ぼっちな俺はとある理由で田舎で暮らす。 作:ちゃんぽんハット
いつの間にか心の声を聞かれていた八幡。
果たしてどうなるのか?
それではどうぞ。
「あは、ばれちゃった♪」
ニッと笑った口元から覗く白い八重歯。
イタズラがバレた子供のように笑う雪ノ下陽乃は、その可憐な容姿と相まってとても可愛らしかった。
無邪気な笑顔は、見るものに癒しと愛しさとを与えるであろう。
しかしそれは、普通の人間に対して考えられることである。
その笑顔を目の当たりにした俺が受け取ったものは、恐怖と焦り、それと怒りであった。
というのも、イタズラの内容があまりにもひどかったからである。
人の心の声を聞き、それがバレないように会話をする。
つまり普通の会話をしているようでいて、彼女の声は、俺の心の声に向けられていたというわけなのだ。
もっと分かりやすく言うなら、地の文との会話。
いや、余計に分からなくなったな。
とにかく、このイタズラは俺にとってダメージが大きすぎる。
人の心の声が聞こえるようになって以来、できるだけそれを抑えようと努力してきた俺を嘲笑うかのような行為。
前回やられたときはそのまま気絶したし、もはやそれはトラウマであった。
今回もぶっ倒れるだろうかと誰もが思った。
しかしその時、事実は予想と大きく異なっていた。
比企谷八幡は立っていた。
意識を失うことなく、その両の足でしっかりと地を踏みしめていたのだ。
彼の姿に誰もが驚き、感動する。
一人の少年、怯えて逃げてばかりいたその少年の成長を目の当たりにしたのだ。それは当然の反応である。
中には涙を流すものもいた。
そして彼は一歩前に踏み出し、決意のこもった声で彼女に言葉をぶつけた。
「好きだ陽乃!俺と付き合ってくれ!」
真っ直ぐな言葉が彼女の胸をうつ。
それまで混じることのなかった二人の想いが、その瞬間初めてひとつとなった。
熱を持った視線が交錯する。
耳に届くのはお互いの吐息だけ。
徐々に二人の距離が近づいていき、そして………
二人は幸せなkissをして終「おいちょっと待て」
…………
…………二人は幸せな「だから待てって」
……………
…………二人h「いい加減話聞けよ!!!!」
☆☆☆
目の前の悪魔のような少女、てか悪魔がジト目を向けてくる。
「人の心の声聞くとか悪趣味だね比企谷君」
むーっと唸りながら頬を膨らませる雪ノ下。
こいつ本当に可愛いよな、可愛いけど俺は絶対に騙されねえ!!
「悪趣味なのはお前の方だろ。てかさっきのやつ、全部声に出てたからな?俺は力使ってないからな?」
まるで俺の言葉で書かれたかのような上の文章(実際は声に出てるけど読者の皆は気にしないでね!ところで読者って誰だろ?八幡わかんない☆)
それは全て雪ノ下陽乃の手によるものであった。
人の心の声を聞き、俺の本音に捏造を加えていたのである。
てか前半はほとんど俺が考えてたことそのまんま。
後半はほぼ捏造。明らかにおかしいだろ。
どうやったらあんな感動路線に話が進むのか。
つーか誰もがって誰?全俺のこと?
何それ実質俺一人じゃん。
「ぷっ、あははははははは!!!」
突如笑いだす雪ノ下。
体を九の字に曲げお腹を抱えている。
いや、笑いすぎだろお前。
しかしこの反応は……
「……なあ、俺の心の声、まだ聞いてんのか?」
「ふふ、ふ、うん?そうだけど、どうして?」
「いや……もういいわ、なんでもない」
その反応を見て、俺は諦めることにした。
多分こいつは止めろと言っても止めないだろう。
一切悪びれた様子がない。
本当にこいつ、ムカつくでおじゃる。
「ふふっ……あーごめんね、笑いすぎちゃった♪」
「……別に」
「いやー、それにしても驚いたなー。私てっきりまた気絶するのかと思ってたよ」
「ふん、甘く見るなよ?一度受けた攻撃は二度と俺には通用しない!」
くぅ~、一度は言ってみたかったこのセリフ!
今の俺カッコよすぎて、なんならスーパーヒーロータイムにお呼ばれされるレベル。
へへへっ、この街は俺たちが乗っ取った!
おいそれ完全に悪役じゃねえかよ。
まあ、今回俺が気絶することなく割りと冷静であるのは事実である。
では何故こんなに落ち着いているのか?
理由は簡単、あらかじめこの状況をシミュレーションしてきたからだ。
あの倒れた日から今日までの数日、俺は考えられるシチュエーション全てを頭の中で何度も想像した。
雪ノ下陽乃が俺に仕掛けてくるであろうイタズラ、当然その中の一つに、勝手に心の声を聞くというのはあった。
というより、一番最初に思い付いたのがこれだった。
絶対にやつはもう一度仕掛けてくる、そう確信していたのだ。
人間は学習する生き物。
その中でもぼっちの学習力は異常。
回りに教えてくれるやついないからな、自分でやるしかない。
つまりぼっちである俺は、人類の中で最強の学習力を持つということである
なんなら進研ゼミの付録に抜擢されるまである。
2月号の付録はこれ!比企谷八幡!
