前回も書いたように、今回も準備回となって、あまり話の動かない回となりますので、あまり期待はせずに読んでもらえたら幸いかもです!
――ごゆっくりお読みください
「よぉし!アタイ達がやるのは中華喫茶よ!」
文月学園、新学期最初のイベントである『清涼祭』での出し物。チルノが多数決を取った結果、私たちの出し物は中華喫茶に決定しました。
「じゃあ、お茶と飲茶は俺が引き受けるよ」
そう言って、中華喫茶を提案した須川君が一つ仕事を引き受けました。言いだしただけあって、きちんと技術はあるみたいです。
「………(スクッ)」
続いて土屋君も立ち上がりました。ちょ、ちょっと意外ですね?
「ムッツリーニ、料理なんて出来るの?」
「………紳士のたしなみ」
紳士と中華料理って関係ありましたっけ?・・・でもまあ、出来るのなら喜ばしいことですよね!
「よし!じゃあ次は………………よしー。どうするべきよさ?」
「ええ!?そこで僕!?・・・え、え~っとじゃあ・・・え~~っと・・・・・・」
急に問いかけられて、吉井君は慌てます。もう、なんと力足らずの委員長ですかっ。
「じゃあ、料理とかを担当する厨房班と、お客さんの注文を聞いたりするホール班とに分かれるのはどうでしょう?」
「あ、なるほど。さすが美鈴さんだ」
「じゃあ、今から厨房班とホール班に分かれるわよ!ムッツリーニ達のところが厨房班で、アタイのところにホール班集合よ!アタイは最強だからホール班決定ね!」
「最強とどう関係があるんですか!?」
チルノの中での最強って、なんなんでしょう・・・?
「美鈴さんはどっちにされますか?」
「瑞希さん。ん~どうしましょうか。私、一応どっちでも大丈夫だと思うんですよ」
レシピさえあれば飲茶というものも作れないこともないでしょうし、ここは周りの人が何をするかを見て、少ない方にまわりましょうか。
そう思っていた私の横で、瑞希さんがへにょりと顔をゆがめました。え、ちょ、ちょっと!?私何かまずいこと言っちゃいました!?
「ううう~、うらやましいです……!」
「…・・・あ。そ、そういうつもりで言ったんじゃないですよ!?」
う、うっかりしてました。瑞希さんって、凄い特徴的な料理を作るんでしたね!自分は出来ますって言い方はしちゃダメでした!
「そ、そのうち上手に出来ますよきっと!わ、私もホールになりますから瑞希さんも一緒にしましょう!ねっ?」
「・・・わかりましたぁ・・・」
しょんぼりと瑞希さんが同意してくれました。ど、どうやら厨房がやりたかったみたいですけど今回はご勘弁願いましょう!何が起こるかわかりませんし!
「でも、僕も2人はホールが良いと思うよ?ホールでお客さんに接した方が、お店としても利益が出ると思うけどなあ」
そこに、吉井君の女心をくすぐる言葉が。おかげで瑞希さんの顔が恥ずかしいものへと移行しました。ナイスです吉井君!
「か、可愛いだなんて・・・。照れます吉井君っ」
「・・・アキ?じゃあウチはどっちの方がいいかな?お、教えてくれない?」
「え?でも、美波がやりたい方を選んだ方がいいんじゃないかな?」
「・・・そういう答えじゃなくってねえ」
ただし、島田さんへのフォローは下手で、彼女は微妙な顔になります。そこはホール班って力強く言ってあげるのが正解でしょう!吉井君は乙女心を分かっていませんね!
「んじゃ、私はホールにするか。秀吉はどうするんだぜ?」
「ふむ、ではわしは厨房にするかの」
「おっ?秀吉って料理が出来んのか?」
「あ、いや。そこまではしたことがないが、お茶なんかを作るぐらいならまあなんとかなるじゃろう」
「ん~、それならホールになったらどうだぜ?秀吉の顔は並みの女子顔負けの可愛さなんだから、客寄せに効果絶大だと思うがなー」
「・・・褒められてるのは分かるのじゃが、どうしても喜べん言葉じゃな」
はあと溜息をつく秀吉君と、この祭りの準備期間という雰囲気を楽しそうにしている魔理沙。どうやら2人もホールに確定したようです。元気な魔理沙と可愛い秀吉君がいるのは心強いですね!しかしこうなると、Fクラスの女子全員がホールになりそう――
「あ、妹紅(もこう)さんはどうしますか?ホールでしょ―」
「厨房だ。絶対」
「・・・そ、そですか」
女の子一人、厨房に行くようです。有無を言わせない即答だったので、私は何も言い返せませんでした。そ、そうですよねー。妹紅さん、絶対接客とか嫌そうですもんねー。
そんなこんなで、私たちはグループを分けてそれぞれのやることを確認しあいました。ふ~、これでようやくスタートラインですよ!
