目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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夏希に対する心配の感想が多くて嬉しい作者です。

そして感想が800件を超えました。ありがとうございます。
誤字報告してくださった皆様、毎度のことありがとうございます。


65話です。


65話 言葉とは、『重み』を持つものである。

「はぁ、はぁ……しんどいな、これ」

 

琲世は黒いドロドロが人型をした敵と戦闘をどうにか終わらせていた。現在、そのドロドロは琲世の足元で沈黙している。

このドロドロは戦闘時腕を刃のように変形させたり、大鎚のようにして振り下ろしてきたりと文字通り変幻自在だった。しかもブレードで切り裂いてもその傷はすぐに再生ーーいや、この場合修復と言った方が正しいだろうーーした。

しかし戦闘を続けていると徐々にその修復能力が下がってきているのが目に見えてわかった。動きも鈍くなり、変形能力も使用にかなりの時間を要していた。そして最後は頭部を切り裂き、トリオンを漏出させたとこで完全に沈黙した。

つまるところ、琲世は倒したというよりトリオン切れにさせただけである。

 

『佐々木、君の目の前の敵は倒したのか?』

「倒した、というよりトリオン切れにさせただけですけどとりあえず動かなくはなりました」

『……そうか。だが未知のトリガーテクノロジーであることは間違いない。すぐに回収班を回す』

「お願いしま……え?」

『どうした?』

 

本部からの疑問の言葉に答えることはせず、琲世は沈黙した敵を見て目を見開いた。

 

倒したドロドロが、まるで溶けるかのように形を崩し、そしてどこかへ逃げるように消えていった。

 

そしてその中から姿を現したのは

 

「……民間人?」

『なんだとっ⁈」

 

どう見てもボーダーの人間ではない。スーツを着たサラリーマンのような男性が中から姿を現したのだ。

琲世はすぐに駆け寄ると安否確認をした。すると意識は戻らないが呼吸はしている。目立った外傷もないため、気を失っているだけだろう。

 

「……本部、先ほどまで戦闘していた敵の内部から民間人が現れました。恐らく敵に囚われ、操られていたのでしょう。保護した民間人に外傷はありません。息もあるため気絶しているだけだと思われます。至急、救護班をお願いします」

『了解した。佐々木は救護班が到着するまでその民間人の護衛を頼む』

「了解」

 

そう言って琲世は一度通信を切った。

 

(……この民間人は敵の内部から出てきた。つまり、あのドロドロの原動力とさせられていたって考えるのが妥当かな。多分、あまりトリオン能力の高い人じゃなかったからこんなに早くエネルギー切れになったんだろうけど、これでトリオン能力高かったりしたらだいぶまずかったな)

 

そう思わせるほど、先ほどのドロドロの戦闘能力は高かった。無論それに遅れを取るほど琲世の実力は低くない。そのため『強かった』というよりも『厄介』だったと言うべきだろう。

 

(修復に変形……厄介なことこの上ない。それに多分……)

 

琲世は倒れている民間人に目を向ける。

 

 

(もし僕があの敵を胴体で真っ二つに切っていたら、この人も死んでいた)

 

 

敵の修復能力はあくまであのドロドロの部分を修復するだけに過ぎない。核となっていたこの民間人まで、修復能力が働くとは考えづらい。

 

「民間人を使って兵の数を増やして、そして手にかけた者は罪悪感で戦闘能力が削られる。これ考えた人は、最悪だな」

 

そう言って琲世はどこかで嗤う敵を侮蔑(賞賛)した。

 

 

***

 

 

ブレード同士がぶつかり火花が散る。

 

『敵のトリガーは液体と固体を使い分ける。攻撃は主に刃状の硬質化によって行われる。トリオン体は基本的にどこを切ってもダメージはない』

『つまり、どういうことだ?』

『現時点では無敵だということだ』

『ハッ!おもしれぇ!』

 

真戸からの情報にさらに笑みを深くし、影浦は迫り来るブレードを自らのブレードで叩き壊す。

 

『でも真戸さん、そんな敵どうやって倒すのさ』

『なに、トリガーである以上必ず伝達脳とトリオン供給器官がある。見かけ上の場所に存在しないとはいえ必ずどこかにある』

『その弱点がどこにあるかわからないとダメってことだよね』

『そうなる』

 

