転生したら始祖で第一位とかどういうことですか   作:Cadenza

7 / 28
最近、感想が荒れてるようなのでログインユーザーのみに変更します。
それと感想の返信についてですが、最初は執筆を優先していたので覗くだけにとどめておき、後で返そうと思っていました。
ですが予想外のお気に入りや感想数に仰天。感想数が五十件を超えた時点で無理だと悟り、執筆に影響が出かねないため、返信は最低限にさせていただきます。全てありがたく読んでいますし、少なくとも原作に追いつくまでエタりませからご心配なく。

なんでこんなに人気出たんでしょう。息抜きと挑戦で始めた作品なのに。まだ二話しか更新してないのに。終わりのセラフ見て、吸血鬼キャラで強い組み合わせってなんだろうという発想から生まれた作品なのに。プレッシャーで潰れちゃいますよ。
後、感想での批判ですが。何が悪いのかと書いた、ちゃんとした批判以外には反応しません。




邂逅するニンゲン

 青空の下を一台の軍用車が走っていた。

 搭乗者は五人。百夜優一郎、君月士方、早乙女与一、柊シノア、三宮三葉。

 現在走っている、東京・名古屋間を繋ぐ東名高速道路を通って月鬼ノ組集合地《海老名サービスエリア》に向かっている途中である。

 

 青く澄み渡る空を見上げながら、優一郎は改めて鬼呪装備と契約した時に阿朱羅丸が言ってきた事を思い出していた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ユウ、気を付けなよ」

「は? なんだよ突然」

 

 いきなりの心配するような阿朱羅丸の言葉に、優一郎は聞き返した。

 

「君は一度暴走した。そしてそれは吸血鬼側、それも上位始祖にも伝わってるはずさ。君の人間でない部分が僕の思う通りなら、気を付けた方がいい」

「いやだから、何なんだよ阿朱羅丸。自分一人で喋ってないで、俺にも分かるように言ってくれ」

 

 阿朱羅丸が何か忠告しているのは分かる。だが何に対してかはっきりしない。

 優一郎の困惑は深まるばかりだ。

 

「まったく鈍いな君は〜、これぐらい察しなよ」

「いや無理言うなよ」

 

 優一郎の様子に阿朱羅丸はヤレヤレと肩をすくめて、

 

「つまり君を危険視して、今回は上位始祖が出てくるかもしれないって事さ」

「へ? いや、上位始祖って……」

「そろそろ時間だね。僕が言えるのはここまで。僕の予想通りなら、もう一つだけアドバイスだ。金髪には注意しなよ」

「いや、ちょ、ま……」

 

 そこで優一郎は目覚めた。言いたい事だけ言われ、自分の疑問には答えないままに。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「金髪、ねぇ……」

 

 オープンカーである為に直で吹き付ける風に頬をなでられ、早送りの様に過ぎ去る風景を見ながら呟く。

 それを耳聡く聞いていた後部座席のシノアが、助手席の優一郎に半身を乗り出してきた。

 

「どうしたんですか優さん?」

「ん? あ、いや、阿朱羅丸から言われた事が気になってな」

「例の鬼からの忠告、ですか?」

「ああ。金髪に気を付けろったってな……」

「金髪……ですか」

 

 シノアが腕を組んで考え出す。

 鬼呪装備に宿る鬼が契約者に直接忠告してくるなど、そうそう無いだろう。

 しかも優一郎の阿朱羅丸は黒鬼シリーズ。数ある鬼呪装備の中でも最強にして最難関。現在のところ両手で足りる数しか確認されていない。そんな鬼がわざわざ忠告するのだから余程の事だ。

 

 金髪。優一郎に宿る鬼はそう言った。

 シノアが金髪と言われて真っ先に浮かぶのは、同じ後部座席の隣に座る同い年の同じチームのメンバー。荼枳尼シリーズの天字竜を持つ三宮三葉だ。

 うーん、とシノアは考える。暫く考えて、そしてハッとした。

 

