バカと中華小娘とお姉さん   作:村雪

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 どうも、村雪です!

 さてさて、ついに学園祭編も最後の山場、召喚大会決勝戦を残すだけとなりました!今回の一回では終わらず、何度かにわたって話が続いていくと思いますが、あのコンビのどちらが勝つのか。戦闘描写には相変わらず自信がありませんが、少しでも楽しんでもらえればっ!

 あとこちらは事務報告でございまして、まだまだ大安心!とはいかないのですが文章が少し溜まってまいりましたので、とりあえず来週の火曜日、9月6日にも投稿をしてみようと思います。

再来週はどうなるかは分かりませんが、とりあえず来週は週2で出させてもらいますね。不規則ですみません!


 それでは、残りも少なくなってきました学園祭編、

――ごゆっくりお読みください。


入場―緊張、もありますが、やはり興奮が勝りますかね!

「おはようございまーす!」

 

「あ、おはようございます美鈴さん、妹紅ちゃん!」

 

「・・・・ん」

 

「おはよー、美鈴に妹紅。今日も頑張っていきましょ?」

 

「はい、頑張りましょう!」

 

「おお美鈴。今日も相変わらず元気だな~。さいきょーのチルノも顔真っ青だぜ」

 

「ふふん!よく分かってるじゃないまりさ!でも、アタイ髪の毛は青だけど顔は青じゃないのよさ?」

 

「いえいえチルノ。それは一つの比喩ですよ」

 

「ひゆ?」

 

 

 色々とバタバタ騒がしかった学園祭一日目の翌日。私はFクラスの教室に入ってそのまま女子の皆さんと会話をしていきますが、特に皆さんの様子に変わりありません。どうやら昨日の誘拐騒動のことはあまり気にしていないみたいですねー。

 

・・・まあ、勝手に騒いだり食べたり誘拐犯に注意したりでやりたい放題やっていた人たちなんですから、それで気にしてた方がおかしいですよねぇ。あの時はこのクラスの女子は肝っ玉がすごいというのがよ~く分かりました。

 

 

「おはようなのじゃ、紅」

 

「あ、おはようございます秀吉君。体調とかは大丈夫ですか?眠れなかったり、朝ごはんが喉を通らなかったりしてませんか?」

 

 

 秀吉君も昨日の誘拐騒動の被害者。男子とはいえ、心労となったのは変わりありません。

 

 

「む。心配してくれるのはありがたいが、大丈夫じゃ。今朝も普段と変わらずに朝を起きて、朝食を取ったのじゃ」

 

「そうですか?ならよかったです!」

 

「・・・男子の立場としては、―しが――しをしんぱ―し―かったのじゃがなぁ・・・」

 

「へ?」

 

 

 しんぱ?心配のことでしょうか?

 

 

「なんでもないのじゃ。それより、お主らは今日、召喚大会の決勝戦があるのじゃな」

 

「あ、はい。吉井君達と勝負ですよ!」

 

 

 決勝戦の時間は午後の一時。そこで私たちのどちらかが負け、どちらかが優勝するわけです!どんな勝敗になろうと、盛り上がること間違いなしの勝負となるでしょうね!

 

 

「て、あれ。その1人の坂本君の姿がありませんね?」

 

 

 吉井君は分かるのですが、坂本君は意外と早く登校していていつも私が教室に入ったらいるのですけれど・・・寝坊でしょうか?

 

 

「・・・・雄二と明久なら、屋上で眠っている」

 

「あ、土屋君。そうなんですか?」

 

「うむ。なんでも昨夜は寝ずに勉強をしておったそうじゃ。それで先ほど頼まれて、十一時まで眠らせてくれとのことじゃ」

 

 

「ほ、ほう。徹夜ですか・・・」

 

 

 どうしましょう。私は昨日疲れたから、八時くらいにはもう眠ってたんですけど・・・

 

 で、でも咲夜さんもいつも通りの時間に眠ってましたし、健康が第一です!咲夜さんに今まで教えてもらった自分を信じるのよ私っ!