そう言いながら真戸はエネドラに向かってアステロイドを放つが効果があるようには見えない。そしてさらに迫り来るブレードをメテオラに切り替えて撃ち砕く。

 

『しかし、威勢良く殺害宣言したはいいが実際弱点がわからなければどうしよもないな』

『……多分、身体の中にはある』

 

突然の影浦の言葉に真戸はほう、と声を漏らす。

 

『根拠は?』

『俺がナツキ守った時、あいつの身体を適当に切った。その時あいつは俺に『焦り』……だと思う感情を俺に向けた』

『焦りの感情の刺さり方を覚えているのかね?』

『ランク戦で大体のやつが殺される直前には焦りの感情を向ける。だからわかる』

『なるほど、理にかなっている。体内に存在するとわかれば、もう問題はないな。スタアメーカーでもつけてしまえばそれで終わりだ』

『あれは問題にならないの?』

『あれとは?絵馬』

『体内からの攻撃』

『ああ、あれは大方予想がつく。やってきたら言うから気にしなくていい』

『……んじゃ任せたぞ』

『無論だとも』

 

そう言いながら真戸は自作したカスタムトリガーのアサルトライフルの弾倉を付け替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、全隊員に通信が入った。

 

 

現在時刻をもって玉狛第一隊員、木崎レイジのベイルアウトを確認。

また、玉狛所属隊員空閑遊真および迅悠一がC級隊員のカバーのため、敵勢力の黒トリガー使いおよび磁力使いとの戦闘を開始。

C級隊員の護衛には玉狛第一烏丸京介および玉狛所属三雲修が担当。敵勢力の大きさを考慮し、付近の隊員はC級隊員の護衛に加わることを命ずる。

 

 

また、現時刻をもって零番隊隊長の凍結中である活動権限を解凍。有馬貴将を出動させ敵勢力の排除にあたる。

 

 

C級の下まであと少しというとこで入った通信には形式上俺の現隊長である有馬さんの出動解禁が言い渡された。

 

「お、有馬さん出てくんのか」

「みたいだねー。ほんとに強いのあの人」

「そら零番隊だから強いだろうよ」

「零番隊って響きがイカしてるよな」

 

もう敵は目前だというのに緊張感なんぞ知るかと言わんばかりの会話に頼もしくもあり、呆れもする。いや、なんか新型たくさんいるからちょっとは緊張感持とうぜ?

 

「お、京介達みっけ」

「あれがウワサの新型か?」

「うわ、いっぱいいる」

「出水、アステロイドで牽制。米屋、緑川は突っ込め。俺は応援してる」

「おいこら」

「冗談だって……vigilでどうにかして一体減らすから」

「おっけ!アステロイド!」

 

出水のアステロイドの雨と同時にvigilで姿を消し、多数いる新型の一体に近づく。

米屋と緑川が一番近くの新型に斬りかかりそちらにヘイトが向いた瞬間姿を現し短剣で新型の目を切り裂き、アステロイドで吹き飛ばす。

 

「かった。全然ブレード通らないじゃん」

「うじゃうじゃいんなぁ。比企谷が一体減らしたけど」

「緑川!米屋先輩!」

 

そんなやりとりをしている三雲達の横にブレードを投げつけテレポートする。

 

「よー京介。先輩達が助太刀してやるぜ。泣いて喜べ」

「泣かないすけど感謝します。比企谷先輩も」

「いいよ。お前らにはちょっとした借り(・・)もあるし」

「C級を基地まで逃します。敵を引きつけてください」

「よっしゃ。やるか比企谷」

「できればやりたくないが、そうも言ってられないよな」

 

いやほんとにやりたくない。なんなら帰って寝ていたい。

だが本当にそうも言ってられない。自分でここに来ると決めたのだ。やらなければならない。

 

「アステロイド」

「vigil、オン」

 

姿を消して再び近づき新型ーーラービットを刈り取ろうとするが、頭の装甲に防がれる。やはり硬い。基本プログラムされた動きしかできないトリオン兵相手ならvigilは効果的だと思ったのだが、何度も通じるような方法ではないか。そもそも俺はブレードの扱いがお世辞にもうまいとは言えない。本職じゃないし。本格的にブレードの扱いを学ぶことも考慮すべきだろうか。

