やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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誕生日間に合った……。
これより睡眠に入ります。
次回の平塚先生回で夏の話は終わりです。
その後は時間が飛んだりとばなかったりで
少し毛色が違う話になりそうです。


第12話:酒を飲んだ大学生ほど迷惑な生き物はいない。

 

 

 

目が覚めると見知らぬ天井が見えた。

何時もの部屋の汚い天井ではない。豪華なシャンデリアのついた、いまだかつて見た事のない立派な天井だった。時計はなく、空調は寒いぐらいに効いており、分厚い布団をかぶっていても暑くない。そこで違和感に気づいた。あれ、これ俺もしかして全裸じゃない? 流石に服を脱いで寝る習慣はない。毎晩パンツにTシャツという男のスタイルだ。ここはどこだろうと考え始めると、非常に頭が痛い。そういえば、昨日は俺の誕生日パーティーをやったのだった。沙希が企画し、大魔王が盆休み前で忙しいのになんて日に生まれてるのよとのたまいながら金を大目に出し、義輝と隼人は主賓そっちのけで飯を食っていたような気がする。全く祝われてないよねこれ。その後も一色達も来てそれなりに騒がしくなり、誰かが持ってきたフィリピンの変な酒を飲んでから色々とおかしくなった記憶がある。何はともあれ、状況を確認しないといけないと首を動かすと、

 

「……!?」

 

 俺の隣に誰かが寝ている。あまりの驚きに大声を上げそうになったのを何とか堪えた。え? 俺マジで何やっちゃってるの? ナニをヤっちゃったの? 記憶がないのに? 卒業しちゃったの? 綺麗で長い黒髪だ。純黒といってもいいだろう。顔や体は布団で覆われて見えない。頭だけがぴょこんと出ている感じだ。とりあえず、黒髪なので一色ではない。セーフ。となると、陽乃さんか沙希なのだろうか。戸塚ではないのが残念でならない。っていうかそんな事を考えている場合ではない。何で俺が見知らぬ女と見知らぬ部屋で全裸で寝ているのかというのかが問題だ。

 

(迂闊に動けねぇぞこれ……)

 

 どうにかこうにかしないと社会的に死ぬのはわかっている。すると、相手が寝返りを打ったのか俺の手に相手の尻が当たった。もちもちとしていてそれなりに筋肉もあるようで、何より手触りがすべすべだ。これは不可抗力であろう。俺は手を動かしていない。むこうから尻を触らせたのだ。間違いなく痴漢は向こうである。俺は悪くない。しばらく尻の感触を楽んだ後で、これはいかんと再び我に返った。……覚悟を決め、ぐっと布団をめくった。願わくば、寝ているのは大魔王でドッキリ成功とか言ってほしい。が──

 

 

「………………」

 

 

 布団の下では幸せそうな顔をした戸部が寝ていた。あぁ、戸部で良かった。…………いや、全くよくねぇよこれ。俺、こいつの尻触って楽しんでいた事になるじゃねぇかよ。

 …………忘れよう。幸い、こいつも寝ている事だしな。ベッドから起きて周囲を散策すると、きちんと衣服が畳まれて置いてあった。横には戸部の分もある。

 ケータイもある。財布はどうせ対して中身入ってないからどうでもいいや。ポケットから煙草を取り出し、火をつけて思考を巡らす。……駄目だ。二日酔いで何も思い出せない。

 そのままシャワーを浴びて再び部屋に戻ってくると、戸部が起きていた。

 

「あれ? ヒキタニ君? 何でここにいるの? 姫菜に呼ばれた?」

 

「お前の彼女なんか知らん。昨日も来てなかっただろ」

 

「昨日?」

 

 戸部がうんうんと考え始め、ようやく合点がいったかのように手をポンと打った。普段頭を使ってないから中々起動が遅いらしい。windows98か。

 

「確か昨日、ヒキタニ君ちで飲んでたんだよな。誰かの誕生日パーティーだかなんだかで」

 

 俺のだよ。……どいつもこいつも昨日何しにきたの? 

