モンスターハンター ~強食輪廻の異説~   作:紅卵 由己

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今回の話で、この二人の視点での話は一端終わりです。


風を横切る赤と緑の翼

 まず、大前提として、皮装備の幼子は状況の認識が追い付いていなかった。

 突然現れた濃緑色の鎧――ライゼクスが現れたと思えば猟奇心満載な雰囲気で襲い掛かってきて、一先ずの剣撃が終わったと思えば今度は元々の姿であろう竜の姿に変じようとし、それを見兼ねた赤い竜鎧――リオレウスが自分の手を引いて、少なくとも『落ちたら死ぬ』ぐらいの高さだったりする崖から躊躇も無く跳び出した――――もしこんな話を体験もしていない誰かが聞いたとしたら、軽く笑われそうな出来事ではあるのだが、これは現実の出来事なわけで。

 

「いいぃぃぃぃぃゃぁぁぁぁぁああ!?」

 

 体が風を切って落下を始めると同時、幼子は絶叫を響かせていた。

 然程空気抵抗が発生しているわけでも無いのだが、恐怖心からか殆ど無意識の内に手足を振り回す格好になってしまう。

 頭の中――そもそも頭と言える部位も無い状態なのだが、どちらにせよ『そこ』を含めて混乱状態な幼子は、落下の慣制の影響なのか揺れまくる視界の中で、事の元凶の一つであるリオレウスの姿を見た。

 幼子が思いっきり混乱して(出す器官も無いのであろうが)涙目な心境に陥っている中、彼は彼で自分の体の形を変えているようだった。

 

 体である鎧から異音を漏らしながら、彼は少しずつ本来の姿であろう竜の姿へと変じていく――。

 

 物を持つぐらいならば造作も無かった五本指の手から腕までが、身の丈近くはある雄大なる両翼に。

 地を踏み締め二足で歩く事を基礎とした人間のような両脚は、獲物の肉を抉る前方三本後方一本の爪を有した鳥類のような骨格に。

 あくまで鎧の一部としての役目しか存在しなかった細長い形の装飾品は、先端に殺傷能力を有する太く巨大な棘を生やした長い尻尾に。

 頭部を防護する役割を担っていたヘルムは、何処か獅子のたてがみを想起させる鱗だらけな竜の頭部に。

 その全体的な体躯も人型の形を取っていた時より肥大化していて、リオレウスは自分の飛翔速度を幼子の落下速度とある程度合致させると、難も無いような調子で幼子の体を安全に背で受け止めていた。

 

 地表近くにまで降下した辺りで一気に飛翔し、リオレウスとその背に乗った幼子は事無きを得る。

 

「……し、死ぬかと思った……」

「だから、先ほども言っただろう。もう既に死んでいる身だと」

「そういう問題じゃないんですぅー!! あなたは大丈夫だったかもしれないですけども、こっちは危ういところだったんですからね!?」

「馬鹿を言うな。『人間』でさえこの程度の崖から落ちて無事なんだぞ。仮に地表に激突したとして、然程問題は無いだろう?」

「ぜったいその考えはおかしいですってー!!」

 

 リオレウスの何気ない言葉に対し、涙声で訴えかける幼子。

 だが、一難を終えてももう一難ほど彼等には残されており、それは彼等が先ほどまで居た崖の上からやって来た。

 まるで蝶の羽にも似た紋様の美しい両翼を広げ、濃緑色の鱗を有し全身から電気を迸らせながら追い立ててくる竜――ライゼクスである。

 

「お前よりも俺の翼の方が速い。下手に足掻くと疲れるだけだぜ」

 

 彼の飛翔速度はリオレウスと同等――いや、電気で体の動きを活性化でもさせているのか、ライゼクスの方は一回りほど速度で勝っているようで、どんどん互いの距離は詰められていく。

 リオレウスもその翼の力でもって速度を増させているようだが、電気の力によって運動性能を増強しているライゼクスの優位に変わりは無く、背中にしがみ付いている幼子のスタミナが休みも無く削られていた。

 お互いの飛翔によって生じた風圧の影響で、途中通り過ぎた水面が揺れる。

 

