転生したら始祖で第一位とかどういうことですか 作:Cadenza
今回はまるっとキスショット回。ついでに少し過去にも触れる。
取り敢えずどうぞ。
いったい何百年前だろうか。彼に血を吸われ、そして与えられて吸血鬼となったのは。正確な年数はもう思い出せない。
それだけ悠久の時を共に過ごしてきた。
ただ、あの瞬間だけは、はっきりと覚えている。
『
脳裏に残るのは、赤。己の身体を染め上げる鮮血の赤。
もう動かない身体。五感の幾つかも失った中、その声だけが響いていた。
『
彼の内面を知っている自分だが、ここまで冷たく無機質な声を聞いた事はない。
『
しかしそれに込められたのは、
後にも先にも、ここまで感情を露わにしたのはこの時ばかりだろう。
『
半分ほどは赤に染まった視界。だが然りと覚えている。
氷風と冷気を纏い、自分を守るように立つ彼の後姿を。
『
自分だけを避けるように広がる氷の世界。
皮膚を刺す冷気は彼の殺意と敵意の具現だった。それを向けるのは眼前の敵。
彼が生涯ただ一度だけ、本気の殺意を抱いた存在。
そして、
『
この世に地獄が舞い降りた。
◇ ◇ ◇
現在キスショットは空を翔けていた。
日本帝鬼軍が名古屋の貴族を奇襲すると言っても、必ずどこかで一度集合しているだろう。
敵陣視察するにはまず、集合場所を探し出さなくてはならない。
しかしここで問題がある。キスショットは日本の地理に詳しくない。
さすがに名古屋や京都、東京くらいなら分かるが、それ以外の土地や道は壊滅だ。
ならなぜアークライトはキスショットが最適と言ったのか。
それは圧倒的な速さを持っているからだ。速度に関してならアークライトをも上回る。
本来なら広い範囲を探すのに向かないしらみ潰し。それを広範囲にわたって行えるのだ。
故に現在。東京辺りから何度も日本を縦に往復し、名古屋に向かっている。
こんなとんでもない方法が取れるのは、アークライトに次いで最強なキスショットぐらいだろう。迷路の道を取り敢えず全部行ってみるようなものである。
マッハを超えるくらい容易く出来てしまうのだ。
(東京から名古屋、中間辺りまでは来たかの?
見つかるのは時間の問題じゃろうな。しかし、懐かしい事を思い出したの)
忘れはしない、自分が吸血鬼となったあの時を。
(随分と永い時を生きたものじゃ)
既に千数百年。長くも短くも感じる。ここまで生きると時間の流れがあまり気にならなくなるらしい。
千年程度でこうなのだ。自分の倍近くの時を生きたアークライトは、いったいどう感じているのだろう。
長く生きれば何かが変わるのだろうか?
(いや、アークは何も変わっとらんじゃろうな)
浮かんだそんな考えは、すぐに否定した。
今も昔もアークライトは変わらない。少し天然で最強な一人の男。
キスショットにとっては、ずっとそうだ。
(だいたい彼奴は、己を妙な所で過小に捉えすぎておる)
下手に本気を出せば世界が滅びかねないその力をアークライトは、誰よりも自覚している。
と言うより、二千年も生きているのだから自覚していない方がおかしい。
だがそれ以外。例えば己がやってきた偉業や、周りからの評価を低く捉えがちなのだ。
悪意や敵意には敏感でも、向けられる好意には鈍感。こう言うべきなのか。
自分や周りに迫る危機や異常には、いち早く反応する。今回の《終わりのセラフ》もそうだ。なんやかんや言っても己で解決しようとしている。
しかし、これが好意になると途端に鈍感と化す。
彼が統治するアヴァロンの民からは、人間や吸血鬼と関係なく畏怖と畏敬の念を抱かれている。だからアークライトは陛下と呼ばれているのだ。だがその本人は殆ど気付いていない。
むしろ気付いていないから、慕われるようにもっと頑張ろうなどと思う始末だ。
もうとっくに慕われているというのに。
