これからもよろしくお願いします。
この辺りの時系列、ガイルサイドでもワールドトリガーサイドでも色々盛りだくさんだから揃えるのが中々難しくです。うまく絡めるのはもっと難しいです。どうにかうまく連携できないか…。
佐々木さんの義手(試作品)のお披露目の次の日。
俺は本部長に呼び出された。呼び出された本部長室に入ると、そこには有馬さんと横山がいた。
「よっす」
「ん」
左目は相変わらず包帯で塞がれているが、とりあえず退院できるようになる程度に回復したとのことらしい。
しかし言われた時間よりも少し早いんだが、もう二人ともいるとは。お待たせしてしまったか。
「来たな、比企谷」
「お待たせしました」
「いいや、指定した時間よりも早い。横山は元よりオペレーターのことで少し話すことがあったから早めに来てもらってたんだ」
「そうなんすね」
とりあえず遅刻したわけではないみたいだ。良かった。
「さて、早速本題に入ろう。予想はしていると思うが、比企谷、横山両名にはA級0位有馬隊に所属してもらうことになる」
ま、そうなるよな。予想はしていたことだし、そもそもそうできるようにしてもらったんだから。
「このことについて異論はないよな?」
「はい、ないっす」
「あたしも無いでーす」
「よし、ではこれより二人は有馬隊の一員だ。といっても、今まで戦闘員は有馬さんしかいなかったのだがな」
ぼっち部隊は別段珍しく無い。今もB級で漆間隊という戦闘員オペレーター一名ずつという部隊もあるのだ。
一番すごいのは、この人が今までぼっち部隊でありながらボーダーの最高戦力であり続けたことだ。黒トリガー相手にはさすがに遅れを取る場合もあるだろうが、少なくとも現存ボーダーが所持する黒トリガーで有馬さんを倒せた記録はない(尤も、有馬さん本人も向こうを倒せないが)。つまりこの人はトリガーの性能が同じなら負けることはないということだ。化け物かよ。
「さて、これで晴れて有馬隊となったが…まずは0隊の業務について説明しておこう。枠組みとしては玉狛第一に近い。個人に合わせたトリガーの使用が許可される。ここは以前の大規模侵攻の時と同じだ」
「オペレーターのあたしにはなにかあります?」
「通常の隊員達が使用しているオペレート用PCよりもハイスペックなものが使える。できることは増えるが、当然それを操る技術も必要になってくる。だが君なら使いこなせるだろう」
「善処しまーす」
慣れはいるだろうが、横山ならどうにかできるだろう。真戸さんの弟子なんだし、なによりそういう方面にはめっぽう強い。脳筋に見えるのに。
「ハッチ、今失礼なこと考えなかった?」
「イイエ、メッソウモナイ」
なんでわかんだよ。本気でエスパーなの?
「さて、次は比企谷についてだが」
「なんかあるんすか?」
「トリガーについてだ」
トリガー?なんで?
「使用するトリガーだが、前回の大規模侵攻で使用したトリガーがベイルアウトできなかった理由がわかった」
「お」
「やはり、ジャミングが関係していたらしい。元よりあのジャミングはベイルアウトを有効範囲内で封じるものだった。だが恐らく、君が戦った人型ネイバーの黒トリガーが、君のトリガーの機能であるベイルアウトを直接ダメにしたのだろうというのがエンジニアの意見だ」
そんな直撃を喰らったり、ベイルアウトを直接やられた記憶はないが…まぁあのなんでもありの黒トリガーならそう言われても違和感はないな。
「あのトリガー自身はベイルアウトが使えないものになった。だから新しいトリガーを用意する。トリガーのセット可能量も増えているから好きにカスタマイズしてくれ」
「どもっす」
トリガー拡張してくれんのか。それは嬉しい。vigilとか入れると割と他のセットに悩むからな。
「次に業務についてだが、これは基本通常通りでいい。チームランク戦は参加できないが、通常のソロランク戦は今までのトリガーでなら参加可能だ。あと防衛任務に就いてもらうが、この時は0隊トリガーを使用してもいい」
防衛任務も復活か。ここ最近、やってなかったしそろそろやらないとな。金稼いでおきたいし。
「まぁここまでは予想通りだろう」
「そっすね、特段驚くようなこともないです」
「そーね」
「うむ。じゃあ最後に、0隊最後のメンバーを紹介する」
あ、佐々木さんが言ってたな。後釜はいるって。
「あ、僕の出番ですか?」
そう言って本部長室にある給湯室から顔を出したのは、一昨日くらいにチョコケーキあげた中坊(仮)だった。
「あ!お前」
「ハッチ、知り合い?」
「いや…知り合いっていうか…」
「この前お菓子くれました」
「…どゆこと?」
俺も説明しづらいんだが。
「彼が、今後君とコンビを組むことになる『鈴谷什造』だ」
「鈴谷什造です。ハイセとは友達です」
「佐々木さんも知ってるのか」
「はい。同い年の友達です」
同い年……え、嘘。年上?年上⁈
「え、あ…と、年上?」
「多分?僕は19歳です。まだお酒は飲めません」
「あっ…」
っべー、前に会った時普通にタメ口きいちゃったよ。
「す、すんませんした…年上とは知らずに…」
「いいですよ〜よく間違えられるんで」
「あっはい」
「好きに呼んでください。僕はヒキガヤさんって呼びます」
「…じゃあ、鈴谷さんで」
そういうと鈴谷さんは手を差し出してきた。握手、でいいんだよねこれ。
恐る恐る手を差し出すと、鈴谷さんは俺の手を握って握手した。
「これからよろしくです、ヒキガヤさん」