「では、これでHRを終了する。明日からも頑張るように。解散」
『は~い』
西村先生が挨拶を終えて、私たちは放課後に突入しました。今日は部活も無いから、久しぶりに家でゆっくりすごせそうですねー!
「じゃー妹紅さん、帰りましょうか?」
「……わかった」
妹紅さんが帰り支度がまだだったみたいなので、私は後ろの座布団に座って、妹紅さんの片づけを待ちます。
「ふ~、妹紅さんはもうここに慣れましたか?」
「………全然。このクラス・・・変な人が多いし…」
「あ~、言えますね。私もそこについてはまだ慣れていませんよ」
「………あ、あんたもだからな……美鈴」
「わ、私もですかぁっ!?」
ぬ、濡れ衣です!私はこんなにも普通だというのに!あ!あれですね!?冗談を言ってくれてるんですね!?それだけ私に心を開いてくれたんですね~!!(※ 本心です)
「・・・・・・ん。できた」
「あいさ。では行きましょう。咲夜さんが待ってますからね」
「……やっぱり、一人で帰りたい…」
「そ、そう言わずに!前に本当にそれを連発して、咲夜さんがすっごい泣きそうになってたんですよっ!?」
「………えー・・・」
咲夜さんの半泣き顔を見れたのはよか、げほん!!咲夜さんの泣き顔なんて見たくないのです!
乗り気じゃなさそうな妹紅さんをなんとか説得して、私たちはカバンを持って立ち上がり、廊下に出ようとしました。
「紅。お主たちは今日はもう帰るのか?」
丁度その時に、秀吉君が私に話しかけてきます。
「ええ。今日は何もないですからね」
「………(こそっ)」
「隠れられると悲しいのう、藤原……まあ、無理強いはいかんの」
秀吉君も〝変な人〟に入るようで、妹紅さんは私の背中の位置に移動しました。秀吉君もそれに残念そうに笑いながら話し始めます。
「では、途中まで一緒に帰らぬか?方向は一緒じゃったしな」
「いいですよ。咲夜さんとか妹紅さんも一緒になりますけど、いいですか?」
「ああ。全然構わんのじゃ」
「それは良かった!でも、どうしたんです?秀吉君に帰りを誘われるとは思っていませんでしたよ」
「・・・あ、あ~・・・なんじゃ。ほれ、ホールの仕事の事をもっと覚えておきたいしの。2人おれば間違ってたところも直せるのじゃ」
「はあ、なるほど」
秀吉君は熱心ですねえ。別に私じゃなくても、ホール班の人なら誰でもいいはずですのに。私に頼むとは、私も買われたものです!
「藤原は厨房班じゃったな。ホールはせんのか?」
「絶対いやだ。やるぐらいなら・・・・・・・・・逃げる」
「そ、そこまで嫌じゃったか・・・」
「…………たぶん…あんたが女って言われた時と同じぐらい、嫌だ・・・」
「なるほど。それは絶対なにがなんでも嫌じゃな(こくこくこく)」
「そこまで納得のいく言葉でしたか!?」
秀吉君が首を痛めそうなぐらい上下に頷かせます。どうやら、妹紅さんの例えは私にはさっぱりでも秀吉君に大きな共感を与えたようでした。
「あっ、美鈴!ちょっといい!?」
「?」
そうやって首を傾げながらも私たちが喋りながら歩いていたら、突然横から声がかかりました。
「あ、島田さんに吉井君。どうしたんですか?」
島田さんと吉井君がそこにはいたので、私は2人に近づきました。秀吉君と妹紅さんも一緒です。
「あ、僕も美波に呼ばれたんだよ。美波、相談があるって言ってたけどどうしたの?」
どうやら吉井君も私達と同じようで、今回は島田さんが話があるみたいです。
「うん。あのね……美鈴を呼んどいてなんだけども。多分アキが言うのが一番だと思うんだけど――坂本を何とか学園祭に引っ張り出せないかな?」
「坂本君をですか?」
今日のあの様子を見る限り、やる気は全くなかった気がします。ちょっと難しいんじゃないでしょうか?