しかし、俺たちが来てもまだ数で負けてる。マシになったとはいえ、まだ状況は悪いままだ。どうにかして敵の数を減らさなくちゃならんな……。

 

「比企谷!お前は全体のフォローしてくれ!米屋と緑川はオレがフォローする!」

「は⁈」

 

なんでそんなクソ重い仕事俺にしれっと押し付けてんの出水くん。

 

「なんで俺⁈」

「お前ならできるだろ?」

「いやできるけどさ……」

「つべこべ言ってねーで!頼んだぞ!」

「あ!おい!」

 

マジかよ……実際できるけどしんどいってこれ。いくらバイパーの扱いが得意とはいっても限度はあんだぞ。普通に俺が引きつけるじゃダメなのか?

 

「くっそ……バイパー」

 

バイパーでラービット相手にどこまでできるか。サシならともかく、人数不利なこの状態ではできることなどあまりない。

 

「比企谷先輩、修達のフォローお願いします。全体のはいくら比企谷先輩でもこの状態ではきついでしょう。一番対応力の高い先輩にお願いしたいす」

「実際きついからそうさせてもらうわ」

 

目の前のラービットにアステロイドを放ち、それを防いだ瞬間後ろの烏丸と入れ替わる。そのまま牽制をしながら三雲の下まで下がった。

 

「比企谷先輩!」

「……おう」

「え、誰?」

 

なんか知らないC級がいるけど多分雨取の友達とかそんな感じだろう。知らんけど。

 

「俺がお前らのフォローに入る。下手に反撃せずさっさと逃げろよ」

「え?ちょ、メガネ先輩大丈夫なんですかこの人で」

 

えぇ……酷くね?そんなに弱そうかよ俺って。

 

「大丈夫、比企谷先輩はA級部隊の隊長だから」

「え⁈マジすか⁈すんませんそうとは知らず……」

「いやいいからさっさと逃げろよ……」

 

まだ数で負けてるんだから。何匹か抜けてきてるしすでに。さっさと下がれよ頼むから。

弧月投げて近づくか?いや、専門外のことを下手にやろうとしてもあまり有効ではないな。俺は佐々木さんじゃない。ああいう戦いはできない。

 

「バイパー」

 

バイパーで弱点を多方向から狙う。だがいくら多方向から狙っても口を閉じられればそれで防がれる。

だが口を閉じたため奴の視界は塞がれた。そのスキに弧月を頭に向かってぶん投げる。瞬間移動した先にある耳のレーダーを一つは弧月で切り裂き、もう一つは素手で無理やりむしりとった。

その瞬間装甲の隙間からトゲみたいなのが生えてきたので瞬時に頭から離脱。離脱した瞬間そのトゲからは電撃が炸裂した。

 

「あっぶね」

 

いくらトリオン体といえどもあの電撃を受けたらしばらく動けないだろう。手の届かない後頭部にも反撃手段を付けておく。さすがにトリガー使いを捕らえるためなだけある。

 

そこで急に後ろから弾丸が飛んできた。その弾丸は俺の横を素通りしラービットに向かっていったが、いとも容易くかわされた。

後ろを見ると雨取の友人(仮)がアイビスを持っていた。おいおい、反撃するなって言ったよな。狙われるだろうが。

 

「当たんないしもー!」

「反撃しちゃダメだ!逃げるんだ!」

 

いやロクに訓練受けてない狙撃手が当てられると思ってんの?それと三雲、お前も逃げろよ?今はベイルアウトできないんだから。

その瞬間、俺が耳と削ぎ落としたラービットの背後からさらにもう一体ラービットが出現、謎の塊を放ってきた。あまりに急でバイパーでも半分程度しか撃ち落とせなかった。

そして塊が三雲の周囲に着弾し、その瞬間三雲の体が床に縫い付けられた。え、なにあれ。俺知らない。

だが三雲が動けないことはわかる。どうやら動きができないだけのようだからあの塊を壊せばいいだろう。

 

「アステロイド!」

 

三雲がアステロイドを放つが、ラービットは避けようとすらしない。実際あの程度なら避けなくとも装甲に弾かれて終わりだ。とりあえず三雲のフォローに入るか。

 

「三雲、大丈夫か」

「比企谷先輩……すいません」

「いい」

 