「よ、よろしくお願いします」
「はい。で、君がオペレーターですか」
「あ、はい。横山夏希です」
「じゃあナツキで」
「あたしはジューゾーさんって呼びます」
「はーい」
鈴谷さんはふんわりと笑った。
…佐々木さんとは別の意味で緩いな。厳しいよりはやりやすいからいいけど。
「さて、挨拶は済んだな?ではこれから0隊の体制について説明していこう」
本部長がこちらに向き直り説明を再開する。
「先程も言ったが、普段は防衛任務くらいだ。だがネイバーが攻めてきたりすることがある場合、君たちにはほぼ必ず出動してもらうことになる」
本部お抱えの対ネイバー部隊みたいな扱いだから当たり前だろう。
「無論事情があって参加できない場合もあるだろう。そこは考慮はするから安心してくれ」
「他にはまだなにかあるんですか?」
「そうだな、これはまだ決定したことではないが…話しておくくらいなら問題ないだろう」
「なんかあるんすか」
「これは、0隊としての指令というより比企谷個人に対するお願いに近い」
俺?
「比企谷、遠征に行ってくれないか?」
ーーー
「遠征、に?」
俺は小町のために遠征に行かなくていいように頼んでいた。その分別の仕事を振るようにはしてもらっていたが、それは本部長も理解している。その上での頼みだということだ。
「理由は?」
「次回の遠征は非常に大きいものになる。故にトリオンが大きい者が多く乗ることで滞在期間を減らすことができる」
まぁ、ボーダーの中でもかなりトリオン高い方だろうしいるだけで効果はあるだろう。だが行きたくないと言っていた俺にわざわざ頼むということはそれ以上のなにかがあるはずだ。
「それ以上に、君のサイドエフェクトの効果が未知の状況に対して多大な恩恵がある。迅と比べたら局所的かもしれないが、君の能力によって回避できる危機が多くあると考えられる。長期間未知の領域に行くのだ。なにかしら危機察知ができる者がいるだけで安全性は格段に上がる」
…まぁ、言ってることはよくわかる。俺みたいに危機察知に優れた奴がいればかなり安全にはなるだろうよ。
だが俺が遠征に行っている間、残された小町はどうする。どれくらいの期間かはわからんが、最低でも一週間以上はかかるだろう。今の小町なら俺がいなくとも生活はできる。だが、残されることに対する恐怖が小町の中で消えてない可能性は大いにある。その間誰かのとこに泊まるという手もあるが、多分迷惑がかかるという点で小町は容認しない。
「………」
「君が遠征に行かない理由はもちろん把握している。だが、今回は君の力を是非借りたいと思っているんだ」
「…俺、は」
「無論これは任意だ。君が断ることに対してペナルティは無い。寧ろ君の状況を知った上でこのようなお願いをしている此方に落ち度がある。すまない」
「…いえ」
「一応考えておいて欲しい」
当然この場で結論なんぞでない。
少なくとも小町と話し合う必要がある。
「とりあえずこの話はここで一度終わりだ。続けて給与についてだが…」
本部長が話を進めているが、なんとなく内容は頭には入ってこなかった。
ーーー
「ヒキガヤさん」
本部長室を後にすると鈴谷さんが声をかけてきた。
「なんすか」
「少し、お話していきません?チームメイトのことはもう少し知っておきたいので。ナツキもどうですか」
「ん、俺は大丈夫すけど」
「あたしも。初対面だし、今後チーム組む以上コミュニケーション取っておいて損はないかな」
「決まりですね。お菓子買ってきます」
そういうと鈴谷さんは売店に走っていった。
…見た目もだけど、あの人本当に子供っぽいな。
比企谷隊
作戦室
「おー!ここが二人の作戦室ですか!」
「一応ここ、そのまま俺らの作戦室にしていいみたいなんで、鈴谷さんも私物とか多少持ち込んでいいんじゃないですかね」
「おお!この扉の中にお菓子がいっぱいですね〜!」
子供みたいに目を輝かせる鈴谷さんを見て俺と横山は目を見合わせる。佐々木さんみたいな大人っぽさは全く感じないが、佐々木さんと仲がいいというのはなんとなくわかる。佐々木さんと相性良さそうだし。
「じゃ、改めて…僕は鈴谷什造です。ハイセとは友達です」
「比企谷八幡す」
「横山夏希でーす」
机にお菓子を適当に並べて改めて自己紹介から始まる。え、なにこれ。合コン?合コン行ったことないけど。
「ジューゾーさんって、サッサンと知り合いだったんですか?」
「はい、ハイセは友達です」
「どこで知り合ったんすか?」
「四塚市の海です」
四塚市?あ、そういえば佐々木さんちょいちょい行ってるみたいな話加古さんがしてたな。
「ハイセに会ったのは、二年前です。学校帰りに海でぼーっとしてたら会いました」
ええ…なんかデジャヴ。
「ハイセのお母さんが、海が好きだったらしいんです。それで時々お墓参りついでに海に寄ってるらしいです。僕があったのはその時です」
「あー、そういうね」
「ボーダーに入ったのも、ハイセから話を聞いて入りました。その前に有馬さんからスカウトはされてたんですけど」
「え、スカウトされてたんすか」
「はい。最初はハイセのお父さんだとは知りませんでしたけど」
鈴谷さんが言うには、有馬さんからはトリオン能力と卓越した身のこなしを買われてスカウトされたらしい。身こなしということは、ポジションは攻撃手だろうか。
「そういえばジューゾーさん、ポジションは?」
「僕は攻撃手です。メインはスコーピオン」
空閑と似たようなタイプかな?