 

 

「美鈴はどうなんだ?まあ美鈴のことだし、勉強せずに寝ちゃっただろ?」

 

「そ、っそそんなことありませんよ!私だって遅くまで勉強しましたよう!」

 

 

 さ、さすがは魔理沙。付き合いがあるので私のことをお見通しですか!でもちょっとカッコ悪いから、ここは見栄を張って―

 

 

「・・・・・ウソつけ。・・・あんた昨日、八時くらいに寝てただろ・・・」

 

「ちょっ!もも、妹紅さんそれを言ったらダメです!?」

 

「うはははっ!やっぱり美鈴らしいぜ~!」

 

「た、確かに紅らしいのじゃ」

 

「う、うるさい秀吉君魔理沙ぁ!眠りたいときに寝るのが一番じゃないですかーっ!」

 

 

 ぼそっとつぶやかれた妹紅さんの言葉に、一気に計画は頓挫しました。妹紅さん!人のプライバシーを勝手に言うなんてまったくもう!私に遠慮がなくなってきたみたいで嬉しさ九割その他一割です!

 

 

「ま、まあまあ美鈴さん!でも、私も美鈴さんらしくて安心しました!」

 

「うん。ウチもあんたらしいと思うわよ美鈴?」

 

「それはどうも瑞希さん島田さんっ!私は思わず涙が出そうです!」

 

 

 私らしいって!瑞希さん達に私はどんな女だと思われてるかすっごい気になります!

 

 

「あははは!メーリンったらそんなに早く寝るなんてお子様ねっ!最強のアタイは九時に眠ってるのよさ!」

 

「一時間しか変わってない!どっちもどっちじゃないですか!?」

 

 

 しかも眠る時間が短いのが大人ってわけじゃないし!眠れるときに眠ってあとは頑張るのが大人だと私は思います!(※今日の彼女の睡眠時間は約十一時間。眠りすぎも良くないのでは・・・)

 

 

「あーもう!とにかく皆さん!あと一日ですけど、精一杯頑張っていきましょう!私も午前中は頑張りますから!」

 

「・・・ん」

 

「はい!」

 

「そうね!」

 

「頑張るのよさっ!」

 

「おうっ!」

 

「そうじゃな」

 

「・・・(コク)」

 

 

 ともかく、今日で最後の喫茶店。それぞれが気合いを入れなして、服を着替え、喫茶店の準備を始めました。

 

 

 

 

 

 

 そして。喫茶店が開店し、少なくないお客さんの接客や料理を運んだりしているうちに、あっという間にその時間はやってきます。

 

 

 

「じゃあすいません。そろそろ私は抜けさせてもらいますね!」

 

 

 決勝戦の時間まで残り十五分。少々早いですが、時間にゆとりはあった方が良いので早めに切り上げさせてもらいます。

 

 

「分かりました!あとで私も見に行きますね!」

 

「頑張るのよ美鈴!って言っても、アキにも同じことを言うつもりだけどね!」

 

「あはは!そりゃそうですよね!」

 

 

 どちらも同じクラスメイトがいるんですから、片方だけの応援なんかは出来ません。私は笑いながら島田さん達の応援を受け取ります。

 

 

「おう美鈴!見てて楽しい勝負にしろよな!」

 

「そうよメイリン!つまんない試合なんかするんじゃないわよ!?」

 

「ぜ、善処はしますが期待はしないでくださいねっ!」

 

 

 それってすなわち接戦をしろってことですよね?下手に娯楽性を出して負けるなんて悲惨すぎますから、今のは聞き流す方向でいきましょう!

 

 

「・・・良い写真が撮れるよう、よろしくたの」

 

「咲夜さんの何かを撮ったら、カメラぶっ壊しますからね?」

 

「・・・・冷酷すぎる・・・っ!」

 

 

 当たり前です。咲夜さんに及ぶ魔の手はすべて私が払うつもりですから!!

