やはり俺が護廷十三隊隊士なのは間違っている。   作:デーブ

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第九話 比企谷八幡は任務を完了する。

 

 

 

「なん・・・だと・・・」

 

玉虚は仮面の奥の目を見開き、突如現れた死神を見る。

比企谷八幡。隠密行動を得意とするあの中位席官は、雑魚虚共の物量突撃によって動きを封じられている筈だった。

 

それが、どういう訳か自分たちの後ろにいて、あまつ、人質を全員解放している。

これでは死神側に出した行動の制限制約が意味をなさない。

 

『何故・・・ッ!』

 

苦虫をすりつぶした様な声で唸り、玉虚は比企谷が押しつぶされている筈の雑魚虚の小山を見た。

 

――――何故あそこから脱出出来た⁉ 虚の数は減っていない・・・! なぎ倒されてすらいないのに、どうして・・・

 

しかし、次の瞬間、虚の山が黒い影に浸食され薙ぎ払われる光景を目にする。

その光景に全てを察した。

 

『まさか・・、最初に突っ込んできた影の分身は、影を身に纏ったオリジナル・・・!』

 

そう、あれは分身では無く比企谷本人。影を纏わらせ、自身を分身に見立てたのだ。

何故そんな事をしたのかは、虚共の後ろを取る為以外にない。分身に化けて虚と交戦し、上手い事後ろに吹っ飛ばされて倒されたように見せたのだ。

そして、まんまと人質を解放してみせた。

これで、雪ノ下に対する動くなという制約は白紙だ。恐らくこれから、一気に状況が変わる。

 

『貴様ぁぁぁ!』

 

玉付虚が激昂した。それに呼応する様に、人質を取っていた虚たち、つまり、比企谷の周囲にいる個体が彼に凶刃を振り下ろす。

 

「くッ」

 

苦々しい顔で仕打ちをする比企谷。流石に、人質を助け出した直後では攻撃に反応できない。

 

―――ま、救出時に傷を負うのは想定済みだ。このぐらいは甘んじて受けよう

 

そう身構えた時、鼓膜に何かが弾かれた音が飛び込んでくる。

目を開けると、自分に放たれていた凶刃が、九席の手によって防がれていた。

 

「お、お前・・・」

「勘違いしないでいただきたい。これ以上貴方に借りを作るつもりはない」

 

ツンデレの様な台詞を吐いた九席は、己の部下たちに指示を飛ばした。

 

「刀を構えろ呂久! 釘峯! 比企谷八席を守護しつつ五席の元へゆくぞ!」

「「はい!」」

 

上司の命令と、解放された恩赦からか、下位席官二人の返事も明るい。

士気が高まり猛攻を繰り広げる死神たちに虚の数は急激に減って行った。

その様子に、玉付きは苛立ち気な声を上げる。

 

『チィ! むざむざに合流させると思うか⁉ 絶対にそいつらを通すな! 先に雪ノ下雪乃を片付ける!』

 

「あら、誰を片付けるですって?」

 

凛とした氷の声に振り返る。

顔を伏せ、剣を前方に構えた雪ノ下の姿が目に映った。

 

『はッ、強がるな! お前の体力はもう限界―――』

「ええ、そうね」

 

虚の声を遮る様に氷の令嬢は言葉を紡ぐ。

 

「もう立っているのもやっとよ。これ以上長引けば私はもう戦えないでしょう・・・」

 

虚は口を挟めなかった。彼女の言葉に戦慄しているのではない。彼女からゆらりと放たれ始めた霊圧のデカさに戦慄しているのだ。

その霊圧は、無数の虚によって阻まれた先にいる比企谷達にも届いていた。

 

「す、すげえ・・・、これが雪ノ下五席の全力・・・」

「なんて霊圧だ・・・」

 

感嘆の声を上げる呂久と釘宮。中位席官である九席も、彼女の凄まじ過ぎる霊気に圧倒されている様だ。勿論、比企谷も例外では無い。

 

「・・・んだよ、やっぱりバケモンじゃねぇか・・・」

 

頬に冷汗が流れている事にも気付かず、またそう発言する意思もなく、それでも比企谷の口から、そんな言葉が零れ出た。

だが、今度のは、明確な意思を持って放たれた言葉だ。

 