そう言って弧月で塊を砕く。向かってきそうなラービットはバイパーで足止めしておく。

さて、足止めはできるがどうも決定打に欠ける。単純な話火力不足だ。俺一人ならどうにかなるが、保護対象が近くにいるとなるとフォローしながらだから正直しんどい。

どうするか思考したとこでC級の二人が目に入った。雨取とその友人。そういえば雨取は……。

 

「雨取」

「はっはい!」

 

いやそんな驚かないでよ。それとも怖がられた?目か、目が悪いのか。

 

「確かお前トリオンすごかったな」

「えっと、はい」

「なら三雲のトリガーに臨時接続しろ。雨取のトリオンを三雲が使え。逃げろって言っても逃げられる現状じゃないし、そもそもさっきから逃げろ逃げろって言ってんのに逃げないなら戦闘(こっち)の役に立ってもらう。いいな」

「は、はい!」

「え、あたしは?」

「雨取の側にいてやれ。仲間は、いるだけでも支えになる」

「う、うす」

「三雲」

「はい」

「やるべきことは、わかるか」

「……はい!」

「よし。今の臨時接続で距離を取った。つまり一度雨取のトリオンをどっかで見てるってことだな?」

「はい」

「了解。なら目の前のラービットは俺が請け負う。スキは作るがすぐにはいかん。他の奴が戦ってるのでもなんでもいい。とにかくスキがあるのを見つけろ。そんで」

「数を減らす」

「わかってんな。んじゃよろしく」

 

そう言って俺は目の前のラービットに向かって走り出す。

三雲の師匠は烏丸だ。烏丸は基本オールラウンダーだが、銃手……ひいては射手の心得もある。というか基本銃手と射手はあまり差がない。戦闘における特徴が違うくらいだ。

だから烏丸がまだ教えてないとかならともかく、あの様子からして恐らく烏丸は三雲に教えることは教えてる。そして三雲もそれを理解している。ならばやれるだろう。……え、やれるよね?大丈夫だよね?

 

そんな俺の心配は杞憂に終わる。

 

ラービットの腕を避けながら見たのは米屋が戦っていたラービットがバカでかいアステロイドに吹き飛ばされるところだった。えぐいなあれ。ギャグみたいな威力してんぞ。

 

だがその瞬間、俺は嫌な予感がした。この行動は間違ってはいないはずだ。そうしなければここで詰んでしまうのだから。

でもこの行動がさらに敵を呼びよせてしまったことを俺はすぐに知ることになる。

 

ーーー

 

「……ラービット全壊。計測機器が、エラーを起こしました」

「……これほどとはな。ミラ、予定変更だ。出るつもりはなかったがこれを逃す手はない。金の雛鳥は俺が捕らえる」

「わかりました。窓を開けます。しかし付近には特異戦力の存在も確認されています。こちらはどうしますか」

「相当な腕利きだ。簡単に排除はできまい。ニムラ」

『はいはーい』

「特異戦力を引き離す。離した先で少しの間で構わん。足止めしろ」

『なにしてもいいんですか?』

「なにをしても構わん。できることなら……」

 

 

「始末しろ」

 

 

『ふふ、取り消しは効きませんからねぇ?』

 

ーーー

 

徹甲弾(ギムレット)

 

出水が徹甲弾で白いラービットを攻撃し、足が止まった。その瞬間三雲が雨取のトリオンでラービットを吹き飛ばす。

 

「よし!」

「おいメガネくん、お前何者だ?トリオン恐ろしいな」

「僕は玉狛支部の三雲修です。こっちは同じ玉狛支部所属の雨取千佳と本部所属の夏目さん」

「雨取?」

「出水、あれだ。『玉狛のトリオンモンスター』」

「あー!あの噂マジだったのか!オレは出水だ。知ってるだろうがこの腐った目は比企谷」

「おい、俺を新八の紹介の時に言われるメガネみたいに言うんじゃねぇ。腐った目を代名詞にすんな」

「事実だろ?とにかく状況が変わった。撤退戦のつもりだったが、うまくやりゃ全部殺せそうだ。俺らで新型片付けようぜ」

「は、はい!」

「というか臨時接続できんなら比企谷が雨取と臨時接続すればいいんじゃね?」

「バッカお前、そんなことしてみろ。誘拐現場だと思われて職質通報待った無しだぞ」

「それもそうか」

 