「う~ん、雄二は興味のない事にはとことん無関心だから、難しいんじゃないかなぁ・・・?」
吉井君も同意見みたいです。私と違って、友人の立場からの発言ですから間違いないでしょう。
「でも、アキ達って結構仲が良いでしょ?……それも、少し愛が芽生える感じで・・・」
「もう僕お婿に行けないっ!」
「………同性愛?」
「いや、多分冗談ですよ」
真剣な顔して言われると本当って思いますよねー。だから、話に関わろうとしなかった妹紅さんもびっくりって顔になっちゃってますよ。
「そんな恐ろしいことを言うなんてひどいよ美波っ!なんたってそんな話が出てくるのさ!?」
「でも、アキが坂本と仲が良いのは事実でしょ?」
「誰があんな赤ゴリラと!何千歩も譲っても!愛し合うにしても、雄二よりも僕は秀吉の方が断然いいよっ!」
「吉井君、性別についての差異がさっきと変わりありませんよ!?」
「あ、明久。お主の気持ちは分かったが、すまぬがそれには応えられんぞい。ほら、歳の差なんかもあるしの」
「いや、歳って言っても離れてて一歳ですよ秀吉君!?」
一歳の差が壁になるのなら、世界の恋愛は常に巨大な壁がたちふさがることになりますね。
「………それに、き-な-女--お--のう…」
「ん?」
最後、何か秀吉君が言ったような・・・?
「・・・じゃあ、アキにも坂本は動かせないの?」
「うん。たぶんね」
「美鈴、木下、妹紅はどう?坂本を動かせない?」
あっ、今度は私達が聞かれましたね。
「ん~、吉井くんで無理でしたら、私も無理だと思いますねー」
「うむ、わしもそうなると思うのじゃ」
「・・・絶対無理。まず、話しかけられない・・・」
そこからですか妹紅さん!坂本君は見た目が怖いから気持ちが分からないでもないですけどっ!
「……そっか・・・どうしよう・・・」
「何か事情があるんですか?」
島田さんが沈んだ表情になって目を伏せたので、気になった私は控えめに尋ねました。こんな島田さんは初めて見ましたよ。よほどの事情があるのでしょうか?
「……これ、本人には誰にも言わないでほしいって言われてるんだけど、ちょっと事情が事情だから・・・話すわ。一応秘密の話だから、誰にも言っちゃだめよ?」
「は、はあ」
〝本人〟ってことは、島田さんの問題ではなくて誰かの事情のこと。それも島田さんの真剣な表情から見て、相当大事な事を話すみたいですね。
「……ん」
「う、うん。わかった」
「うむ。一体なんじゃ?」
3人も素直に頷き、島田さんの言葉を待ちます。
そして、
「―――実は、瑞希なんだけど。」
「瑞希さん?」
「姫路さんがどうかしたの?」
「……あの子、転校するかもしれないの」
思ったよりも衝撃を与える言葉を告げました。
「ほぇ?」
「・・・・え?そ、それってマジですか?」
「うん。瑞希本人から聞いたから、本当よ」
「ま、また突然な・・・。いったいどうしてなんですか?」
「それが…って、アキ?」
「ん?」
「む、いかん。明久が処理落ちしかけとるぞ」
横を見れば、表情が固まったままふらふらしている吉井君が。死人モドキになるぐらいに衝撃的だったみたいです。
「アキ!不測の事態にあんたは弱すぎんのよバカ!」
「明久!目を覚ますのじゃ!」
秀吉君がガクガクと吉井君の肩を揺らし、吉井君ははっと意識を取り戻します。
「はっ!ど、どういう事さ美波!僕はまだ膝枕もハグもキスもしてもらってな痛い美波!?石がぶつかったみたいに頭が痛いよ!?」
「あんたは瑞希に何させようと考えてたのよアキ!今それどころじゃないって言ってるでしょーが!」
「ど、どうどう島田さん!先に説明をお願いします!」
島田さんを羽交い絞めにします!な、なかなか力ありますねー!?
