バカと中華小娘とお姉さん   作:村雪

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 どうも、村雪です!

 実は文の蓄えがちょこちょことたまってきましたので、少し早めの投稿とさせてもらいました!

 さて、今回でラブレター騒動編は終了です!皆様が愉快な気持ちになれる展開であることを願います!


――ごゆっくりお読みください。


末路―悲嘆、にくれる人もいれば笑う人もいちゃうのです

 

「吉井、私にもその手紙を見せて欲しいんだぜ」

 

「それは出来ない相談だよ、魔理沙」

 

 

 廊下の向こう側にいる魔理沙が、興味津々って顔で笑いながら僕の方へと歩み寄ってくる。

 

 

「そうか…ところでなんでチルノが隣にいるんだぜ?」

 

 

 僕から右のチルノに、魔理沙は話の矛先を変えた。そりゃ不思議に思うよね。チルノが僕と行動する理由なんてないんだもの。

 

 

「それはねまりさ!このバカなよしーと一緒にいたら、面白いことがたくさんおきるからなのよさ!まりさもどうよ?」

 

 

 チルノは魔理沙の疑問に元気よくそう答えた。僕が神聖なる愛の手紙を守ろうとしているのを面白がるとは、どういう了見だいチルノッ!(※他人事です)

 

 

「なるほどな~。そりゃ確かに面白そうだが、今の私は笑いより愛を取るんだぜ」

 

 

 

 そんなバカチルノの言葉にケラケラ笑う魔理沙だけど、視線は僕のポケットにあるラブレターから全く離れてない。完全にロックオンをしちゃってるね。

 

 よくよく考えると、雄二がこの手紙の事を暴露してから最初に話しかけてきたのは、今となっては敵である男子クラスメイト一同ではなく、この魔理沙だ。そして部隊を編成したりと、それだけこの手紙の中身が気になったんだろうけど、あいにく僕は1人でこの手紙を読みたいのさ!誰にも邪魔はさせないぞ!

 

 

「魔理沙、悪いんだけど僕は屋上に行ってこの手紙を1人で見たいんだ。だからここは諦めてくれないかな?」

 

「残念だが、この魔理沙ちゃんは聞き分けの悪い女の子ってことでずっと美鈴とか咲夜に注意されっぱなしなんだぜ。三つ子の魂百までってな」

 

「美鈴さん達も苦労してるんだなあ・・・」

 

 

 あの暴徒と化した男子達を隊長として仕切ってまでこの手紙を読もうとしてたんだ。諦めてもらうのは最初から無理だったのかもしれないね。

 

 

「ま、運が悪かったと思って諦めてくれ。誰にも言わないってことは約束するぜ」

 

 

 魔理沙があと数メートルの所で立ち止まった。最後のチャンスってことなのかもしれないけど、僕は決して屈さない。

 

 

「魔理沙こそ気の毒だったね。ラブレターをもらったのがこの僕で」

 

「ほほう?そりゃー、私が吉井に負けるってことか?」

 

 

 魔理沙が不敵に笑いを浮かべ、両手を構えた。何が何でもこの手紙を見るつもりみたいだ。ならば、僕も全力で行こうじゃないか。

 

 

「そうだよ魔理沙。こうなったらもう、女の子だろうと手は抜かないよ?」

 

「へっ、そう簡単にはやられないぜ・・・!」

 

「アタイもやるわよ!最後に勝つのはアタイ何だから!」

 

 

 チルノもなぜか参戦する気のようだ。よおし、ついでに僕と君のどちらが賢いのかもこの際証明してあげようじゃないか!二度と君にバカとは言わせないようにしてやるよっ! (腕っぷしと賢さは関係ありません)

 

 

 

――――観客ゼロ、審判ナシ、天使の声明をかけた三竦み勝負が、今はじま

 

 

 

 

「貴様ら、何をしているんだ」

 

 

「「「げっ!?」」」

 

 

 る瞬間、僕たちは揃って身体を震え上がらせた。い、今の突然な野太い声は・・・!

 

 遅れてやってきた観客でも、審判でも手紙を授けた女神でもない・・・!あ、あの声は・・・・・・!!

