ーー待たせたな!
リトルネペントを一匹切り捨て、反転し向かってきたリトルネペントを切り裂く。
狙いはウツボ部分と茎の接合部。僅か数センチの弱点を的確に切り抜くーーというのは神業の連続だった。
だがハクレイの顔色は悪い。向かってくる敵を横に切り裂きながら若干焦りの声でボヤいた。
『……中々出ませんね。花付きのリトルネペント。もうそろそろ三〇分くらい経ってるけど』
そう、目的のリトルネペントが出現しないのだ。
ここで時間を食われてしまうとタイムが気になるところだった。そもそもホルンカの村に着くまでに他のプレイヤーの姿を何人か見ている。そう言ったプレイヤーの中には元βテスターも居るだろうし、攻略組もいるだろう。場合によってはもう追い抜かれてしまっている可能性もある。
コメントも「グダッてきたな」「ヤバくね?」「もう幼女だけで良い」「触手を切り捨てる幼女を眺める生放送……アリだな」「つか流石に飽きてくるな」と段々盛り上がりが無くなっていた。
(ヤバイな、早く花付きのリトルネペントが出てくれ……!)
変化が欲しい。
焦りを隠せなくなってきたハクレイの動きも若干鈍り始めていた。というか手だけで操作するゲームならいざ知らず、三〇分もリスク高い戦闘をし続けているのだ。肉体的には問題なくとも精神的には段々と疲れを感じ始めていた。
それから二〇分。
ハクレイは初めてリトルネペントの弱点を切り損ねるミスを見せた。
『ッ!!?』
横薙ぎした剣先が接合部の上を薙ぎはらう。
当然、一撃で倒しきれる筈もなくリトルネペントの反撃がハクレイを襲った。
触手をツルのように伸ばし、ムチのように振るう一撃。
『うわっ!! と、危な……』
しかしそれを剣で弾いたハクレイは今度こそリトルネペントの弱点を切り裂いた。咄嗟の反応である。次の瞬間、ピギィ! というリトルネペントの悲鳴が炸裂し、ポリゴンに変わる。
コメント欄も「あ」「あ」「おや……?」「触手プレイ……」「←諦めろよw」「集中切れてきたな」とガヤガヤし始める。
(危ないな、と、集中しないと)
剣を握る手に力を込める。剣先をしっかりと意識しなおして、改めてハクレイはリトルネペントの群れに突っ込んでいく。
一度ダメージを受けそうになったからか、次からはまた安定した剣技を見せていた。
そして更に三〇分。長い停滞を迎えていたSAO実況だが、ようやく。
ーーーー待望の瞬間が訪れる。
『……ん?』
それは、次々現れるリトルネペントを一閃し、一息ついた時だった。ハクレイは少し遠目に見慣れないリトルネペントを発見する。
ジッと目を凝らして、確認をした。
リトルネペントの頭の上には、花ーーーー、
『おおお! やっと
見つけた事でパァ、と幼女の歓喜の笑顔が浮かぶ。SAOの感情表現は若干過剰な部分がある為、これ以上無い満面の笑みを浮かべていた。
先程までの焦りや疲れに満ちた顔とは雲泥の差である。美幼女の笑顔と、ようやく見つかった対象モンスターにコメントも盛り上がる。
「おおおおお!」「
……相変わらず訓練されたコメントだった。
『よーっし! じゃあ後はあいつをソードスキルで仕留めてクエスト報告、それでクリアです。後はボス攻略のためのアイテムを購入し、準備を整えてから迷宮へと突入します!』
気分が高揚していたハクレイは高らかに言う。それから目的の花付きリトルネペントの元まで走っていった。
(周りのモンスターは
索敵範囲には敵影は前方のみ。数は
先程やったようにソードスキル《ホリゾンタル》でトドメをさせばそれでこの長い停滞は終了だ。
綺麗に一発で終わらせるぞ、とハクレイは剣を構える。
ーーーー射程範囲へは直ぐに辿り着いた。
『皆見えるかな? あの花付きのリトルネペントが目的のモンスターです。周りに敵は
アレ、と言って花付きのリトルネペントを指差す。目視では花付き含めて五体のモンスターが居た。こちらが身を縮こませて移動している為か、まだ見つかっていないようで、五匹のリトルネペントはウロウロとフィールドをうろついている。
