腹が空いてきた。私はそのままその定食屋に入り、焼き魚定食を注文する。入ってきた私の服装に目を白黒させている親父は私の注文が耳に入っていないようなので、もう一度焼き魚定食を注文する。私の格好がおかしいのは自覚しているし他人にどう思われようと関係ない。親父は我に返ると急いで焼き魚を焼き始めた。ちょうど朝のラッシュが終わったのか店内には客がほとんどいない。テレビを見るとちょうどここ数日の大使館連続爆破テロの特集を報道していた。犯人は不明だが過激攘夷派の桂小太郎が有力ではないかと専門家が言っている。ここのところ何度も名前を見聞きするのでそのたびに懐かしい気持ちになる。
---血と硝煙の匂い
---敵や味方の断末魔の叫び
---砲弾の爆発音
そして------血を浴びた銀色の髪
そこで朝食が出てきたので回想をやめる。過去は過去なのだ。いつまでも引きずるなんてアホ以外の何物でもない。気分を切り替え定食を食べる。味にはうるさいほうだが、焼き魚の焼き具合も味噌汁の塩気も丁度良かった。私は完食し代金をテーブルの上に置いごちそうさまといって店を出た。
◇ ◇ ◇
たまたま遠くまで来たらたまたま美味しい店を見つけた。良い偶然に私の気分はかなり良かった。内心で鼻歌を歌いながら戌威星の大使館を見に行く。
------その入り口には三人の人間と一人の天人がいた
大使館に近づくにつれ私の歩く速度が速くなっていく。早歩きから小走りになり、そこから全力疾走になるのに時間はかからなかった。私の走る足音に気付いたのだろう。真ん中のチャイナ服の女の子がこちらを向く。それに気づいたメガネの男の子がこちらを向き、最後に懐かしき銀髪の戦友がこちらを向く。私に気付いた銀髪の男は幽霊でも見るかのような目でこちらを見る。私は死んだと思われていたらしい。目つきでわかる。幽霊が苦手なのは変わらないようだ。私はバカに制裁を加えることにした。数メートル前で私は飛び上がり
「その目はなんだ!この腐れ天パァァァァ!!」
「ぬわァァァァァ!!!!」
銀髪の男---坂田銀時は吹っ飛んだ
「銀さんんんんん!!!」
メガネの男の子がなんかわめいているが知ったことではない。私は心の底からスカッとしている。チャイナ服の女の子はキラキラした目で私を見ている。そうだ、私を称えろ。
私は天人を巻き込んで吹っ飛んだ銀時の前に立ち
「よお、銀時!久しぶりだなあ。懐かしい顔に会えてオレは嬉しいよ」
と挨拶をしたのだった。
全然会話してない……