「まさか……! 優さんがみっちゃんの毒牙にかかるという忠告……ッ!?」

「なんでそうなるんだ!!」

 

 ゴルァ!とばかりに牙を剥く三葉。

 後部座席の左に座る与一は、そんないつもの遣り取りを笑いを堪えながら見ていた。

 前の優一郎と君月の二人は我関せずだ。

 

(そういや俺、家族・仲間と言いながらも、阿朱羅丸の事なんにも知らないな)

 

 今度もっとちゃんと話をしてみるか、と内心で思いながら優一郎は、再び視線を景色に向けた。

 広がる青い空。雄大な緑の自然。むしろ八年前より豊かな景色を見て、思わず呟いた。

 

「こんな天気がよくて自然が豊かだと、世界が滅亡してるなんてとても思えないな」

「あは、今更それ言います?」

 

 猛獣化した三葉を抑えたシノアが呟きに反応する。

 

「昨日も一昨日も、この八年間ずっと世界は崩壊しまくってるじゃないですか」

 

 そういやそうだな、と優一郎。

 首都圏に行けば高層ビル群は軒並み老朽化で崩れ、街は徘徊するヨハネの四騎士によって荒れ果てている。

 知る術はないが、日本以外の他の国もそうだろう。

 いや、日本はまだマシだ。日本には吸血鬼に対抗出来る鬼呪装備がある。対抗手段がない他の国はいったいどんな状況なのだろうか。

 十分に今の世界は、滅亡した世紀末だ。

 

「でもこの道あれだろ? 箱根の温泉に行くやつだろ? 違ったっけ君月」

「ん? さあ、俺は東京生まれじゃないから知らん」

「車運転するならそれくらい知ってろよー」

「じゃあお前が運転しろ」

「マジで!!いいの!?」

 

 あはは、とこれまたいつもの遣り取りを苦笑いで傍観する与一。

 その時、

 

『ッ!』

 

 五人全員がゾッとするような雰囲気を感じ、前を見た。

 一見、何も無くただ道路が続いている。ヨハネの四騎士も見当たらない。

 だが、

 

「与一さん」

「うん、分かってる。おいで、《月光韻》」

 

 与一が自身の黒鬼、弓矢の形状を持つ《月光韻》を呼び出した。

 後部座席で膝立ちになり、弦を引き絞りながら同時に照準用の魔法陣が現れる。

 グンッ、と与一の視界が一気に進んだ。左右に動かし、倍率も変更しながら探り続ける。

 そして、見つけた。

 

「ッ!」

 

 目測で約一キロ先。高速道路の案内標識塔の上。

 赤と黒を基調にしたシックなドレスを着こなす一人の女性。膝裏付近まである金髪を持ち、陶磁器のような白い肌をしている。

 その美しさは、与一も一瞬状況を忘れて見惚れてしまう程だった。

 だがすぐに意識を戻す。

 

「約一キロ先に吸血鬼! 数は一! まだ気付かれてない! どうする!?」

「ッ! やってください与一さん!」

「やれ与一! 撃ち殺せ!」

「わかった。行け月光韻!!」

 

 五条の光の矢が発射される。

 矢や弓と思って侮るなかれ。黒鬼シリーズという最強の鬼呪装備が放つ攻撃だ。

 その一撃は装甲車をも粉砕し、並の吸血鬼では一撃で屠られる。速度も常識外れだ。

 

 一キロの距離を矢は一瞬で飛び抜き、案内標識塔を破壊しながら全てが吸血鬼に命中した。

 

「全弾命中!」

「皆さん油断しないでください。君月さん、車を停めてください。もし仕留め損なっていたら、車で突っ込んでもあの時の二の舞です。全員、戦闘態勢のまま待機!」

「分かった」

 

 車が道の真ん中で停まり、与一を除いた四人が左右し布陣する。

 

「…ッ!」

 

 与一は月光韻を構えたまま、仕留めたかどうか着弾地点に目を向けた。

 舞っていた粉塵が晴れる。

 果たして敵は——無傷で現れた。

 顔がこちらに向く。視線が、合った。

 

「ッ!?敵は健在! 見つかった!」

「総員戦闘準備!」

 

 シノアの号令で全員が抜刀する。君月と優一郎が前衛。シノア、三葉、与一が後衛だ。

 この距離ならまだ時間はある、とシノアが皆に言う──

 

「皆さん鬼呪促進薬を……」

「いきなり攻撃とは随分じゃの。小僧子に娘子ども」

 

 前に、敵が十メートル程の距離に迫っていた。

 

「そんな……ッ!」

(いくらなんでも早過ぎる……ッ!?)

