「我、一応出番はあったけど、名前が出てないんだが」
〇筆者である骨の回答
「眼鏡を掛けた苦労人よりマシじゃね?」
「ん、ん、ん、何か首回りがおかしいな」
「き、気のせいさね」
起きたら、なんか周りが慌ただしい。つーか、いつ俺は寝たんだ? 首に強引に曲げられたような違和感あるぞ。周りにいる連中は死体が起き上がったような目でこっちを見てるし、葵(姉)はケタケタ笑って、直政は何か持ってる巨大レンチと俺を見比べてるし。
まぁ、いい。それより現状の確認が先だな。
「あー、よく分からねぇが、まぁ、いいか。ベルトーニ、何があった?」
「情報が欲しいなら、出すものだせ」
「それぐらいサービスしろ。次の機会の為にな」
「ふん。貴様には色々稼がせてもらった事もあったな。いいだろう」
俺の前に表示枠が展開される。
えーと何々。三河と連絡が全く取れなくて、何か異変が起きてるかもしれないと。向井も変な音を聞き取ってるのか…。
「成程なぁ。……稼ぎ時じゃね商人」
「全くもってその通りだ。ハイディ、各国の極東居留地との通神をすぐに開けるようにしてくれ。武蔵商人団の他の連中をだしぬく」
「Jud.はは、後で睨まれると思うけど毎度の事かな」
毎度と言うか、チャンスを掻っ攫われた商人は基本そうだろ。
「…では、皆、今日は解さ――――――」
「ま、待っ、て…」
ん? どうした向井。皆を停めて? つーか、右手伸ばしてどこを指さし―――
「あ、あれ……、その、」
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「―――余?」
鈴に差された東は首を傾げる。
何があったのだろうか。鈴が気付くのは音だ。だから何かあったとしたら、
「ええと」
自身の状態を確認するが特に変なところは見当たらず、
「―――」
だが、周りの皆はこちらを見ている。
しかし東は首を傾げ、改めて見ても、やはりない。―――が、
「余! そうじゃなくて! 後ろ! 後ろ!!」
「後ろ?」
言われ、問い返し後ろに視線を向けると、まず一つのものを見た。
少女がいた。白く髪を乱した、白い肌の女の子だ。
顔は泣き出しそうで、
「――――――」
「透けてる……?」
身長一メートルに満たない子供の身体は、半ば透けていた。地面も、芝も、わずかな揺らめきとともに透けて見える。
その事実に皆が息を詰めたとき、少女が口を開いた。
「パパがいないの……」
そしてうつむき、
「ママ、見つからないの……」
それを見て皆が声を上げようと息を吸い込み、
「「「「「出―――「―――またまたまた、珍しいのが出てきたな」―――たーーあぁ?」」」」」
覚が進む姿に叫び声が疑問に変わった。
そのまま東の、少女の前まで移動すると胡坐を組んで地面に座り込む。少女の視線の高さに顔を合わせと、怖いのか泣きそうになり、東の後ろに隠れようとするが、
「さて―――、パパとママを探してるのか?」
覚の声で動きが止まり、じーっと視線を前に向ける。
「んー。千里、リスト」
『ニャー』
「あっ」
表示枠から覚の走狗が出て来て頭に座り込み、眼前に何かの一覧表を表示する。
少女は急に出てきた猫に興味があるのか、目を大きく開き覚の頭の上をじーっと見ている。
「あー、どれにするか。おーい、浅間」
「はっ、はいっ」
「この嬢ちゃんは何だ?」
周りにいる連中のなかで管轄だろう巫女職に、幽霊としか思えない少女の存在を改めて確認しようとする。
「えーっと、取り敢えず見たまま幽霊としか今のところは言えません。今回の肝試し用にわざわざ呼んだものとは違う筈ですし、最近怪異が多発してましたから」
恐らくそっちの関係だろうと口にする。
「ふーん。じゃあ、構ったりすると呪われたりするか?」
「Jud.見た感じ大丈夫かと。見たままの年の時に亡くなった残留思念が質量、流体を持っただけで直接的な害は無いと思います」
