川崎沙希の距離感   作:満福太郎

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3話目です。
いろいろな意見あるかと思いますが
読んで頂ければ幸いです。


3.川崎沙希は苦悩する

数日前あれだけあたしは覚悟を決め決断したのにも関わらず、

いきなり挫折しそうだった。

大学の入学を控えた今特にすることはない。

時間はあるはず。あるはずなんだけど…。

まったく出会わない。

部屋は隣どうしでしょ?もう少し何かあってもいいんじゃないの?

 

沙希「あー…暇。っていうか距離感詰めるって具体的にどうするのよ…。」

 

根本的な問題が解決していない。

いったいどうすれば距離感が近づくのか。

ここにきて自分の恋愛経験の無さを痛感する。

 

沙希「ご飯でも作って持って行ってみようかな…」

 

沙希「買い物に付き合ってとか?」

 

沙希「暇だから遊びに行かない?とか。」

 

沙希「だー!無理無理無理!あたしにそんな度胸ないっての!」

 

もう時計の針は15時を指している。

こうやって悩んでいるだけでこの時間だ。

一体あたしは何をしてるんだ…。

 

沙希「もういい。スーパー行こう。」

 

諦めた。今日はとりあえず諦める。

一旦仕切り直しだ。

出会えないものは仕方ないもんね。

そう都合よく解釈しアパートを出る。

 

ガチャッ。ガチャッ。

 

ドアを開ける音が2つ聞こえる。

当然1つはあたしだ。もう1つは…。

 

八幡「ん?」

 

沙希「あ…。」

 

偶然にもほどがあるだろうというタイミング。

お互い部屋から出たところでばっちり目が合う。

 

八幡「出掛けるのか?」

 

沙希「あ、お、おはよう!」

 

テンパってた。突然のことで頭がついていかなかった。

 

八幡「おはよう?もう15時なんだが…。まさか今起きたのか?」

 

沙希「そ、そんな訳ないじゃん!急だったからびっくりして!」

 

八幡「そ、そうか…」

 

おそらくすごく挙動不審に見えただろう。

せっかく会えたのに出だし最悪…。

 

沙希「こ、コンビニでも行くの?」

 

八幡「いや?スーパーに買い出しに行こうかと思って。」

 

チャンス!そう聞こえた気がした。

勇気だせあたし!一緒に行こうって言うんだ!

 

沙希「あ、あのさ。あたしもスーパー行くつもりだから良かったら一緒に…」

 

沙希「行ってあげてもいいよ!」

 

あ…これはダメなやつだ。自分でも分かる。

なんでこんな高圧的な言い方しかできないんだろあたし…。

一緒に行こうよでいいじゃないのよ…。

 

八幡「そりゃ助かる。買う量とかいまいちわからんくて教えて欲しかったところだ。」

 

沙希「え?ほ、ほんとに?」

 

八幡「おう。たぶん俺1人だったら変な買い方しそうだからな。」

 

沙希「しょ…しょうがないなー!あたしが教えてやるよ。行こう!」

 

八幡「おう。」

 

危なかった。なんとか乗り切った。

でも間違いは間違いで反省しないと…。

そんなことじゃいつまでたっても距離は縮まらない。

しっかりしないと。

 

 

~~~

 

沙希「で?結局あたしの言うこときいてないんだけど?」

 

八幡「お前ガチすぎるんだよ!主婦の領域じゃねぇか!」

 

スーパーからの帰り道。昔みたいな言い争い。

だってこいつあたしの言うこと聞かないんだもん。

全然野菜買わないし。すぐに惣菜系に手を出したがるし。

そんなんで体壊されたら…困る。

 

八幡「てか買い過ぎだろ。何作る気だよ。」

 

沙希「普通だし。大量に作ってたらいざって時便利なのよ。」

 

八幡「そうかよ…。ほれ。」

 

あいつはあたしに手を差し伸べてくる。

 

沙希「え?な、何?」

 

八幡「袋一つ持ってやる。」

 

沙希「いや!別にこれくらいいいって!」

 

八幡「構わん。」

 

そういうとあいつはあたしの手から袋を奪いとる。

初めて目の当りにする優しさに思わず頬が緩む。

 

八幡「何笑ってんだ?」

 

沙希「え?いや、その…あ、ありがと…」

 

夕暮れ時の帰り道。

こうして二人並んで歩いていると恋人に見えるんだろうか。

まぁ、実際は恋人どころか友達かどうかさえ怪しいんだけどね。

 

沙希「あたし今日カレー作るんだけどあんたも食べる?」

 

まただ。以前もこうやって勝手に口からとんでもない言葉が出た。

どうやら無意識な時のもう1人のあたしはずいぶん積極的らしい。

 

八幡「いいのか?前も世話になったけど。」

 

沙希「あんたほっといたら変なもんばっか食べそうだし。」

 

八幡「いちいちうるせぇな。まぁ作ってくれるんなら頂くわ。」

 

沙希「ん。」

 

良かった。断られたらどうしようかと思った。

これでまだこいつと一緒に居られる。

それがすごく嬉しかった。

 

沙希「じゃあ出来たら呼びに行くから待ってて。」

 

八幡「え?いや、俺も手伝うけど。」

 

沙希「え!?な、なんで!?」

 

八幡「いや、飯作ってもらうのに黙って待ってるっていうのも…」

 

まぁ、たしかに気を遣ってしまうんだろうね。

でもなんでこいつはそんなセリフをポンポン出せるのよ。

あたしは恥ずかしくってなかなか上手く言えないってのに。

 

沙希「…いいの?」

 

八幡「おぉ。とりあえず荷物片づけてから行くわ。」

 

そう言って部屋に戻っていく。

やっぱりあたしのことなんて眼中にないからあんなセリフ言えるのかな?

いや、違う。眼中にないなんて初めからわかってることだ。

それをどうにかするのがあたしでしょ?

距離感を詰めるのはどうするかわからなかったけど、今はわかる。

 

沙希「まずはあいつと友達にならないと…。」

 

ただの知り合いから友達に。

いきなり距離を詰めることだけ考えすぎて焦りすぎてた。

まずは1つ1つ確実に進まなきゃ。

 

 