「ポイントは?」
「4560です」
「え、4000?」
「はい」
え、B級になりたてじゃん。一応A級部隊なのにB級に上がりたての人入れていいの?それともポイント没収されたのか?
「失礼ですがそのポイントだと、B級上がりたてですよね?どうしてこの部隊に?」
有馬さんの推薦があったとしても、ある程度本部からの信頼がなければこの部隊には入れないだろう。だがそこはなにかしら理由があるはずだ。
「僕がボーダーに入ったのは、一年半くらい前です。でも色々あってしばらくランク戦が禁止されてたんです」
「ランク戦禁止?」
「同期の人と色々揉めてしまいまして」
屈託なく笑っているが、ペナルティの減点ではなくランク戦を禁止されるほどのものということはかなり大きな騒ぎになったのだろう。なにがあったかは聞かないが、今ここで鈴谷さんがこの部隊に入っているということは多分鈴谷さんがなにかやらかしたのではなく、鈴谷さんの才能に嫉妬したその同期とやらがなんか起こしたんだろうな。
「それでランク戦できなかったのでポイントが低いんです」
「その間なにしてたんです?その様子だと、遊んでたわけじゃ無さそうすけど」
「ハイセと練習試合してました。訓練室なら使えるので」
なるほど、訓練そのものは続けてたのか。しかも相手が佐々木さんとなると、かなり鍛えられそうだ。
「この前、初めてハイセに勝ち越しました」
「え、サッサンに勝ち越したんですか」
「はい。まぐれもあるとは思いますけど、6-4で」
「まぐれで勝ち越せるほど甘くないでしょ、あの人」
「あの時は初見殺しがありましたから」
初見殺しがあったとしても、せいぜい取れるのはニ本。つまりそれを抜きにしても鈴谷さんは佐々木さんと至近距離でやりあえるくらいの実力があるってことか。
「有馬さんには0-10で負けました〜」
「あの人にノーマルトリガーで勝てる人はボーダーにはいないっしょ」
「…まぁ、無理だろう」
本当に化け物だよ。数回手合わせしただけだけど、攻撃もだけど回避技術が神がかり過ぎてて攻撃が当たらん。
「で、鈴谷さんはどういうトリガー使うんですか?今後ハッチと合わせていく以上知っておいた方がいいと思うんです」
確かに。事情があったとはいえ、この人完全に無名だったから戦闘スタイルとか一切知らないんだよな。
「僕は基本スコーピオンしか使ってません。でも0隊に入ったから色々使いたいです」
「スコーピオンだけで、サッサンと同等?」
「シールドとかは使いますけどね〜」
おいおい、仮にもボーダー結成初期からいる人だぞ。佐々木さんも剣一本だけなんだろうけど、それでも十分強い。それに同等なのもすごいのにこれで使えるトリガー増えたらすごいことにならんか?