 

 

「頑張るのじゃぞ、紅。応援してるのじゃ」

 

「・・・が・・・・頑張れば・・・?」

 

「はい!頑張ってきます~!」

 

 

 秀吉君、妹紅さんからのあたたか~い応援の言葉を受けた私は、感謝してその言葉を受け取って教室を出ました。

 

 

「咲夜さん!さっきぶりです!」

 

 

 そして、今回のペアーにして妹である咲夜さんと合流します。

 

 

「ええ。って、またその恰好なのね美鈴?」

 

「あ、はい。特に着替える理由もないので!」

 

 

 それに、私はこの緑のチャイナドレスを意外と気に入ってますからね!学園祭が終わったらめったに着る機会もなくなりますから、せっかくです!

 

 

「そう。・・・私としては、そんなす―き―姿―大勢に――れたくはないのだけど・・・」 

 

「?大勢がどうかしましたか?」

 

「ん、なんでもないわ。ただ、決勝戦は大勢のお客さんが来ると思ってね」

 

「ああ。それはそうでしょうね~」

 

 

 決勝戦ということなので、ただの観客に加えて、召喚獣というものがどんなものかを見に来ている来賓の方々も来ているそうです。これは気合いを入れていかないと、観客の迫力に負けてしまうかもしれませんね!

 

 

 

 

「あ、来たわね美鈴ちゃんと十六夜さん。こっちよ~」

 

「あ、どうもです紫先生!」

 

 

 会場前にたどり着くと、数学担当の教師にして、私が所属する園芸部の顧問である八雲紫先生が手招きをしていました。どうやらあそこで待機するみたいですので、咲夜さんと一緒に先生のもとへ歩み寄ります。

 

 

「2人ともすごいじゃない。まさか準決勝で三年生を打ち破るとは思わなかったわ」

 

「ありがとうございます。八雲先生は案内係ですか?」

 

「そうよ~。会場から入場の掛け声があるまではここで待機してもらうわ」

 

「了解です!じゃあそれまで待ちましょうか咲夜さん!」

 

「そうね。先生、あとどれくらいになりますか?」

 

「ん~。あと十分ってとこかしら。・・・あ、そうだ美鈴ちゃん」

 

「はい?」

 

 

 ちょいちょいと手招きをされたので、耳を近づけました。んん?咲夜さんには聞かせられないことなのでしょうか?

 

 

 

「―――永琳に聞いたわ。昨日は大活躍だったみたいじゃない?」

 

「・・・あ、あ~。いえ、昨日は色々とありましてね?それで少しドタバタと・・・」

 

「ええ知ってるわ。学園長もあなたに感謝してたわよ~?おかげであなたの顧問である私も鼻が高いってものよ!」

 

「そっちですか!それは確かに良いことでしょうけど!」

 

 

 えへんと胸を張る紫先生、とっても紫先生らしいですね~。そういう陽気なところが私は好きですよ!

 

 

「――でも、本当に感謝してるわよ。あなたのおかげで、文月学園は変わることなく続けられるんだからね?」

 

「・・・あははっ、それを聞けただけで満足ですよ!」

 

 

 別に学園のあれこれを知って動いたわけではないのですが、結果的にこうやって感謝を言われれば嬉しいものです!それが私の慕っている先生であればなおさらね!

 

 

「??何を話してるの2人とも?」

 

「あ、いえいえ。ちょっとこちらのことでね」

 

「ごめんなさいね十六夜さん。少し部活のことを話してたのよ~」

 

「はあ、そうでしたか?」

 

 

 咲夜さんには悪いのですが、このことは事のてんまつを知っている人にしか言えない内容ですからね!私と紫先生は笑って答えをにごしました。

 

 

 

 

 

『さてさてご来場の皆さん!長らくお待たせいたしました!これより試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行いまーーすっ!では、選手の方は入場してください!』

 

 

 そして十五分ほど、私たちは紫先生を加えて時間を過ごしていたら、昨日と同じ声によるマイク越しの招集が響き渡りました。

 

 

 

 

 

 

「さ、時間よ。2人とも頑張ってきなさい!」

 

「「はいっ!」」

 