 

 もう鬼呪促進薬を飲む暇もない。

 今の状態で乗り切るしかないようだ。

 

「どうするシノア!? 撤退は無理だぞ!」

「……やるしかないようです。このレベル相手に心許ないですが──ッ!?」

 

 その時、シノアがある違和感を感じた。しかしすぐその正体に気付く。

 目の前の吸血鬼は、武装していない。

 一般の吸血鬼でも武装していない事なんてありえないし、何よりこのレベルが一般などまずないだろう。

 だがシノアには思い当たる節があった。

 

 吸血鬼の中でも武装をしていない吸血鬼。しないのではなく、出来ない。何故なら耐えられる装備がないから。

 たとえ装備がなくとも圧倒的な力を持つ吸血鬼。

 それは……

 

「あ、あはは……クソッ、冗談が過ぎますよ」

「おい、どうしたんだシノア」

 

 青褪めるシノアに異常を感じた三葉が、敵から視線を外さずに問う。

 対してシノアは、もはや蒼白になった表情で言った。

 

「皆さん、あの吸血鬼を見てください。武装をしてませんよね」

「ああ、確かに武器らしきものは身に付けてないな。それがどうした? 武装してないならこっちが有利だろ」

「今は優さんの呑気さが羨ましいです。いいですか皆さん。おそらくあの吸血鬼は上位始祖。つまりは六位以上の吸血鬼の始祖です」

「んなッ!?」

 

 果たして誰が漏らした驚愕か。

 少なくとも全員が例外なく絶句していた。

 

「なんでそんな奴がこんなところに!」

「ぼやいてる場合じゃないぞ! やるしかないだろ!」

 

 三葉が皆を叱咤するのを見て、シノアは考える。

 幸いにも相手は一人だ。数の有利はこちらにある。

 基本的な陣形は変わらない。始祖相手にも一対一である程度戦える優一郎、君月を前衛に。三葉と自分は二人の補助。遠距離の与一は後方支援。

 

「行きますよ皆さん。死ぬ気でやってください。場合によっては鬼呪を暴走させます」

「わかった。だけど誰も死なせねぇぞ。生きて切り抜ける」

 

 こんな状況でも優一郎のこの優しさは頼もしい。それは甘さかもしれないが、シノアにとってはただ冷徹なだけよりもずっと好ましかった。

 

「いやうぬら、少し待た……」

「行きます!」

 

 優一郎と君月が飛び出す。

 先陣を切ったのは優一郎だ。まずは敵の強さを量るつもりらしい。

 

「む、話を聞かぬ童じゃ。来れ(アデアット)

 

 対する女性吸血鬼は、懐からカードらしきものを取り出し何かを唱えた。

 瞬間、カードが発光し変化する。現れたのは、刀身がない三十センチ程の柄のみの刀だった。

 

「【斬撃皇(グラディウス)】」

 

 突然現れたそれに優一郎は一瞬迷うが、吶喊を続行した。

 阿朱羅丸を下段に構え、薙ぎ払う。

 しかしその一撃は、ギンッと甲高い音を立ててなかった筈の刀身(・・・・・・・・)で受け止められた。

 

「ほう、やるの。重く迷いのない太刀筋じゃ。しかし──」

「死ね吸血鬼!」

 

 弾かれて尚、優一郎は追撃を加える。

 真上からの振り下ろし。並の吸血鬼では、受け止めるどころか武器諸共両断せん威力だ。

 