 

 

「今は授業中だとういうのに、言われて来てみれば・・・まさか遊びほうけてるとはな」

 

 

 一目でわかるほど筋肉質な体。そしてそれを裏切らない実力を持ち、数多の生徒を地獄へと突き落としてきた男・・・!

 

 

「い、いやあのだぜ西村先生。これは何も遊びでやってるわけじゃなくて・・・!」

 

 

 僕たちの担任、鉄人こと、西村先生が僕たちの前に君臨した。魔理沙も思わずたじたじになり、僕は汗がだらだらと止まらない・・・っ!!

 

 

「貴様ら、良い度胸だ。少しばかり話をさせてもらおうか」

 

 

「「「……っ!」」」

 

 

 やばい。声は冷静だけど、だいぶ怒ってらっしゃるよこれ。ひしひしと怒っているのが丸分かりだ!

 

 

「お、おい吉井、この状況、どうするつもりだぜ。戦う気か・・・!?」

 

「・・・いや、それはあまりにも無謀すぎるよ・・・!」

 

 

 魔理沙の耳打ちに僕はそっと首を横に振る。その間にも鉄人はバキバキと拳をならすながら接近している。こうなったら……猶予は無い!即座に行動移るのみっ!

 

 

「・・・・・・ここは逃げるが勝ちだよっ!(ダッ)」

 

「同意だぜっ!(バッ)」

 

「え!?ちょ、ちょっとどこ行くのさーっ!?」 

 

 

 即座に鉄人とは反対方向に走り出す!これは決して逃亡じゃないよ!?戦略的撤退なんだからね!

 

 

「!逃がさんぞ貴様らっ!補習室でたっぷり悔い改めさせてやる!」

 

 

 鉄人も即座に追跡を仕掛けてきた!や、やはり速さが違う!ちくしょう!そんなごつい体なんだからもっと鈍い動作になれってんだよ!

 

 

「ちょっと!どーして逃げんのよさ!ここは一発、あの鉄人をぎゃふんと言わせてやるべきじゃない!?」

 

「ア、アホ!そんなことしたら返り討ちにあうぜ!んなこと言う暇あるなら、足に力を注げ!」

 

「全くだよ!君は補習室で何を学んできたんだバカ!」

 

「誰がバカよこのバカっ!」

 

「誰がバカだよっ!」

 

「やめろバカども!今はそんな余裕ないだろうが!ほらもうそこまで来てるぜ!!」

 

「「だから誰がバカ(だい)(よ)っ!」」

 

「こんな時だけ息を合わせんなっ!」

 

 

 バカはともかく、魔理沙の言う通り鉄人がさっきよりも僕たちに近づいている。全力で走っているというのに追いつかれるとは、奴の体力はどうなっているんだ!!

 

 

「観念しろ3人とも!潔く諦めるんだ!」

 

「だ、誰が説教を受けたいんだよちくしょー!」

 

 

 地獄を見るぐらいならどこまでも抵抗して見せるとも!

 

・・・で、でも階段を3段飛ばしたり無駄なく曲がり角を曲がったりしているというのに、一向に離せるような気がしないとはどこまでなんだよ!新人類か何かなの!?

 

 

「チルノ!ここは君が囮になってよ!君はただ楽しもうとして外に出てきたんだから、罰を受けるのは当然でしょ!?」

 

「嫌なのよさっ!そんなもんバカの吉井がなればいいじゃない!」

 

「こっちだって嫌だよ!じゃあ魔理沙はっ!?」

 

「当然NOだぜ!」

 

「だろうねーっ!」

 

 

 結局誰も囮にならないまま、僕たちは階段を再び駆け上がり、登り切ってすぐに左側の廊下へと走る!その数秒後、鉄人が同じように姿を見せた。やっぱりだめか!

 

 

「ここまで俺から逃げ切るとは・・・!その体力をもっとましなことに活かせ!」

 

「い、活かしてるじゃないですかっ!先生の補習を避けるためにぃっ!」

 

「それを間違った使い方だと言っているんだ!」

 

「・・・なっ、な、なんで、そんなに、声をあげてはしっ、れるんだ2人とも・・・!」

 

「こ、このぐらいっ、さ、さいきょーのアタイに、は・・・!」

 

「だ、大丈夫!?」  

 

 

 やばい!横の魔理沙達がだいぶ息を切らしてて、スピードが落ちてる!このままだと鉄人に追いつかれるよねっ!?