 

 元気いっぱいの射命丸先輩のマイク越しの声が届き、紫先生にポンと背中を叩かれた私たちは、大勢でにぎわう会場へと歩を進めました。

 

 

 

 

『おっと!さあやってまいりました!最初の登場となったのは、2―Aクラス所属・十六夜咲夜さんと2―Fクラス所属・紅美鈴さんの2人です!皆様盛大な拍手でお迎えください!』

 

 

『うおぉぉぉ~~!』

 

『きゃ~~っ!!』

 

『咲夜~~~っ!』

 

『頑張れ咲夜さ~~~ん!』

 

『美鈴さ~~ん!!』

 

『メーリンメーリィィィンンッ!』

 

 

 

 

「おお、すごい声ですね。大人気じゃないですか咲夜さん」

 

「それはあなたもだと思うわよ、美鈴?」

 

 

 爆発音のような歓声と共に、パチパチと大きな拍手が会場に響き渡ります。それだけで多くのお客さんが見に来てくれていることが分かります!う~、やはり少しは緊張しますね!

 

 

『さて、この十六夜・紅ペアーですが、AクラスとFクラスという少し変わった組み合わせなコンビなのですが、その実力は確かなもの!なんと決勝戦の前の準決勝にて、我々三年生のチームも破っております!その容姿に加え、まさに才色兼備という言葉がピタリでしょう!』

 

 

 続く射命丸先輩の実況に、さらに場は盛り上がります。いやいや、才色兼備だなんてお上手ですね~!でも確かに咲夜さんにはお似合いの言葉です!よくぞ言ってくれました射命丸先輩!

 

 

「さて、あとは相手を待つだけですね」

 

「相手、ね。・・・正直な話、あの変態が来るとは思っていなかったわ」

 

「へ、変態って!もう少し別の言い方をしてあげないとかわいそうですよ咲夜さん!?」

 

「ふん。あの男にはこの言葉で十分よ」

 

 

 少しだけムスッとした態度をとる咲夜さん。さ、咲夜さんはなぜか吉井君に冷たいんですよね~。確かにまあ、吉井君が変態に属する行為をやっているのは事実なんですけど、その呼び方はいかがなものかと・・・

 

 

 

『あやや!そんな彼女たちの対戦相手の入場です!』

 

 

 

「ん。では、頑張りましょうか咲夜さん」

 

「ええ美鈴。最後の一試合、頑張りましょう」

 

 

 

 そんな言い合いをするのも、彼らが入場するとアナウンスされるまで。

 

 さあ、やる気は十分!良い勝負をしようじゃありませんか!坂本君!そして吉井君っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか。吉井に坂本」

 

「「すいません。間違えました」」

 

 

 召喚大会の会場前まで歩いた僕と雄二。そこで待っていたのは、もはや僕の中では鉄人も凌駕すると思えてしまうほどの女性教師、八雲藍先生だった。

 

 

 僕たちは迷うことなく来た道へともど

 

 

 

「(がしっ)何を戻ろうとしている。こっちだ」

 

「いやあーっ!お願いします八雲先生!雄二はどうなってもいいから僕だけでも助けてぇぇぇえ!!」

 

「俺を囮に逃げようとしてんじゃねえぇええ!明久を差し出すから俺の方を見逃せちくしょおおおっ!」

 

 

 首根っこを押さえられた僕たちはずるずると引きずり運ばれる!くそおおお!!まさか八雲先生が待ち構えているなんて誰が夢に思うんだよぉおお!?悪夢でもここまでひどい現実は予想できなかったに違いないよこんちくしょーっ!

 

 ううう・・・!!どうやら僕たちは、召喚大会決勝戦の前にあの世へとおさらばしてしまうようだ。一度で良かったから、お腹いっぱいにご飯を食べたかったなあああ・・・!

 

 

 

「何をごちゃごちゃ言っている。ほら、ここで待っていろ」

 

「え?」

 

 

 ところが、ことのほかすぐに僕たちは解放された。あれ、橙(チェン)ちゃんのことで怒ってるんじゃないの?