(エリアスの時は大変じゃったの〜)
なにせ妹同然のエリアスから告白じみた言葉を言われたくせに、込められていた好意に気付いていなかった程だ。
まあキスショットもその内容までは知らないのだが。エリアスは聞く度にショートしてしまう。よほど恥ずかしかったのだろう。
少なくとも百年以上はエリアスの好意に気付いていなかった。手を出すのは余計なお節介と静観してたキスショットも、さすがに頭を抱えたものだ。
最後はキスショットが手助けしての最終手段である。
(しかし、それは仕方がなかったのかもしれん。アークは生まれが生まれじゃからな……)
アークライトは原初の始祖。
生まれたのは紀元前、神代と呼ばれる時代だ。
その頃の世とは、まさに信仰の世界。信仰こそが全てと言ってもいい。まだ神秘が世界に溢れており、神や天使などが本当に確認出来た時代なのだ。
そこにアークライトは、吸血鬼として生まれた。
自分にさえ多くの事を語らないが、想像くらいはつく。
過酷の一言では済まない、壮絶な日々だったろう。
信仰が全ての神代は、人から外れた存在にとって優しくない。
吸血鬼と知った人々がアークライトに向ける感情はただ一つ。
敵意。それのみ。
昨日まで親切だった人が吸血鬼と知った途端、手の平を返したように敵意を向けてくる。たとえ誰かを助けてもそれは変わらない。
己を討ち取ろうとする人々。そこで討ち取られれば、全ては終わりだ。
しかしアークライトは最強の吸血鬼。神すらも超越する星の化身。
倒せるはずがない。敵うはずがない。
そうして続く悪循環。結果、アークライトは魔王とまで呼ばれるに至った。
その経験がアークライトの奥底に未だに居座っている。
周りは敵ばかり。晒されるのは敵意と悪意。
それに慣れてしまったが故にアークライトは、己に向けられる好意などの正の感情に疎い。
これでもマシになった方である。キスショットとの出逢いが彼を変えたのだ。いや、正確には戻したと言うべきだろう。
キスショットと出逢う前は、見た目通りの性格だったのだから。
(その名残が周りとの妙な語弊を生んでおる。こればかりはわしでも如何にもならん)
アークライトの中に残るかつての名残が周りとのズレと言うか、勘違いを生み出す。
キスショットと出逢う前にやっていた、アークライトは黒歴史と呼び、他の吸血鬼達は伝説として語り継ぐ出来事も相まり、更に加速させてしまう。
本人はちょっと手伝う程度の意図で言った事が、周りからは色々と歪曲やら誇張やらと装飾されて捉えられる。
こんなのはしょっちゅうだ。
(わしは違いに気付いたが、他の者では難しいじゃろうな。エリアスはもう少しといった所かの)
他からは
とは言っても、それに気付いているのはキスショットだけだが。
エリアスはもう少し時間がかかるだろう。彼女は忠誠心というフィルターがちょっとばかり邪魔をしている。
と言うよりキスショットが別格過ぎるのだ。
吸血鬼となって数年でアークライトの本質に気付き、アークライトもキスショットの前では素を出す。
これもアークライトの血を色濃く継いでいるからなのか。
(しかし、完全に普通と言うわけではないがの)
先程も言った通り、アークライトは向けられる正の感情に疎い。
だからこそ、己の大切な者に危害が加わる事を決して許さない。
そんな事になれば本当の意味での天災へと、星の怒りとして具現する。
アリストテレスとしての本気を出したアークライトは、キスショットでも止めるのは無理だ。
アークライトの本気とは、
こうなってしまえばほぼ無敵。地球上のあらゆる存在が敵わないだろう。それこそ神霊ですらも。
周りから唯一アークライトが本気を出した時と認識されている堕天の王との一件。あの程度、まだまだ序の口だ。
(アークが戦いを好んでないのは事実。わしもアークが本気を出す機会など望まぬわ。――む?)