「あ、でもそのスコーピオンが真戸さんが作ってくれた僕仕様のやつなので」
「…まぁそれがどんなのかは知りませんけど、それでもすごいっすよ」
「照れます〜」
そう言って鈴谷さんは頭をかく。
ほんとにホワホワした人だな。まあ悪い人では無さそうだし、やっていけそうだ。
あ、そうだ。これだけは聞いておきたい。
「鈴谷さん」
「はい」
「鈴谷さんは、どうして戦うんですか」
戦う理由は人それぞれだ。復讐、仕事、楽しいからとか色々理由はある。どんな理由でも否定する気はないし、チームも組む。だがなぜ戦うのかだけは知っておきたい。仮に俺と鈴谷さんの方針が異なった時、意見をすり合わせたり話し合う際にそれを知っておくのと知らないのとではかなり違う。佐々木さんの時もそうだった。最初は知らなかったが、知ってからその人のことをより知ることもできるようになるし、なによりこちらの向き合い方が探りやすくなる。
鈴谷さんはお菓子を食べる手を止めて俺を見る。
「ハイセは強かったですね」
「そうっすね」
「そうね」
「有馬さんも強かったです。それで、二人を見て思いました。強さっていうのは、どれだけ自由に身体を動かせるかで決まってくると思います」
身体をうまく使うことができればやれることの選択肢が増える。そしてその選択肢は戦闘における強さに繋がってくる。
「僕、実はもうボーダーに就職するって決めてるんです。だからこの場合仕事と答えるのが一番自然なんでしょうねぇ」
あ、そうなの。まぁ就活しなくていいし楽だろうな。給料も悪くないし。
「でも違います。僕は、楽しいことがしたくてここにいます」
米屋とか緑川タイプか。まぁ強くなってる自覚やできることが増える喜びはわかる。
そう思っていた俺の考えは、次の瞬間には吹き飛んでいた。
「事務仕事は苦手ですけど、僕はどうやら才能があったらしいのでここなら楽しく過ごせます」
そう話す鈴谷さんの雰囲気が一気に変わった。
「でも、ランク戦でも模擬戦でも実践でも負けるのは悔しいです」
冷たくはない。だが肌を刺すかのような殺気と覇気を確かに俺は感じた。
この感覚、知ってる。
あの今のところボーダーで最も強いバトルジャンキーが戦う時の雰囲気に似ている。
「だから僕は」
これを初めて感じたのは、随分前だ。だが今でも覚えてる。
「楽しく、自由に『
それは、本気の二宮さんやカゲさんを前にした時に感じたやつだ。
「でも僕一人じゃ、最後まで遊べません」
それに、この前感じた旧多を目の前にした時とも似ている。
「ハイセにも有馬さんにも言われましたから、自信を持っていいます」
現状では多分、まだ俺の方が強い。だがこれは予感ではなく確信だ。
「僕は、強い」
俺はいつかこの人に抜かされる。
「だから僕と一緒に、最後まで遊べるように頑張りましょう」
少なくとも今のままじゃ確実に遠くない日に追いつかれる。
「ヒキガヤハチマンさん」
そう言って笑う鈴谷さんの目は獰猛な光を宿しており、それは太刀川さんが迅さんと戦う時と似た光だった。
背筋がゾクゾクする。
この人は本当に強い。佐々木さんとは違うタイプの強さだろうが、それでもこの人は本当に強いのだろう。そう思わせるような言葉だった。
冷や汗が垂れる。
この人と共に戦えるのが頼もしいと思うと同時に、少し恐ろしいと感じた。
***
翌日
放課後
「うす」
「あ、ヒッキー。やっはろー」
「こんにちは」
いつもの通り部室には由比ヶ浜と雪ノ下がいた。
定位置に座ると教材を開く。苦手な数学だが、国立に行く以上センター試験で避けては通れない。せめて基礎だけでも三年になる前に完璧にしておきたい。他の科目は正直どうとでもなるが、こればかりは今のうちにやっておかねばならない。なにしろ一番時間があるのが今だからだ。今後ボーダーでどれだけ忙しくなるかはわからない。だができることはしておかねばならない。なら時間のある今のうちにやっておくに越したことはない。
早速ノートにペンを走らせようとしたところで、由比ヶ浜が袋を差し出してきた。
「はいヒッキー!バレンタイン!」
「ん、おお。サンキュ」
手作りのチョコが入った可愛らしい袋が差し出され、それを素直に受け取る。見たところやばそうな気配もしない。ありがたくいただくとしよう。
「あとね、ゆきのんからも」
「ええ。どうぞ。日頃の感謝を込めて」
「ああ、どーも」
雪ノ下からも袋を受け取った。雪ノ下から俺個人に宛てたこういうものを貰うのは初めてだから少し新鮮だ。
「あとこれは小町さんと佐々木さんに」
追加で一つ紙袋を差し出されそれも素直に受け取る。渡しておいて欲しいというところだろう。まぁ雪ノ下よりも俺の方が会う頻度高いし妥当な判断だろう。数は四つ。由比ヶ浜の分もあるようだ。あれ?横山の分なくね?
