境界線上を見守ろう   作:太った骨

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サンドバック:リハビリは別に構わないと思うんだけどよ。
  骨   :何か疑問が?
サンドバック:何で扱う作品がコレなんだよ。リハビリに向かないだろうが。
  骨   :まぁ、同じ川上作品だし。なんとかなるでしょ。


ある日、実際にあった筆者と友人とのやり取り



1-上
【配点】 朝の一幕


――――――チュンチュン

 

「~~~~ん、朝か」

 

 俺は寝ていた布団から体を起こす。

 

「ふぁ~~~~、あ゛~寝たりねぇ。……つーか、ここ何処よ?」

 

 周りを見渡すが見覚えの無い部屋の中だ。内装から判断するに女性の部屋だろうな。アレの臭いがするが。

 さて、昨日はどうしたっけか。思い出そうとすると―――

 

「あら。漸く起きたの」

 

 声が聞こえたほうに顔を向けると女が立っている。インナーに上着を羽織っているだけだからスタイルがハッキリと分かる。

 顔から足元まで視線を上下させると凹凸具合が良い中々のバランスだな。

 あぁ、思い出した。

 

「出来れば裸エプロンが良かったんだが」

「朝っぱらから馬鹿言ってんじゃないわよ」

「いやいやいや、朝だからこそ言うんじゃねぇか」

 

 昨日の夜は賭場で大勝ちしたから、ネーちゃんがいる店で飲んだんだっけ。そんでお持帰りしたと。あれ、あっちの部屋だからお持帰りされたが正しいのか?

 

「それより朝ご飯の準備するから、その間にお風呂に入って汗とか流しなさいね」

「おう、悪いな」

「気にしないで。それより私は食べたらもう一眠りするけど、貴方はどうするの?」

「そうだな……、今の時間からすると午前中の授業には余裕で参加出来るか「待ちなさい」なって、どうした?」

「授業?あれ?もしかして貴方学生?」

「おう。あれ?もしかして昨日言わなかったけか?」

 

 目と口を大きく開けて驚いてるな。

 

「ちょっと貴方、歳を聞いたら20歳って言ったわよね。この『武蔵』じゃ18歳までが上限じゃない」

「ははは、確かに四月の頭に20歳になってるが俺は例外だ。ちょっと訳有りでな」

 

 さて、このまま話しててもいいけど早く風呂に入るか。あちこち汚れてるし左の義手は特に酷いし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イカ臭いまま授業に出たら真喜子ちゃんに殺されるしな。

 

 

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「三年梅組集合―――。いい?」

 

 黒い軽装甲型ジャージに長剣を背負った短めの髪の女、真喜子・オリオトライが言う。

 

「では、―――これより体育の授業を始めまーす」 

 

 そのまま授業内容の説明、品川にヤクザを殴りに行く旨と、それが報復行為だという事がハッキリすると生徒達に尋ねる。

 

「休んでるの、誰かいる?ミリアム・ポークウは仕方ないとして、あと、東は今日の昼にようやく戻ってくるって話だけど、他は―――」

「ナイちゃんが見る限り、セージュンとソーチョーと『カクさん』がいないかなあ」

 

 黒い三角帽に金の六枚翼、金髪少女のマルゴット・ナイトが言う。

 

「正純は小等部の講師をしに多摩の小等部教導院に行ってるし、午後から酒井学長を三河に送りに行くから、今日は自由出席の筈。総長……、トーリは知らない。それと『覚さん』は昨日何処かの賭場に行くって言ってたから…」

「アイツ昨日は勝ったからな。それに伴いある商品の予約をしてきた。つまり今のアイツは金が有る」

「やったねシロ君!何だかんだで『覚さん』はお金が有るときは、大口注文してくるからいいお客様だよね」

 

 黒翼黒髪のマルガ・ナルゼが首を傾げながら言うと、それに続いて短髪の青年シロジロ・ベルトーニと金髪に笑顔を浮かべたハイディ・オーゲザヴァラーが発言する。

 

「また勝ったで御座るか。あの御人は負けたという話を余り聴かないで御座るな」

「バレないイカサマは、イカサマじゃない。というのがアイツの持論だ。拙僧等に教えてくれれば良いものを」

「つまり、負ける時はワザと負けるで御座るか」

「そうでなければ、とっくに賭場の出入りを禁止されるだろう。それでも勝ち過ぎるからブラックリストに入っていると聞く」

 