そうこう懐かしんでいる内に何か妙な気配を感じた。
速度を落とし、翼を羽ばたかせて滞空する。
目を凝らせば道路を走る一台の車が見えた。そして確信する。
見つけた、と。
搭乗者は五人。金髪と紫がかった灰色の髪の少女二人に、黒髪と暗い茶髪、桃色の髪の少年三人。歳は十六程度だろう。
金髪の少女を除いた四人の気配には、何か混ざっているような感じがする。
特に黒髪の少年。これは、
(ほう、上位始祖会の映像におった奴ではないか。それに加え『
まず間違いなくあの五人は《終わりのセラフ》に関係しているだろう。
幸運だ。こうも早く見つかるとは。
(さて、どうするべきかの……)
可能性を摘むというなら、ここで殺すべきか。
しかしあの少年が本命とは限らない。
さすがに《終わりのセラフ》の依り代が一人だけというのはないはずだ。
もしそうだとしても、ここで本命を殺して後先無くなった日本帝鬼軍が道連れ覚悟の玉砕に出られても困る。
人間は追い詰められた時が一番怖いのだ。
それに気になる事もある。
アークライトは人を隠すなら人の中と言っていたが、本当にそうだろうか。
この時代に依り代は貴重な存在。そう何人も用意できない。
わざわざ軍の中に軍人として紛れ込ませるなどと危険を冒さず、手元に安全に隔離でもしていればいい。
それにあの少年は一度、上位始祖会に出た映像にあった通り暴走している。
ならば何故、あの『
(何か意図があるのか、はたまた本命とは別の勢力が用意したものか。どちらにしろ、確かめる必要があるの)
そうと決まれば早速とばかりに、標的が向かっている方向へ加速。一瞬で二キロ程進むと道路の案内標識塔の上に降り立つ。
そうして意図的に気配を放った。あの五人が鬼の契約者なら気付くはずだ。
(やはり攻撃してきたの)
少し待てば五人の内の一人、暗い茶髪の少年が放った矢が向かって来た。予想通りである。
感じる気配から本当に吸血鬼の再生能力を阻害する効果があるようだ。
まあアークライトと同等の不死力を持つキスショットにどれほど効くかは不明だが。
迫る光の矢。当たらんとした直前、キスショットの手が霞んだ。
途端、飛来した矢が全て爆散する。叩き落としたのだ。素手で。
それでも相当な威力があったのか、余波で立っていた案内標識塔が崩れ去る。
しかしキスショットにはダメージはおろか、ドレスにさえ損傷は見られない。
アークライトとキスショット。この二人の防御力というのは、それほど高くない。何故なら彼等にとって不死力=防御力。どんな傷でも一瞬で回復させる。その貴族すらも遠く及ばない強力な再生能力こそ、彼等を最強たらしめている要因の一つなのだ。
ならば何故キスショットは無傷なのか。
それは着ているドレスによるものだ。これは元々、キスショットが着ていたのをアークライトが新たに作り直して贈ったドレスである。
しかしただのドレスを贈るはずがない。
作り直した時に魔法を生地と共に織り込み、ドレスそのものを一つのマジックアイテムとしたのだ。
その効果は、魔力を流し込む事で織り込んだ魔法を発動するというものだ。アークライトは主に様々な種類の魔法障壁を織り込んだ。贈られて既に数百年が経つが傷むことはなく、贈り物とあってキスショットも重宝している。
今回は、魔力を長手袋に流して障壁を表面に張り、矢を叩き落としたのだ。
(車を止めたか。迎え討つ気じゃな。なら行くとするかの)
視線を向ければ矢の射手と目が合った。射手もそれに気付いたようで、何かを叫び、他の四人が己の武器を構える。
地面をトンッ、と軽く足裏で蹴った。そうすればキスショットは、体勢を取ろうとしていた五人の十メートル手前ほどに一瞬で移動していた。瞬動だ。
「いきなり攻撃とは随分じゃの。小僧子に娘子ども」
我ながら白々しいという自覚はある。意図的に気配を放ったのだから、いきなりも何もない。
「そんな……ッ!」
リーダーなのか紫髪の少女が言いかけていた指令を切り、驚きに目を見開く。
そして目を見開くばかりか、今度は顔色が青褪めた。そう、キスショットの姿を見て。
そこから会話が耳に入ってくる。本人達はそれなりに小声のつもりなのだろうが、身体の基本能力が規格外のキスショットには丸聞こえだった。