 

 

「女子でこれほど走れたことは、素直に賞賛しよう!チルノ!霧雨!」

 

「へっ、そ、そりゃどーもぉ・・・!」

 

「あ、あたりまっ、えなのよさ・・・!」

 

 確かに、ここまで鉄人から逃げられるというのは女子には難しいこと。これが体育の競技とかなら大健闘レベルだ。

・・・でも、これはスポーツじゃなくて、生死をかけた戦い。いくら健闘しても捕まってしまえば全く意味が無い! 何か、何か打つ手は・・・!

 

 頭を働かせようとしているうちに、各階にある2つある階段のもう一つが見えてきた。

 

 

「か、階段は止めよう!これ以上体力を使ったらやばいから!」

 

「はっ・・はっ・・!!」

 

「はー・・・ぜぇー・・・!」

 

 

 返事をするのもつらいのか、二人とはただ目を合わせてだけになった。けど言葉はきちんと伝わったみたいで、僕たちは階段を通り抜けた。や、やば、僕もそろそろ疲れて―!

 

 

「お前ら!いい加減に諦めるんだ!」

 

「くぅうう・・・!!こんなところで・・・!」

 

 

 

 やはり人間では鉄人にはかなわないのか・・・!

 

 ほとんど息を切らしてない鉄人は、限界に近い僕たちに叫びながら同様に階段の前を走り抜け

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

「ぶぎゃっ!?」

 

「うおおっ!?」

 

 

 

「・・・へっ!?」

 

 

――ようとした時、誰かが階段から飛び出してきた。

 

 

「え、えっ?」

 

「っな・・・なに、よさ・・・!?」

 

 

 なにかくぐもった悲鳴が聞こえた後に、鉄人が驚いた声を出して尻もちをついた。どうやら、飛び出してきた人と衝突したみたいだ。あ、あの鉄人が尻をつくなんて・・・!

 

 魔理沙もビックリした顔で、その光景を生み出し、鉄人と同じように尻もちをついた人の名前をつぶやいた。

 

 

「・・・メ、美鈴・・・!」

 

 

 そう。あれは、さきほどムッツリーニの時も手を貸してくれた美鈴さんの後ろ姿に違いなかった!どうやらまたも助けられてしまったみたいだ!

 

 

「2人とも!今が絶好のチャンスだよ!」

 

「おお・・・!美鈴、この借りは、必ず返すぜ・・・!」

 

「か、感謝、するのよさメーリンっ!」

 

 

 僕たちは、最後の体力をふりしぼってそこから離れた。美鈴さん!君の犠牲は無駄にしないよー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぎゃ!?」

 

「うおおっ!?」

 

 

 い、痛ああぁっ!?なんかすっごい固いものにぶつかりましたよー!?

 

 

 保健室から出て、私は吉井君達を探し回っていると、何やらドタバタした音と大きな声が。なのでそちらへと走り、階段を上がっていましたらどーん!です。壁にでもぶつかったんですか!?

 

 あうう、あ、鼻血が出てきました――

 

 

「紅。大丈夫か?」

 

「・・・・・・あ、西村先生」

 

 

 私の正面に、尻もちの状態から身体を起こした西村先生がいました。

 

・・・・・・あ、あれ?ひょっとしてやばくないですか?一応今は授業中なわけですから・・・

 

 

「すまんな。鼻は大丈夫か?」

 

「あ、ばい。ぢょっど鼻血が出だぐらいでず」

 

 

 ええっと、ポケットティッシュはかばんでしたっけ・・・

 

 

「これを使え」

 

「あ、どうも」

 

 

 差し出されたポケットティッシュを鼻に詰めます。よし、これで一安心。

 

 

「やれやれ。吉井達を追っていたんだが、見逃してしまったな」

 

「あ・・・す、すみません」

 

 

 や、やっぱりこっちにいましたか。よりによって追っていた西村先生の邪魔をしてしまうとは、私のバカ!こ、これは私に矛先が向いてしまうのでは・・・!?

