二章を出してから、三ヶ月以上が経ってしまいました……。
正直、現実の方が忙しすぎて書く時間が取れませんでした……。
そして恐らく、これからも書く時間が取りにくいと思います……。
ですが、それでも頑張って書き続けるので応援よろしくお願いいたします!
それでは、本編に移りたいとおもいます。
今回は少し長めですが、最後までお付き合いください。
ウゥ──────────。
サイレンが鳴り響く中、アナウンスが流れる。
『緊急警報、緊急警報────生徒の皆さんは速やかにシェルターに避難して下さい!繰り返す────』
いつものアナウンスなら、警戒レベルとドラゴンの色を放送しているが、今回はない。つまり、今ミッドガルを襲撃しているのがドラゴンではない事を意味している。
「……君の予感はいつも当たるな」
篠宮先生が呟く。
「当たってほしくない予感がほとんどですけどね……」
俺は重い溜め息と共に言った。
実際、的中した予感の中で、良かったと思えるものは片手で数える程度。
ほとんどの予感は、人の生死がかかるものばかりだ。
ドォォォォォォォォン──────!
再び爆発が起こり地面が揺れる。
事態は刻一刻と進んでいる。
「先生。どうしますか」
篠宮先生に指示を仰ぐ。
すると彼女は険しい表情で言った。
「…………この事態には、ブリュンヒルデ教室で対応する」
「なっ!待ってください!それは危険です!」
俺は篠宮先生の指示に反発した。
「相手はドラゴンじゃなく人間です!対人戦に慣れていないみんなじゃ────」
「それは分かっている」
篠宮先生は俺の言葉を遮って言う。
「しかし、今の事態に対応できるのはブリュンヒルデ教室だけだ」
「…………」
篠宮先生の言う通り、この事態に対応できるのは、ドラゴンとの戦闘を重ねてきたブリュンヒルデ教室のみんなだけだろう。
しかし、今回の相手は人間。ドラゴンとは勝手が違う。
いくらドラゴンと対等に戦える力があっても、対人戦が素人では分が悪すぎる。
何より、加減を間違えてしまえば、相手を殺してしまうかもしれない。
そんな重荷を彼女達に背負わせる訳にはいかない。
ならば────俺一人で対処すればいい。
俺は、人間なら相手が誰であろうと殺そうと思えば殺せる。
そういう人間に俺を作り変えたのは──ロキ少佐だ。
彼は、俺に“悪竜”────ファフニールというコードネームを付け、最強の暗殺者にしようと計画していた。
俺がミッドガルに移動することになりその計画は終わったが、感覚は今でも残っている。俺の中にいる怪物────“悪竜”が相手を殺すパターンをいくつも導き出すのだ。
それでも、俺は人を殺したことはない。
理由は皮肉にも、ロキ少佐が俺を強くしたからだろう。
俺が人殺しにならなかったのは、相手を殺すか殺さないか、選ぶ余裕があったからだ。
余裕が無くなった時、きっと俺は、人殺しになってしまうだろう。
そう思う度に、この力が嫌になることがある。
しかし、こんな力でも、仲間を守ることができる力を与えてくれたロキ少佐に、感謝した方が良いのかもしれない。
──────いや、必要ないな。
しかし、俺はその思考をすぐに否定した。
ロキ少佐は自分の計画のために、俺を使ったに過ぎないだろう。
彼に感謝をするのはお門違いだ。
それに、今一番大事なのは、俺がみんなを守る力を有していることだ。
俺は、自分の考えを伝えるために、篠宮先生を真っ直ぐに見据える。
しかし、俺が言葉を発するより早く、篠宮先生が口を開いた。
「先に言っておくが、君を一人で行かせる気はない」
「っ!」
篠宮先生は俺の思考を読んだかのように告げた。
「その様子だと、図星のようだな」
「しかし、みんなを危険にさらす訳にはいきません」
俺はなおも引き下がらずに言う。
すると、篠宮先生は溜め息をついた。
「私も、みんなを危険にさらしたくはない」
「だったら俺一人で────」
「その中には、君も入っていることを忘れるな」
「えっ?」
俺は一瞬何を言われたのか理解出来なかった。
「自分の生徒を心配するのは担任として当たり前だ」
その言葉を聞いてここ、ミッドガルが学園であることを思い出した。