 

「そんでー。いろはすが誰かの酒飲んで悪酔いして暴れ始めてー。その後……うーん。思い出せねぇわこれ」

 

「一色が暴れたのか?」

 

「確かなー。そんで、何で俺とヒキタニ君がこんなとこいるの? 見た感じ、ここラブホだけど」

 

「知るかよ。……家の状態も心配だし、とっとと出るぞ。だらだらしてっと、金もいくら請求されっかわかんねぇしな」

 

「ああ、平気平気。ここのラブホ。前払いだから」

 

「へぇ…………つかお前何で黒髪になってんの?」

 

「いやさー。俺らもそろそろ就活じゃん? ここらで一気にビッとキめようと思ってさー」

 

 戸部はこのラブホに来た事があるらしい事と黒髪にした理由。クソどうでもいい情報を得た。そのお陰か、すんなりとラブホを出る事ができ、俺は自分が今どこにいるのかようやくわかった。

 この前行った風俗店の近くのラブホだ。外観が珍しいからよくわかる。そのまま家に帰ろうとすると、戸部に首をひっつかまれて、いきなり物陰に引き込まれた。……しまった。

 こいつ海老名さんと付き合った影響でまさのとべはちに目覚め──

 

「ヒキタニ君。見てみて。あそこ!」

 

 耳元で話しかけられくすぐったい。どこでそんなスキル身につけたの? 戸部が目線で示した方向にはもう一つラブホがあった。そこから、隼人と女が1人出てきた。

 あいつマジで何なの? わざわざ俺の誕生日パーティーで女の子をお持ち帰りしたの? 今までの無駄な縛りプレイ大学生活はなんだったの?

 

「……っべー。ついに隼人君に彼女できちゃったかぁ。マジで優美子どうすんだろ……」

 

「でもあの服どっかで見た事あんだよな」

 

「そういや……。あれ、いろはすが昨日着てた服じゃね? でも、どうみてもいろはすじゃないしなぁ」

 

「あいつの3倍は可愛いぞあの女の子……」

 

 一色もまぁ、可愛い方だが隼人が連れている女の子は桁が違う。俺も思わず一目ぼれしてしまいそうな勢いの美少女だった。すると、隼人がこちらに気づき手を振ってきた。相変わらず目ざとい男である。つかお前、ラブホから出てきた所で俺達に手を振るとかどんだけデリカシーないの? 

 

「おはよう。お前らも、無事だったみたいだな」

 

「無事ってどういう事だよリア充。俺の童貞が無事かって話かよコラ」

 

「何で喧嘩腰なんだお前……。昨日は皆酔っ払って家から出た奴らもいたからな。皆無事だといいんだけど……」

 

 どうやら昨日は相当に酷い状態だったらしい。すると、隼人の後ろ居た美少女も満面の笑みで、

 

「とりあえず戸部君も八幡も無事で良かったよぉ。2人して自転車乗ってどっかいっちゃったからさ」

 

「こ、この声……」

 

「まさか……」

 

 俺達の反応に、彼女──戸塚彩加は少し顔を赤らめ、腕で体を抱くようにした。

 

「ああ、うん。僕だよ。なんだかウイッグとかつけられちゃったけどさ。でもこれ、八幡の所為なんだからね?」

 

 何をやらかした昨日の俺。でも最高にグッジョブ。

 

「お前がいろはより戸塚の方が可愛いって言いまくったからいろはが怒って彩加を女装させたんだよ。……まぁ、本人も女装させて完全に打ちのめされてたけどな」

 

「あの身の程知らずめ……」

 

「八幡!? 流石に、一色さんが可哀想だよ!?」

 

 何はともあれ昨日の状況がわかってきた。どうやら全員酔っ払って相当暴れたらしい。後誰がいたっけかなーなんて思い出しながら、とりあえずは家路につく事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戸部は海老名さんに会いに行くというので、俺と隼人と彩加ちゃんで連れ立って歩く事になった。いや、マジでこの2人と歩くの本当に嫌。美少女にイケメンと目が死んだゾンビだぜ? 隼人がどこかに消滅してくれないかなぁ。それなら耐えられるのに。

 

「とりあえず、全員の記憶を頼りにすると、昨日あの場に居たのは、この3人以外だと戸部君、雪ノ下さん、沙希ちゃん。一色さんに義輝でいいよね?」

 

「所在不明は4人か……。下手すると義輝死んでるかもな」

 

「ああ、あの3人のどれに触れても社会的に抹殺されるからな……」

 

「よ、義輝はそんな事しないよ……」

 