「ふ~・・・今のが全部よ。このままだと瑞希が転校しちゃうかもしれないかもしれないの」
「このまま…って、転校とはまだ決まってないんですか?」
親の転勤とかでしたら避けようがないはずですが、それとは違うのでしょうか?
「じゃが島田。その姫路の転校の話と、さっきの雄二の件が全くつながっておらんぞ」
別に坂本君が姫路さん引っ越しを阻止できるわけじゃありませんし、首を傾げる秀吉君の言う通りです。
「それがそうでもないのよ。だって、瑞希の転校の理由が『Fクラスの環境』なんだから」
「……あー。なるほど」
もの凄くすとんときました。
「ってことは、転校は両親の仕事の都合とかじゃなくて――」
「そうね。純粋に設備の問題って事になるわ」
「両親からすれば、仕方ない対処ですよねぇ・・・」
なにせあんなに心優しい瑞希さんの親となれば、さらに心優しい人柄でしょうし、娘さんの事も大切にしているはずです。
そんな娘が、非が無いのにもかかわらず酷い待遇の教室で授業を受けているとなれば、そりゃ転校も考えたくもなりますよね。私みたいに居眠りしてたなら別ですけど。
「それに、瑞希って体もあんまり強くないし・・・」
「あの教室にいたら、いつ病気になってもおかしくないでしょうねー」
「そうだよね。それが一番マズいよね……」
教室はボロボロな上に、ガラス窓なんかも割れてしまって隙間風が入っては衛生的に良いとは絶対言えないでしょう。
「なるほどのう。じゃから喫茶店を成功させて、設備を向上させたいのじゃな」
「そのために、試召戦争の時にFクラスの皆を上手く仕切っていた坂本君の力が必要、と。なるほど理解できました」
そんな事情があるのでしたら、坂本君にも事情を説明すれば協力してくれるでしょう。本人は絶対認めないでしょうけど、なんだかんだで、坂本君は仲間を大事にしてますしね!
「なら僕に任せて!きっちり雄二を焚き付けてやるさ!」
先ほどとは違い、吉井君の目はやる気に燃えていました。私もそうですが、瑞希さんの事がよほど燃料になったみたいですね!
「それじゃ、まずは雄二に連絡を取らないとね」
「そうですね。ここは頼みますよ吉井君」
吉井君が携帯を取り出して電話をかけます。先ほど教室に坂本君はいなかったのですが、時間的にはまだ学校を出ていないはずですので、すぐに集まることが出来るでしょう。
ぷるるるとコール音が響き、吉井君以外の私たちはそこに視線が集まります。
「あ、もしもし雄二」
あ、繋がったみたいです。
「ちょっと話が―――え?雄二今何してるの?ゆ、雄二!?もしもし!?もしもーし!」
・・・でも、何かが起きたみたいです。
「・・・・・・何が起こったのさ・・・?」
珍しく妹紅さんが問いかけます。それに吉井君は携帯を見ながら答えました。
「えっと、『見つかっちまった』とか、『カバンを頼む』とか言ってた」
「・・・何それ・・・」
「・・・アキ、あれだけ見栄を切ったんだから、もうちょっと成果を出しなさいよ」
「め、面目ありませんでした」
2人の呆れた目に吉井君はそっぽを向いてしまいます。いや、何があったんですか坂本君!逃走中の犯人ですか貴方は!
「大方、霧島翔子から逃げ回っているのじゃろう。アレはああ見えて異性には滅法弱いからの」
「へー。それは意外です」
霧島さんとは、二年生で代表を務める秀才で、容貌も見事な女子の事です。なんでも坂本君とは幼なじみで、彼が初恋の人で今も追い続けているのだとか。なんとも魔理沙が好きそうな事情ですね!