「横山のは?」
「私達、今度会う予定なの。その時に渡すわ。少し遅れてしまうけど」
「ああ、そういう」
思ったより仲良くなってんのな。びっくりだわ、特に雪ノ下。貴女普通の人付き合いやろうと思えばできんじゃん。人のこと言えないかもだが。
「あの、この前はごめんなさい」
会話が途切れたところで雪ノ下がそう切り出す。この前…ああ、雪ノ下の母親のことね。
「全然!あたしもママに帰りが遅いって言われることもあるし」
「…ま、母親ってのはあれこれ言いたくなるようなもんだろ。うちもそうだったし」
「…そっか。ヒッキーのとこもそうだったんだ」
「そりゃな」
もしまだ生きてたら、きっと母ちゃんと小町は今頃受験のことでわーわー騒いでいただろう。
「そういえば、あと数日で受験ね。小町さんは大丈夫?」
「大丈夫、だと言いたいが不安だ」
「だよね。お兄ちゃんとしてはやっぱり心配になるよね」
「そうなんだよ。小町ってかわいいから絶対人気になるだろ?そうなると男子への警戒レベルを上げなきゃならん。それに加えて俺みたいなろくでなしの兄がいることを知られないようにせにゃならん」
なにより小町の評判に関わる。俺のせいで小町の評判を下げるとか、そんなことになったら俺は切腹も辞さない。腹を切っても償いきれないほどの罪だ。
「心配するとこそこ⁈ていうか合格前提⁈」
「ポジティブなのかネガティブなのかわからないわね」
「家族だぞ。家族が受かるって信じてやらねーで誰が信じるんだよ」
「そうだね、信じてあげるのが家族だよね」
俺にとって唯一残された肉親だ。その肉親を信じてやらないで兄だと名乗れるわけがない。
「あ、それゆきのんの手作り?」
「ええ」
雪ノ下が皿にクッキーを乗せている。ほう、さすがに造形までも綺麗にできてやがる。
「すごーい!食べていい?」
「もちろんよ」
「やったー!」
「ほら、比企谷くんもどうぞ」
「どーも」
勧められたクッキーを食べる。ん、さすがだわ。うまい。料理ならともかくお菓子となると、まだ雪ノ下には全く敵わないだろう。
その後は他愛のない話をしながら俺は教材を解き進めていった。
*
「じゃ、またな」
「ええ、また」
「またね!」
気がつけば下校時間となっており、校門のところでそう挨拶を交わす。
「小町さんと佐々木さんによろしくね」
「ああ。小町は受験間近だし会えないだろうけど、佐々木さんには直接渡さなくていいのか?」
まだ入院中だが、傷はもう塞がっており今は義手のリハビリに集中している。前よりも会える時間は減っているかもしれないが、それでも会おうと思えば割といつでも会える。
「私の場合、いつ会いに行けるかはわからないわ。なら高頻度で会ってる貴方に託した方が早く渡せるでしょう?心配しなくても近々お見舞いに行ってその時にお礼はいうわ」
「その時に、あたしも一緒にいくの」
「そうか」
なんにしても、俺が渡しに行くのが一番早いだろう。見たところそこまで日持ちするようなものでも無さそうだし、今度受験で休みの日にでも行くか。
「んじゃ託された。また」
「ゆーきのちゃん」
『またな』と言おうとした俺の言葉を愉快そうな声が遮る。
そこにいたのは大魔王、雪ノ下陽乃だった。
「…姉さん」
「迎えにきたよ」
この人の迎えに来たよ、めっちゃ怖いな。
「…別に迎えに来られる用なんてないはずだけれど」
「お母さんに言われたの。しばらく一緒に住むようにって」
「なんでそんなこと急に…」
「心当たり、あるんでしょう?」
心当たり…この前の一件のことだろうか。
「…そうね、心当たりはあるわ。でもそれは私が自分でやることよ。姉さんが…」
「雪乃ちゃんに自分なんてあるの?」
その言葉に雪ノ下は目を見開く。
「今まで私がどうするかを見て決めてきたのに、自分の考えなんて話せるの?」
「………」
「雪乃ちゃんはいっつも自由にさせられてきたもんね。でも、自分で決めてきたわけじゃない。今だってどうするべきかわかってないんでしょ?本当は、雪乃ちゃんはどうしたいの?」
あーもーこの姉妹は本当に引き合わせるとロクなことないな。前のイベントで雪ノ下も少しは陽乃さんに対抗できるようになったと思ったがやはり大魔王。そう簡単には倒されてくれないらしい。
「それ、ここで話さなきゃいけないことなんすか?いじめなら他所でやってくれません?」
「へえ、いじめなんて人聞きの悪い。そこは姉妹喧嘩じゃない?」
「喧嘩にすらなってないでしょう。喧嘩ってのは立場が対等で初めて成り立つものだ」
残念ながら今の雪ノ下は母親の力も相まって陽乃さんと比較して完全に立場が下になってる。この姉妹が昔から今のような関係性だったのなら、この姉妹は喧嘩なんぞしたことないだろうに。まぁこれもわかった上で言ってるんだろうが。
「ふふ、比企谷くんはやっぱり琲世くんの影響受けてるね」
「あ、あの」
そこで今まで沈黙を貫いていた由比ヶ浜が声を上げる。
「ちゃんと、ちゃんと考えてます。私も、ゆきのんも」
それが精一杯だったのだろう。由比ヶ浜はそれ以上言葉を紡ぐことなく、力なく視線を下に下げた。
「…そ。じゃあ帰ったら聞かせてもらうね。どーせ雪乃ちゃんが帰る場所なんて一つしかないんだし」
そう言って大魔王は去っていった。
うーん、この前の佐々木さんを使った反撃を根に持ってんのかな。いつも以上に陰湿な気がする。
「え、えっと…」
流れる沈黙に耐えられなかったのか、由比ヶ浜があたふたし始める。しかし正直、俺もこの状況でなにを言えばいいのかわからない。
だが次に由比ヶ浜がいった言葉に俺と雪ノ下は目が点になる。
「う、うち来る⁈」
………は?