 帽子を深く被った点蔵・クロスユナイトと航空系半竜のキヨナリ・ウルキアガが批評する。

 

「と言うか、小生はあの人も一応学生なのに身内での軽いギャンブルだけでなく、賭場での大きな勝負とかは良いのか? と思うのですが」

「なんか彼方此方に色々バラ撒いてるらしいよ! 勿論、お金じゃなくて、お酒とか食べ物とかだよ!」

『左様。そのおかげで御目溢しされる訳だ。我々も貰っているしな』

 

 丸い体型の御広敷・銀二が疑問を口にすると、インキュバスの伊藤・健二とピンク色粘質体のネンジが答える。

 

「それより。ノリキ、アンタ家が真正面でしょ。朝はどうだった?」

「特に動きは無かった。恐らく昨日は家に帰ってないはず」

 

 袖無しの改造征服を着たノリキが答える。

 

「先生、今連絡が来ました」

 

 眼鏡をかけた少年ネシンバラ・トゥーサンが手を挙げて発言する。ネシンバラの眼前には通神用の表示枠が出ていた。

 

「授業内容を伝えたら途中で合流するそうです」

「そう『井森・覚』は遅刻と。何で直接私に連絡してこないのかしら?って、アイツの自己申告厳罰は何だっけ?取り合えずネシンバラ、教室に戻ったら厳罰だからって伝えて」

「Jud.―――あ、先生。『この間渡した酒は美味かったか?一ダースだから飲み応えもあったろ』って返ってきました」

「―――それじゃあ〝不可能男(インッポシブル)〟のトーリについて知ってる人いる?」

「「「「「「「「「流した!? やっぱり買収されてるぞ、この教師!?」」」」」」」」」

 

 

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「―――さてさてさて、いい加減何かしら見えてくる筈なんだが」

 

 朝飯を食い終わってから、この俺『井森・覚《いもり・かく》』はそのまま走って目的地に向かう。

 俺が今いる巨大航空都市艦【武蔵】は正確には準バハムート級の航空都市艦群だ。八艦同士は無数の太縄で連結しており地名を八重襲名しいて、それぞれに浅草・品川・武蔵野・村山・多摩・青海・奥多摩・高尾と名付けられてる。

 その中の品川にあるヤクザの事務所か目的地って話だから、泊まった家からそこそこ近い。それに教導院に行って体育の授業はサボっても良かったけど……、

 

「最近、真喜子ちゃんに目をつけられてるんだよなぁ。……って、前からか」

 

 あのアマゾネスは俺に対しては全力で攻撃してくるから色々手を打っておかないとガチでマズイ。先月なんか他の連中は鞘のまま殴ってるのに抜刀して斬りかかって来やがった。人目を気にもしないし、なんかパワーも上がってる気もする。未だ成長期って実際どうよ?

 

「そん時も一升瓶でなんとかなったから、ある意味安い女だよな。いや高いのか―――!?、よし見えた!」

 

 少し遠くに爆ぜた光が見えた。午前中の早い時間からあんなのが起きるのはウチの連中しかないだろう。

 俺の現在位置と目的地、向こうの現在位置と目的地を比較して合流できるだろう位置を考える。考えた結果、

 

「オイオイオイ、今のペースじゃ間に合わないじゃねぇか。走らないと駄目かよ」

 

 どうも歩いて合流ってのは甘いらしい。

 

「ったく、折角汗を流したってのに。あ”~、諦めたら多分袋にされるよな」

 

 あのアマゾネスなら一人袋叩きも出来る気がする。スピードが足り無いけどなんとかするだろ。

 仕方ない、走ろう。速度関係の加護は無いが、体力は無駄に有る体だ。それに今回のルールなら多少無理して楽しむのも良いだろう。

 

 

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 白い爆発が連続して発生する。白と黒の遠隔魔術師(マギノガンナー)の砲撃が続くが目標には当たらない。

 梅組生徒達は何とか食い下がろうとするが、ジリジリ離されていく。

 

「だ、誰か居ませんかー!? このままだとあの超蛮族が逃げ切りをーーー!?」

「え、…えっと、…も、もう、厳しいか、…な?」

 

 バケツヘルムをかぶったペルソナ君の上で、両目の色が違う巫女の浅間・智と前髪で目元が隠れている少女の向井・鈴が言葉を交わす。

 途中までは喰らいついてはいたが、脱落したり、速さの関係等でズルズル引き離されていく。突っ込んだ前衛組み等はかなり後ろにいる。

 