 

 

「・・・普通なら、吉井達と同様にお前を捕まえて、補習室に連れて行くところだ」

 

「う」

 

 

 や、やっぱりそうなります!?

 

がーんとショックを受ける私。ああ、捕まえるつもりでいたのに、その一味を逃がすことに一役買ってしてしまうなんて、私はとんだ間抜け野郎です~・・・!

 

 

 

「―――が、今回は特例だ」

 

「へ?」

 

 

 しかし説教を覚悟した私を待っていたのは、ふうと息をつくそんな西村先生の声。・・・あ、あれ?あんまり怒ってない?

 

 

 

「紅。お前が倒れたあのバカどもを何度も保健室に運んでやったことは、先生に聞いた。・・・・・・俺はお前を見なかった。以上だ」

 

「へっ、えっ?」

 

「さて、吉井達を探さなければな(たっ)」

 

 

 私が口を開く前に、西村先生はさっさと言葉を言ってから走っていきました。

 

……よ、良く分かりませんけど…

 

 

「・・・・・・ひ、ひとまず助かった~・・・!」

 

 

 ああよかった~!みっちり絞られるかと思っていましたよー!

 

 

「ふ~~~・・・ん~。さて、この後はどうしましょうか」

 

 

 私は立ち上がって、お尻についたほこりを払いながら考えます。あのおバカ達を捕まえるか、このまま教室に戻るか。選べるのは一つだけです。

 

 

「・・・・・・よし!」

 

 

 ここは、自分の目的、そして受けた苦労のことを思い出しましょうかね。

 

 

 

 

 

 

「あ~・・・疲れた」

 

「そりゃ私のセリフだぜ。ふう~…」

 

「ちくしょ―・・・今度は逃げないのよさっ!そしてアタイが勝つ!」

 

「やめとけ。もう結果が丸見えだぜ」

 

 

 僕たちは息を整えながら、屋上に繋がる階段で腰を降ろした。うーん、鉄人の脅威は去ったので開放感が凄いなあ。こんなに生を実感出来るのは久しぶりだよ。

 

 

「よいしょ、じゃあ僕は屋上に行ってくるよ」

 

 

 だいぶ落ち着いたし、僕もいい加減このラブレターの中身が気になってきたしね。

 

 

「お、んじゃ私も行くぜ」

 

「え。ま、まだ諦めてないの?」

 

「当然だぜ。でも、奪って見たりするのはやめたから安心してくれ」

 

 

 そう魔理沙は言って立ち上がるけど、その言い方だと奪わなかったら見るってことになるよね?だからあんまり安心できない僕だった。

 

 

「アタイも行くわよ。その手紙を見ないとアタイが報われないのよさ」

 

「僕についてきたのはチルノだよね?」

 

 

 そんな僕が無理やり連れまわした言い方をされるのは納得がいかない。そしてこの手紙を見ることが確定しているみたいな言い方にも反論したい。

 

 

「・・・まあいっか」

 

 

 チルノが見てもわかんないだろうしね。

 

 僕はそう結論付けて屋上へと足を動かし、階段と外を隔てる扉へとすぐに到着。ガチャリとノブをまわして開け放った。

 

 

 

「やはりここまで来たか、明久」

 

「吉井君、言う事を聞いてください」

 

「!ゆ、雄二に、姫路さん・・・!」

 

 

 するとそこには、この騒動を引き起こしたの雄二と、姫路さんが立っていた。この立ち位置からして、ラスボスなのは間違いなしだ!なら僕は勇者ってところかな!