ーーー
由比ヶ浜宅
…言われるまま来たけど、どーすんのこれ。
空気重いし。由比ヶ浜がちょいちょい話すけどあんま話続かんし。
「…さっきは、ごめんなさい」
重苦しい雰囲気の主な原因を作ってしまった雪ノ下がそう切り出す。
本人もこの空気と現状を作ってしまった自覚があるのだろう。
「いいってそんな」
「はーい失礼しまーす」
重苦しい雰囲気を切り裂くように入ってきたのは、由比ヶ浜の母親だった。顔立ち的に由比ヶ浜は母親似か。どことなくアホの子…いや、天然っぽい。蛙の子は蛙か。
「あ、ヒッキーくんね?」
「え、あ、はあ」
急に話しかけんなよ。びっくりしちゃうでしょ!
「結衣から何度か聞いたわ〜面白い子だって」
「ちょ、ママ!」
「あ、あとゆきのんちゃんね。結衣からよくお話聞くわ〜」
「よ、余計なこと言わなくていいから!」
「え〜ママもゆきのんちゃんとヒッキーくんとお話したい〜」
「そういうのいいから!」
「あ、ゆきのんちゃん泊まっていくでしょ?お布団…」
「そういうのもあたしがやるから!」
わーわー騒ぎながらも由比ヶ浜母は由比ヶ浜によって追い出されていった。騒がしいが、なんというか、心温まる光景だった。
「ごめんね、ママ二人が来て舞い上がっちゃってるみたいで」
「いいえ、大丈夫。仲がいいのね。羨ましいわ」
お前が言うと重みがあるね、本当。
まぁ、あの姉に加えて母親もあれだ。うまくやるのは雪ノ下でなくともしんどいだろう。
「んじゃ、そろそろ俺は帰るよ。小町の飯作んねーと」
「あ、もうこんな時間か」
「そうね、私も…」
「あ、それなんだけどさ。ゆきのん、泊まっていったら?」
由比ヶ浜の提案に雪ノ下が固まる。
「え?」
「よく泊めてもらってるし、それに…帰りづらい時ってあるだろうから」
同意を求めるように俺に視線を向ける由比ヶ浜。
今話してもロクなことにはならないだろうし、悪い判断ではないだろう。
「ま、どことなく向こうもなーんかムキになってる感じするし、考えてはいてもまだ纏まってないなら話す時じゃないんじゃないか?そんな時に話してもいい結果にはならんだろ」
「…そう、ね」
「どーするかは雪ノ下が決めろ。なんにしても話したくないなら、話したくないってことをちゃんと伝えておくのがいいだろうよ。あと外泊するってこともちゃんと連絡しとけ」
「保護者かなにかなのかしら、貴方」
ほっとけ。少なくとも外泊の連絡くらいはして然るべきだろうが。仮にも家族なら当然だ。
「…そうね。ありがとう」
「じゃ、俺は帰る。またな」
「ええ、ありがとう」
「またねヒッキー」
そう言って俺は由比ヶ浜母に軽く挨拶して由比ヶ浜宅を後にした。
小町の受験まで、あと2日か。
***
小町の受験当日
その日は雪が降っていた。息をすると冷たい空気が肺を満たし、朝早いのに目が冴える。
小町と共にマンションのロビーまで降り、最後の確認をする。
「受験票持ったか」
「持った!」
「予備の鉛筆と消しゴム」
「ばっちり!」
「ハンカチとティッシュ」
「大丈夫!」
「気合」
「マックス!」
「よし」
最後のはいらないような気もするが、気遅れして呑まれるよりはいいだろう。
それでもまだどこか表情は固い。仕方ないことだろう。私立をいくつか受けたとはいえ、本命の学校の受験は初めてだ。思い入れも違ってくるし、緊張しても仕方ない。
「大丈夫、小町はちゃんと積み上げてきた。俺はちゃんとそれを知ってる」
そう言って頭を撫でる。
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
「じゃ、行ってこい」
「行ってきます!」
それだけ言って小町は歩き出した。その足取りに迷いはなく、しっかりと歩みを進めている。
その後ろ姿が、かつて俺が間違えて独りにしてしまった時の後ろ姿と重なった。
…あの時から、俺は前に進めているのだろうか。また間違えて、同じ場所をぐるぐる回っているだけなのではないか。そんな風に考えることが未だにある。
昨日、雪ノ下、由比ヶ浜と共に葛西臨海水族園に行った。なぜ行ったのかって?由比ヶ浜が誘ってきたのだ。雪ノ下と三人で行かないかと。昨日は受験の準備で午前授業だったから、そのあと三人で向かった。
結局、今の俺たちの関係はどう表せばいいかわからない。俺はあの二人とどういう関係でありたいのか、その答えは未だに出ていない。これだけ時間をかけてもわからない以上、俺はまだ前に進めていないのではないか。そんな思いが常にある。
それだけではない。最近…いや、かなり前から俺は『あの人』に会うともやもやするのだ。このもやもやはずっと燻っており、それがなんなのか俺はわからない。佐々木さんや横山、小町にも相談してみたが、三人の答えは『自分が言うことではない。その心に真摯に向き合え』だった。
