「ひーらつかせんせい♪」
1人の女子生徒、早川千尋が職員室で、アラサー教師に声をかけた。
「どうした?」
「暇です。構ってください」
「バカ言え……私は暇じゃない。というか、教師を暇潰しに誘おうとするな」
「えーだって先生も彼氏いないし暇でしょ?」
言った瞬間、メキメキメキッと千尋にアイアンクローが炸裂する。
「そうだな、お前と比企谷は体罰ではなく手を出せるから、本当にありがたい」
「いだだだ!というか比企谷って誰⁉︎」
聞かれると、パッと手を離す平塚先生。
「1人の男子生徒だ。奴も私の事を未婚だの生き遅れだのバカにしおって……」
「大丈夫ですよー。平塚先生可愛いからすぐ結婚できますって」
「……もう可愛いと言われるような歳ではないんだが……いや、基本的には褒められている!私は可愛いのか?」
「はい。たまーに煙草くせぇけど可愛いですよ!」
「…………」
「ああああ!頭メキメキ言って……!お、女の子に何て事するんですかー!」
「女の子に何て事言うんだお前は」
「もう女の子って歳じゃ……いやいやいや嘘です!先生は女の子ですー!」
「うむ、よろしい」
満足げに手を離す平塚先生。
「というか、ここ職員室ですよぉ?少しは遠慮してくれてもいいじゃないですかぁ……」
「遠慮なく人の心を抉る奴に言われたくないな」
そう言われてしまえば、千尋も黙るしかない。
「というか、最近の女子高生として教師の元へ遊びに来るというのはどうなんだ?友達はいないのか?」
「いやいや、相談ですよそーだん。生徒の悩み解決するのも先生の役目でしょ?」
「いや、そうは言われてもな……ああ、そういう事なら適任の奴らがいるぞ」
「はい?」
「特別棟に奉仕部の部室がある。悩みがあるならそこで聞いてもらえ」
×××
特別棟。そこのどっかの教室の前。千尋はそこで軽く深呼吸した。で、コンコンとノックをする。
「どうぞ」
落ち着いた声が聞こえてきたので、「失礼します」と言いながら入室した。中には胸のない黒髪の女の子と、目の腐った黒髪の男の子と、胸のある茶髪の女の子がいた。
「……どなたかしら?」
黒髪の……というか雪ノ下でいいや。雪乃が聞いた。
「あー、2-Cの早川千尋てす」
「なんだ雪ノ下、お前が把握してない生徒がいるのんて珍しいな」
黒髪の比企谷八幡が言った。
「別に私は全生徒を把握してるわけではないわ。あなたの事だって知らなかったもの。ひ、ひき…ヒキガエルくんだったかしら?」
「おい、人を両生類扱いするのやめろ。というか、なんで俺の中学の時のあだ名知ってるんだよ」
「あ、えーっと、私高2で転校して来たから、じゃないかな?」
なんとなくフォローしてしまった。
「それなら、自己紹介が必要ね。私は2-Jの雪ノ下雪乃、この奉仕部の部長よ」
その後、八幡と結衣の「どっちが先に言う?」みたいな目線のやり取りのあと、結衣が言った。
「あ、あたしは2-Fの由比ヶ浜結衣!よろしくね」
で、最後に八幡が口を開いた。
「あー、俺は……」
「それで、なんの御用かしら?」
自己紹介を中断された。
「あーえっと、平塚先生に悩みがあるならここって言われて来たんだけど……」
「またあの人か……」
八幡がため息をつく。
「その悩みというのは?」
雪乃が尋ねた。
「えーっと、靴無くなっちゃったみたいで……」
「はっ?」
「確かに下駄箱に入れたはずなんだけど……それで、一緒に探してもらえないかな?」
「ねぇ、それって……」
結衣が嫌そうな顔をした。八幡も雪乃も暗い顔を浮かべる。
「虐め、ね」
「うん、多分ね」
「……気付いていたの?」
あっさりと賛同した千尋に怪訝な顔を浮かべる雪乃。
「まぁ、靴を隠したり教科書に接着剤付けたりしてる時点でねぇ。あんま気にしてないから、みんなも気にしないで。でも、靴はないと困るから、探すの手伝ってくれないかな?」
「……わかったわ。まずは昇降口から探しましょう。先に行っててくれるかしら?」
「あーい」
先に千尋は部室を出た。