「よしよしよし。ところで、神社の娘としては祓うのか?」
覚がそんなことを言うと、非難するような視線が集中する。
「あんな小さな子を消すのか・・・」
「酷いことをするのだな」
「害は無いんだろ? だったら別にいいんじゃないか?」
「小生思いますに、こちらで保護をしなければならないかと!!」
「え、ええ、ええぇ!? まだ何もしてないのに一気に責められてますよ!? あ。あと、若干一名はまだ生きてますが、ここで祓ったほうがいいかと」
「御広敷には半径十メートルぐらい近づけさせないとして…、よし、コレでいいか」
見ていたリストから顔を離すと、覚はリストの一箇所を押す。すると、小さな、手のひらよりも小さな綿あめが出てきた。
「さて嬢ちゃん」
「っつ!?」
走狗を見ることに集中していたからか、少女は声をかけられたことに驚き体を震わせる。
「ほれ、コレ。甘いぞ。ちょっと舐めてみ?」
そんなことを言って綿あめを渡そうとする。
幽霊な少女はそれを見るが中々動かず、綿あめと覚を交互に見続ける。
「か、覚殿? 幽霊はものを食べれないと思うで御座るが…」
「あーJud.これ、一応走狗用の奴だから。この嬢ちゃんも大丈夫だろ。浅間のハナミとかにもしょっちゅう食べさせてるし」
「ええっ! ちょっとハナミ!?」
覚の発言に驚き、自分の走狗を問い詰めると必死にそっぽを向いて視線を合わせようとしない。
「大丈夫だぞ。ほれ、食べな」
「…………ん。―――ん♪」
漸く受け取り、舐めると、気に入ったのか泣き顔から笑い顔になる。
それを確認してから、覚はさっきから動きが止まっている東に、
「取り敢えず、東」
「な、何?」
「お前、この子のパパな。部屋に連れて帰れ」
「―――――――――えええっ!?」
急な発言に東は驚く。当然だろう。いきなり娘が出来て、しかも自分とは種族すら違うのだから。
だから、覚と同じように座り込むと、猛反発する。
「な、何で!? 余は、子育てとかしたことないよ!」
「俺だってしたことねぇよ。いいじゃねぇか。懐かれてるし」
綿あめを食べてる少女の片手は、東のズボンを掴んでいる。東が座った時は離したが、今はまた掴んでいた。
「それにちょうどイイじゃねぇか」
「何が?」
「ポークゥへのお土産」
「その子をお土産にしたら、余がポークゥさんに怒られるよ!?」
東の頭の中には、白い目で見てきて、車椅子で軽めだが何度も体当たりしてくるミリアムの姿がよぎっている。
周りを見渡そうとすると、誰も視線を合わせようとしない。
この窮地(?)を何とか出来るのは自分だけだ。と決意し、辞退しようとするが、
「いいか?その嬢ちゃんの台詞からパパとママ、男と女の両方が必要なのはわかるだろ?」
「え? あ、う、うん」
「東の処はその条件に合っている。それに、見たまんま小さいから、馬鹿共に係わらせると速攻で染まる」
梅組、と言うか武蔵で真面で信用出来る人間など、片手の指で足りる程度しかいないと覚は思っている。つーか、それぐらいは居て欲しい。
「更に言えば、ポークゥは自室で勉強が基本スタイルだから、その子を見る時間は他の奴らよりある筈」
「……確かにそうかも」
「このまま放置する訳にもいかないだろ、目覚め悪くなりそうだし。取り敢えず頼む。暫定処置と思ってくれ」
「暫定処置……。うん、それなら」
頭を下げた覚に、東は一時的に預かるだけならと納得する。因みに、この時、東から見えなかったが覚の顔は、実にイイ顔だったと言っておこう。
「じゃあ、この後で連れてくよ」
「Jud.助かるぜ。納得したところでその嬢ちゃんはお前らの養女と言うことで頼んだ。それと、その子の情操教育も関係してるが、ポークゥの事は名前で呼んでやれ。勿論、本人の許可をとってからな」
まだ綿あめを食べてる少女への対応がここに決まった。
暫定と言う話だが、周りの連中は絶対に違うと思っている。