「あー、もう無理さね。追いつける戦闘系が残ってない」

 

 右腕が巨大な義腕の直政が言葉を飛ばす。

 残っている戦闘系だと人狼ハーフのネイト・ミトツダイラが居るが、彼女は途中から周辺が自分の領地だった為、戦闘スタイルから暴れられずそのまま離され、今は―――

 

「ホーラ、走りなさいミトツダイラ!! どうせ追いつけないのだから、あまり振動は立てないで!!」

「ちょっと喜美、いい加減降りなさい! いつまで背中に乗っているの!?」

「別にいいじゃない重戦車系。役に立たなかったし。私、疲れたからそのまま運んでちょうだいな。あ、出来ればこのボリューミーな髪が邪魔だからなんとかしてくれると助かるのだけど」

「言いたい放題ですわね!?」

 

 などと言うやり取りを、茶色いウェーブヘアの葵・喜美としている。もう、目的などそっちのけだ。

 後衛型、非戦闘系もリタイアした生徒の回収もあって届かない。遠隔魔術師(マギノガンナー)も限界だ。

 

              ●

 

「ふふーん、もう限界ね」

 

 オリオトライは速度を落とさずに後方を確認する。生徒達はもはや遠目にしか見えない。体の向きを変え、バック走の状態でラストスパートをかける。

 

「なかなか良い感じになってきたけど、まだ足りないわね」

 

 足りないという事は、まだ進むことが出来るという事だ。生徒達の状態をそれなり程度に評価する。願う事なら今の末世の中で選べる選択肢を増やせるようもっと足掻いて欲しい。その為にも、

 

「もっと頑張りなさい、若人達よってね。―――私も十分若いけどね!」

 

 目的地であるヤクザの事務所が近づいてきた。後ろを向いたまま大きく跳躍する。そして事務所前に着地を決め、勢いから少し後ろに土煙を上げながら滑り込む。

 

「よーし、到ちゃ「ペタリ」く――――――え?」

 

 お尻に触れる感触に視線を向けると、茶髪の若者がしゃがんで揉んでいた。

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

――――――ムニュ、ムニュ。

 

「うーん、いい弾力だ」

「―――ア、アンタ、一体何してるの?」

「おう、なんか手を構えてたところに尻が滑り込んで来たから擬音を上げて触れて、そのまま揉んでいる」

 

 俺は、何とか真喜子ちゃんより早くヤクザ事務所に到着した。と言っても、向こうもすぐに到着しそうだ。

 後ろを向いたままこっちに来ているから、とっっっっても良い事を思いつき、すぐ近くに隠れて気配を消す。

 そして、高く跳んだのを確認して着地予想地点に移動した結果が今の状況だ。実に素晴らしい結果だな。まぁ、この後の結果も踏まえると、収支はプラマイ0だろうけど。

 

「ねえ井森、アンタこの後どうなるかわかってて揉んでるのかしら」

「はっはっは、勿論だ。俺は酒と女とギャンブルが大好きだからな。このパイタッチならぬ尻タッチ。わかっていても止められる訳無いだろうが」

「その好きなものの最初のヤツは私もそうだけど。そう、わかっててやってるんだ。今回の分は買収されないわよ」

「オーケーオーケーオーケー、俺も男だ。甘んじて受けよう。ただ…」

「ただ?」

「鞘から抜くのはやめておけよ真喜子ちゃん。このあたり血の海にすると、また学長とかに怒られるぜ」

「そう……。――――――じゃあ死になさい」

 

 イヤイヤイヤ、実にイイ笑顔だなオイ。これはアレだ。一発だけじゃ終わらないな。今回は何連コンボになるのかねぇ。あー怖い怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 

 

 

              ●

 

 

 今更だが、この俺『井森・覚』は俗に言う転生をした者だ。

 と言っても前の人生で何をやっていたのかは殆ど憶えていない。僅かな記憶と、いくつかの経験が体に染み付いているのと、こっちに産まれる直前でのやりとりが転生者だと判断している根拠だ。

 産まれる前に何があったのかと言うと、気がついたら真っ暗闇にいた。

 熱くもなくて寒くもない。何かに包まれている気がしないでもないが、体が存在している感覚が無いあやふやとしか表現出来ない状況だ。

 

 

 

 そして自分が何なのかがわからない。

 

 

 

 だと言うのに、その事に対して恐怖を憶える事もない。ただ思考を走らせるだけだ。

 色々考えてみたら、歳は40は過ぎてたとか、毎朝毎晩に体を動かしてたとか。その程度は思い出せた。そんな事から一応は生き物だったのだろう。

 

『―――次は、コレか』

 

 いつか急にそんな声が聞こえてきた。いや、聞こえたというよりは響いてきた、というのが正しいか?