 だが目の前の吸血鬼は並ではなかった。

 

 吸血鬼の身体が流水のように動く。迫っていた刀をスルリと躱し、そのまま円を描くようにひねりを加え、優一郎の背後へ回り込んだ。

 

「まだ青い。器用さが足りぬ」

 

 吸血鬼が刀を振るう。優一郎を腰から両断する一閃。

 

「ぐッ!」

 

 優一郎と迫る刀の間に二刀が入り込む。君月の鬼籍王だ。

 何とか防ぐ事には成功したものの、二人揃って弾き飛ばされた。

 隙が出来た二人を援護する与一の矢が飛来する。

 

 吸血鬼の一閃でそれは墜とされたが、二人が立て直すには十分。

 優一郎と君月が再アタック。

 今度は君月だ。二刀を駆使した絶え間ない連撃。

 だがそれすらも、吸血鬼は片手一本の刀で捌き切っていた。

 

「うぬには器用さがあるようじゃが、あの小僧子とは逆に一撃一撃の重さが足りん。故に──」

 

 吸血鬼が僅かに身を引く。

 急な手応えの消失に君月の連撃が空振ってしまう。

 そうして空振った君月の刀に、横薙ぎの一閃を打ち付ける。

 君月の鬼籍王が宙を舞った。

 

「なっ」

「こう容易く弾かれてしまう」

 

 刀が振り下ろされる。だがその前に君月の背後左右から斬撃が放たれた。シノアの四鎌童子と三葉の天字竜だ。

 迫る斬撃を前に吸血鬼は、刀を振り下ろしから横薙ぎに変更。

 その一閃で君月諸共、斬撃を吹き飛ばした。衝撃で粉塵が舞う。

 

「む……」

 

 粉塵を突き抜けて再び与一の矢が飛んできた。数は五。

 吸血鬼は回避を選択。

 狙われた箇所を僅かにずらし、最低限の動きで避ける。

 しかし五発目を避けたところで体勢が僅かに崩れた。

 

 小さいながらも、漸く出来たその隙に三人が同時に動く。

 

「今度こそ!」

「これで!」

「終わりです!」

 

 背後上空から優一郎、左横から鬼籍王を呼び戻した君月、右横からシノア。

 三人が同時に仕掛ける。

 普通ならこれで終わりだ。三方向からの同時攻撃に対処出来る者はそうそういない。

 

「冗談だろ……」

 

 しかし今回は例外だったらしい。

 優一郎と君月の攻撃は、刀を握る右手を頭上に掲げ、下に傾ける格好で受け止められた。その刀は、刃渡り二メートル近くまで延長(・・)していた。

 首を狙ったシノアの四鎌童子は、左手の中指と人差し指で摘んで止められている。

 

「ほれ、攻撃が失敗したのならとっとと動かぬか」

 

 摘まんだ鎌を引っ張り、刀を大振りに振るう。それによってシノアは放り投げられ、二人は弾き飛ばされた。

 

「娘子は鎌が大振りな分、攻撃のタイミングがズレておる。他より早く行動した方がよい。後は──」

「天字竜! 皆を守れ!」

 

 吸血鬼の周りを三体の鬼が取り囲む。三葉の天字竜だ。

 取り囲まれた吸血鬼は鬼を見て、

 

「複数の鬼を出し、操る能力。利便性は高そうじゃが、使用法がワンパターンじゃ」

 

 足元の地面に刀を突き立てる。次の瞬間、三体の鬼の真下から無数の刃が飛び出し、鬼をズタズタに切り裂いた。三体全部が霧散する。

 

「んな……ッ」

「使い方をもう少し学ぶがよい。考えればバリエーションは多いはずじゃ。さて次は──」

 

 吸血鬼の姿が消える。一瞬の後、そこへ与一の矢が炸裂した。

 

「どこに……ッ!」

「ふむふむ、うぬの弓の腕は中々じゃ。エリアス程ではないが、将来有望じゃの」

「うわ⁉︎」

 