 大魔王は自分で何とかするだろうし、しててほしいし問題は一色と沙希か。義輝はどうでもいいや。男だし何とかなるだろう。誰も携帯電話に電話をかけても出ないので全員意識がないか気づいてないか無くしたかだ。仕方がないのでだれだらと歩いていると珍しく我が家の前に子供達が居るのが見えた。近所の悪ガキ共だ。義輝の事を何故か先生と慕って、隼人をお兄ちゃんと呼び、何故か俺の事だけ八幡呼ばわりする忌々しい生き物達だが今日はもじもじしている。

 

「よぉ、お前ら。どうかしたか?」

 

 隼人が優しく声をかけると、ガキ共は顔を赤らめて庭を指差すと走って逃げていってしまった。その先には我が家の庭があり、バイト先から貰ってきたビニールプールがある。金がない時は川から水を汲んできて風呂代わりにするのだ。そこに一色が大股を広げて寝ていた。こいつも黙っていれば可愛いのだ。小学生達には少し刺激的だったのかもしれない。幸せそうにいびきをかいて寝ている一色を起こすのは忍びないので、俺達は無視して家に上がった。

 

「ちょっと八幡!? 一色さん起こしてあげないの?」

 

「夏だし平気だろ。パンツだけ見えねぇようにタオルかけといてやってくれ」

 

「そうだな。それよりも中が酷いな……」

 

 居間の真ん中で顔面が生クリームまみれになって寝ている女が居た。顔の判別ができないが、髪の長さからいって沙希だろう。俺の誕生日ケーキ……。流石に面白いので沙希だけはそのままにして、散らかった部屋を片付け始めた。食べ物を片付けて、隼人と分担して皿洗いもしていると、廊下から大魔王が現れた。

 

「おはよー……」

 

 流石に昨日呑み過ぎたのかキリっとしていない。それどころか、眉毛がマジックで太くかかれており、額にも大きく「鉄仮面」と書いてある。

 

「──ッ!」

 

 隼人が噴出しそうになっているのを蹴って諌める。大魔王も相当面白い事になっているのでこのまま暫く様子を見たい。

 

「ねぇ、この家鏡ないの? 私、この後昼から電車乗って会議でなきゃいけないんだけど。化粧道具持ってきてないし、顔は洗ったけど流石にすっぴんで会社行くのはなぁ……」

 

「陽乃さん。それで化粧してないの? 全然、何時もみたいに凛々しいけどね」

 

 状況を理解した隼人がそ知らぬ顔で言いのけた。俺はこのままでは笑いを堪えきれないので大魔王から視線を外して何とか耐える事にした。

 

「へー。そう? まぁ、私美人だからね」

 

 太い眉毛のまま鉄仮面陽乃さんはニヤリと笑った。勘弁して欲しい。あまりの辛さに涙まで出てきた。

 

「そういえば、八幡。誕生日おめでとう。昨日は楽しかったね」

 

「……は、はい。ありがとうございます」

 

「やだ。八幡ったら泣いちゃってるの? まぁ、君は誕生日会とか経験なさそうだもんねぇ。これが、人に祝われるって事よ。覚えておきなさい」

 

「うっす。……は、陽乃さん。のんびりしてていいんですか?」

 

「そうね。そろそろ行こうかな。駅で少し化粧道具買ってから行くかな。面倒くさいけど」

 

「はい。行ってらっしゃい」

 

 何とか笑いを堪えながら魔王を送り出すと俺と隼人は一頻りゲラゲラと笑った。どのツラ下げて駅まで行くのか非常に楽しみである。そして、俺と隼人の笑い声で目覚めたのか、外から一色の泣くような悲鳴と、沙希がバタバタ走り回っている音が聞こえた。彩加には朝食の買出しに行って貰っている。なんだかんだで楽しい誕生日会だった。こんなに笑ったのは久しぶりだろう。来年もし仮に祝ってもらえるのだとしたら、またこんな馬鹿騒ぎができれば、おめでてとうと言われなくてもそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………あれ、そういえば義輝は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー午前10時35分。被疑者確保。昨日、この辺りで喧嘩していた外国人含む多国籍グループの一味だと思われます」

 

「Che palle! Ti rompo il culo!!」

 

「Don’t give a fuck with me!!」

 

「は、はちまあああああああああああああああん!!!!」

 

「Shut up!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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