位置関係としては背の高い草を挟んだ向こう側にそのリトルネペントの群れは居た。
『行くぞー、奇襲で一気に仕留めます』
そして。
次の瞬間、ハクレイは剣を横に構えてリトルネペントの群れへと飛びかかった。光のエフェクトが剣から漏れ出した瞬間、『やった』とハクレイは確信する。
ーー確信した、その時だった。
『ハクレイの耳にこんなコメントが聞こえた』のは。
「後ろ!」「あ」「後ろにおるで!」
『ーーーーーーッ!!?』
直後だった。
ソードスキルを放つ瞬間、ハクレイは何かの衝撃を後方から感じた。よろめき、位置調整した剣先がブレ、的外れな方向にソードスキルが発動される。
地面へと。
放たれたソードスキルは当たり前だが敵に当たることはない。
『ーーーー何、がッ!?』
振り向いて確認しようとしたが、体が動かない。
ーーソードスキル使用後の硬直。
混乱するハクレイが前を向くと、リトルネペントの群れの触手がすぐ目の前まで迫っていた。
そして。
振るわれた避ける事の出来ない
その時ようやくハクレイは気付いた。
見えたのだ。
ハクレイの背後にいた敵が。
(ーーーー二匹目の花付きリトルネペント!? いやでも索敵スキルは取っただろ? 何で…………まさか、正式バージョンで仕様変更されたってのか!?)
花付きリトルネペント。
β版では通常のリトルネペントより全体的なパラメータが高いだけ、という印象だったが。
正式版になって索敵するために必要な索敵値が変わったのか。よく見ると体も一回り大きくなっている。もしかしたら索敵値が一以上の数値に変更された可能性は十分にある。
(スタン判定? 麻痺攻撃なんて無かったのに、やっぱり仕様変更か! くそ、今のレベルは四だよな。リトルネペントなら例え攻撃が直撃しても六発まで耐え切れるはず……!?)
直ぐさま起き上がろうとしたが、動けない。慌ててステータスを確認すると麻痺判定がされていた。
β版では無かった麻痺攻撃。残り解除時間から体力と敵の数を考える。前方にいたのは五体。後ろから攻撃してきたのを足してーー、
その時だった。
前方を向くと五体のリトルネペントがゴバァ、と口を大きく開けているのにハクレイは気付く。最早耳に入ってはいないが、コメント欄では「あ」「ああ」「死んだな」「待ってた」「キタコレ!」「←グロいだろ。やめーや」「18禁放送はここですか?」「触手プレイキター!」「幼女!」と色々な反応を見せていた。
直後。
五体のリトルネペントの口から
『ーーーーひぁっ!?』
ネチョリとした液体が麻痺して動けないハクレイの上に浴びせかけられる。思わず変な声を上げてしまった。
急いで自身のステータスを見るに、浴びせかけられたのはHPと防具の耐久力を下げる溶解液のようだった。ジリジリとHPが減ると同時、同じように防具の耐久力が減っていくのが目視出来る。
が、それよりも感じるのはとてつもない嫌悪感だった。
ゾワリ、と舌で体を撫でられるような感覚がある。何というか、気持ち悪い。β版だとただ水のような何かを掛けられた感覚しかしなかったのに、嫌な方向に進化していた。
妙なリアリティ。
ハクレイの目線の先では、後ろから攻撃したらしい花付きのリトルネペントを含めて六体のリトルネペントが触手をこちらへと伸ばす姿が映し出される。
『……いぃっ!? ちょっと待て! これ以上はマズイ!』
全力の叫びだった。というか最初に受けた攻撃でHPを三分の一削られている。その上に五体の溶解液を掛けられたせいで体力はもはや半分だ。防具の耐久力も少しずつ減っている。
しかしそれは問題ではない。死ぬのは別にいいのだ。いや、厳密には良くないが最速攻略失敗というだけで済む。
ーー問題なのは。
(ヤバイ、18禁展開になる! それだけは防がないとヤバイ! 具体的に言えば怒られる! 色々な方面から!!)