 

 

「ん?おお、瑞希に坂本じゃないか。全然見ないと思ったらここにいたんだな」

 

「そういう霧雨も色々と動いていたみたいだな」

 

「まあな。なんとか助かったけど、危うく西村先生に捕まりかけたぜ」

 

「ほう。それは凄いじゃないか」

 

「ま、あれは運も良かったんだけどなー」

 

 

 そんな他愛もない会話をしだすラスボスと魔理沙。それはチルノ達も同じ。

 

 

「みずきはここで何してんの?」

 

「あ~、そ、その、吉井君の手紙を、ちょっと見せて欲しいなって思いまして。そしたら、坂本君がここで待つといいって言ってくれたので・・・」

 

「ふ~ん。つまり、よしーが持ってる手紙が欲しいってことね?」

 

「はい、そうですっ」

 

「よし!じゃあアタイがバカよしーからぶんどってきてあげる!」

 

「え、て、手伝ってくれるんですか!?」

 

「当然よ!子分の世話を見るのも親分の役目なのよさ!」

 

「ありがとうチルノちゃんっ!」

 

「ちょ、チルノ!?そして姫路さんは子分と言われて何も言わないの!?」

 

 

 ここに来てのチルノの裏切りである。何か約束をしたうえでの一緒の行動ではなかったけれど、針の先ほどに芽生えたわずかな友情が一瞬にして枯れ果てたじゃないか。やはり、賢い僕とバカなチルノが仲良くなれるはずもなかったみたいだ。

 

 

「よしー!その手紙をよこしなさい!じゃないとアタイの拳がうなるわよ!」

 

「そんな可愛らしい拳がうなったってちっとも恐くなんかあるか!」

 

 

 姫路さんから僕の方に近づき、シュッシュと明らかに素人がやるようなシャドーを始めるチルノ。それがなんか可愛いらしく思ってしまったのは、はなはだ遺憾で僕の大失態だと言えよう。

 

 

「ならチルノ、俺も協力しよう」

 

「君のは怖すぎるんだよ雄二!」

 

「おお、なかなか様になってるぜ」 

 

 

 この男のシャドーはやばい。かなり場数を踏んでいるのが分かるし・・・殺る気がいっぱいつまってやがるよ。

 

 

「ゆ、雄二!どうしてそこまで邪魔をするんだよ!こんなことしても、君にはメリットがないでしょ!?」

 

「違うな明久。お前の不幸を見れることが、俺にとってのメリットだ」

 

「あんたは最低の友達だ!」

 

 

 まだ単純なチルノの方がずっと友達に思えて来たよ!

 

 

「さあ明久、かかってこい。俺は霧雨のように優しくは無いぞ。見られたくないなら俺を倒して阻止しろ」

 

 

 そう言って雄二が上着を脱いで、ネクタイをしゅるりとはずした。くっ、やはり筋肉の付き方もすごい。そこだけは純粋に羨ましく思うよ。

 

 

「姫路、上着を持っていてくれないか」

 

「あ、はい」

 

 

 姫路さんに上着をあずけた。それだけ身体を動かして、僕をぼこぼこにする気なのか・・・!

 

 仕方ない、上等だよ!勇気を出して手紙をくれた女の子の為にも、君に勝ってみせるぞ、雄二っ!

 

 

「魔理沙、上着を持っていてくれない?」

 

「ん?おう」

 

 

 よし、これで条件は同じだ!気合いを入れろ僕!そして奴をこの黄金の拳に沈めてやるんだっ!

 

 

「雄二!いざ尋常に、勝負だっ!」

 

 

 僕は出来る限りの構えを取って、雄二と対決――

 

 

 

「・・・・・・・・・明久。お前、バカだろう」

 

「へ?」

 

 

 急に雄二の顔があきれ気味になった。なんで?まだ何もしてないよね?僕の後ろのほうを見てるけど、何かあるっけ・・・

 

 

 

「・・・ほうほう、・・・・・・ほお~」

 

 

 

 気になって雄二の視線の先を見ると、何やら可愛らしい手紙を熱心に読む魔理沙がいて

 

……………………え?

 

 

 

「!!!!ま、魔理沙ぁぁあ!!?」

 

 

 あ、あああれってひょっとしてラブレターの中身ぃぃ!!? そう言えば上着のポケットの中に入れてたっけぇ!?

 

 

「まっま待った魔理沙「霧雨!その手紙を始末するんだ!」離せ雄二ぃ!」

 

 

 くそっ、雄二に羽交い絞めされて全く動けないっ!なんて馬鹿力なんだこの野郎!

