暗黒大陸経由、5大陸行き   作:センチメンタル小室

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『奇術師』ヒソカの憂鬱

―――――、『奇術師』ヒソカは幸運にもそれを見つけた。

 ただ、試験官についていくだけの退屈な試験。

 それに飽きたヒソカは『試験官ごっこ』と称して、他のハンター受験者の選別を行っていた。

 どれもこれも、戦うに値しない、愚鈍で蒙昧な愚物達。

 そんな者達しかいなかったが、殺戮は楽しかったし、そんな中にもヒソカ自身が『青い果実』と言うような、今後成長し、伸びていくだろう人材を数人ほど見つけられたのでそれなりに満足していた。

 そして、そんな中、一人の男が現れた。

 歳は、20代前半くらい。おそらく襲われた仲間の悲鳴を聞き、駆けつけてきたのだろう。

 そうして、じっくりとそれを見る。

 オーラはその辺りの一般人と違いはないし、『そっち』を使える気配もなかった。

 だから殺すつもりでなんとなく気まぐれに『それ』を投げつけた。

 『ゴム』と『ガム』、両方の性質を持つ、オーラ。『念』と呼ばれるソレは確実に彼を殺すだろう。

 だが、その予想は裏切られた。

 それを放った瞬間、彼はそれを()もせずに躱したのだ。

 そして、その次の瞬間には彼のオーラは一変していた。

 『錬』、自らのオーラを爆発的に増やす技であるが、それを、ほんの僅かな一瞬で発動し、オーラを纏っている。

 更にその上で、警戒するように『凝』、敵のオーラを見ぬく技を持ってこちらを観察していた。

 その動作には、一切の淀みはなく、油断していたヒソカには一連の動作を見切ることは出来なかった。

 まるで、棚から牡丹餅が降ってきた気分だった。

 喜びのあまり即座に次の攻撃を放とうともした。

 だが、その瞬間、ヒソカが今までに築き上げてきた戦闘経験が止めろと警鐘を鳴らす。

 おそらく、放てば次の瞬間こちらがやられる。

 そう認識したのか、背筋にゾクリとした感覚が走る。

 しかしソレは恐れではなく、歓喜だった。

 自ら戦闘狂であることを自覚するヒソカにとって、強敵との邂逅は悦びである。

 そして、即座に次の手を考える。

 オーラを投げつけて、回りこむ?いや、撃ち落とされて反撃されるだろう。

 トランプで弾幕を張る?いや、この相手に視界を悪くするのは悪手だ。

 ならば直接、突撃する?だが、攻撃が一切当たるイメージがない。

 時間が引き伸ばされ、永遠にも似た感覚の中ヒソカは逡巡する。

 右から、左から、後ろから、前から、上から、下から、全方向ありとあらゆる攻撃を模索する。

 だが、彼のオーラはめまぐるしくこちらの行動を読むように変化する。

 彼自身の表情を見るにおそらくソレは考えての行動ではないだろう。

 身のこなしから察するに戦闘経験はそのオーラの巧みさと相反するように乏しそうだ。

 それなのに、どうして、彼がそう至ったのか。

 それを考えることに意味は無い。そんなものは戦いのオマケだ。

 彼がどう研鑽し、どう研磨し、どう研究してきたか、なんてことは戦いの興奮のオマケである。

 だが、そういう、意味のないことを考えることがヒソカは好きだった。

 そして、ヒソカは結論に至る。おそらく彼は、そういう環境で生きてきたのだ、と。

 ほんの僅かな瞬間すら考えることが出来ない環境、ひたすら本能に身を任せることでしか、生きていけないような場所。

 そんな狂気の中で生きてきたのだとヒソカは確信する。

 相手の動きを読み、戦いの流れをつかむ、そんな『静』ではなく、ひたすらに本能を研ぎ澄まし、そうあるのが正しいのだと直感に委ね行動する『動』。おそらくその極みがあれだ。

 正気の沙汰ではない。そんなもの、人間には到達し得ない。

 崖から落ちれば助かりますと言われて、はいそうですか、と崖から飛び降りれないように人は、直感だけを頼りに生きていくことは難しい。そういった、崖から降りても大丈夫だったと言う経験があって初めて人はそういう行動を取れるのだ。