「全員、霊圧を最大まで高めろ」

「え?」

 

という声を無視して、比企谷は続ける。

 

「多分次の五席の攻撃は今までで最大レベルのモノだ。俺達もそれに合わせる。これで虚共を一掃するんだ」

 

雪ノ下はもう相当量の体力を持っていかれている。加えて、直前には霊力を奪い取る虚とも交戦していた。恐らく次が最後の攻撃になるだろう。

そして、野郎共も長時間にわたる虚との戦闘で疲弊している。次の一撃で決めると言う比企谷の指示に、異を唱える者はいなかった。

 

雪ノ下霊圧上昇に合わせる様に、自分たちの力も解放してゆく。一遍の霊力も無駄にしない様に高めた霊圧を斬魄刀に注ぎ込み、彼女が動くのを待つ。

 

そんな中、死神達が最大攻撃を繰り出そうとしている事など梅雨知らず、玉虚は雪ノ下の霊圧上昇に狼狽していた。

 

『な、なんだこの馬鹿デカイ霊圧は⁉ 森で戦った時はこんな・・・・』

「あの時は、まだ、貴方たちの数が底知れなかったから力を温存していたのよ。でも、もうその必要はないでしょう?」

 

言い切った瞬間、雪ノ下の霊圧が爆発した。彼女の刀に、凄まじい冷気を帯びた吹雪が渦巻く。

 

『くっ!』

 

大地を蹴り、反射的に飛び退く虚。

しかし雪ノ下は焦る事なく虚に告げた。

 

「遅い」

 

そして、突風じみた吹雪の渦が放たれる。スピード、規模、ともに凄まじく避けきれない。このままではやられる。

 

『オイ! 何体か俺の盾に・・・・』

 

配下の虚にそう叫んだ刹那、玉付虚は見た。他の虚たちを乱暴に巻き込みながら、此方に迫って来る霊圧の塊を。

 

『なッ、なんだとォ⁉』

 

前方、後方からの攻撃。挟み撃ちだ。これでは避けられない。

そして、雪ノ下の攻撃だけでも自身が耐えきれるか微妙な所であるのに、加えて、八席、九席、十七席、十九席の混合攻撃となると・・・・。

 

早い話、虚が生存していられる可能性は皆無だった。

 

ジ・エンド。自分の死期を明確に悟り、虚の口からは止めどない断末魔が迸る。

 

『くそ、くそッ、くそッックソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼』

 

そして、その断末魔も虚しいかな、攻撃の轟音に一瞬にしてかき消された。二つの攻撃が衝突し、衝撃が空気を揺らす。

煙が晴れ、現れた夜空には、最早虚の痕跡は欠片も残っていなかった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おお、終わった終わった。イヤー強いなぁ。流石陽乃チャンの妹サンや」

 

カタカタと笑うのは市丸ギン。

護廷十三隊の三番隊隊長だ。何故そんな重鎮がこんな所に来ているのか? 勿論、十三隊から正式に命を受けて来たわけでは無い。

彼は、表向きは同僚となっている自分の上司の命を受け、この村に訪れたのだ。

 

目的は、虚にのみ作用し、千差万別の力を与える神器・祇御珠の回収とその祇御珠を唯一扱える存在、『適合者』を見つける事。

そして、市丸はその両方の目的を達した。

 

祇御珠は今、雪ノ下雪乃が持っている。このまま瀞霊廷に運ばれ、管理される事になるだろう。

適合者の方も同様だ。この村にもう彼女以外の者はいない。鶴見留美が適合者であると知らない雪ノ下や比企谷達もとりあえずは瀞霊廷に連れ帰る筈だ。そのまま留美が瀞霊廷に住まう事になるかは分からないが、少なくとも管理下に置く事はできるだろう。

 

つまり、比企谷達と虚共の戦いを見届けた市丸は、もうここにとどまる理由も、無理に留美にちょっかいを出す理由もないと言う事になる。

しかし、それでも留美は市丸ギンに対し未だに恐怖を感じていた。

実際彼に何かされた訳では無いが、彼の放つ独特の雰囲気が恐怖心を掻きたてるのだろう。

 