 

 

「!ま、魔理沙ちゃん!ちょ、ちょっとその手紙を見せてくれませんか?」

 

「ん~?ほれ。にしても――き、なかな――るじゃな―か」

 

「・・・あ、あ…やっぱり・・・」

 

「なになに?アタイも見せて!」

 

 

 姫路さんに手紙を渡して、それをチルノも参加して見始めた。魔理沙が何か微笑みながら言ったのに、姫路さんが顔を赤くしている。何を言われたんだろうか。

 

 

「え~、なになに?『よしいあきひささまへ とつぜんですが、よしいくんにつたえたいことが―』」

 

「!!ダ、ダメですうぅぅ!!(ビリビリビリ)」

 

「お、おおっ!?」

 

「あー!まだ読んでないのにー!」

 

「ああああ!?ぼ、僕の記念すべき最初のラブレターがーきれいな紙きれにーっ!」

 

 

 せっかくチルノが読み上げようとしてくれてたのに!何がダメなのか知らないけど姫路さん細かく破るのはやめてぇぇえ!!

 

 悲しくも動きを封じられていた僕に止める手立てはなく、そのままラブレターはきれいな紙くずとなって、全て屋上に散ってしまった。ゥウゥゥ…!!せっかくのラブレターがー!!

 

 

「・・・まさか、姫路がそこまでやるとは思わなかったな」

 

 

 雄二も姫路さんの行動にびっくりして、僕を押さえてた腕を解放した。ああ、せっかくのラブレターが・・・まさか姫路さんにダメにされるとは夢にも思わなかったよ!思わず涙がきらりと僕のほほを流れるよ・・・

 

 

「おー、また細かくやったなあ。よっと・・・」

 

 

 そうやって僕が打ちひしがれていると、魔理沙がしゃがんで元手紙の紙切れを集め始めた。

 

 

「ま、魔理沙・・・ひょっとして、この紙くずを繋ぎ合わせてくれようと・・?」

 

 

 なんて良い子なんだろう。今まで悪戯と恋話が好きな女の子とだけ思っていたけど、考えを改めないといけない

 

 

 

 

「誰かマッチかなんか燃やす物持ってないか?」

 

「任せろ。これでどうだ」

 

「おう、サンキュー(シュボッ)」

 

「おお、良く燃えてるのよさ」

 

 

「ってファイヤー!?ちょ魔理沙、なに完全に消滅を測ろうとしてんだよぉ!?」

 

 

 雄二も満足そうな顔してライターを貸してんじゃないよ!どうせ僕の幸せがつぶれて嬉しいとでも思ってるんだろうけどねー!

 ああそう言ってる間にもどんどん灰にっ!

 

 

「悪いな。この手紙の主の本懐を遂げさせたかったんだぜ」

 

「ちょ水!誰か水を持ってきてえ!」

 

 

 魔理沙がなんか言ってたけどそれどころじゃない!魔理沙なんか今度から外道の称号をくれてやるーっ!

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 はい。結局きれいさっぱり燃えつきました。これで読むことはヒャクパー不可能です。

 

 

「ま、魔理沙ちゃん。このことは秘密でお願いします・・・」

 

「おう、安心しろって。――たのがみ――ってのは知られたくないもんなー」

 

「ほう、やっぱりそうだったのか」

 

「!さ、坂本君」

 

「やっぱりってことは、知ってたのか?」

 

「まあな。〝他人の〟手紙を勝手に破るようなことを、姫路がやるとも思えんからな」

 

 

 雄二達が何か気になる話をしている気がするけど、今の僕は手紙を失ったことによるショックの方が大きかった。

 

 

「(ポンッ)よしー、きっといいことあるのよさ」

 

「君が良い事って言って、不安を感じるのはなんでだろうね」

 

 

 なおいっそう不安になってくるよ。ああ、この不幸を元凶の雄二にも振りかけられたらなあ・・・!

 

 

 

 

 

バァンッ!