「なぁ、アレは…」
「あぁ。絶対そのままにするぞ」
「ナイちゃん、後から問い詰められても、適当にごまかすと思うな」
「まぁ、いいんじゃない。ドンドンネタを出してくれそうだし」
「自分は良い選択だと思うで御座るよ。真面目な二人が幼女を養女にすると言うのは」
「ハイ! 今、負け犬忍者が何かボケたみたいだけど、無視でいいわよ無視で! むしろ拷問!?」
今のはわざとじゃないで御座る等と段々と騒ぎ出し始めてる中、いきなり光が来た。
「!?」
皆が光が来たほう、三河側に振り向くと、大地が光を強くしていた。
「…なんだアレ」
誰かが皆の疑問を口にするが、それに誰も答えなかった。
音が来たのだ。三河の裂ける轟音が、一息にありとあらゆるものを震動させた。
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『どうだい地脈炉暴走、さあ、三河の消滅を見てみたい人は元気良く手を挙げなさい。……はーーーい!! ぼぉく見たいでーーーす!』
「―――何馬鹿言ってんだ、あのおっさん」
三河で起きた爆発とかの原因を調べようとしてたら、全国の各地に表示枠が現れておっさんが何か言い出しやがった。
「あの覚さん。あの人って、三河・松平家当主、元信ですよね」
「そうだなバルフェット。頭のネジが緩んでそうだけどな」
「…それって、結構失礼な発言になるんじゃ」
「いやいやいや。今の発言じゃ、そうとしか評価出来ないだろ」
近づいてきたバルフェットが注意してくるけど、少なくとも俺はそう思うぞ。つーか、さっきからイイ空気吸ってるせいか、どんどん今の状況の説明を続けてるけど。
えーと、三河の異常の原因は、自身で起こした新名古屋城の地脈炉の暴走で、その結果は三河の大地の消滅と。
「あー、アレだな。バルフェット、さっきの発言訂正するわ。ネジが緩んでるんじゃなくて、一本も残ってない。が正しいな」
「よ、余計にひどくなりましたね。って、それより何とかしないと!?」
「何とかって、どうするんだ?」
今から三河に行くのは厳しいだろうし、武蔵の監視、三河との打ち合わせの為に来ていた
そして、地脈炉の暴走阻止限界まで残り五分を切ったと。どう考えてもお手上げだな。
「おい、ベルトーニ」
「…何だ?」
「確か…、三河からこっちへの発注は無いとか言ってたな」
「…Jud.受注分だけだったから、倉庫の確保に手間が掛かった」
その上、三河には殆ど自動人形しかいなかったな。と言うことは、今回の事は事故とかじゃなくて、計画されていたってことか。
―――って、歌が聞こえるな。
「今、流れているのは…」
「あぁ、通し道歌だ…」
「自動人形によるコーラスか。ってか、何で歌ってんだ?」
歌が終わっても、伴奏状態は続いてるし。
『ハイいいですかあ!? この歌、これから末世を掛けた全てのテストに出ます(配点:世界の命運)』
だから通し道歌を流したのか。つーか末世? あぁ、さっきからわけわからん。
『じゃあ皆さん。先生に何か質問はありますかー?』
『元信公……!』
ん? 誰だアレ。別の表紙枠に出てるけど。つーか、変なオッサンと戦おうとしてないかあの兄ちゃん。
『―――一体、何のために、地脈の暴走と三河の消滅を行い、極東を危機に陥れるのです!?』
『
あの兄ちゃん、八大竜王の立花・宗茂か。ってことは、手に持てるのは
『では宗茂君、いい質問だったので、先生は逆に一つ問います。危機って面白いよね?』
「馬鹿じゃねぇのか? って、馬鹿だな」
「さっきから辛口評価ですね覚さん!?」
危機が面白いって言ってんだぞ。馬鹿としか思えねぇよ。
さっきからオッサンと立花某が激しく末世がどうとか問答を繰り返してるけど、やっぱ平和が一番だと俺は思うが。つーか、末世と三河消滅は何の関係があるんだ? 時間が無いんだから、話してないで動けばいいんじゃね?