どうやら紫髪の少女は自分の正体に気付いたらしい。とは言っても漠然とであり、ただ上位始祖とだけ分かったようだ。
続く会話で五人の役割を大体把握する。
紫髪の少女はリーダー。基本的に作戦は彼女が立て、指揮も兼任。武器である大鎌から、おそらくポジションは後衛で前衛のサポート。
金髪の少女はサブリーダー。リーダーの補助及び、チームを分けた時は分隊の指揮を執る。チームの士気を上げる激励役で、立ち振る舞いから五人の中で最も戦場に慣れているのが分かる。ポジションは紫髪の少女と同様。
暗い茶髪の少年は最後衛。武器が遠距離の弓であるため、一番後ろから前へ出ず、状況に応じて動きながら前衛を援護。
黒髪の少年と桃髪の少年は前衛。おそらく最高戦力。基本的にこの二人が敵と直接戦闘を行い、他の三人は二人に合わせて援護をする。
前衛二人、前衛サポートの後衛二人、後方支援の後衛一人。これが基本陣形と言った所か。
(バランスのとれた良いチームじゃな。しかしまだ青い。敵を前にして長く会話をするのは感心せんな)
彼等の会話の間にいったい何度殺せたか。少なくとも数十度は確実に刈れる。
吸血鬼との戦闘に慣れ過ぎているのか。それとも圧倒的格上と戦った事がないのか。
吸血鬼というのは基本的に人間に対して侮りと驕りの塊である。その慢心故に隙があってもそこを攻めない。いつでも殺せると過信があるからだ。
(さて、どうするかの)
内心で考えてみるが、実際にはもう決まっていた。
まずは自分の中での確証が欲しい。本当に彼等が《終わりのセラフ》に関係しているかどうか。
上位始祖会での映像に出た人間と、目の前の少年が同一人物である時点で明確ではあるが。
キスショットはこの場での確証が欲しいのだ。
だから戦闘だけでなく後の交渉も視野に入れ、ここで会ったのは、あくまで偶然だと装う事にした。
「いやうぬら、少し待た……」
「行きます!」
少年二人が時間差で飛び出してくる。
まずは黒髪の少年だ。
「む、話を聞かぬ童じゃ。
キスショットは懐からカードを取り出し、詠唱によってアーティファクトを召喚した。
「【
【
アークライトとのパクティオーによって手に入れたアーティファクトである。
その能力は、使い方と使い手しだいで無双を体現するほどのもの。外見は刀身がない三十センチ程の柄だけの刀だ。
黒髪の少年が持つ刀を下段から薙ぎ払ってくる。
それをキスショットは斬撃皇の無かった筈の刀身を以って受け止めた。
斬撃皇がビリビリと震える。見た目によらずかなりの威力があったのだろう。
更に少年の刀から覚えのある気配が伝わってきた。
(これは……)
「ほう、やるの。重く迷いのない太刀筋じゃ。しかし――」
「死ね吸血鬼!」
同時に決める。この五人を殺さない、と。
「まだ青い。器用さが足りぬ」
そして、この先死なぬように少し手解きする事にした。
(あの気配を読み違えはせん。わしやアークが思っておる以上に事が絡み合っておるようじゃ)
そこからは、戦力分析も含めた見極めだ。
五人各々と相手をして弱点を指摘。わざと隙を晒して後衛からの攻撃を誘発。
キスショットから見ても、このチームはバランスが整っている。確かに経験不足が目立つし、己の能力を最大限まで活かし切れていない。連携もまだまだ。
だが五人の歳から考えれば十分に良いチームで、各々の将来も有望である。
(惜しいのぅ。エリアスが欲しがりそうな人材じゃ)
最後のチェックメイトとして、指揮官らしい紫髪の少女を抑えた。
斬撃皇の刃を首筋へ添える。
これで他の四人は迂闊に動けない。ここからが言葉による戦闘だ。
「やはりまだまだ青いの。個々の能力は高いが、連携が出来ておらん」
「…………え?」
「各々の短所を補い合い、長所を活かし合う。それが連携の基本にして極致。うぬらの連携は上辺だけじゃ」
「…………はい?」
「しかし、成長の余地は十分。これから経験を積んで学ぶがよい」
「……貴女は、何を言ってるんですか?」
困惑しているようだ。今この少女の頭の中では様々な考えがひしめき合っているだろう。
それでいい。存分に考え、悩め。それだけ付け入る隙が出来ていく。
「貴女は、吸血鬼ですよね?」
最初はそれか。まずはキスショットが吸血鬼かどうか疑ったようだ。