 

 

 僕と雄二は恐る恐る八雲先生を見上げてみた。

 

 

「私はお前たち二人を案内する役を請け負っているだけだ。恐れるのは勝手だが、それならば決勝戦に向けて気合いでも入れておいた方がましだと私は思うがな」

 

 

 腕を組みながら僕たちを見下ろす八雲先生は、少し呆れた様子なだけで怒っている気配はない。

 

 どうやら先生の言う通り、ここにいたのは僕たちの案内をするためだけのようだ。

 

 

「な~んだ!それだったら最初からそう言ってくれればよかったじゃないですか八雲先生!思わずこの世での未練は何かを考えちゃいましたよ!」

 

「そうだ八雲先生。俺もついにダメかと思ったじゃないか」

 

「私が口を開く前に逃げようとしたのはお前たちだ。・・・・それに、貴様に関しては思うことがなくなったわけでは断じてないぞ、吉井明久」

 

 

 あ、違う。昨日のことを全く許してくれてないやこれ。少し目を細める八雲先生の顔には、間違いなく僕への敵意が宿っていらっしゃる。こんな特別扱いは受けたくなかったなあ・・・

 

 

「明久。えらい八雲先生に目の敵にされてるが、何かしたのか?」

 

「あー、うん。ちょっと橙ちゃんのことでね」

 

「・・・だろうな。明久、その名前を今これ以上出すのはよせ。八雲先生が殺気立った目でお前のことを睨んでいるぞ」

 

「え、ほんと?」

 

「・・・おのれ・・・!!あの時あの場に貴様がいなければ・・・っ!」

 

 

 うん。確かに八雲先生がさっきの鬼神のような形相になりかけてる。また命の危機にさらされるのはご免だから、全身全霊で注意しよう。

 

 

「と、ところで美鈴さん達は僕達とは違う場所で待ってるのかな?」

 

 

 話を逸らす目的で、僕は気になっていたことを聞いてみた。準決勝までは皆同じ場所から入場していたし、時間に遅れなければどのタイミングでも入ってよかったのに、この決勝では僕たちはここに来るように指示をされていた。ということは、やっぱり美鈴さんも違う場所で待機してるんだろうか?

 

 

「多分そうだろうな。俺たちに八雲先生が係員みたいな仕事をやってくれるぐらいだから、向こうでも誰かが同じことをやってるんじゃないか?」

 

「・・・向こうの紅や十六夜達にはねえさ・・・紫先生がついている。同じ場所から入場するより、別々に入場する方が良いそうだ」 

 

 

 雄二の予想に、落ち着きを取り戻した八雲先生が付け加えて説明をしてくれた。〝そうだ〟ってことは、さては学園ババァ長の指示だな?確かに僕もそう思うなあ。だってマンガなんかでもそうやって登場した方が盛り上がるもんねー。

 

 

・・・ところで、気になったんだけど・・・

 

 

「あの。八雲先生って、お姉さんのことを〝紫先生〟って呼んでるんですか?」

 

「・・・そうだが、何か問題があるか?」

 

「あ。そ、そうわけじゃないですけど、〝お姉さん〟とかそういう姉妹らしい呼び方じゃないなーって思って」

 

 

 僕にもお姉さんがいて、彼女とはここ数年一度もあっていない。それに加えて両親も海外だから、僕は現在一人暮らしだ。

 それ自体は気にしてない、というか思いっきり気に入ってるんだけど・・・・ごくたまに、ふと寂しくなるんだよね。だから、今の八雲先生の言い方にちょっと寂しさを感じるというか・・・

 

 

「・・・学校ではそう呼ぶようにしている。まあ、姉さんは普通に私のことを名前で呼んでるがな」

 

「でも、それだとなんだか寂しくないですか?なんか距離をとっているというかなんというか・・・」

 

「ふん。貴様にとやかく言われることではないと思うがな」

 

「うっ」

 

 

 先生の言葉はもっともだ。人の家のことに口を挟むのはやっぱりまずかったかな?