『だからこう言おう。いいですか皆さん、大罪武装を全て手に入れたならば―――その者は、末世を左右できる力を手に入れる』
更に爆弾発言が出たな。
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「訳の分からないことを!」
立花・宗茂は叫ぶ。
「大罪武装を各国に配ったのは貴方ではないですか!? それを、末世の解決の為に大罪武装を手に入れろとは……、八つの大罪武装を巡って戦争を起こせと言うんですか!?」
『おやおや宗茂君、それはちょっと間違ってるなぁ』
「…間違い?」
松平元信の発言に宗茂は疑問を抱く。
『そもそも大罪武装は、七つの大罪を基礎とした、八つの想念を模した神格武装で先生の自慢の作品だけども―――』
「それは知ってます。八つの想念、”強欲〟”傲慢〟”淫蕩〟”嫌気〟”暴食〟”虚栄〟”憤怒〟そして私の持っている
そう八つの想念を基にした大罪武装は現在六の国に分配されているが、
『駄目だなぁ宗茂君、まだ先生の説明は終わってないよ。さて今あがった八つの想念だけど、これにも原盤があって――――――九大罪だったらどうする』
製作者が更なる大罪武装があると暴露した。
●
「元信!まさか貴様ーー!!」
今の放送を聞いていた、K.P.A.Italia教皇総長インノケティウスは歯をむき出しにして叫ぶ。
当然だろう。今、自身が三河に来ているのは大罪武装の追加発注も兼ねて来ていたのだ。それなのに、もう物は出来ていると言う。
『八つの想念が七つの大罪になった時、想念は八つから六つにまとまり、そこに一つの大罪が新たに加わった訳だけど』
「その加わった大罪”嫉妬〟が九つ目の大罪武装の原型と言うわけか!」
インノケティウスの発言に満足そうに元信が頷く。それに怒りを覚えながらもインノケティウスは考える。物は既に出来上がっている。だとしたら、出来上がった物は今どこにある?
『それはそうと、皆は大罪武装に纏わる噂は知ってるかな?』
「噂?」
『そう噂。大罪武装は人間を材料としているから、人間の原罪をモチーフにした能力を使用できるって内容だけど―――それは本当だよ』
噂が本当だと聞き、インノケティウスは自身が所持している大罪武装に視線を向ける。話を聞いていた他の所持者も同じ事をしただろう。
『噂通り、人間の感情を部品にしてるんだけど、その部品にした人間の名前はホライゾン・アリアダストという』
どこかで聞いた名前だ。
『十年前に私が事故に遭わせ、大罪武装とした子の名前だ。そして去年、彼女の魂を大罪武装にし、自動人形の身体を与えて武蔵に送った』
松平元信の話は止まらない。
『P-01sという名前を持って武蔵で生活をしている。自動人形P-01s、その子の魂そのものが、――――――”嫉妬〟の大罪武装”
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「P-01s…ねぇ」
どっかで聞いた名前だな。今一思い出せないが。だけど、ホライゾンの名前は分かるぞ。今日何回か聞いてるしな。それより葵(弟)は大丈夫かねぇ。
『今日、ホライゾンを見たよ。……手を振ってくれていた』
さっきから微動だにしてないけど、当然か。自分の惚れてた子の話だもんな。
『ホライゾンは元気なようで、……何よりだ』
「―――って、葵(弟)!?」
「―――愚弟!?」
あいつ一気に走り出しやがった。どこに向かう気だ? って決まってるか。
「愚弟! アンタどこ行くの!?」
葵(姉)が声をかけても止まろうとしないな。仕方ないか。
「おい、何人か付いて行ってやれ。一人にすると拙いだろ」
俺が声をかけて走り出したのは…、ネシンバラとノリキとウルキアガか。
「追って! お願い…!」
「取り敢えず落ち着け葵(姉)。おい浅間、ちとコイツのこと頼むわ」
「わ、わかりました。ほら喜美」
よし葵の姉弟はこれでいいとして。後は、
「なぁ、ベルトーニ」
「なんだ井森・覚」
「葵(弟)が走り出したってことは、ホライゾン―――P-01sの事を知ってると思うんだが、お前は知ってるか?」
「シロ君も私も知ってるよ」
ん? オーゲザヴァラーか。
「覚さんも見たことあるよ。ほら青雷亭の」
「葵姉弟とこの店番か」
成程。確かに何度も見てるし、話したこともあるな。あの自動人形がP-01sか。
つーか、葵(弟)が告ろうとしてる相手は自動人形だけど、実際は死んだはずのホライゾンだったと。
「三河が消滅するだけで面倒だってのに、ホライゾンの事もあるのか。だるいな」
「だ、だるいって。それはどうかと思うけど…」
明日とか滅茶苦茶大変になるのがわかるからだるいんだが。まぁ、それより、