 一分も経たない内に距離を詰められ、次期にリオレウスはライゼクスの攻撃の射程範囲に入ってしまう。

 恐らくは攻撃の予兆なのであろう、ライゼクスの口内が黄緑色の蛍光色を宿した電気を帯びていく――――ことを音で認識したリオレウスは、そこで初めて異なる動きを見せた。

 

「……しっかり『掴まって』いろ」

 

 そう、背に居る幼子に向けて呟いた直後の事だった。

 リオレウスは翼を一気に羽ばたかせ、ほぼ垂直な角度で上方へと飛び出した。

 

 ライゼクスは、その動きに反応する事自体は出来ていた。

 だが、頭は反応出来たとして――体の方はその速度を抑え切る事は出来ず、上方に飛び出したリオレウスの下方を通り過ぎてしまう。

 そして、咄嗟に首だけをリオレウスの居る方へ向けた時には、リオレウスが、その口内に火炎を溜めている最中だった。

 

「チィッ……!!」

 

 単純な速度で追い回されるだけなら、直ぐに追いつかれ餌食になっていただろう。

 しかし、空中戦における優位は()()()()()()()()決まらない。

 ライゼクスは口内から電気の塊を放とうとしたが、それよりも先にリオレウスの口内から火炎弾が解き放たれる。

 

 ドオッ!! と、単なる炎が当たったのとは明らかに異なる爆音が空気に響いた。

 

「ぐおおおおっ!!」

 

 リオレウスの火炎弾が胴体へと直撃し、ライゼクスはその威力に思わずよろめいてしまう。

 その一撃自体はライゼクスの力を完全に削ぎ落とすに至らなかったが、リオレウスからすれば十分だった。

 ライゼクスがよろめく姿を視認したリオレウスは急接近し、両脚の爪をライゼクスの体へ突き立てに迫る。

 

 が、ライゼクスは咄嗟に自身の翼を鈍器のように振るい、リオレウスの両脚による攻撃を強引に弾く。

 ただでさえバランスを崩している状態で無理に打撃を行った所為か、その体は重力に引かれて地に落ちる。

 四足の獣ように両脚と同時に翼も地に着ける事で最低限の衝撃を殺し、ライゼクスは着地した。

 彼は上方に滞空しているリオレウスの方へ視線を向けながら、言う。

 

「……力では間違い無く俺の方が上のはずなんだが、やっぱり簡単にはいかねぇなぁ……」

 

 明らかにダメージを受けているはずだが、それでも彼の調子は少しも崩れていなかった。

 声からは笑みでも浮かべているような雰囲気さえ見え隠れしていて、何かが狂って居るような印象さえあった。

 

「…………」

 

 リオレウスは、そんなライゼクスの様子を見ても一切の呟きさえ漏らさない。

 まるで、見慣れた風景でも眺めるような様子だった。

 そんなリオレウスの心境など気にも留めず、ライゼクスは身構える。

 お互い、しばらくの間睨み合いの時間が流れていったが、

 

「……はぁー、やめだやめだ」

 

 突如そんな事を言い出したのは、ライゼクスの方だった。

 

「興が冷めたって奴だな。まったく、いつもながらせっかく襲い掛かってやってんのに、肝心の獲物の方が戦う気ゼロなんじゃあ気分も長続きしねぇや」

 

 襲撃者という立場である事を知っていれば、その言葉がどれだけの理不尽に包まれているのか理解は出来ただろう。

 だが、リオレウスはその言葉に対して溜め息でも吐くような素振りを見せるだけだった。

 それが尚更気に食わなかったのか、ライゼクスは自身の体に電気を纏わせると、その翼で明後日の方角へと飛び去ってしまう。

 リオレウスは追おうともせず、竜の姿のままそれを眺めていた。

 

 ライゼクスが飛び去った後になって心に余裕を生む事が出来た幼子は、ただ困惑のままにこう呟いていた。

 

「結局、なんで襲い掛かってきたんですか……?」

「……どうせ、退屈凌ぎだろう。この世界では、肉を喰らったりして『満たす』事が出来ないからな」





 金!! 暴力!! 性欲!!

リオレウス「主に一番最初が関係無さ過ぎるのだが」
幼子「二番目も普通はね。三番目は…………………………………………………………………………………………まぁ、生物なら種の存続の関係で当たり前だし……」
リオレウス「その間は何だその間は」

 次回は第二話でチラ見せした『どちらか』の視点になります。

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