「でも、坂本と連絡を取るのは難しいわね…」
「じゃあ、校舎にはいるでしょうし、手分けして探しますか?」
もしも今追われているのを必死に逃れようとしているのなら、もう電話にもでないでしょうし、話をするとなると直接坂本君と会う必要がありますね。
溜息をつく島田さんにそう言って、私は別の方法で坂本君を見つけるのを提案しました。
でも、
「いや、これはチャンスだ」
「え?」
珍しく、吉井君が自信ありげにそう私たちに言いました。
「アキ、どういうこと?」
「雄二を喫茶店に引っ張り出すには丁度いい状況なんだよ、うん。ちょっと4人とも協力してくれるかな?」
「え、ええもちろんですよ!」
何をするかは分かりませんけど、手段があるなら当然手伝いますとも!
「それはいいけど……坂本の居場所は分かっているの?」
「大丈夫。相手の考えが読めるのは、何も雄二だけじゃない」
「ほほう」
「何か考えがあるようじゃな」
「うん。とりあえず、美鈴さんと藤原さんは僕についてきてほしい。で、秀吉と美波は―――」
そこから私たちは、吉井君の作戦を聞きました。
「……私、まだいいって言ってないのに……。………………そりゃ、断る気も無かったけど・・・・・・」
「………」
「………吉井君」
「あ、なに美鈴さん?」
で、現在私、妹紅さん、吉井君の三人は坂本君を探しに、吉井君の心当たりというものを信じて、そこへ到着したというわけですが・・・
「・・・・・・ここって、女子更衣室ですよ?」
吉井君の心当たりというものは全くあてにならなかったみたいです。男子がこんなところに入ってるわけないじゃないですか!何を考えてるんですか全く!
「うん。きっとここに雄二がいるよ」
「・・・・・なんで、そんなに自信あんの・・・?」
「その自信はどこから湧いてくるんですか?」
妹紅さんも吉井君を白い目で見つめるのも当然。ひょっとして、女子更衣室に入りたいだけじゃないでしょうね?その時は私、グーでいきますからねコラっ!
「えっとね。雄二は今、霧島さんから逃げるためにどこかに隠れてるでしょ?」
「・・・まあ、秀吉君の予想だとそうらしいですね」
「だったら、霧島さんに見つからない場所に隠れなきゃいけないじゃんか」
「・・・それで、ここ?」
「ごめんなさい。説明されても分かりません。それだったら女子が入れなさそうなところに行けばいいじゃないですか!」
そんな間違っていないであろう私の言葉にも、吉井君は動じません。さらに説明を加えていきます。
「いや。きっと雄二はその逆を取ると思うんだ」
「ぎゃ、逆?」
「そ。普通は男子が入らないような場所に行くってことだよ。霧島さんの裏をかいてね」
「・・・は~。賢いと言うか、バカと言うか・・・…」
普通はそんなこと思いつきませんよ。それを思いつく吉井君も含めて、スゴイ思考回路をしていますね!
「じゃあ入ろっか」
「あ、はい・・って吉井君は入る必要なくないですか!?」
「…………最悪……」
先に更衣室に入っていく吉井君に私と妹紅さんも着いていきます。も、妹紅さんもこんなに冷たい目をするのですね~。
「やあ雄二、奇遇だね」
「・・・どういう奇遇があれば、女子更衣室で鉢合わせをするか教えてくれ」
「う、わー。ほんとにいちゃいましたよ・・・」
「……変態……」
普段人見知りな女の子がこんなことを言っただけで、事態がひどいと伝わるでしょう。
半信半疑で女子更衣室に入って、私たちが目にしたのは、ロッカーのすみっこの方でその大きな体を小さくしている坂本雄二君でした。
「違うんだ藤原。これには深いわけがあってだな」
「いやいやいや、どれだけ深いわけがあっても、絶対この選択肢は無いでしょ普通!アホですか貴方は!」
「まあまあ美鈴さん。雄二がアホなのは今に始まった事じゃないから許してあげてよ」
「・・・これ以上なく腹が立つが、今だけは否定できねぇ・・・!」
一応やってることのダメさは理解しているみたいで、坂本君は射殺さんばかりの目で吉井君を見るだけにとどまりました。
さて、ここで長話をするのはよくありませんね。早く落ち着ける場所に行きましょう。
「3人とも、ひとまずここを出ましょうよ。いつ女の子が入って来るか――」
ガチャッ
「・・・・・分かりませんからぁー」
なぜ、こうもタイミングがあうんですかねー。
「えーっと・・・・・・あら?ここって女子更衣室・・・よね?」
「・・・はい。あってますよーアリス」
「・・・おかしいわね。私の目におかしなものが写ってるのだけれど」
「アリス、あなたの目はおかしくないと思うわ」
「そうですねー咲夜さん」
きょとんとする金髪美少女、アリス・マーガトロイドと、妹の咲夜さんに私は頷きます。間違っているのはあなたではなく、ここの2人ですからねー。
「咲夜さん達はどうしたんですか?」
「汚れてもいい服に着替えに来たのよ、ねえアリス」
「ええ。・・・むしろ、吉井君達が、どうしたのって私は聞きたいかしらね」
「・・・・・・えーとですね」
アリスの疑問ももっともですけど、むしろ私がそれを聞きたいですよぉ!何ですかこの状況!
