IS~人柱と大罪人~   作:ジョン・トリス

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第十話


掲げた希望

幸せの数だけ不幸が存在する。まるでバランスをとっているかの様に均等がそこにある。だがそれは個々の話ではなく、世界全体の話と言えるだろう。誰かが不幸になればその分誰かが幸せになるのだ。そして人は不平等と言う。光と闇、白と黒、男と女、常に物事は対極であり、バランスが崩れることはない。だがもしそのバランスが崩れることがあれば?誰かが言った、『崩壊の兆し』だと。天秤が傾いた時、世界は闇に覆われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---- 掲げた希望 ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが、ショッピングモールなる物をご存知だろうか?ショッピングセンターとも言われる事だろう。しかしこの二つは似ていて異なる。ショッピングモールとは遊歩道などが整備された商業施設であり商店街もこれに含まれる。一方ショッピングセンターとは、数々の店が1つの建物内に入居した商業施設である。この二つの明確な使い分けは無いと言う者も居れば、これらは別だと唱える者も居る。まぁ、正直どちらでもいいだろう。しかし此処ではあえて解りやすくするために説明させていただいた。何故かと言えば、秋終は現在『ショッピングモール』いるのだ。そしてある人物を待っていた。

 

「待・っ・た?」

 

ご機嫌全快の声音で言葉を発したのは、女子力ジャイアントスイングでお馴染みの全生始茜であった。思わず『待ってねえよ』と鼻フックをかましてやりたくなる秋終ではあったが其処は分別のある男、華麗にスルーを決め込む事にした。

 

「ねぇ、待ったぁ?」

 

「・・・」

 

「ねぇ」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

沈黙が二人を包んだ。

題するならば『沈黙のデート』

某史上最強のコックが登場しそうである。

 

「何か言えよぉー!」

 

この華麗なスルーに対して茜も、うがーと我慢の限界を迎えた。彼女にとって沈黙は何よりも敵である。しかし秋終にとっては茜のご乱心もまた敵であるのだ。つまり何が言いたいかと問われれば、敵が敵を産んだのである。そして、この流れは何も初めての事ではなく、しかしそれがわかっているにも関わらず、秋終は無視をして茜を毎度ご乱心させ、いつも結局は自身が折れる。それは今回とて例外ではなく、

 

「わかった!わかったから!通行人が見てるから!」

 

「むぅ・・・」

 

なのである。

 

『人は過ちを繰り返す』とはよく言ったものだ。

 

そしてそんな二人を数十メートル程離れた所で見守っている者達がいた。

 

「・・・あいつらブレないわね」

 

「・・・まったくですわ」

 

「らしいと言えばらしいがな」

 

「楽しそうだな!」

 

上から順番に鈴、セシリア、箒、一夏であった。

やや一人的外れな者もいるが、織斑と愉快な仲間達ご本人である。彼等も年頃の男女とあってか、他人の色恋沙汰は気になるようだ。もっともセシリアだけは、そう単純な理由では無い様だが・・・。

 

因みに、四人仲良く密着して隠れている姿は誰がどう見ても奇妙である。先程から通行人に白い目を向けられているが、本当達はまったく気付いていない。

 

「あっ、動いたわよ」

 

「慌てずに。尾行の鉄則は距離を保つ事ですわ」

 

セシリアが得意気に答えた。

秋終が見ればもれなく『可愛い』と言うだろう。

 

「アンタ・・・何処で覚えたのよ」

 

「淑女の嗜みですわよ」

 

これまたドヤ顔で答えるセシリア。

以外とノリノリであった。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

お約束の件を終えた二人は、ブラブラとショッピングに興じていた。もちろん全て秋終の奢りであり、彼に拒否権などないのだが。しかし、何だかんだ言いつつも結局奢ってしまうのは、秋終本来の優しさであり美徳でもある。勿論それが分かっているからこそ、茜も無茶なおねだりはしない。これが二人の案配でもあるのだ。

 

(変わらないな、ほんと)

 

いかなるときもブレない茜、その姿に何処か安堵すら覚える秋終。明日はクラス対抗戦だと言うに、心中は穏やかであった。願わくばいつまでも平和な時間が続くことを。

 

「・・・聞いてる?」

 

「ああ、ごめん。考え事してた」

 

「んもうっ!どっか入ろうって話だよー」

 

そう言えばと、甘い物を奢ると言い出したのは自分である事を思い出す。それ以上に余計な物を奢らさせられているのだが。

 

「そう言えば箒からチケット貰ったんだった」

 

「チケット?」

 

ーーーー喫茶スイーツ、スイーツーーーー

 

『今なら何と!カップルでご来店のお客様に限り、ラブラブ一服セットが半額!イェイ』

 

「「・・・」」

 

静寂が二人を支配する。

方や、カップルの言葉に頬を染め。

方や、カップルの文字に死んだ魚の目。

これまた見事なすれ違い通信である。

某ゲーム会社もビックリだ。

 

「い、行くしかないよね!」

 

「あぁ・・・」

 

このテンションの差。

そして一方、一夏達と言えば・・・

 

「何やらチケットを取り出していますわ」

 

「何のチケットかしら」

 

「私の作戦通りだ」

 

「楽しそうだな!」

 

当たり前の反応するセシリアと鈴に加え、もの凄いドヤ顔の箒と、他に言う事が無いのかと問いたくなる一夏。相も変わらず、怪しさ全快で二人を見守っていた。

 