別に忘れていた訳ではないが、こういった事態になると、自分が生徒であるという自覚が薄くなる。
「すみませんでした。先生の気持ちも考えず……」
「いや、謝る必要はない。君が彼女達を心配するのも分かるからな」
そう言うと、篠宮先生は教室に視線を向ける。
「それでは、詳しい話は彼女達を交えて話す。いいな?」
「はい」
俺は篠宮先生の後に続いて教室に入った。
教室内は少しざわついていた。
「あっ!先生!モノノベもっ!」
俺達に気付いたイリスが声を挙げる。
その声で、みんながこっちに視線を向ける。
表情は、みんなどこか不安そうだ。
その中から、深月が進み出て来て言う。
「先生。今ミッドガルで、何がおきているんですか」
彼女は慌てることなく、この状況について説明を求めた。
竜伐隊の隊長を務めている深月は、こういう時の行動力が早い。
「……今ミッドガルは、何者かによって襲撃されている」
「「「っ!」」」
その言葉に、みんなが息を飲む。
「……ミドガルズオルムは機能していなかったんですか」
深月が当然の疑問を口にする。
ミドガルズオルムが機能していたら、人間に侵入することは不可能。だから、侵入者がいるのなら、ミドガルズオルムは機能していなかったと考えるのが普通だろう。
────しかし、ミドガルズオルムが機能していないなんて事があり得るだろうか。
俺の疑問は、続く篠宮先生の言葉で明らかになる。
「……いや、ミドガルズオルムは通常通りに機能していたし、欠陥部分もなかった」
再びみんなが息を飲む。
すると、リーザが驚きの声を挙げる。
「そんなっ!あり得ませんわ!ミドガルズオルムを、誰にも気付かれずに突破するなんて……不可能です!」
リーザの指摘は最もだ。人間には、ミドガルズオルムは突破出来ない。ドラゴンなら突破出来るかもしれないが、そんな大きなものが接近すれば気付かないはずが…………。
「っ!」
そこまで考えて、俺は息を詰めた。
前に一度だけ、誰にも気付かれず、ミッドガルに侵入した生物がいたからだ。
他のみんなも気付いたらしく、顔色が曇った。
そんな俺たちに篠宮先生が声をかける。
「どうやら、気付いたようだな」
「…………ヘカトンケイルですよね」
「その通りだ、物部悠」
篠宮先生は険しい顔で頷いた。
一ヶ月ぐらい前、ブルー・ドラゴン────“青”のヘカトンケイルはミッドガルに突然現れて、甚大な被害を撒き散らした。その時も、今のように誰も接近に気付かず大混乱した。
「……先生は、今の状況があの時と同じだと思っているんですか」
俺は先生に問いかける。
それというのも、ヘカトンケイルがミッドガルに現れた件には、ドラゴン信奉者団体の“D”──キーリ・スルト・ムスペルヘイムが関係している。
彼女は以前、立川穂香という人物に成り済まし、ミッドガルに侵入。そして、何らかの手段を用いて、ヘカトンケイルをミッドガルに出現させた。
今回の件にも、彼女が加わっていれば、同じことが出来るかもしれないが、その可能性はないと考えている。
前回は、ティアをバジリスクの下に連れていくという目的があったが、今回はドラゴンに見初められている“D”はいない。
目的もなく、彼女が動くことはないだろう。
「同じとまでは言わない……しかし、あの時と状況が似ているのは事実だ」
篠宮先生は、苦い表情で言った。
「えっ!それじゃあ、今ミッドガルを襲ってるのは、ドラゴンってこと?」
「……ミッドガルへの侵入方法が似てるって話だと思うよ」
イリスの少しずれた発言をフィリルが訂正した。
「あっ、そうだったんだ!あたし、すっかり勘違いしてたよ」
イリスが恥ずかしそうに笑う。
「イリスしかそんな間違いはしないと思うな」
「んっ」
アリエラとレンが少し呆れたように言う。
そんな中、篠宮先生が真面目な顔で言った。
「いや。イリス・フレイヤの言っていることも一理ある」
「えっ」
俺は驚いて篠宮先生を見る。
「相手は侵入不可能なミッドガルに侵入し、正体が掴めていない。人間である可能性の方が低い」
「しかし、接近に気付かなかったとしても、あんなに巨大な生物に攻撃されているのなら気づくはずです」