「アリスさん。これは偶然なんだ。別に深い意味はないんだよ?」
「ああ。明久の言う通りだ。別にやましい気持ちは無いんだ。アリス・マーガトロイド」
「………女子更衣室に入ってるだけで・・・・・犯罪だろ」
「全く持ってその通りよ、妹紅さん」
「あ、その子があなたが言っていた子かしら」
「ええ。藤原妹紅さんよ。……少し……避けられてるけど」
「・・・そう。初めまして。アリス・マーガトロイドよ。咲夜や美鈴の友達なんだけど、よろしくね、藤原さん」
「………よ、よろしく」
あ、そういえば2人は初対面でしたね。これがこんな場所こんな時でなければ、私も全力で喜んでたんですけど・・・・・
「あ、友達になれて良かったね2人とも」
「そうだな。友は大切にしなければダメだぞ」
「な、なぜそんな平気なのですかお二人は…」
男子2人も普通に話してますけど、あくまでもここは女子更衣室でございます。
ガチャッ
「・・・・・・え?」
「あら、優子」
そんなおかしな状況の中、アリスの言う通り、秀吉君の双子の姉の木下優子(ゆうこ)さんが入ってきました。中を見た彼女はぎょっとした目になります。あ、これやばいですね。
「木下さん、少し話を」
「せっ、先生!覗きです!変態がここにいますっ!!」
時は遅かったみたいです。でも、これが正しい反応ですので、木下さんは悪くないですよねー。
「逃げるぞ明久!」
「了解っ!」
「あ、こら待ちなさいっ!」
そこからの2人の行動は早く、更衣室の小窓から外へと出て行きました。まるでコソ泥みたいです。
「・・・逃げた、あいつら。・・・・・・・私たちを放って・・・」
「・・・そ、そうですね」
私と妹紅さんも仲間なのですが、性別は全くOKだと判断しての行動だと信じます。
「・・・ちょっと、紅さん?あなた、あの2人組と同じクラスでしょ?」
「・・・は、はい。そうですねー」
「・・・・・・!(ぎゅっ)」
・・・ふ、2人がいなくなったから、木下さんの怒りの矛先が私へと。妹紅さんも思わず私の後ろに隠れました。木下さんの怒りはもっともなんですけど、これはちょっと物申したくなってもおかしくないですよねぇ!?
「それなら、しっかり管理をしなさ――むぐうっ!?」
「まあまあ木下さん。いったん落ち着いて」
「!さ、咲夜さん!」
ついに雷が落ちようとした瞬間、木下さんの口を咲夜さんが手でふさぎました!そ、そんなことして大丈夫なのですか!?
「美鈴、妹紅さん、早く行きなさい。またもめるわよ」
む、むしろ咲夜さんがもめ事を起こしそうな気がしますが・・・!言葉に甘えるとしましょう!
「行きましょ妹紅さん!では!咲夜さんアリス木下さーんっ!」
「…ひ…!・・・じ、自分でいけるから、手・・・!」
今だけは妹紅さんの言葉を無視して、私たちは出口から走って出て行きました。ひとまず坂本君とは出会えましたし、よしとしましょうか!