『君ら次第で、大罪武装を巡って大戦が起きるかもしれないね。けど、見たいよなぁ――――――史上初の聖譜記述にも無い世界大戦を!』
『止めます!!』
『いい答えだ宗茂君! よく考えて動くのは素晴らしい時間の使い方だ。だけど先生の授業を邪魔するのはいただけないなぁ。だから―――「おーい、ソッチの話はもう終わりかー」―――おや?』
俺も聞きたいことがあるんだ。だから、
「終わったのなら松平の先生よぅ。俺も質問があるんだけど答えてもらえるか?」
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『ふむ…、質問を聞く前に名前を教えてくれるかい』
手を挙げている覚にそんな言葉が返ってきた。それに対し、
「Jud.武蔵アリアダスト教導院、三年梅組所属、井森・覚だ」
自身の所属も含め返答する。
『へぇ、井森・覚君か…。成程成程。”異守〟の家の子か。それで先生への質問は何だい?』
若干変な言葉が混じってが返ってきた。が、それに気にすることなく、覚は周りにいる他のクラスメイトやこの放送を聞いている人達の視線を集めながら、改めて質問をする。
「松平の先生に聞きたいのはアレだ。今の話の中にホライゾン・アリアダストを事故に遭わせて大罪武装の部品にしたって言ってたが、―――部品にするために実の子を事故に遭わせたのか、実の子が事故に遭ってしまったから部品にしたのか。…どっちよ?」
過程と結果、どっちが先かを覚は問うた。
『おや? 質問はそれでいいのかい? 宗茂君みたいに三河の消滅を止めるにはー、とかじゃないのかい』
「そんな事はどうでもいい」
覚は三河消滅なんか本当にどうでもいいと思っている。だから切り捨てた覚に様々な感情が向いても気にしない。それよりも問いかけた質問のほうが覚には大事なことだ。
「それより先生、質問の答えはどうよ?」
『うん、そうだねぇ』
表示枠の中で腕を組む松平元信。少し考えると、
『何でそんな事が聞きたいんだい?』
「質問に質問で返すなよ。先生だろ」
『はっはっは、それもそうだ。けど先生も知りたいなぁ』
笑いながら、だけど目は真剣な色を見せながら元信は覚に聞いてくる。それに対して、
「簡単な話だ。事故に遭ったから部品にって話なら自分の子供も救えない馬鹿野郎って見下して、部品にするために事故を起こしたのなら人として救いようがないクズ野郎って見下すだけの、どっちを基準に考えるかを判断するために質問したんだが―――」
一体どっちだ―――覚は最後まで言わずに問うてくる。
この時、覚の周りにいた梅組の皆は驚いていた。普段の覚は、眠そうにしているか、笑っているかの表情ばかりで、恐らく初めて見る真面目な、体育の戦闘関係の授業でもしていない真剣な顔だったから。
『それはそれは…、どっちも酷評だねぇ』
「そうか? 前者のほうがまだ救いがあるだろ。それよりどっちだよ。答えプリーズ」
『そうだねぇ。わざと事故を起こしたことにしようか』
「それだと質問に対する答えになってないだろ」
『そうだね。けど、三河が消滅して僕も死ぬから、どっちでもよくないかい?』
『消滅などさせません!!』
急に別な声が聞こえてきた。誰だ、と確認すると、それは立花・宗茂だった。
『ここで地脈炉を破壊し、地脈炉暴走を止め、貴方達を皆の前に連れていく!』
『人が話してる最中に割り込んでくるのはいけないなぁ。ちょっとそこの副長、なんとかしなさい』
『我がなんとかするのかよ』
宗茂と対峙していた年輩の男は、そんな事を口にしながら手に持った槍を宗茂に向けた。
●
「やれやれ。最近の若い子は礼儀がなってないね。それより覚君」
『なんだ松平の先生』
元信は改めて覚に質問する。
「さっきの質問なんだけど、どういった意図で聞いてきたのかな? 是非、先生に教えてほしいなぁ」
三河が消滅する前に、最後にちょっと聞きたい事が出来たから。
『ん、ん、ん、まぁ、いいけど。俺個人の考え方が原因なんだけど、―――子供を犠牲にしなくちゃ存続出来ない世界なんて、滅んだほうがよくね?』
「それはそれは…、また、随分過激な発言だね」
この放送を聞いている人達の記憶に刻まれかねない事を言ってくるなと元信は思った。
自身の子に手を出した元信もそうだが、末世を何とかするために足掻いている他の国の首脳部も敵に回しかねない発言が返ってきた。だけど、
『そんなに過激か? 単純に親子仲良くやりましょう。ってことを辛口に表現しただけだろ』
「辛口というより激辛だと先生は思うなぁ」
元信はこの子は実に優しい子だと思った。恐らく自分の親に大事にされていたのだろう。こういう子にこそ、
「君には”創生〟を叶える側にいてほしいなぁ」