納得されたらされたでなんか釈然としない。複雑な心境ですよ僕は。実際、俺が雨取と手を繋ぐなんてことしたら通報待った無しだ。不審者が小学生を誘拐してるようにしか見えない。あれ?目から汗が。

 

 

ザワ

 

 

その瞬間、背筋に凄まじい悪寒を感じる。

敵なのはわかるが、どこにいる。新型ではない。つまり、人型ネイバーだ。この感覚からして遠くにはいない。

 

「鳥……?」

 

雨取の言葉と視線を辿ると、そこには光る鳥を周囲に漂わせているツノをつけた男がいた。しかもツノの色は黒。つまり黒トリガーだ。

そしてその鳥は一気にこちらに向かってきた。

 

「んにゃろ、バイパー!」

 

バイパーで鳥を撃ち落とすと、着弾した鳥は全てキューブになった。つまり新型のキューブ化の能力はこいつのトリガーを元に作られたものだということだ。

急なことだったため、C級の方は全て撃ち落とすことができなかった。そのため鳥に当たったC級がキューブになっていくのが見える。

 

「鳥に触るな!キューブにされるぞ!」

「米屋!緑川!下手に手を出すなよ!多分武器もキューブにされるぞ!」

「マジか」

「やっば!」

 

緑川はどうにか迫り来る魚をシールドで防ぎグラスホッパーで距離を取った。米屋は新型と連携されかすり傷を負ったが特に問題は無さそう。

 

「んにゃろ、新型と連携してきやがる」

「あーらら、また状況が悪くなった」

「嫌になるぜ全く」

「メガネくん!女子連れて逃げろ!比企谷、手伝え!ハウンド!」

「わーってるよ!バイパー」

 

迫り来る鳥の大半は出水がハウンドで、地味に足元から迫って来てたトカゲとC級の元に向かう魚は俺がバイパーで防ぐ。

 

「うお!足元もいたのか!派手な鳥はフェイントかよ」

「意外とやらしーことこの上ないな」

「なるほど……いい腕だ」

 

その瞬間、側面から超火力のアステロイドが飛んでくるが、全て鳥に防がれる。

おいおい、出水が逃げろつったよな。なにヘイト稼ぐようなことしてくれてんの?敵さんは確実に雨取狙ってるんだからさっさと連れて逃げろよバカか。

 

「戦術は拙いが、やはり凄まじいトリオンだ」

 

そう言いながら敵は鳥を三雲に向けて放つ。

 

「させるか、ハウンド!」

「バイパー」

 

出水がハウンドで鳥の大部分を落とし、残ったのを俺が撃ち落としてなおかつ敵への攻撃も忘れずに行う。これが嫌がらせやらせたらNo.1と言わせるほどのバイパー使いだ。

 

「……」

 

敵は今の俺の攻撃で負ったほんの僅かな足の傷を見ると、俺に視線を向けた。

 

「……やはりお前は邪魔だな」

 

その瞬間敵の背後からラービットが極太ビームを放って来た。

 

「うお⁈」

 

なんとなく気配を察していた俺は出水を蹴飛ばし、その勢いで俺は反対方向に飛んだ。

 

「お前は邪魔だ」

 

その言葉と同時に俺の背後に黒い空間が現れる。

 

「ちょ」

「ニムラ、後は頼んだぞ」

 

その言葉と同時に俺の視界は真っ黒になった。

 

 

「ぐえっ」

 

放り出された先で着地に失敗し、潰れたカエルのような体勢からむくりと起き上がる。生身なら大怪我間違いなしだろう。加えて人がいたら完璧に黒歴史となる。なにそれ怖い。トリガー万歳。

 

「どこだここ……」

 

見渡すと比較的見慣れた光景だった。本部が遠くに見えるから恐らく警戒区域外だろう。周囲に人気がないとこを見ると、この辺りの人は粗方避難したのだろう。

しかしあの状況だ。すぐに戻らねばあいつらが危ない。そう考え警戒区域の方に走りだそうとした瞬間、視界に人影が映る。

 

「……ん?」

 

その人をよくみると、スーツ姿の男性だった。年齢は三十代後半といったとこだろうか。

普通なら避難が遅れた人だと考えるだろうが、その男性、様子がおかしかった。まずこんな状況なのに足取りが非常に遅い。普通なら最低でも小走りくらいしてそうな状況なのに、その様子はない。しかもどことなくふらついている。そして目は虚ろで光を宿しているようには見えなかった。同類でしょうか?