 吸血鬼の姿を見失ったのも束の間。声は与一の真横からだった。

 金の瞳が与一を覗き込む。

 

「矢の弾道が素直過ぎる。それではいくら速くとも、上位の者には見切られてしまうぞ。弾道操作でも身に付けるがよい。意思は強そうじゃから問題ないじゃろ」

「あ……」

「与一から離れろ!」

 

 優一郎と君月が両側から仕掛ける。

 だが再び吸血鬼の姿が消え、二人の攻撃は空を切るに終わった。

 

「今度はどこに……」

「上です! 避け──」

「遅い」

 

 シノアが叫ぶが、遅かった。

 吸血鬼が刀を振るい、斬撃が放たれる。

 狙われたのは、君月と優一郎の間の地面。瞬間、地面は粉砕され、周囲に衝撃波が発生した。

 

 発生した衝撃波によって優一郎と君月は左右に吹き飛ばされ、与一も余波で背中から倒れ込む。

 その場にシノアと三葉しか、戦える者がいなくなってしまった。

 吸血鬼は明らかに手加減している。戦闘開始からまだ二分半。もし本気だったら、自分達はいったい何度全滅しているだろう。

 

「優さん! 君月さ──」

「意識を敵から逸らしてはいかんぞ。うぬが指揮官なら尚更じゃ」

「え……」

 

 ほんの一瞬だった。意識をダウンした三人に向けたのは。

 だがその一瞬で目の前に現れて、首筋に刃を添えられていた。

 

 死ぬ。明確な死を幻視して思わず目を瞑る。

 

「やはりまだまだ青いの。個々の力は高いが、連携が出来ておらん」

「…………え?」

「各々の短所を補い合い、長所を活かし合う。それが連携の基本にして極致。うぬらの連携は上辺だけじゃ」

「…………はい?」

「しかし、成長の余地は十分。これから経験を積んで学ぶがよい」

「……貴女は、何を言ってるんですか?」

 

 だが殺されず、血も吸われない。刃は未だ添えられたままだが、刃を引く様子もない。

 それどころか自分達の戦闘の問題点を指摘している。

 

「貴女は、吸血鬼ですよね?」

 

 だからこう聞くのも仕方がないだろう。

 

「む? 今更じゃな」

「ではなぜ私達を殺さないのですか? 私達は人間ですよ?」

「だから何だと言いたいところじゃが、先に仕掛けてきたのはうぬらじゃろうて。最近の童は血の気が多いの。わしは待てと言うたはずじゃぞ?」

「…………」

 

 言われてみればそうだったような。

 今思えば、目の前の吸血鬼はこちらを殺す気はなかったらしい。

 彼女の攻撃はどれも自分達が耐えられる程度の威力であり、絶対に避けられない攻撃はしてこなかった。

 

「ふざけんなよ! 何が待てだ! お前は吸血鬼なんだろ!」

 

 しかし納得出来ない者もいる。優一郎だ。

 優一郎は家族を吸血鬼に殺されており、吸血鬼に対して並々ならぬ憎悪を抱いている。

 吸血鬼の殲滅。それこそが優一郎の目的なのだ。

 

「随分と吸血鬼を憎んでおるようじゃの。こうも人間から憎悪を向けられるのも久しぶりじゃ」

 

 そんな優一郎を見て吸血鬼は、シノアから刀を離した。「去れ(アベアット)」と唱え刀が元のカードに戻る。

 シノアが怪訝な表情となる。

 

「何のつもりですか?」

「最初から言っておろう。わしはうぬらと事を構える気はありはせん。うぬらが攻撃してきた故に対処しただけじゃ」

「それを信じろと?」

「どちらでもよい。うぬの好きにするがいい。わしは行くぞ」

 

 吸血鬼が踵を返し、ガードレールの方へ歩き出す。

 優一郎が阿朱羅丸を構えたが、シノアが視線でそれを制した。

 勝てないのは明白であり、何時でも自分達を殺せた。

 敢えてそれをしないのは興味がないからなのか、それとも別の目的があるのか。

 