~~~

 

あいつが部屋にきてカレー作りを始めて驚いた。

こいつ意外と料理できる。

ちょっと料理のやり方を教えてあげたりしてポイントを稼ごうって思ってたんだけど。

 

沙希「あんた料理普通に出来るじゃん!」

 

八幡「おかしなやつだな?できないなんて一言も言ってない。やろうとしないだけだ。」

 

沙希「威張って言うことじゃないっての!」

 

八幡「親が帰ってくるのが遅いから飯は俺か妹かで作ってたからな。」

 

沙希「妹…?あぁ大志の同級生の。」

 

八幡「あいつにお兄さんはやめろと伝えておいてくれ。」

 

でももしあたしとこいつが結婚したらお兄さんでもいいよね?

やばい。ニヤニヤが止まらない。

 

八幡「…おい。焦げるぞ。」

 

沙希「え?うわぁっ!」

 

危ない…考え事に夢中になってた。集中しないと。

でも二人でご飯作るって状況の時点で集中なんてできないっての。

 

沙希「後は1人でできるからテレビでも見てて待っててよ。」

 

八幡「おう。悪いな。」

 

一緒に居たらまたミスしそうだから早々に退散してもらう。

あいつはテレビを見ててあたしは料理を作っている。

あ…なんかいいなこういうの。

付き合ったりしたらこんな感じなのかな・・?

またニヤニヤしてるんだと思う。

あいつと一緒にいるとこんなのばっかで困る。

 

~~~

 

沙希「いただきます。」

 

八幡「いただきます。」

 

例により小さいテーブルでカレーを食べる。

相変わらず距離が近い。

 

沙希「おかわりいっぱいあるから。」

 

八幡「ん。」

 

相変わらずこいつは無表情で食べるな。

それで相変わらず会話がない。

 

沙希「ねぇ。感想とかない訳?」

 

八幡「ん?うまい。」

 

一言かよ。まぁこいつらしいけど。

 

沙希「……。」ジッ

 

八幡「な、なんだよ人のことジロジロと。」

 

実はあたしはどうしてもこいつに言いたいことがあった。

勇気出せあたし。逃げるな。今言わないといつ言うのよ!

 

沙希「あ、あのさ…大学なんだけど…。」

 

八幡「ん?」

 

沙希「い…一緒に行かないっ!?」

 

言えた。人生で一番緊張したかもしれない。

お願い…断らないで…。

 

八幡「大学?別に構わんけど。」

 

沙希「ほ、ホントに!?」

 

八幡「おぉ。でもいいのか?他の友達とは…」

 

沙希「友達いるように見える?あんたと一緒よ。」

 

八幡「お前失礼すぎるだろ。」

 

沙希「え…?まさか一緒に行く友達が…?」

 

八幡「…いないけど。」

 

沙希「知ってる。」クスッ

 

二人でクスクス笑う。

こうして二人で笑うのは初めてかもしれない。

勇気出して言って良かった。

やればできるじゃんあたし。

 

八幡「ごちそうさん。」

 

沙希「じゃあ片づけるよ。コーヒーでも入れるから待ってて。」

 

八幡「何から何まで悪いな。」

 

よし。さりげなく一緒にいる時間の引き伸ばしに成功。

少しでも長く一緒に居たい。

隣同士でもチャンスなんてそうそう無いことは十分わかったからね。

 

沙希「はい。砂糖とミルクは自分で入れて。」

 

八幡「サンキュ。」

 

おいおい何個砂糖入れるのよ。

 

八幡「あ、そうだ。ほれ。」

 

あいつは思い出したかのように何かを投げてくる。

 

沙希「わわっ!…っと携帯?」

 

八幡「時間とかまた連絡することもあるだろうから登録しといてくれ。」

 

またこいつはさらっとこういうことをする。

内心ドキドキした。あたしも連絡先の交換はしたいと思ってたから。

 

沙希「い、いいけど…。登録ってどうするの?」

 

八幡「は?」

 

沙希「えっ?」

 

お互い自分で登録するような経験がなかったから四苦八苦しながらお互いの連絡先を登録した。

 

八幡「こ、これで大丈夫だと思う。」

 

沙希「う、うん。」

 

初めての家族以外の連絡先。

まぁ、あいつは違うみたいだけど。

あの”二人”のこともまた聞かないといけないな。

 

八幡「じゃあそろそろ帰るわ。」

 

沙希「うん。また連絡する!」

 

八幡「おう。んじゃごちそうさんでした。」

 

あいつは照れ臭そうにお礼を言うと帰って行った。

 

沙希「はー…緊張したー…。」

 

一人部屋で今日の事を振り返る。

順調。なんだろうな。

少しあいつに近づけた気がする。

この調子で少しずつ近づけていけたらいいな。

 

沙希「一緒に大学行けるんだ。」

 

改めて思い返すと照れ臭い。

でも、楽しみだな。

 

初めての恋。

乙女って柄じゃないけど恋する乙女ってこんな感じなのかな。

さっきから胸のドキドキが止まらない。

恥ずかしさのあまり枕を抱きしめながらゴロゴロする。

 

沙希「絶対振り向かせてやるんだから。」

 

大学入学まであと少し。

またあたしの戦いが始まる。

 

つづく

 


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