……いや、誰もほしがらんな。
とにかく、一度やられたことに加えシミュレーションしてきたおかげで、それほどダメージをくらってはいなかった。
少なからず受けたことに違いはないのだが、今までのに比べたらなんてことない。
「ふーん……そういうことね……」
意味ありげに呟き、嗜虐的な笑みを浮かべる雪ノ下。
「それにしても君の心の声本当に面白いね。捻くれてるし、ちょっと痛いところとかもう最高♪」
……まあ、例え冷静でいられるからといって、こいつの力を防げるというわけではない。
俺の心の声はただ漏れで、全てが彼女に伝わっているのだ。
何これ罰ゲーム、てかもはや拷問。
恥ずかしいなんてもんじゃない。
軽く死にたくなるレベル。
あれ、これもういっそのこと気絶した方が楽じゃね?
「まあ私的には起きててくれる方がいいけどね♪ふふふ、君との会話は本当に楽しいし♪」
…………会話ってなんだっけ?
いや、気にしたら負けだな。
こいつと接触するとき、大事なのは諦めるということ。
俺はこの短い時間でそれを学んだ。
敵を知り、己を知れば百戦諦めろって本編でも言ってたし。
とりあえず、諦めること、これ重要。
「そんなこと言わなくても、比企谷君も力使えばいいじゃない?そしたら私と楽しく会話できるよ?」
いやもうそれ会話じゃないから。
まあそんなこと抜きにしても、俺は力を使うつもりはない。
「そもそもコントロールできないしね♪」
そうそう、そもそもコントロールがーっておい!
思わず地の文でツッコミしちまったじゃねえか?
「その地の文ってなんのことなの?」
すいませんそれは気にしないで下され。
俺もよくわかってないから。
にしても、雪ノ下とこうやって会話?をするのに少しずつなれてきている自分が怖い。
適応能力ありすぎだろ俺、クマムシかよ。
それに、今の様子を他のヤツが見たらどう思うんだろうな。
かなり不気味だと思うぞ。
「そうそう、そこで私から提案があるのだよー♪」
人指し指を空中でくるくると回して、得意気に言う雪ノ下。
おいおいあんまり回すなよ、動けなくなっちゃうだろ?
俺はトンボか。
「どうせ君の本心ダダモレなんだからさ、私と話す時は思ったままを喋らない?」
「…………」
「そうすればこんな変な会話にならないで皆から怪しまれずに済むし、君も楽なんじゃないの?」
「…………本音で話せって方が難しいだろ」
「まあそれもそうか……でも私、皆の前でも気にせず地の文と会話するよ?」
「…………力を使わないってことは?」
「ムリ♪だって君の心の声スッゴク面白いんだもん♪」
「…………」
「私だけにでいいからさ。あでも、皆で話してるときはそうとも限らないのか」
「…………どうせ拒否権なんかないんだろ?」
「もちろん♪逆らったらどうなるか……ね?」
「…………はあ、わかった、善処する」
「ふふふ、君の物分かりのいいところ、私好きだよ?」
「そりゃどうも」
雪ノ下からの提案、日頃から本音で話せということ。
マジかよ超嫌なんだけど。
人間誰しも普段から本音全開のやつとかいるわけない。
そんなことしてたらそこいらで争いが起こるだろう。
そんなことをやらなければいかんとは……
それに、どんなに本音を喋ろうとしてもやっぱり言葉にすれば何かしら変わってくる。
なんなら喋ってる最中に別のことを考え付くかもしれない。
……あれ、これって結構難しくね?
「まあまあ、そんなに難しく考えないでいいよ。さっきの一度受けた攻撃がなんとかー、の時みたいな感じでいいから」
うーむ、そうは言うがな……
「とりあえず、私とは気軽にコミュニケーションをとること!ちゃんと声に出して!皆の前でも、変に見えないように日頃から心がけること!わかった?」
「……まあ要は、雪ノ下を満足させられるようにすればいいというわけか。あれ、俺ってお前の奴隷だったっけ?」
「お、いいね、そうそうそんな感じ♪そっちの自然な方が、前のビクビクしてるのよりずっと素敵だよ♪」
「はいはいそりゃどうも」
雪ノ下は俺が素直に言うことを聞いたからか、とてもご機嫌のようである。
何はともあれ、これから大変なことになるのは間違いないないだろう。
まあ少しずつ慣れていくしかない。
はあ、本当どうしてこうなった。
だがしかし、常に本音で喋ると言うことは……俺って今後地の文必要なくなるんじゃね?