 シノアは迷った。

 このまま逃せば帝鬼軍が動いている事が暴露るかもしれない。だが自分達で挑んでも勝てる相手ではなく、全滅は必至だ。それでは無駄死にである。

 

 そんなシノアの迷いを読んだかの様に吸血鬼が言ってきた。

 

「心配せんでいい。うぬらの事を言うつもりはない。わしらの目的はうぬら人間ではない。目的は別にある。日本の吸血鬼がどうなろうと知った事ではないしの」

「それこそ信じられませんね」

「じゃろうな。予定が狂っても面倒じゃし、ならば信用できるようにわしらの情報を与えよう」

 

 歩みを止め、シノア達に振り返る。

 そして見た目通りに優雅な一礼の後、言った。

 

「わしの名はキスショット=E(イヴ)・マクダウェル。アメリカを治める第一位始祖、我が主アークライト=カイン・マクダウェルの眷属にして第二位始祖じゃ」

「第二位……ッ!」

 

 予想以上の大物だったらしい。かつて遭遇した第十三位始祖よりも圧倒的に上の存在だ。

 何より日本以外の始祖。帝鬼軍にとっては相当な情報である。

 

「これだけでも十分に貴重な情報だと思うがの」

「……分かりました」

「シノア⁉︎」

「黙っててください優さん。指揮官は私です。どちらにしろ私達に貴女をどうこうする事は出来ません」

「賢明な判断じゃ。日本の組織は狂信的と聞いていたが、そうでもないようじゃの」

 

 再び歩み出す。

 そしてガードレールの上に飛び乗ると最後に言った。

 

「さらばじゃ童共。精々精進するがよい。戦場で会わぬようにな」

 

 それだけ言って姿が消える。

 

 どっと疲れが襲ってきてシノア、三葉、与一がその場にへたり込んだ。

 シノアにいたっては息を荒げている。優一郎が駆け寄った。

 

「だ、大丈夫かシノア⁉︎」

「大丈夫なわけありませんよ。こんなところであんな大物と出会うなんて予想外もいいところです。でも、休んでいる暇はありません」

「ああ、すぐに出発するぞ。時間もないし、この事を中佐に報告しないと」

 

 シノア、続いて三葉も立ち上がった。

 更に与一も立ち上がり、自然と全員が黙ったまま車に乗る。

 君月も無言でエンジンをかけ、車を出す。

 暫く進むとシノアが切り出した。

 

「今回で私達の問題点が分かりました。私達はまだまだ連携がなっていない」

「吸血鬼に教えられたのが癪だけどな」

「あはは、確かに皮肉だね。でもあの吸血鬼、これまでの吸血鬼とは全然違ったね。強さもそうだけど、何というか……」

「俺たち人間を侮っても見下してもいなかった」

「ああ、そうだ。あいつの言葉を信じるなら、あいつは他国の吸血鬼。それがなぜ日本に……」

「私達があれやこれや考えても仕方がありません。ひとまず海老名サービスエリアに急ぎましょう。グレン中佐に指示を仰ぎますから」

「そういやさ……」

 

 優一郎が時計を取り出して時間を見る。

 

「このまま行って集合時間まで間に合うのか?」

「お…怒られるかな?」

 

 与一が不安そうに言った。シノアが答える。

 

「敵と交戦してますので大丈夫だと思いますが、五分五分ですかね。今回の場合、私達は無視すればあちらも素通りさせてくれたみたいですから」

「その辺も含めてグレン中佐次第だ」

 

 三葉が締めくくる。

 今度は君月がシノアに聞いてきた。

 

「おいシノア。そういえばなんで海老名に向かってんだ?」

「あれ、私言ってませんでしたっけ?」

「言ってない。お前は大切な事はなんにも言わないからな」

 

 君月の嫌みにシノアは笑みを返す。

 

「じゃあ今説明しますね。今回の目的は──」

 

 シノアの説明が始まる中、海老名に向けて速度を上げるのだった。

 




後書き書くの忘れてました。
今回の経緯や日本への出発前の事は次回で。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。