俺が当然の疑問を口にすると、篠宮先生はいや、と言って口を開く。
「確かに君の言うように、今までのドラゴンならそうかも知れない。しかし、新種のドラゴンだとしたらどうだ?」
「なっ!」
その言葉に俺を含めたみんなが言葉を失った。
確かに、新種のドラゴンという可能性も無くはない。
しかしそれは突拍子もないことだ。
「しかし、これはあくまでも可能性の段階だ。相手の存在が確認できない以上、どんな事態も、想定しておくに越したことはないからな」
「……そうですね。相手が分からない以上、最悪の場合──新種のドラゴンという可能性もあり得ますね」
深月の言葉にみんなも頷いた。
すると、篠宮先生は深刻そうな顔で言う。
「……今の状況を理解してもらったようなので、本題に入らせてもらう」
篠宮先生はみんなを一度見渡して、少し悩むような素振りをしてから言った。
「……この事態、君たちに対処をお願いしたい」
「…………」
その言葉を聞いたみんなの反応は目を見開いたり、顔をうつむけたりとそれぞれだった。
しかし、それも数秒のことだった。
みんな、顔を見合わせると決意したような表情になる。
そして、深月がみんなの決意を代弁した。
「分かりました。私たちに任せてください」
その言葉を聞いて、篠宮先生は目を丸くした。
「本当に良いのか?……今回はいつも以上に危険だぞ」
「それは、さっきの話で分かっています。しかし、ミッドガルが危機に陥っているなら、戦います」
篠宮先生は、もう一度みんなを見渡す。
「……時は一刻を争う事態だ。作戦を説明する」
みんなが姿勢を正す。
「敵は地下通路から進行してきている。……恐らく、後数分で学園に侵入するだろう」
「っ!もう時間が無いじゃないですか!」
リーザが慌てた様子で声をあげる。
「ああ、だから君たちにはすぐに迎え撃ってもらう事になるだろう。その際、隊長は────物部悠、君に任せる」
その言葉に俺は戸惑う。
「えっ?俺ですか?隊長は深月が務めれば────」
「私も篠宮先生に賛成です」
俺の言葉を深月が遮った。
俺が深月に視線を向けると、深月は自分の考えを口にする。
「兄さんの斥力場はイレギュラーな事態にも対応できますし、兄さんになら、安心して隊長を任せられます。それに…………相手が人間だった時、兄さんの方が上手く対処出来ると思います」
最後の方だけ不安そうな表情で言い俺を見る深月。
深月は俺がニブルでどのような状況にいたのかを知っている。
それに、深月の瞳を見れば言いたいことは分かる。
俺は安心させるため、深月に笑みを向ける。
深月は一瞬驚いたように目を見開いたが、気持ちが通じたのか頷いてくれた。
他のみんなも同様に頷く。
それを見て、俺は篠宮先生に向き直る。
「分かりました。俺が責任を持ってみんなを守ります」
「頼んだぞ、物部悠」
篠宮先生は表情を緩めて頷いた。
しかし、すぐに表情を元に戻し、端末を操作し始めた。
すると、俺の端末から振動音が鳴った。
周りではみんなも端末を取り出している。
端末を確認すると、学園の地図に赤いマークが点滅していた。
「今、君たちの端末にデータを転送した。赤いマークが敵の侵入予測地点だ。時間がないため、大急ぎで向かってくれ」
「分かりました」
そう言って俺が教室を出ようとすると、篠宮先生が声をかける。
「最後に一つだけ言っておく。無茶だけは絶対にするな。危険だと判断したら逃げろ」
篠宮先生はとても心配そうな声で言った。
「分かってます。みんなを危険な目には遭わせません」
俺は篠宮先生にそう誓い、教室を後にした。
三章はいかがでしたか?
二章の後書きでは、バトルシーンを匂わせましたが、バトルシーンまで書いてしまうと、三章がとても長くなってしまうので、誠に勝手ながら四章に回したいと思います。
四章では、敵とのバトルで一波乱あるかも?
次章である四章は、書く時間が取れれば、夏休みの終わりごろ(八月末)に、無ければ最悪十月末に出せるようにします!
最後に、読者の皆さん、これからもコードネームFを宜しくお願いいたします。
それでは、また出会える日まで……