一瞬で自己保身の思考へと持って行ったハクレイは恐怖の表情を浮かべる。
(その表情のせいで、画面は触手に襲われて恐怖の表情を浮かべる幼女の画という完全なアウトな状況だった)
「うっ、ふぅ」というコメントが多く流れるが気にしている余裕はハクレイには無い。
ヤバイヤバイヤバイーーーー!
頭の中にあるのはただそれだけだった。
その時だった。
ようやく弾けるようにハクレイの硬直が解けた。
『お、おおおおおおッッ!!』
直後、ハクレイは剣を握る手に力を込め、六体のリトルネペント目掛けて全力の《ホリゾンタル》をお見舞いする。
『18禁放送になんかさせるかーッ! まずはそのふざけた幻想をぶち殺すっっ!!』
「「「「「「ピギャァ!?」」」」」」
その剣捌きは的確に六体のリトルネペントの弱点を切り裂いた。というかβ版含めても最も上手くいった剣技だとハクレイは後に語る。
全身溶解液塗れという酷い姿ながらともかくにも全てのリトルネペントを狩ったハクレイは倒したリトルネペントのポリゴンを指差して叫ぶ。
『ふぁっく! やったぞお前らーッ!!』
「ありがとうございます!」「おおおお!!」「触手プレイ!」「流石期待を裏切らない!」「後少しだったのに……!」「エロい」「エロい」「幼女おおおお!」「よっしゃー!」「液体塗れの姿……うっ、ふぅ」「←抜くな」「そげぶw」「上条さんw」「禁書w」「拳じゃねぇww」「汚い言葉なのに幼女だから聞きたい謎」「つか今の何気に神業なのに誰も反応してねぇww」「幼女放送」
意見は様々だが、とにもかくにもクエストに必要なアイテムを二つ確保したハクレイはやりきった気持ちで一杯だった。
しかし、反省点を思い浮かべて直ぐに表情をシリアスに変える。
『……にしても。油断してましたね。まさか花付きのリトルネペントを索敵する為の索敵値が変更されてたかー。そういや思い返せば索敵で四体しかいなかった気がする』
呟いて、用が済んだハクレイは再びホルンカの村へ帰るため走り出した。
溶解液に持続性は薄いのか、三十秒ほどで嫌な感覚は消え失せる。とりあえず一言言うなら大分ロスをしてしまっていた。
『とりあえず村に帰ったら体力減ったのでポーション買います。それから防具を新調。後はクエスト報告とフロアボス攻略の準備ですね。今の時間は……一五時二〇分ですか』
開始から防具までに一五分。移動に一時間三〇分。村クエ受けるまでに一五分で二時間。
リトルネペントだけで約一時間三〇分も時間を使っていた。その代わり武器二つ揃えるだけのアイテムは入ったので良しとすべきなのか。
(……とりあえず、索敵スキルを信じすぎてたな。ちゃんと自分でも確認しないと。さっきのがフロアボス戦だったら死んでたぞ?)
『とりあえず、β版と正式版で色々と変わっているのが分かったので収穫です。危機感が足りませんでしたね。反省しないとな』
現在、SAO開始から三時間三〇分。
クエストに必要なアイテムを手に入れたハクレイはホルンカの村への帰還を目指すーーーー。
「一言」
RTAだとこんな事故もあります。
今回の場合精神的に疲れてて、索敵と目視で数が違うのに気付けなかった感じですね。
主人公の性癖
・ロリコン
・巨乳お姉さん
・触手攻め(される側)適正×←New