 故に強くなるために、そういう経験を積んでいくために、修行を行う。

 だから、そんなことを毎日のように繰り返すことなんて出来るわけがない。ほんの一瞬間違うだけで死ぬ。宝くじを当て続けるようなものだ。

 だが、ソレは存在した。そんな奇跡が目の前に在った。

 興奮のあまりヒソカは、エレクチオンする。もしかしたら出てるのかもしれない。いや何がとは言わないが。

 しかし、そんな至福の時は終わりを告げる。

 全意識を彼に集中していたために、いや、そうせざるを得なかったために横から飛んできた攻撃を躱すことが出来なかった。

 だが、オーラによって防御していたためダメージは少ない。

 その攻撃も『念』によって行われていなかったこともあって、ほんの僅かもダメージは入っていない。

 しかし、そんな最高の瞬間を邪魔されたこともあって苛立つ。

 ほんの僅かな一瞬、彼から目をそらし、その攻撃を行った邪魔者の方を見る。

 隙が生じ、敵に攻撃のチャンスを与えたことになったが彼は攻撃してこなかった。

 そのことを疑問に思うが、それは次に彼が放った言葉で、解けた。

 

「ゴン!逃げろ!」

 

 おそらく彼の仲間なのだろう。

 自分が先ほどまで対峙していた仲間を助けるため彼が来たように、彼を助けるため、また別の仲間が来たのだと理解する。

 そして、彼の性格を察する。

 仲間を助け、そしてその仲間が助けようとするような情の厚い人間なのだと。

 だったら、この場での最善手は……まあ、考えるまでもない。

 ゴンと呼ばれた仲間を殺し、その義憤によってこちらと戦うように仕向ける。

 隙があったのにあちらから攻撃してこなかったということはそういう殺し合いをあまり好かないタイプなんだろう。

 ならば、そうすれば、簡単に最高の戦いが、最高の殺し合いが出来るだろう、そうヒソカは考えた。

 しかし、その考えはゴンと呼ばれた少年に近づきよく見たことで裏切られる。

 おそらく、この少年もまた、あの極みに達するだろうと。

 才覚だけで言えばこちらのほうが上かもしれない。そう思わせるだけのナニカが少年にはあった。

 じっくりと舐めるように少年と彼を比較する。

 目の前には最高級の料理と最高級の食材。

 どちらを食うべきか……

 まるで、冷水をぶっかけられたような気分だった。冷静に比べていた事もあって少し頭が冷える。

 そして、答えは出た。今は食べる時ではない、と。

 今更、彼と戦闘を再開する気分にはなれなかったし、また、目の前に『青い果実』があったことから後で食べようと言う気分が勝った。

 身体から殺意が抜けて行き、その場の空気が弛緩する。

 しかし、そう考えたのだが、本能の方まではそうは行かなかったのだろう。

 不意に彼の方に身体が動いてしまった。

 それを見て彼は足を翻し逃げる。

 まあ、こちらに対象が移ったことで、仲間の安全は確保されたと思ったのだろう。

 ならば、逃げることで、更に、逃げるものを追いたくなるという本能を刺激し、仲間と自分の距離を離そうと考えた。

 ……完全に行動原理が獣だ。

 まあ、乗ってやることにしよう。

 そうして、ヒソカと彼の追いかけっこが始まった。

 結局、彼には追いつけなかったのだが、楽しかったのでヒソカは満足した。

 でもちょっと悔しかったので、到着した二次試験の試験会場で、「つれないな君は♦」って言ったら彼の顔が引きつっていた。

 さっきの様子とは違う震える彼を見て、ヒソカはナニカを大きくした。いや何がとは言わないが。

 戦闘狂であり、幻影旅団のメンバーからも、『アイツなんでもイケる』と言われたヒソカ。そんな彼の食指にも引っかかったらしい。

 そのヒソカに目をつけられた、彼に同情するように、でも自分たちは巻き込まれたくないのでその場にいた受験者達は皆、一様に目を伏せていた。

 そんな彼の不幸な、そして、ヒソカの幸福な時間はゴンとその仲間たちが来るまで続いた。




更新止まるといったな、あれは嘘だ。
……ごめん。なんかヒソカ視点書くの超楽しかったんだ。
楽しすぎて2時間で終わった……
まあ、短いけどね
今度こそネギま書くのでストップするよ。
ではまた。

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