 

 

 

『ん?』

 

「わわっ?」

 

 

 全てが終わり、僕が手紙のように燃えつきかけながら恨みを募らせていたら、そんな大きな音が響いてきた。

 

 

 

 

「・・・見ぃつけましたよぉぉぉ・・・!!」

 

 

 そちらを見ると・・・・・・赤い修羅がいました。

 

 

「ど・・・どうしましたか?美鈴さん・・・?」

 

 

 親しい姫路さんがびくびくしながら話しかけたのは、彼女の雰囲気が凄いことになっていたからだろう。

 

 ぼさぼさになった赤い長髪、鼻にはティッシュを詰め込んでいて、身体中には赤い何かが飛び散っていて、普段とはだいぶ変わってボロボロに見える美鈴さんが、僕らに凄い目でメンチをきっていたからだ。僕も思わず身をすくませる。

 

 

「・・・ここに来るまでにねえ、私は倒れた男子を保健室に運んだり、保健室に運んだり、保健室に運んだり、運んだり、文房具を投げられたり鼻血を浴びたり出したりしたのですよぉ・・・!」

 

 

 ふるふると口元を歪ませながら、壊れたようにつぶやく美鈴さんに姫路さんがキャッと小さな悲鳴をあげる。はっきり言って、怖い。こんな美鈴さんは見たこと・・・

 

 

「そんな運搬作業をさせてくれた、そもそもの元凶である坂本君にお礼をしたいんですよお・・・!!」

 

 

「・・・・・・!!ま、まあ、まあ待て紅・・・!は、話せばわかる・・・っ!!」

 

 

 ニヤァと、口元が裂けそうなぐらい笑顔を浮かべる美鈴さん。あ、違う。あったよねこんな雰囲気。確かあれは――

 

 

「―――たまった恨みの発散に、付き合えこらぁぁぁあっ!!」

 

「メ、美鈴!?」

 

「美鈴さんっ!?」

 

 

 

 

 Bクラスと戦った後の、根本君にキレてた時の雰囲気だ。

 

 

「ちょ、や、ややめグボアアァッ!?」

 

 

 その考えが浮かんだのと同時に、雄二の顔に美鈴さんの足裏が炸裂した。おお、スカッとする一発だね。

 

 

「おおっ!メーリンも最強だったのよさ!」

 

 

 そんな興奮気味のチルノの感想に、珍しく僕は彼女に同意できた。

さて、じゃあ今から特等席で、ゆーじんである雄二の最期をしっかり見届けてあげるとしよう!

 

 ラブレターを失った悲しみを怨敵への制裁で満たしながら、僕は爽やかな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

『――む?今、雄二の叫び声が聞こえたような』

 

『ウチも聞こえたわ。それも続けて…美鈴にとっちめられ始めたみたいね』

 

『あ~。まあ自業自得だな。あいつが言い出したのがそもそものきっかけなんだからよ』

 

『まあそうじゃな。さすがに仕方あるまい』

 

『アキはどうなったのかしら?ラ、ラビュレチャーを見たのかしら?』

 

『さあのう・・・落ち着くのじゃ島田。ろれつが回っておらんぞ』

 

『ま、なるようにはなったんじゃねえのかねー?はあ、俺もあいつらみたいに授業をさぼればよかったかな』

 

『あれ?そんなこと言っていいのー?』

 

『もしもしてしまったら、大越に嫌われるぞい?』

 

『言うな!もう名前も言ったんだから冗談抜きで勘弁しろっ!』

 

『コラ田中!授業中に大声を出すとは何事だ!』

 

『!ま、まった先生!これは俺にとってこの上なく大事なことで――!だ、だから頭突きはやめて――!』

 

『やかましいっ!(ゴズンッ)』

 

『グハァッ!!?』

 

『……ごめん、田中』

 

『・・・すまんのじゃ、田中』

 

『も・・・もう、厄日確定、だ・・・』

 

 

 

 

 

 

「―――ま、そんなこんなでラブレターは灰になったそうです」

 

「・・・ふふふっ、うふふふふっ。そんなことになるとはねえ。ああ、笑いが止まらないわ」

 

「そ、そうですかー」

 

 

 放課後。園芸部の部室にて、今日起こった『ラブレター騒動』のことを約束通り幽香先輩に話しました。

 

 幽香先輩は本当に可笑しそうに、うふふと笑いをこぼしながら話を聞いていたのです

が・・・私には全く笑えなかったんですよこら!メチャクチャ疲れたんですからね!