おお、それだと書くのがだいぶ楽になるから嬉しいぞ。
「あ、地の文はちゃんと書いてね?読者に分かりやすいようにするのは大切だから。それとメタ発言も減らしてね?あんまりメタ発言多いと読者はうんざりするから」
「…………人のこと言えないだろ」
まあ言ってはみたが、地の文が消えることはないはず。
作者の今の技量じゃ会話文だけは難しいからな。
「だからメタ発言やめてって」
「……すみません」
「ぷっ、ふふふ、あははははは♪……ふふ、本当に面白いなー君は」
「楽しんで貰えて何よりだ」
「まあ、こんな感じでこれからもよろしくね、八幡♪」
「ああ、よろ…………八幡?」
「うん、八幡♪」
「…………なぜ呼び捨て?」
「あ、いい忘れてた!これから君のことは、八幡って呼ぶからね♪私のことも陽乃って呼び捨てでいいから♪ていうか、呼び捨てにして、これは命令」
「いや命令ってお前……」
「陽乃」
「…………ちょっとま」
「陽乃」
「…………」
「は、る、の!」
「…………は、はる、陽乃?」
「ぷっ、ふふふ、疑問形だけどまあよしとしよう♪」
「お、おう」
「あーあとそれから、学校ではいつも私と一緒にいること。勝手に離れたりしたらだめだから♪」
「……はあ?いやちょっと待てさすがにそれは」
「わかった?」
「うっ…………」
「返事は?」
「…………わかりました」
「よろしい♪」
ニッコニッコニーな雪ノs「陽乃」………陽乃とは対称的に、俺はパニッパニーであった。
てかこれ本当に地の文いらねえだろ。
まあ雪n「陽乃」……陽乃が言うのだから絶対事項なんだろう。
いつの間にやら主従関係らしきものが出来上がっている。
本当に俺って弱いな、あはは!……はあ。
てか勝手に地の文に潜りk「メタ発言禁止」……はい。
辛い、マジで辛いよ。
「そうそう、最後にもうひとつ提案があるの♪」
「なんだよまだあんのかよ、お前とことん性格悪いな」
「本音で喋っていいからって、私にそんなこと言ってるとどうなっても知らないよ?」
「それもうどうしようもないだろ。俺悟り開くくぐらいしか道がなくなるぞ?」
「ふふふ、いい感じだねー♪まあ、それは置いといて」
「怖い、後回しにされると余計怖い」
「これは八幡にとって良いことだから安心して?」
「なんだ、良いことって?」
「それはね……」
「力の使い方、教えてあげる♪」
「…………!!」
「この力をコントロールできない八幡に、私が使い方を教えてあげるの。どう、悪い話じゃないでしょ?」
「…………」
「そもそも八幡がこんな田舎にきた理由って、力をどうにかするためなんじゃないの?」
「…………どうしてそう思う?」
「それは簡単だよ。心の声聞いたから」
「…………」
「っていうのは冗談。力なんか使わなくても、この時期の転校と八幡の力が不安定なのとから簡単に予想できるよ♪」
「……なるほどな」
「それにね、この力には、まだまだ八幡の知らない他の能力がたくさんあるんだ!」
「………本当か?」
「うん♪例えば、八幡、今日私の心の声が聞こえたこと1回でもあった?」
「……ないな。まあ今日は割りと落ち着いてたし」
「そうは言ってもずっとじゃないでしょ?なにかしら感情の振れ幅が動いたときあったでしょ?」
「そりゃ…………まあ」
「実はね、私が自分の心の声を漏れないようにしてたから、八幡は私のが聞こえなかったんだよ?」
「そんなことできるのか!?」
「うん♪まあ、八幡に会うまで使う機会なかったけど。心の声聞こえる人は他にいないし」
「……すげえなそれ」
「とまあこんな感じで、力にはまだまだ未知の可能性があるんだよ!他のは少しずつ教えてあげるから、期待してね♪」
「…………」
「さっき私が出した提案を全部承けてくれるなら、私も力の使い方を教えてあげる。これならギブ&テイクでいいでしょ?」
「ああ……悪くねえな」
「ふふー、素直な八幡は好きだよー♪」
「やめろよ、そんなこと言われるとうっかり好きになっちゃうだろ?」
「うわードン引き」
「本音で話せって言ったのはどこのどいつだ!」
「じゃあ契約完了ってことでいい?」
「じゃあの使い方おかしいだろ……ああ、それでいいよ」
「よーし!むふふ、これから本当に楽しくなるぞー♪」
「俺には地獄の幕開けだがな」
「地獄も住めば都だよ!」
「そんな格言あってたまるか」
「はいはいそれじゃ改めて♪」
「よろしくね、八幡♪」
「…………こちらこそ、は、陽乃……」
かくして俺たちの奇妙な関係がスタートした。
てか本当に地の文いらないな、これ。
さて、これからどうなっていくのか……うむ、とりあえず弁当食べよ。
そう思った瞬間、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るのであった。
………ドキドキランチタイム(笑)………お腹空いた。
地の文は、なんだがんだ情景描写で使うので普通に書いていきます。
それに、陽乃と喋るときもなんだかんだ書くと思います。
全然減らないですね……ちっ。
少しだけ近づいた二人の距離、今後も暖かい目で見てください。
それでは今日はこの辺で。