↓以下回想

 

「魔法のチケット?」

 

「そうだ。このチケットを使えばあらゆる問題も可及的速やかに解決出来る」

 

「何で俺に?」

 

「明日は茜とデートなのだろう?ならば持っていけ」

 

「・・・」

 

「・・・何だ?」

 

「・・・別に」

 

「そうか、ならいい。チケットは必ず使えよ?」

 

回想終了

 

(やけに楽しそうだったのはこれか)

 

昨日の嬉々とした箒の顔を思い出し、恨めしく思う。きっと今頃、何処かでドヤ顔をしているのだろう。茜やセシリアや箒、秋終の周りにはドヤ顔系女子が、何故こうも絶えないのか。

 

「あれだっー!」

 

カップルの単語にテンションmaxとなっていた茜の声が耳をつんざいた。その声に反応した御通行中の皆様の注目を、一心に集めながら秋終が其処へ顔を向けた。すると、

 

ーーーー喫茶スイーツスイーツーーーー

 

あった。

それはもう胸焼けするほどのピンクの外装が。

 

「・・・まじで?」

 

「どったのよ?入ろうよ!」

 

戸惑う秋終の肩を抱きながら、茜はガンガンと進軍していく。そりゃぁもう、『進軍するは火の如く』が如し。かの上杉公も『あいやまたれよ、信玄公!』と言うであろう。

 

「「「いらっしゃいませー!!!」」」

 

(いらっしゃりたくなかった)

 

とは秋終の心の声。

 

「ぐへへ」

 

とは茜そのままの声。

 

「カップル様一組入りまーす!」

 

「「「キャー!!!」」」

 

とは店員一同の声である。

 

外装があれだけピンクな事もあり、内装もとんでもなくピンク、まるで視力を奪いにきてる可能性すらある程に。座席に関しても、完全に二人用のテーブルだけであった。カウンター所か四人掛けすら存在しない。元々の配置なのか、期間限定なのか、外装と内装を加味すれば恐らく前者なのだろう。二人が案内されたのは窓際の席であった。その窓も一際大きく、外から完全に丸見えな状態。つまる所、尾行をしている一夏と愉快な仲間達にとってはこれ程にない場所である。果たしてこれも計算の内なのか否か・・・。

 

「こちらカップル様限定メニューの愛のチ○ーペットでございますぅ」

 

でてきたのは夏にバカ売れするチ○ーペットであった。ただし普通のとは違い、一本の長い棒状になっており、その両先端から食べられる様になっている。食べる様はまるでポッキーゲームが如く。

 

「何だよこれ」

 

「?チ○ーペットだよ。知らないの?」

 

「知ってるわ!」

 

スパァンと小気味良い音が鳴り響いた。

 

「あいたたた。まぁ・・・さ」

 

「何だよ急に」

 

「いつも通りで安心した」

 

「・・・うるせぇ」

 

頬が熱くなるのを感じる。毎度お馴染みの事ではあるが、やはり嬉しい物だ。こんなにも自分を心配してくれる相手がいて、こうして側にいてくれる。女性として好きとかそういう事とは別にして、何時までもこうしていたいと思う。秋終にとって茜の存在は家族も同然なのだ。

 

「なぁ」

 

「ん?」

 

「いつもありがとう」

 

「んふふふっ。やけに潮らしいじゃない」

 

「茶化すなよ。・・・今度はもっと落ち着いた所に行こう」

 

「・・・うん」

 

珍しくも二人が真面目に良い雰囲気を醸し出せば当然それを観ていた一夏達も、

 

「へぇ、珍しく良い感じじゃない」

 

「・・・」

 

「これもひとえに私のお陰だな」

 

「楽しそうだな!」

 

と各々感想を口にしていた。

鈴は素直に感心し、セシリアは思う所があるのか笑顔で見守り、箒はドヤ顔、一夏は言わずもがなである。

因みにだが、彼等はガラス窓に張り付いた状態である。当然、窓の向こう側には秋終達がいるのだが、それに気付いた秋終がご乱心を起こすのは後の話である。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

幾ばくか時が過ぎて日も沈みきった頃、秋終と茜は帰路に着いていた。満足の行く時間を過ごせたのか二人の顔には笑みが浮かんでいる。人通りも少なく、まるで自分達だけの世界に居る様でもあった。

 

「ここでいいよ」

 

ふと茜が口を開いた。

 

「ん?同じ寮だろ」

 

秋終がもっともな疑問を口にする。

 

「わかってないなぁ。デートなんだから帰りは別々なの!」

 

「はぁ・・・?」

 

よくは分からないが、これも乙女心と言うやつなのだろうか。

 

「じゃあね!」

 

駆け出したかと思えばふと立ち止まり、茜が振り替える。

 

「秋終!応援してるからね!」

 

彼女は頑張れとは言わなかった。何故なら秋終が頑張る事は知っているからである。だからこそ、ただ応援してると笑顔で告げた。

 

「あぁ!」

 

手を振り答える。

その顔に不安の色は伺えない。

 

「ん?」

 

ふと足元を見れば携帯が落ちていた。ピンク色の不細工なストラップを着けた携帯、茜の携帯電話だった。

 

「たっく、しょうがねえなぁ」

 

秋終はその携帯を懐にしまいこんだ。

明日渡せばいいかと・・・

 

 

 

 

 




続く

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