アヴァロンの吸血鬼を知らない者が見れば、誰でもそう聞くだろう。
「む? 今更じゃな」
本当に今更で、否定する必要もないので軽く頷く。
続けて紫髪の少女が聞いてきた。
「ではなぜ私達を殺さないのですか? 私達は人間ですよ?」
この発言から日本の吸血鬼とは、人間を如何とも思っていないのが分かる。
連れて来た部隊の編成を吸血鬼のみにしたエリアスは、これを理解していたのだ。やはり優秀である。
「だから何だと言いたい所じゃが、先に仕掛けてきたのはうぬらじゃろうて。最近の童は血の気が多いの。わしは待てと言うたはずじゃぞ?」
「…………」
そう言われ、確かにといった表情になる。感情が表情に出てしまうのは頂けないが、中々に聡明らしい。
キスショットが手加減していたのは実感していたのだろう。
「ふざけんな! 何が待てだ! お前は吸血鬼なんだろう!」
しかし、あの黒髪の少年は納得出来ないようだ。
この少年からは、戦闘の最中も他の四人以上に憎しみの感情を感じ取れた。
度合いからして相当な出来事があったのか。
「随分と吸血鬼を憎んでおるようじゃの。こうも人間から憎悪を向けられるのは久しぶりじゃ」
数百年前ならともかく、アヴァロンに安住してからは覚えがない。
キスショットもアヴァロンの民から王妃と呼ばれ、アークライト同様に慕われている。しかしキスショットの場合、慕われた要因はその内面にあるだろう。
実際、アークライトがキスショットに一目惚れしたのもその内面なのだから。まあ彼女の昔はいずれ語るとしよう。
(この小僧子も中々に壮絶な過去を持っておるようじゃ。それすらも何者かの思い通りだとすると救われんの)
斬撃皇を少女の首筋から離し、「
紫髪の少女が怪訝な表情となった。
「何のつもりですか?」
「最初から言っておろう。わしはうぬらと事を構える気はありはせん。うぬらが攻撃してきた故に対処しただけじゃ」
「それを信じろと?」
普通は信じない。彼女等にとっての敵である吸血鬼の言葉なら尚更だ。
「どちらでもよい。うぬの好きにするがよい。わしは行くぞ」
だから敢えてこう言う。
また紫髪の少女は考えているはずだ。
彼女等が貴族奇襲部隊なら、自分をここで逃せば奇襲作戦が暴露てしまうかもしれない。
ならばここで仕留めるのが一番いいが、手加減されてこの完敗だ。それでは無駄死にである。
優先すべきは、仲間か任務か。感情か理性か。その二つで板挾みになっている。
そこが狙い所だ。
「心配せんでいい。うぬの事を言うつもりはない。わしらの目的は人間ではない。目的は別にある。日本の吸血鬼が如何なろうと知った事ではないしの」
「それこそ信じられませんね」
そう言っているが、内心では揺れ動いているだろう。
「じゃろうな。予定が狂っても面倒じゃし、ならば信用できるようにわしらの情報を与えよう」
だからこれでとどめを刺す。
「わしの名はキスショット=
「第二位……ッ!」
驚愕の感情が伝わってくる。
日本を治めているのが第三位始祖なのだから、更に上位の始祖がいればそれは驚くだろう。
与える情報としては十分だ。
「これだけでも十分に貴重な情報だと思うがの」
「……分かりました」
「シノア⁉︎」
「黙っててください優さん。指揮官は私です。どちらにしろ私達に貴女をどうこうする事は出来ません」
「賢明な判断じゃ。日本の組織は狂信的と聞いていたが、そうでもないようじゃの」
まだ十六ほどに見えるが、この少女も普通には見えない。歳不相応に何処か達観している。
「さらばじゃ童共。精々精進するがよい。戦場で会わぬようにな」
最後にそう言い残し、キスショットは消えていった。
確かな成果を実感して。
◇ ◇ ◇
現在キスショットは再び空を飛んでいた。
出発してから凡そ五十分。タイムリミットは後十分。余裕で間に合う時間だ。
飛びながらキスショットは考えていた。
(間違いはせん。あれはアークと似た気配じゃった)
黒髪の少年の一撃を受け止めた時。少年の刀から覚えのある気配を感じた。
個人の気配ではなく、特定の種族の気配。
おそらくアークライトと同じ。今はたった一人しか残っていない、原初の始祖の気配。
しかし原初の始祖は、アークライトを残して命を絶ったはず。
(なぜ人間に鬼として使役されておるのじゃ?)