 

とにかく状態を確認して避難させなければ。そう考えて声をかけようとした。できればしたくないが、そんなわがまま言ってられる状況ではないのだから仕方ない。

 

「あの、大丈夫すか?」

 

声をかけると男性は足を止めた。そして手を振り上げると

 

 

黒いドロドロを袖から出現させ、刃のような形に変形させて振り下ろしてきた。

 

 

「っ!!!」

 

なんとなく警戒していた俺はギリギリではあったが、回避に成功した。

男性は無言のまま動かなかったが、急にぶるりと体を痙攣させると、服の中から多量のドロドロを出現させ体を覆い尽くし、そして一回り以上巨大化した。見た目は完全にドロドロが人型になったよくわからないものだったが、目の前の存在が強いことはよくわかった。多分あの新型よりも強い。そしてなにより民間人と思われる人がこのドロドロの中に囚われているのが厄介だ。バイパーには安全装置がついているが、ブレードには残念ながらついていない。下手に斬ると中の人まで斬りかねない。中の人っていうと声優みたいだな。

 

「……本部、こちら比企谷。現在正体不明の敵と接触。見た目は2メートル以上ある筋骨隆々な人の形をした謎の黒い物体。戦闘方法は不明。中に民間人が囚われています」

『恐らくそれと同様の敵と佐々木が接触した。恐らく敵のトリガーによるものだと考えられる。佐々木からの情報によると主な戦闘方法は腕を刃や鈍器に変形させての攻撃や体から伸ばした触手のようなものでの攻撃らしい。見た目に反して速度は速いから気をつけろ。また、基本的にどこを攻撃しても修復されて効果はないらしい。倒す、というより行動不能にさせるには敵のトリオン切れを待つのがいい』

「トリオン切れ……?」

『恐らくだが、その敵は取り込んだ民間人のトリオンで動くらしい。だからそれほどトリオン量のない民間人が核として囚われている以上、長時間の活動はできない。攻撃して修復にトリオンを使わせるのがいいだろう』

「……わかりました。ただ俺今オペレーターいないんで代わりにちょっと頼んでもいいすか?」

『どうした?』

「中の民間人がどこにいるかだけ表示させてほしいです。下手に攻撃して傷つけるのは不本意なんで」

『わかった、すぐにやらせる』

 

そう言って通信が切れると、サーモグラフィーでの表示のように中の人のいる場所の色が変わった。

 

『敵は強い。その位置ならベイルアウトが可能だからまずいと思ったらベイルアウトするんだ。いいな』

「了解」

 

通信が切れるとほぼ同時に敵は高速で迫ってきた。その速度は凄まじいが、だいぶ直線的な動きなため回避はそれほど難しくない。

 

そう、敵のタックルを回避するだけなら。

 

「っ!」

 

タックルを回避したのにもかかわらず触手がこちらに伸びて足を掴んできたのだ。咄嗟にそれも回避したが、体勢を崩したため次の攻撃は回避できない。テレポーターも間に合わない。

敵はこちらを向くと腕を鈍器のように変形させ、遠心力も使って腕をぶん回して俺に鈍器の腕を叩きつけた。回避できない俺は腕に圧縮シールドを纏わせガードしたが、そのシールドを叩き割りながら俺の身体を吹き飛ばした。

 

数瞬の浮遊感ののちに感じる衝撃に、肺から空気が押し出される。痛覚はほぼないにしてもこの衝撃から立ち直るのはすぐには不可能だ。トリオン体といっても人体と同じ構造だ。壁をぶっ壊してなおかつ硬い柱だかなんだかに叩きつけられたらすぐには立ち直れない。ガードに使った腕は折れてはいないが、伝達系がイカれたのか、左腕が少し動かしづらい。というかガードしたのにこの衝撃かよ。単純な腕力は多分ラービットより上なんじゃね。たまったものではない。

 

「ぐっ……は……」

 

ザワザワと周囲から声が聞こえる。どうやら避難所だかなんだかに突っ込んでしまったらしい。そんなに大人数が避難できるような場所ではないが、俺の突撃に巻き込まれた人はいないだろうか。立ち直ったらまずはその確認だろうな。