 

 

「・・・だが、答えるとすれば、その懸念は無意味だ」

 

「へ?」

 

「呼び方が変わろうと、私が姉さんを慕っていることには変わりない。ただの呼び方の一つで関係が崩れるほど、私たち姉妹は絆が浅くない」

 

 

 そう言って、八雲先生はスーツ越しの女性らしい胸を少し張ってみせた。へ~。紫先生が妹の藍先生のことを大好きだって話は聞いたことがあるけれど、それは八雲藍先生も同じだったみたいだ。

 

 橙ちゃんばかり溺愛してると思ったんだけど、ちゃんとお姉さんのことも大切に思ってて、藍先生は家族を大切にしてるんだね。良かった良かった。

 

 

 

「・・・・なんだその顔は。橙にまた手を出してみろ。今度こそ貴様を消すぞ、吉井明久」

 

「今も前もこれからも一切出しませんよ!?」

 

 

 でも生徒にはものすごく厳しい。家族としてはいいんだけど、先生としてはもう少し精進してもらいたいところだ。

 

 

『さてさてご来場の皆さん!長らくお待たせいたしました!これより試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行いまーーすっ!では、選手の方は入場してください!』

 

 

「お、いよいよだな」

 

「み、みたいだね」

 

 

 今まで黙っていた雄二が、聞こえてきたアナウンスの声に会場の方へ向く。今の元気な声は射命丸先輩に違いない。学園の生徒が実況をしているとなれば、見に来た人の関心も集まるだろうし、何よりこんな生徒がいるってことをアピールできる。それに抜擢されるなんて、意外と射命丸先輩はすごかったのかー。

 

 

「時間だな。では2人とも、頑張るようにと言葉だけ伝えておく。せいぜい頑張るんだな」

 

「そこは出来れば思いも込めてほしかったです、八雲先生」

 

「ふん。大事なのは私の言葉なんぞより、お前たちの持つ気概だろう。私の言葉などあてにせず、自分の力を信じて戦うんだな(バシッ)」

 

「あいてっ」

 

「うおっ」

 

 

 

 そう言って八雲先生は、僕たちの背中を少し強めに叩いた。いたた、容赦ないなあ。

 

 

「ほら、行ってこい。皆がお前たちをお待ちかねだ」

 

「じゃ、じゃあ行こうか雄二」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 八雲先生からのありがたい激励を受けとった僕たちは、騒ぎ立つ会場へと歩みだした。

 

 

『あやや!そんな彼女たちの対戦相手の入場です!皆さん!盛大な拍手でお迎えくださーーーーいっ!!』

 

 

 元気いっぱいな射命丸先輩の知らせに、元々騒がしかった会場が一段と盛り上がる。思わず、僕も心臓の鼓動が早くなった。

 

 

『背の大きな男子が2―Fクラス所属の坂本雄二君で、もう一人の男子が、同じく2―Fクラス所属、吉井明久君です!なんと彼らはともに学年最下位のFクラスでありながら、この決勝戦まで進んできました!先の紅美鈴さんも2年Fクラスであり、なんと4人中3人が2年Fクラスということになりますっ!これはFクラスの学力を改めなければいけないでしょうね~!』

 

 

 

「射命丸先輩、嬉しいことを言ってくれるね」

 

「だな。おかげでFクラスの印象がぐっと変わってくるな」

 

「うん。姫路さんのお父さんも聞いてくれてたかな?」

 

 

 姫路さんが言うには、この会場のどこかに彼女のお父さんがいるそうで、今の実況を聞いていたら、Fクラスへの目の向け方が変わったに違いない。昨日色々とぶちまけてくれたことはまだ忘れてないけど、今は先輩に心の底から感謝しなくちゃね。

 

 

 

「・・・だが明久。いくらFクラスの評判が上がろうと、俺たちは絶対に勝たなければならないことを忘れるな」

 

「・・・それもそうだね。あの2人に勝たなくちゃ、ね」

 

 