…もう少し、もう少しで答えが出そうな気もする。だがどうしても、あと一歩足りない。
「…どうしたもんか」
そうぼやいたところでスマホが振動する。相手は…
『比企谷先輩、今大丈夫すか?』
「お前から電話とは珍しいな、烏丸」
玉狛の烏丸からの電話だった。別に仲が悪いわけではないが、特段良いわけでもない。だからわざわざ電話をしてくるのは非常に珍しいことだった。
「とりあえず大丈夫だ。で、なんの用だ?」
『ありがとうございます。それで要件なんですけど、今度修に稽古をつけてくれませんか』
「…はぁ?」
三雲に?なんで?そもそも烏丸の弟子だろう。俺が教えられることなら多分烏丸でも教えられるはずだ。実践的なことならともかく、あいつのレベルならまだ基礎を身につける段階だ。
この前、那須隊と鈴鳴第一とやってる試合見たが、三雲の単純な動きはまだまだB級下位レベルだ。今回勝てたのは存分に情報集めをしたことと、空閑が村上さんと戦えるレベルの強さだったこと、そしてその空閑が村上さんをうまく落とすことができたからだろう。他にも三雲隊自身の情報の少なさとかもある。
現在破竹の勢いで勝ち進んでいるから注目されがちだが、まだ玉狛第一は穴だらけのチームだ。個々の潜在能力が高いが故に小手先の作戦と運で勝ち進めてしまっているが、上位相手にそれは通じないだろう。
まぁ多分、それは三雲自身もわかっている。だから俺に教えを乞うてきたのだろうが…。
「いやなんで俺?」
三雲と俺では残念ながらトリオン量の差が大きすぎる。加えて三雲にリアルタイムで弾道を引く才能があるとは思えない。
『修が射手として点を取れるようになりたいって俺に言ってきたんです。今まで遊真にずっと点を取ってもらってきたから、少しでも戦力になりたいらしくて』
「……考え直せ、と言いたいんだけど」
三雲が点を取れるようになるためには経験が圧倒的に足りない。その状態で変に小技やテクニックを覚えたところで足枷になりかねない。せいぜい今の段階では心構えや立ち回り程度が限界な気もする。
そしてその程度のことならば俺でなくそれこそ烏丸がわかる。俺にわざわざアポ取る必要もないだろう。
『先輩が言いたいことはわかります。俺も多分先輩が思ってることを修に言いました』
「なら…」
『でも修なりに考えたことなんで、俺としては尊重したいんです』
弟子の考えを尊重したい、ね。気持ちはわかるが…三雲のためにはならないと思う。
だが烏丸なりに考えがあるのだろう。大規模侵攻で色々助けられたし、ここは力になってやるか。
「…わかった。どこまで力になれるかはわからんがな」
『ありがとうございます。時間はいつがいいですか?』
「最速なら今日だな。今日は受験で学校休みだし予定もない」
『今日ですね、じゃあ2時間後に本部に行くよう修に伝えておきます』
「ん、了解」
そう言って電話を切る。
どうするかはわからんが、とりあえず行くか。
…そういえば今日はバレンタインだったな。
ーーー
「し、失礼します」
今や0隊の作戦室となった部屋で待っていると、三雲が指定の時間より少し早く訪ねて来た。
うん、時間が守れるのはいいことだぞ。そういやこいつ受験いいのかな。あ、推薦組かな?推薦だと一月には終わるもんな。
まぁいいや、なんでも。
「よ、大規模侵攻ぶり」
「はい。現場に復帰されたと聞きました」
「まーな。ちと特殊だけど。とりあえず座れよ」
三雲をソファに座るように促し、俺もその対面に座る。
「で、俺に何が聞きたい?」
「えっと、比企谷先輩には射手としての点の取り方を教えてほしくて」
そういう話だったしな。
「んーと、俺の前に誰かに話聞いた?」
「はい、嵐山さんと出水先輩に」
「なんて言ってた?」
三雲が嵐山さんから聞いたのは、射手や銃手は点を自力で取る必要はないということだった。主な理由は弾丸トリガーは基本的に射程にトリオン使ってるせいで攻撃力が低く、かつ最近はシールドの性能が上がってきているからだと。だからこそ仲間との連携がより大事になってくると言っていたらしい。あと実際点を取るならガードしてないとこから攻撃するとか、ガードしてない敵を狙うとか。まぁ、射手として知っておくべきことだろう。
出水には合成弾のことを聞いたとか。まだ早えよマジで。
「…うん、流石にきっちり教えてんな」
あれ?てかこれだけ教えられてたら俺要らなくね?今からなに教えるの?
「え、俺が教えることなくね?」
「あ、比企谷先輩が点を取る時にはどういうことを気をつけているかとか、そういうのを聞ければ…」
あー、そういうことね。チーム連携以外のソロでポイント稼いでる俺が普段どういうこと考えながら戦ってるかってのを聞きたいわけだ。
…これ、答えてもいいけど俺の性格の悪さが露見しない?大丈夫?