「さてと、ボクはそろそろ帰るわ。もうあの子らも戻って来るやろうし」

 

言って、結界から離れ、市丸は留美に背を向ける。

留美がホッとしたのも束の間

 

「あ、そうそう」

 

と、再び、あの緊張させる声が。ビクッと顔を上げると、市丸は愉しそうに一言口添えする。

 

「今日、ボクがここにいた事は秘密や。誰にも言ったらあかんで。もし言ったら・・・」

 

その続きは敢えて口にはしなかった。そして、口にしなくても留美には十分伝わっている。霊圧の震えでその事が分かったのだろう。

市丸は今度こそ踵を返して去って行った。

 

「ほんならおおきに。また会おうな、留美チャン」

 

残された嫌な空気に、留美は結界越しに寒気を感じて肩を抱えた。

しかし、その寒気を吹き飛ばす暖かな声が。

 

「留美!」

 

そう言って駆け寄って来たのは、自身が初めてまともに触れ合った死神・比企谷八幡だった。彼に続く様に雪ノ下雪乃。あと良くは知らないが他三名の死神たちも此方に向かって来ている。

 

「ハチマン・・・!」

「無事みたいだな」

 

そう微笑む彼の顔を見て、漸く市丸がもたらした緊張の糸が完全に途切れた気がした。

ホッとしたせいで涙が零れそうになる。でも、どうにかソレを堪えて留美は憎まれ口を叩いた。

 

「結界があるんだから当然でしょ。ハチマン達こそ大丈夫なの?」

 

その問いに答えたのは雪ノ下だ。留美に張った結界を解除しつつ苦笑する。

 

「とても無事とは言い難いわね。皆かなりのダメージを負ったわ」

「・・・・」

 

申し訳なさそうな顔をする留美に、雪ノ下は優しく微笑みかけた。

 

「でも、皆こうして生きている」

「ま、あんだけ虚いて損害ゼロで勝てたんだから上等でしょ。良い夢見れそうなんでとっとと瀞霊廷に戻りましょうや」

 

比企谷が頭をボリボリ掻きながら放った言葉に、雪ノ下を含む全死神達が賛成の意をします。

 

「そうね。報告もしなければならないし、いつまでも此処にいる理由はないわ」

「え?」

 

急に帰り出そうとする彼等に、留美は動揺を隠せなかった。

このまま死神たちが帰ったら自分はどうなるのだろうか・・・? 一人に、なるのだろうか・・・。

そう思うと、一気に目の前が真っ暗になった。

だから、彼女は一瞬、自分に掛けられた声を聞き逃す。

 

「・・・み、留美!」

「え?」

 

ビックリして顔を上げると、胡乱そうな比企谷の顔があり、再び胸を締め付けられる。が、次に放たれた言葉によって自分の想像が杞憂である事を知った。

 

「何してんだ。早く行くぞ。八幡もうヘロヘロなんだよ」

「え?」

「ほら」

 

っと、戸惑う留美の手を引っ張り、比企谷は少し先の雪ノ下らと合流する。すると、彼女は冷たい目で比企谷を見た後、留美に鬼気迫る声で告げた。

 

「鶴見さん。身の危険を感じたらすぐに私に言うのよ」

「おい・・・」

「何か不満があるのかしら? 知らない様だから教えておくけど、一般的観点から見ると、今の貴方は誘拐犯かロリコン変質者よ」

「フン、勘違いしないで下さいよ。俺はロリコンじゃなくて、シスコンです。勿論妹限定」

「鶴見さん。今すぐその男から離れなさい」

 

聞きようによっては結構ヤバい事を堂々と口走る比企谷八幡。そんな彼に頭痛を感じる雪ノ下雪乃。

 

留美は彼等に、小さい声で聞いた。

 

「いいの? 一緒に行って・・・」

 

そのか細い声に、比企谷が、留美の背中をパァーンと叩く。

 

「い、いきなり何―――」

 

そして、苦言を呈する留美の言葉を遮り、ハッキリと言った。

 

「良いに決まってんだろ」

「!」

 

それっきり、気まずいのかプイッと前を向いたままの比企谷の顔を、留美は茫然と見つめる。

 