黒髪の少年だけではない。他二人の少年からも似た感じがした。紫髪の少女は何か妙だったが。
(わしも原初の始祖についてはあまり知らん。アークもその頃の事は語ってくれんからの)
あの五人全員がどうやら特別らしい。何の目的で集められたのか。確実に偶然ではないだろう。何者かの思惑の上で動かされている。
だから殺さなかった。あの五人は例えるなら駒。盤上で動く駒だ。ならそれを動かす者がいる。
(其奴が黒幕か。おそらくその黒幕が吸血鬼側の誰かと手を組んでおる)
最後に自分の素性を明かしたが、それには理由があった。
紫髪の少女はあの戦闘と得られた情報を報告するだろう。
そうすれば奇襲部隊の指揮官は、別勢力の吸血鬼がいることを知る。
アヴァロン勢力はイレギュラーだ。
もし黒幕が吸血鬼側の誰かと画策し、《終わりのセラフ》を行おうとしているのなら、イレギュラーにどう反応するのか。
その反応によって誰かを特定する。反応しなかったらそれまでだが、今の人間は切羽詰まっている。《終わりのセラフ》も想定外の事態だからと、延期や中止できる代物ではない。
おそらく無理を通してでも強行するだろう。
人間にとっては切り札。いや、勝ち札に等しいのだから。
(上位始祖会の様子から見て怪しいのはクルル・ツェペシか、あるいはフェリド・バートリーか)
もしくは両方か。
クルル・ツェペシの場合は明確な目的がなければ動かないタイプだ。逆に言えば、目的があれば躊躇わず動く。
フェリド・バートリーは逆で、己の快楽を優先するタイプと見える。飄々としていて奥底では何を考えているか不明。フェリドが内通者の場合、中々に厄介だ。戦闘になれば負けないだろうが、非常に面倒くさい。
(どちらにしろいずれ分かることじゃ。あの五人も気になるしの)
おそらく彼等が鍵となる。だから死なぬ様に手解きもしたのだ。何よりキスショットが他の吸血鬼とは違うのだと、良く分かったはずだ。
いったい人間は何をしようとしているのか。人間は生き残る為ならどんな禁忌にも手を出す。
それは愚かかもしれないが、同時にとても恐ろしい事だ。存続の為ならば星すらも犠牲にするだろう。
(やはり今回の一件、ただでは終わらんじゃろうな)
そんな予感を抱きながら、速度を上げるのだった。
ステータスですが、欲しいとの意見が多かったので次回に載せます。
ただし宝具の詳細は載せないので、予想してみてください。
そして思った。材料集めで朱い月関連を漁ってて。ヤバい自分で選んでてマジチート過ぎる。鋼の大地基準ですので型月最強格であるORTと同等のバケモンです。
サーヴァント状態じゃなく伝承通りのギル様や生前の全盛期カルナさんでやっと食いつけるくらいのバケモンです。
どうしよ誰も勝てねえよ。まぁ最強ガチートというコンセプトで選んだんですけど。