 神妙な顔で忠告をする雄二にうなずき、僕は改めて前方の2人の敵を見据えた。

 

 

 

 

「いや~。まさか吉井君達と決勝戦をすることになるとは、まったく思っていませんでしたよ~。すごかったんですね2人とも!」

 

「ふっ。勝負を決めるのは必ずしも点数ってわけじゃないってことだ、紅」

 

「おお、それは油断できません。気合いを入れないといけませんねっ!」

 

 

 元気な笑いを浮かべながら雄二の理論を否定せずに聞き入れる一人は、雄二に負けないぐらい背が高い女の子、紅美鈴(ホン メイリン)さん。普段はその明るさに安心させられるけど、今、今回だけに限っては、その不安の無さがとても脅威だ。

 

 

「その通りよ美鈴。油断はしたらいけないわ。相手には学年トップクラスのド変態がいるんだから」

 

「十六夜さん、それって雄二のことだよね?」

 

「それを本当に言ってるのなら、あなたには鈍感の称号も・・・・・・って、もう既に持っていたわね、ごめんなさい」

 

「知らないうちにひどい称号を所持してることに、僕はもの申したいっ!謝るならそっちを謝ってよ十六夜さん!?」

 

 

 そして全く僕には心当たりのないひどい呼び方をしてくる二人目は、2年Aクラスの秀才にして、美鈴さんの妹であるという十六夜咲夜(いざよい さくや)さん。今日も綺麗な顔をして僕の心を容赦なくえぐってくるよ。

 

 

「何を言ってるのだか。百歩譲ってド変態を変態にするにしても、そちらについては確たる理由を持って断言できるわよ」

 

 

 あ、百歩譲ってやっと『ド』が取れるんだね。僕、そんな変態みたいなことを言ったことがあるかなあ・・・?(※何度もあります)

 

 でも、それはともかく・・・『確たる理由』?

 

 

「えっ?そ、それってどんな理由なの?」

 

「・・・あなたが気づいていないから、よ。あとは自分で考えなさい」

 

「ええ!?雑っ!確たる理由って言う割には大ざっぱすぎないかな!?」

 

 

 それだったらRPGで酒場に出て来る人の情報の方が、ずっと役に立つと思うよ!?あの人たちはそんな見放すような助言はしないぞ十六夜さん!

 

 

「ふん。知りたいんなら本人に聞きなさい。私が勝手に言うわけにはいかないでしょうが」

 

「え、本人?」

 

 

 本人って、十六夜さんが言い出したんだから十六夜さんが〝本人〟じゃないの?それとも、他にも僕を鈍感と思ってる人がいるのかな?もしそうなら、その人にもビシッと間違いだと言わなければ。

 

 

「・・・まあなんにせよ、今はそのことを考えるんじゃなくて、目先のことを考えるべきだと思うけれど?」

 

「・・・うん、それもそうだね!」

 

 

 冷たいことばかり言う十六夜さんだったけれど、こういう時は正しいことを言ってくれる。そんな生真面目なところは確かに美鈴さんに似ているなあ。

 

 ともかく、僕たちも気合いを入れないとねっ!

 

 

「十六夜さん、美鈴さん!この勝負は絶対僕らがもらうよっ!」

 

「そうだな。この勝負、たとえどんな苦戦になろうとも、俺たちが最後に笑わせてもらうぞ!」

 

「おっ!言いますねえ~!?」

 

「自信満々ね。何か秘策でもあるのかしら?」

 

 

 僕たちの決意溢れる宣言に二人も不敵な笑顔になる。ふっ、秘策だって?

 

 

 

 

「いいや。そんなものはない」

 

 

「へっ?な、ないんですか?」

 

「その通り。僕たちは小細工なしでガチンコ勝負を挑むつもりだよ」

 

「・・・じゃあ、なぜそれほど自信満々な態度なのかしら?」

 

 

 驚いた顔をする美鈴さんと、予想が外れたと少し疑わしげな顔をする十六夜さん。僕たちが何も策を練らずに勝負をしようとすることがよほど信じられないみたいだけど、これは本当のこと。ウソなんかじゃない。

 

 なにせ今は決勝戦でいろんな人の目がある。そんな中で卑怯な手段をとってしまったら、来賓の人から一般客まで、どんな悪評がたつのか分からない。だからこそ僕たちは真剣勝負で二人に戦いを挑む、というか挑まないといけないんだよ。

 

 

・・・・じゃあ、どうしてそんな状況の中、こんなに自信を持って勝負に挑んでいるのか?