そして、彼の言葉が冷え切った身体に、心に、魂に染み込み、みるみる内に凍り付いた全てを溶かした。溶けだした氷は水となって留美の身体を駆けあがり、両目から大量の雫となって溢れ出る。

 

虚の村に囚われ、しかしどうする事も出来なかった少女の涙を、死神たちは泣きやむまで見守っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

瀞霊廷

護廷十三隊六番隊隊舎

 

 

あの任務から三日がたった。

俺と雪ノ下は霊力や体力の消耗は激しかったものの、特に大きな怪我は負っていなかったおかげで一日の療養で現場に復帰する事が出来た。報告書等の事後処理を終え、漸く、通常業務に戻って来たと言える。

 

「相変わらず人来ねぇなぁ・・・」

 

机で書類の処理をしながらボソッと呟くと、横から氷の様な声が。

 

「何か問題があるのかしら?」

「い、いえ・・」

 

怖ェよ声が。あと目も。ごめんなさい、殆ど無意識だったんで見逃してください。それに、俺は人が来ないこの奉仕部が大好きです! だって暇だし!

そんな俺の祈りが通じたのか、雪ノ下はブリザード・アイを解く。そして、口を開いた。

 

「そういえば、今日ね」

「・・・ええ」

 

雪ノ下の言う事に、俺は心当たりがある。今日は留美が流魂街の地に戻される日だから、その事を言っているのだろう。

 

勿論、戻るのは元いた村にではない。もっと瀞霊廷に近く、また十三隊が素性を把握している者の所へ引き取られる事になったのだ。確か、十番隊の日番谷隊長と、五番隊の雛森副隊長の育て親の所だった筈。

 

このまま瀞霊廷に置いておけば十二番隊の涅隊長に目を付けられる可能性もあるし、そもそも留美は死神では無いのだ。流魂街で暮らすのが自然な形だろう。

 

「もう昼近いし、流石に出発しましたかね?」

「どうかしら・・・。あの子、信じられないけど貴方に妙に懐いていたから、出発前に顔を見せるんじゃないかしら」

 

いや、信じられないは余計だから。

それに、顔を見せるか・・・。実際どうなのかしら? まあ、わざわざ最後に遭いに来てくれるというのは嬉しくない訳では無いが、出発の都合というモノががる。融通が利くかどうかは分からない。

 

 

コンコン

 

 

突如、部屋の戸がノックされた。

え? もしかして、マジで留美来た? なんて思っていると、雪ノ下が「どうぞ」と声を掛ける。

 

その声に従い、開いたドアから姿を現したのは、俺達の予想に反した人物であり、また、俺達に緊張を走らせるほど高位の死神だった。

 

「ひ、日番谷隊長・・・⁉ 」

 

とんでもないVIPの登場に、俺は少し声が上ずる。雪ノ下も、他隊の隊長の登場に少なからず動揺している様だった。

 

「ど、どうして日番谷隊長がこちらに?」

「・・・お前等に会いたいと言う奴がいてな」

 

雪ノ下の問いにそう応えると、日番谷隊長は、とある人物を部屋に通す。

そいつは、俺達が良く知っている顔だった。

 

「留美・・・?」

「こんにちは、ハチマン」

 

現れた留美に、俺は驚きながらも近寄る。すると、留美はこう言うのだった。

 

「もう、出発するから、その前に二人に会いたくて」

「お、おう、そうか・・・」

 

コイツ・・・嬉しい事を・・・(感涙)。 やべ、マジでロリコンに目覚めそう。

 

「ほら、私の言った通りでしょ?」

 

等とドヤる雪ノ下を無視し、俺はクールに話しかける。

 

「向こうでも良い子にしてるんだぞ」

「うん」

 

頷くと、留美は少し言いづらそうにモジモジした。その後、改めて俺や雪ノ下の顔をて。

 

「あの・・・、ありがとう」

「え?」

「今回の事、ハチマン達がいなかったら私は多分死んでた。でもハチマン達が助けてくれた。だからありがとう」

 

留美は笑顔でそう言った。花の咲くような笑顔を見て、さっきまでロリコンに目覚めそうとか思っていた俺の邪な心が浄化される。本当に、見た者を優しい気持ちにさせる満点の笑顔だった。