 

『―――ほう、完全に洗浄されていないではないか。とは言ってもカス程度の残滓がこびりついてるだけだな』

 

 待てやオイ。誰がカスだ。

 

『―――普通平凡な人生を真面目に送ってきただけか。』

 

 人の話を聞け――――――って、あれ? 俺のことを知ってる?

 

『―――成人してからの趣味が体を動かす事。だから健康体操代わりに中国武術と。太極拳ならわかるが、形象拳や八極拳とかはチョイスが少しおかしくないか? 他にも色々やってるな』

 

 お前が誰か知らないが答えてくれ!? 俺は誰だ!! 何だったんだ!?

 

『―――ふむ。そこらにあるようなつまらない人生だと思ったが、ところどころでぶっ飛んだ事をしてるな。……いいだろう』

 

 オーイ、俺は全然よくないぞ!?

 

『―――それならコレが良いか。成人前に読んでた本からコレをあててやる』

 

 な、何を当てる気だ?

 

『『『『『『さぁ―――! 次の生でも思うがままに通したまえ!!』』』』』』

 

 

 

 ………で、気がついたら乳を吸ってた。

 

 

 ここで漸く俺は生まれ変わったんだと理解出来た。乳吸ってたのは赤ん坊だから飯を食ってた訳だ。勘違いしてはいけないぜ。因みに恥ずかしいとかの感情は沸かなかった。

 で、赤ん坊だから全然動けないから色々考えるんだ。あの時の声の内容とか、これからどうして行こうかを。

 その度、知恵熱出して両親を心配させたけど。

 取り合えず、前は真面目な人間だったようだから、少しばかり暴走してもいいだろう。思うがままに通せって言われたし。

 だから、ハイハイが出来るようになったら彼方此方に移動しまくった。隙を見て勝手に外に出たり動物に襲われたり、階段を上がったり下りたり落ちたり。

 その度、怪我して両親を心配させたけど。

 けど、軽い怪我しかしなかった事や両親の話してた内容から、どうやらこの体はかなり頑丈らしい事がわかった。加護だなんだとか言ってもいたけど、その時は意味が分からなかった。

 そうそう、新しい親父もお袋も良い人だった。一人っ子だからってのもあるけど、二人共俺を愛してくれてたし、俺も二人が大好きだった。

 ……あぁ、『だった』だ。暫くの間は何事も無く平和に過ごしてたんだけど、お袋は俺が小等部最後の年の時に事故で亡くなった。

 俺もその時巻き込まれて昏睡状態になったらしく、病院の布団の上で目を覚ましたら丸2年が経過していた。いや、ホント、勘弁して欲しいよな。

 親父は俺の治療費とか入院費とか勤めてる仕事の都合とかで彼方此方に転々と出張してた。起きた後に通信でだけど顔を合わせた時ボロボロに泣いてた。けど笑ってくれた。

 今でもそのまま外国を廻らないといけないとかで、一箇所に落ち着くことが出来ないらしい。それに付き合わせることはしたくない。ということで、仕方がないから俺は一人で暮らす事になった。それでも年に1~2回はなんとかして直接顔を合わせている。

 少し話を戻すが、昏睡の関係で教導院をどうするかと問題も上がった。俺がいるこの【武蔵アリアダスト教導院】では学生は18才で卒業っていう制限がある。他の国は無制限だというのに、訳ありだとは言えおかしいだろと俺は思う。弱らせる為、って臆病だなっつーのが感想だ。

 2年分の学業の遅れと制限とでどうバランスをとるか上の連中が話し合った結果、俺は留年という形で教導院に中等部の初年から改めて通う事になった。この事は外国のお偉方から理解を得ているらしい。

 それで今は三年梅組の一員として『おーい、覚さーん』―――って、誰か俺を呼んでいるのか?