 

 

 

それこそ実に、単純明快な答えさ。

 

 

 

 

 

 

「「―――たとえ何がなんでもっ!!明日の朝日のために勝たなきゃいけないからだ(よ)っ!!」」

 

 

 

「は?」

 

「はい?」

 

 

 雄二は霧島さんとの婚約―奴曰く〝地獄の始まり〟を。そして僕は、お金の恨みによって博麗さんに葬られるのを避けるためっ!

 動作の妨げになる一切の恐怖、不安を捨てて自信だけを前に!それぐらいの意気込みで挑まなきゃ、この2人には絶対にかなわない!

 

 

 だから、この勝負だけは!他の全てのことを忘れ去って、2人に勝利することだけに専念すると決めたんだっ!僕達だってまだまだ命が惜しいんだよおっ!

 

 

『さあ!それでは説明も終わりましたことですし、始めるとしましょうか!』

 

 

 射命丸先輩はどうやら僕達が話し込んでいる間に、召喚勝負のルールを知らない人のためにルール説明をしていたみたいだ。昨日の実況からは全く想像ができない、気の利いた実況さんである。

 

 

 ともかく、それが終わったということはいよいよ運命の勝負決勝戦が始まるということだ。ここからは知り合いも何もない。彼女たちはただ僕たちの・・・・最後の強敵だ!

 

 

「さて、では4人共。科目は日本史で、私が立会人を務めさせてもらう」

 

 

 そう言って僕たちの間に立ったのは、日本史担当の上白沢先生。昨日の嘆いている姿は夢だったのかと思えるほど、いつもどおり堂々とした顔で僕たちを見つめる。

 

 

「互いに悔いの残らないよう、全力を出し切るような勝負に発展することを祈る。では、4人共。召喚獣を召喚してくれ」

 

 

 上白沢先生の言葉に僕たちは一気にやる気を高める・・・!さあ、昨日一晩中頑張った僕に、恥をかかせないような結果を出さないとね!

 

 

 

「試獣召喚(サモン)ッ!!雄二っ!僕の召喚獣は木刀だから、十六夜さんは任せて!雄二は素手の美鈴さんを頼むよ!」

 

 

「おうっ!任せやがれ!試獣召喚!!」

 

 

「試獣召喚っ!咲夜さん!最後の試合、勝ちますよっ!」

 

 

「無論よ、この変態だけには負けられないわ・・・!!試獣召喚っ!」

 

 

 

 4人の召喚獣がフィールドに表れることで、観客席はより興奮した声を出し始めた。

 

 

 そして、

 

 

『さあ!それでは始めてもらいましょうかっ!文月学園召喚大会、最後の決勝戦!勝つのは果たしてどちらか!?―――勝負、開始ぃぃいいいい!!』

 

 

 

 射命丸先輩により、召喚大会決勝戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 

 さあ!絶対に僕らが勝たせてもらうよ!十六夜さん、美鈴さんっ!

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 最初に戦闘描写があーだどーだと言っていましたが、今回は導入場面だけとなっちゃったので今回は関係ありませんでしたね。すいませんでした!

 しかし次回には間違いなく戦闘描写が入りますので、次の回を読むときにはそこを留意しておいてくださいませ!

 さて、字数の関係上、結構中途半端なところで切ってしまったかもしれませんが、前書きにも書いたよう、次は少し早めの投稿となります!なので、不完全燃焼になられた方、そして次回を楽しみにしていただける方々!な戦闘面にあまり過度な期待はせずに、お待ちくださいませ!

 それではまたっ!

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