 

 

「で、その〝坂本君〟は現在保健室、と」

 

「正しくは保健室の廊下ですけどね」

 

「・・・っ!廊下・・・っ!うふふふっ…!」

 

 

 あの後、魔理沙や瑞希さんに必死に止められまして、鼻血を出し、関節技を決められて青い顔をして気絶した坂本君を開放しました。吉井君が残念そうにしてましたけども、そこは無視させていただきました。だって吉井君がラブレターを見られなければ何も起こらなかったんですから!そこまで吉井君のいうことを聞く義理はなかったのです!

 

…で、気絶した坂本君を保健室へと運んだんですけど、中はまだダウン中のFクラスメンバーで満員。なので仕方なく廊下に置いてきたわけです。あ、きちんと許可は取りましたからね?ちょっと先生は苦笑いしてましたけど。

 

 

「ああ、やっぱりあなたがいると楽しいわ、美鈴。これからも頼むわよ?」

 

「ぶ、部活に関しましてはねっ!そっちは全く知りませんよ!?」

 

「大丈夫よ。きっとあなたは、そういう星の下で生まれてきたのだから」

 

「そんな保証入りません!」

 

「さて、じゃあそろそろ行きましょうか。準備をしなさい美鈴」

 

「い、言うだけ言ってもう~・・・」

 

 

 私の回答にひとしきり笑った幽香先輩は、荷物を手に立ち上がりました。それはいくつかのポットが入った段ボール。この苗たちを今から植えに行くのが、園芸部の今日の放課後の部活動です!

 

 

「さ、行きましょう」

 

「はーいっ」

 

 体操服に着替え終わった私たちは外へと向かいました。さあ、自然に触れて今日一日ですさんだ心を癒しに行きましょうか!もう私の心はズタズタですもの!

 

 

 

 

 

「――しっかし、結局あれは誰からの手紙だったんですかねえ?魔理沙が燃やしちゃったみたいですけど、冷静に考えると良くない気もしますよー」

 

「さあ?案外身近な人かもね」

 

「う~ん、ん?そーいえば、どっかで似たような文字を見た気が・・・どこでしたっけ?」

 

「私に聞かれても知らないわ。記憶力を鍛えなさい、美鈴」

 

「ここ、これでもましになりましたよっ!?」

 

「・・・そう。それは悪かった、わ・・・」

 

「そ、そんな辛そうに目をそむけないでください先輩―!こっちが辛いですからぁ!!」

 

 

 

 

 

 

『失礼します』

 

『あら、西村先生。ご苦労様です』

 

『ええ・・・申し訳ない。うちの生徒が手を煩わました』

 

『かまいませんわ。けがをした生徒の世話をするのが保険医の仕事ですから。それに、ここに運んできてくれたのは紅 美鈴さんです。彼女に礼なら言ってあげてください」

 

『ああ…まあ奴には、違う形で感謝を示したつもりです』

 

『あら、そうでしたか』

 

『ええ。ですがそれはそれで、このバカ共を診てくれたのはあなたです。仕事とはいえ、あなたに感謝しなければなりません』

 

「まあ、西村先生は評判通りまじめな方ですね。でも、あまり気負いすぎたら疲れるでしょうから、ほどほどにされるのも大事ですよ?』

 

『む。そうかもしれませんが、なにぶん性分なものでして…』

 

『そうですか。それなら強く言えませんが、なにかあれば保健室に来られてください。検診から些細な相談まで受け付けますわ』

 

『・・・・・・本当に、あなたは良い保険医ですね。皆さんがこれ以上なく称賛をする理由が分かります・・・・・・八意先生』

 

『照れますね。医学に携わった人間として、やるべきことをしているだけなのですが・・・』

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!


 前回の最後でも気づいた方がいると思いますが、最後に、彼女の名前を出させてもらいました!
 後書きにはちゃんと出たときに書かせてもらうつもりですが、このような話し方、性格でよかったのやら・・・・・・彼女らしさを出せているか、非常に自信がありませんが、ここはではああ!ということで許してやってください!


 さて、次回またも学園祭の前に話を挟ませてもらうのですが、また一人、新しく東方キャラクターに出演してもらうつもりです!

 ちょっとでも期待しながら楽しみにしていただければ、幸いです!

 それではまた次回っ!

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