「……まぁ、教えることは別にいい。ただこれは合う合わない結構あると思う」
「構いません」
「…わかった。てかそれなら俺じゃなくてもよくね?」
「烏丸先輩が、『比企谷先輩のチームランク戦の戦い方は役に立つ』って言ってたので…」
「なるほど…」
まぁ、役には立つだろう。三雲は自分自身をコマにして考えられるタイプだろうし。
「正直気乗りはしないが……お前らには助けられたしな。力になるよ」
「ありがとうございます!」
「じゃ、早速始めるか」
「お願いします」
「俺がチームランク戦で点を取るために考えてること、だったか」
「はい。比企谷先輩は射手の中でもポイントゲッターとして活躍してると聞いてます」
そんなすごいもんじゃないが…。
「俺は基本、『敵が嫌がることを率先してやる』ことにしてる」
「い、嫌がることですか」
おいやめろ。引くな。ちゃんと理由があるから。
「あたりめーだろ。存分に嫌がらせして、徹底的にイラつかせた上で殺す。基本これだけ」
「嫌がらせ…」
「つっても、いつも嫌がらせばかりじゃねえ。正面切って戦うこともある。そういう時はオペレーターに敵を見張らせて、目の前の敵を如何にして捌くか。自分、味方、敵の配置をみて瞬時にどう切り抜けるか決める。場合によっては乱戦に持ち込んでうまく漁夫の利を得るように敵を動かす。これだけ」
真髄となってくるのは、『自分と味方、そして敵がどう動けば点が取れるかを常に考えること』。言うのは簡単だが、思い通りに動かないのは敵も味方も同じ。だから自分がどう合わせればうまくいくのかを瞬時に判断する必要がある。
だがこのことについては正直言う必要無いと思っている。この前の試合を流し見したが、これに関しては三雲は既に一定のレベルに達している。
「正直、タイマンする時とか単純に点を取れる動きをするなら嵐山さんが言ったことが全てだ。だから俺が言えることはそれだけだ」
「そう、ですか」
「とりあえず考える経験積め。それに尽きる」
そう言って俺はタブレットを渡す。
「俺の試合、まぁいつのでもいいけど、俺が点取ってる試合を見てみろ。それで点がどうして取れたか考えてみな。使ってる技術はともかくやってることは嵐山さんが言ってたこととそう変わりはないはずだ。見て考えることができなきゃ戦いながら点を取るなんぞ無理よ」
「は、はい!」
「じゃ、ちょっと飲み物買ってくるわ。三雲はコーヒーでいいか?」
「あ、いえそんな…」
「いいって。大した値段じゃねーし」
なにより大規模侵攻で助けられてるし。
「…じゃあ、コーヒーで」
「ん」
作戦室を出て自販機へと向かう。
ラウンジの自販機で缶コーヒーを2本買う。よく考えたらここに来るのも割と久しぶりだ。大規模侵攻後、ほとんど本部に行かなかったから当たり前だが。
今はランク戦も始まったこともあり割と人が多い。C級の数が多いように見えるが、B級以上の見知った顔もある。
話していきたいとこだが、今は三雲を待たせている。さっさと戻ろう。
そう踵を返したところで、背後から声をかけられる。
「比企谷くん」
振り返ると、そこには長身の女性…加古さんがいた。
「加古さん?」
なにか用だろうか。特に予定とかは無いはずだが…。
「今、ちょっといい?」
なぜだろう、波乱の予感がする。
こういう時だけは俺のサイドエフェクトはよく働く。
鈴谷什造
年齢 19歳
身長 158cm
体重 48キロ
好きなもの お菓子、琲世、楽しいこと
嫌いなもの 退屈、嫌な目
トリオン 9
攻撃 10
防衛・援護 4
機動 9
技術 8
射程 2
指揮 2
特殊戦術 3
total 47
俗に言う天才だが、色々と不幸が重なり有名になることのなかったすごい奴。
同期は来馬さん。でも仮入隊もしてなかったから注目されなかったため鈴谷のことは知らない。同期の中でなにか揉め事があったらしい程度の認知だし、鈴谷が当事者だということも知らない。
入隊時はモラルがやや欠如している部分もあり、側からみたら卑怯とも思えるやり方でソロランク戦をしていたら同期と色々揉めた。結果、相手の口がうまいかつ周囲もそれに同調したため鈴谷のみがランク戦禁止を言い渡された(本来なら除隊されるが有馬さんが庇った)。しばらくやる気をなくしていたが、琲世と練習試合を続けていくと楽しくなってきてランク戦禁止期間が終わってもランク戦をやらずに琲世と手合わせし続けた。結果、C級では相手にならない程の腕になり、大規模侵攻直前にB級に昇格。その後特にチームを組むこともせず、友人の琲世も重傷で手合わせできないため退屈になりかけていたところに有馬さんから声をかけられ0隊に入隊を決めた。
鈴谷が琲世意外の人とあまり手合わせ(ランク戦含める)しないのはまた騒ぎになるのが面倒だから。上の人ならばそういうことは気にしないが、鈴谷はその実態を知らないため忌避していた。故にポイントが低い。
現状の戦闘力は本気の遊真よりもちょっと弱いくらい。弧月一本なら琲世と斬り合えるくらいには強いけどB級になりたてでまだサブのトリガーをほとんど使ったことがない。そのくせ初めて使ったサブトリガーを駆使してトリオン兵を虐殺できるくらいの天才。才能なら緑川と同等以上かも。
次回はバレンタイン編。シリアスな雰囲気は多分無い。