その笑顔にあてられていると、留美は「それじゃあ」と手を軽くあげて、戸の方に向かって行った。

戸口で待機していた日番谷隊長が留美に訊く。

 

「もういいのか?」

「うん・・・」

「そうか」

 

留美と一言二言言葉を交わすと、日番谷隊長はもう一度此方を見る。出発すると思っていたのだが、何か用事があるのだろうか? まあ、あるとしたらどうせ雪ノ下にだ。俺は関係ないだろう。

 

「比企谷八幡」

 

なんて思っていた時期が俺にもありまし・・・・・て、俺ェェ⁉

な、なんで⁉ 俺隊長格に目を付けられるようなミスした覚えねえぞ! 勿論目に留まる様な活躍もな!

 

「別に説教しようってわけじゃねぇから安心しろ。ウチの隊員が面倒掛けたみたいだな。礼を言う」

 

それだけ言って、今度こそ日番谷隊長は留美を引き連れて去って行った。

う、ウチの隊員が迷惑・・・? ああ、葉山の事か。

良かった、怒られるわけじゃないんだ。てか、ビビってたのモロばれだったのね・・・。

 

「てか、なんで日番谷隊長が同伴してんだよ。扱い良すぎだろ留美の奴」

「確かにちょっと考えられない人選よね・・・」

 

雪ノ下が同意の言葉を口にした瞬間次なる来訪者が俺達の疑問の答えをもたらした。

 

「そりゃあ、ちょうど日番谷隊長が帰省するからだ。ついでだから自分が連れてくって申し出たらしいぜ」

 

そう言いながら現れたのは六番隊の阿散井副隊長だった。因みに彼が今回の任務を俺達に申し付けた張本人だったりする。

 

「いつになったらノックをしてくれるんですか・・・。というか、今のタイミング、盗み聞ぎでもしていたんですか?」

 

上官相手でも容赦ない雪ノ下の毒舌に、阿散井副隊長は「違えよ」と否定した。

 

「たまたま通りかかったら声が聞こえて来たんだよ。折角ねぎらってやろうと思ったのになんて事言いやがんだ」

「たまたま通りかかっただけなのに労う気があるだなんて、おかしな話ですね」

「ダーッ! メンドクセー! 揚げ足ばっか取りやがって・・・、おい比企谷! オメェもなんか言ってやれ!」

「え、あ、はい!」

 

おいおい、いきなり俺に振らないでくれよビックリするから・・・・。

てか、阿散井副隊長俺の事覚えてたの!? やばい、さっきから高官と接し過ぎてて身体が崩壊しそう。緊張で。

どんちゃん騒ぎをしている中・・・

 

「あのー」

 

なんて声がしていたみたいだが、俺達は一度目では気付けなかった。そして、本人曰く四度目の

 

「あのおおおおお!」

 

という大声で、漸く俺達の耳に声が届く。

 

振り向くと、開いた戸口に、明るい髪を団子状に束ねた、いかにもビッチ臭い死神が立っていた。

自身の声で引き起こされた静寂に尻込みしながらも、彼女は俺達に問う。

 

「あ、あの平塚五席に聞いて来たんですけど・・・。ここ、ほうしぶ? ってトコで合ってますか?」

 

おうふ・・・。奉仕部を求めてやって来たと言う事は・・・この人、奉仕部初の依頼者か・・・?

 

雪ノ下が彼女の問いに答える。

 

「ええ、そうよ」

「じゃあ、お願いしたら何でも叶えてくれるって本当!?」

「少し違うわね。私たちはあくまで依頼者の手伝いをするだけ。お腹を空かせている人に魚を釣ってあげるのではなく、つり方を教えてあげると言えば分かり易いかしら」

 

顔を輝かせた彼女に、氷の女王はピシャリと言い放った。そして、同時に放たれた例えに阿散井副隊長が声を漏らす。

 

「全く分かんねえ」

「奇遇ですね。俺もッス」

 

俺と副隊長の意見が一致しているのも気にせず、雪ノ下は彼女に言った。

 

「ようこそ奉仕部へ。それで、貴方の依頼はなんなのかしら?」

「あ、あの、私クッキー焼きたいんです!」

 

どうやらお菓子作りの手伝いが、彼女の依頼らしい。

 


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