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

「―――ん。ん、ん? あぁ、気絶してたのか」

 

 地面に倒れ伏してた男が体を起こす。

 

「お早う御座います覚さん」

 

 眼鏡をかけた小柄な少女アデーレ・バルフェットが挨拶をする。

 辺りに目を向けると梅組の生徒達がいくつかのグループに分かれて話している。

 

「おう、お早うさん。今日も元気かバルフェット」

「Jud.、少し前に先生にふっ飛ばされましたけど元気です!」

「そうか、元気なのは良い事だ」

 

 そんな言葉を覚とアデーレは交わす。

 

「そう言えば覚さん、制服は?」

「ん? あぁ、昨日出かけたままだったからな」

 

 下は兎も角、上は白に青のラインが入った羽織りだった。

 

「教導院に戻る時は、これじゃあ不味いな。『千里』、出してくれ」

『ニャー』

 

 虚空から出て来たトラ猫型走狗(マウス)が制服の上着を取り出す。

 出された上着を着て立ち上がる。武蔵アリアダスト教導院の一般制服と基本は同じだが、裾が膝まで届く程長く、右袖は肘まで捲られ、左袖は肩口から全く無く、銀色に黄色と黒のラインが入った義碗の全てが外に出ている。

 

「あんがとさん。つーか、今、どんな感じよ? なんか葵(弟)が真喜子ちゃんに回し蹴り喰らって回転しながら飛んだけど」

「えーと、取り合えず、先生がヤクザ倒したら総長が出てきまして。そしたら先生のオ、オッパイを揉んで重大発表して」

「馬鹿が蹴り飛ばされたと。あと、一々乳のところでどもるな。けどそうか―――」

 

 後頭部を軽くかくと……、

 

「葵(弟)に乳を揉まれて、その前に俺に尻を揉まれ「そ、それは本当で御座るか!?」て、散々だなって、急にどうした?」

 

 大声をあげた点蔵が詰め寄ってくる。

 

「か、覚殿! 先生の尻を揉んだとは本当で御座るか!?」

「声がでけーよクロスユナイト。そんな事で騒ぐからいつまでたっても童貞なんだぞ」

「ど、どど、ど、童貞かどうかは、関係無いで御座ろうが!?」

「オイオイオイ、本気で言ってんのか? 女に触れたとか簡単な事で騒いでるのは、女の視点からすりゃみっともないだろうが」

「………え、マジで御座るか?」

「マジに決まってんだろ。なぁ、バルフェット」

 

 点蔵が勢いよくアデーレののほうに顔を向けるが、

 

「ジ、Jud.、ノーコメントでお願いします」

「突き飛ばせばいいのに、お優しい事で。ほれ、泣くなクロスユナイト。茶をやろう。バルフェットも」

「―――Jud.、有り難く貰うで御座る」

「有難う御座います。———って、またこれですか」

 

 覚から渡された缶のラベルはこう書かれている。———まロ茶と。

 

「知り合いからよく送られてきて、余ってるんだ。処理もかねて飲んでくれ」

「Jud.、喜んで手伝わせてもらうで御座るよ」

「手伝うのは良いんですけど、いつも飲んで大丈夫なのか疑問に思うんですよね。 材料的に」

 

 その言葉に缶に書かれている原材料名に目をむけると、こう書かれていた。

 

 【原材料名:葉っぱしか入ってない】

 

「か、か、覚殿!? これ大丈夫で御座るか!? こう、中毒とかになったりしないで御座るか!?」

「いえ、第一特務。いままでに結構な回数飲んでましたよね」

「何回も飲んでたで御座るが、原材料なんて気にしないで御座るよ!?」

「大丈夫だバルフェット。一定間隔でクロスユナイトに飲ませてるが、今んとこ中った事ないぞ」

「毒見!? 自分、毒見役で御座るか?」

「おう。まぁ、気にするな―――、って、そうだ。オーイ、フルブシは居るかー?」

「ここに居ますネー、カレーの注文ですネー」

 

 頭にターバンを巻いた少年ハッサン・フルブシが近づいてくる。

 

「Jud.、正解だ。昼飯用に後で頼む。勿論、特盛りで」

「了解ですネー」

「変なモンは入れるなよ――――――と、そうだ。なぁ、バルフェット」

「何ですか?」

「葵(弟)の重大発表ってなんだ? また馬鹿をするのか?」

「え、えーと、ですね……」

 

 少し表情を硬くすると…、

 

「告白するそうです。―――――――――ホライゾンに」


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