「むー!むうう!!」
「――アリス、2人はどう?」
「・・・ええ、もう見えないわ。大丈夫よ」
「分かった。ありがとうアリス」
「・・・お礼を言うのは、ここが上手く収まってからにしてほしいわ、ね…」
「・・・かもね・・・ん」
「ぷはぁっ!・・・はー・・・はー・・・!・・・十六夜ぃ・・・!あんたなんのまねよぉ・・!?」
「ごめんなさい木下さん。でも、美鈴と妹紅さんを怒るのは勘弁してあげて頂戴。あの2人は悪くないわ」
「あのバカ二人組とこんな場所にいるだけで、十分に黒よっ!っていうかもこうさんって誰よ!あの白いの!?」
「ええ、その言い方は少し気になるけどね・・・ともかく、2人は2人でもあの阿呆コンビに怒るなら怒って。その分なら何も私は口を出さないわ」
「あ、あんたねえ・・・!むしろ今、私は十六夜に怒りたいところよ・・・!」
「優子、咲夜にも事情はあったのよ。だから大目に見て――」
「アリスは黙ってなさいっ!」
「・・・分かったわ。悪いわね咲夜」
「アリス、気にしないでいいわ。私が巻き込んだだけだから」
「さあ十六夜・・・!普段あんたには、あのバカの次に多く注意してるけど、今回はもっと怒らせてもらうわよ!覚悟しなさ」
ガラッ
「ふ~、わざわざ着替えるなんてめんどくさ・・・ん?何やってんのよあんた達」
「霊夢」
「博麗・・・あんたには関係ないわ。どっかに行ってて」
「ああ?なんで着替えるのに外に出なきゃいけないのよ。木下、あんたが外に出りゃいいじゃない。普通に更衣室を利用しようとする人を、アンタの勝手な利用で追い出そうとすんじゃないっての」
「わ、私の勝手なですって!?なんで私が悪いみたいになってんのよ!別に私は悪いことしてないわよっ!?」
「ふーん・・・まあどっちでもいいけど、もめ事とかすんなっての。あんたはケンカ腰過ぎすぎんのよ木下」
「・・・霊夢。あなたが言えたことではないと思うけど…」
「ぐっ・・・!あんただけはいつもいつもぉ…!博麗!あんたの目は節穴なのよっ!」
「あ?あんた、またケンカ売ってんの?なら遠慮なく買うわよ」
「あんたがふっかけてきたんでしょうが!だからこっちのセリフよ!この不良巫女が!」
「上等よ。着替える前だけど、一汗かいてやろうじゃない」
「ふん!ついでに涙も流させてやるわよっ!」
「・・・霊夢に助けられたわね。本人にその気はないんだろうけど・・・」
「いつも思うんだけど・・・なんであの2人はあそこまで仲が悪いのよ・・・咲夜、今度は霊夢を止めて。私は優子を止めるから」
「了解・・・でも・・・・霊夢を止められる自信は、あまり沸かないわね」
「でね、優子と一緒に映画を見に行ったんだけど、とってもおもしろかったんだー」
「・・・私も、雄二と映画を見に行った。感動して、雄二が気絶したりもしてた」
「か、感動と気絶は結びつかないんじゃないかな?代表、何をしたの?」
「・・・スタンガンを少々」
「それは少々じゃすまないって!」
「・・・浮気防止のため」
「だ、代表は一途だなあ。――よし、着いたし早く着替えようか!」
「・・・うん」
ガラッ
「アリス!手を放しなさい!」
「咲夜、さっさと手を退かせっつってんの!」
「お、落ち着きなさい優子!その手のテニスラケットはテニスをするために使うもので、人を殴る道具ではないわっ!」
「霊夢もよ!その手の木刀はどっから取ってきたの!本当に不良に見えるからやめなさい!」
「この際、不良上等よっ!なめられたまま引き下がれるかっての!」
「これはテニスよ!あの不真面目バカの頭(ボール)を叩くんだから何も問題ないわ!」
「「ああ!?」」
「「だから、落ち着きなさいって言ってんのよ!」」
「・・・な、な、何やってんのさ4人ともー!?」
「・・・・・・初めて、友達に呆れた・・・・・・はあ・・・」
お読みいただきありがとうございます!
明久の作戦で妹紅さんが付き合う理由もなかったのですが、少々付き合ってもらいました!明久と雄二のバカさにためらうことなく毒を吐く妹紅さん。ある意味心を開放した瞬間でした。
ではまた次回!次で準備期間は終了します!