あまり言うことの聞かない身体とは裏腹に冷静な頭でそう考えると

 

「ひ、比企谷くん?」

「ヒッキー……」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきた。

そちらを向くと数時間前には一緒にいた奉仕部の二人や、葉山グループ、戸塚などがいた。あとで知ったが、どうやらここはマラソン大会の打ち上げで行ったバーの近くらしい。あいつらがいても不思議ではない。

 

「お、お前、ら」

「ひ、ヒッキー大丈夫⁈めっちゃすごい勢いで突っ込んできたけど!」

「あ、ああ……大丈夫……」

「いくらあなたでも、あれで大丈夫なはずないでしょう?」

「いや、俺はボーダーだからこのくらいは……」

 

完全に大丈夫というわけではないが、実際大丈夫だ。伝達系も重要なとこは無傷だし、トリオン供給器官も無事だ。トリオンの残量もまだまだあるし、今のところベイルアウトする要因はない。

それよりまずはあの敵だ。俺がここに吹き飛ばされたってことは……

 

 

ズン

 

 

当然、奴もここに来るってことだ。

 

「……俺は大丈夫だ。お前ら、すぐに逃げろ」

「え?でも……」

「いいから早く」

「そんな状態のあなたを放っておけないでしょう?」

 

珍しく気遣ってくれてるが、今はそれどころではない。雪ノ下達には聞こえてないのだろうが、確実にあの足音はこちらに向かってきている。

 

「今敵がこっちに向かってきてる。狙いは、俺だ。だから早く逃げろ」

「え……」

「マジ?」

「で、でもでも!ヒキタニくんA級っしょ⁈A級ならそんな奴……」

 

戸部がなんか言ってるが、お前らA級にちょっと期待しすぎじゃない?A級隊員だって人間だぞ?全能じゃねぇんだよ。できないこともあんだよ。

 

「あいつは、強い。倒せたとしても、少なくともお前らを守りながらは、俺には無理だ。だから早く逃げてくれ」

 

まだ完全に立ち直ってない身体を無理やり起こし、絞り出すように声を発した。トリオン体でなければ即死並みの衝撃だ。少しふらつく程度で済んでるのだから、十分だろう。

だが側からみたら大丈夫には見えないらしく、次第に恐怖が伝染していくのがわかる。それもそうだ。民間人を守るための存在が見た目満身創痍なら仕方ないだろう。

 

「そ、そんなに強いの?」

「……ああ」

「……ひ、ヒキタニくんでも勝てないかもしれないの?」

「……ああ。少なくとも、守りながら勝つのは、不可能だ」

「そ、そんな……」

 

普段うるさい戸部や三浦、感情を表に出さない海老名さんですら表情は恐怖に染まっている。こいつらは職場見学で俺の実力を僅かながらでも知っている。だからこそ、その俺ですら勝てないかもしれないという事実が、その敵がこちらに向かっていることに恐怖を隠せなくなっているのだろう。

正直、今すぐにでも逃げてほしい。だがそれをさせるのは俺よりもっと適任がいる。俺はそいつに視線を向け、そしてそいつはすぐに察した。

 

「……みんな、落ち着こう」

 

そう、お前だよ葉山。

 

「で、でも隼人……」

「ここで足を止めてても、比企谷の言う敵がより近づいてくるだけだ。ならオレ達は一刻も早くここを出て別の避難所に逃げるべきだ」

「で、でも隼人くん!その行く途中にネイバーが出てこないとは限らないじゃん!」

「ここにいて比企谷の足を引っ張るよりも別の場所に逃げる方が安全だ。オレ達に戦う術はない。だから、せめて戦う術を持つ人の邪魔をしてはいけないんだ。確かに戸部の言うように逃げる途中でネイバーが来ないとは限らない。でも、確実にネイバーが来るここにいるよりはいい。そうだろ」

「…………」

「そう、だな」

「わかったか?オレ達がやるべきことは、すぐにここから逃げることだ。オレ達はオレ達ができることを、やるんだ」

「……さすが隼人くん、すげーや」

「そうと決まったら、すぐに行こう。時間はないんだ」

 

葉山のその言葉と同時に葉山グループやそれを聞いていた他の人達も荷物をまとめてここから一番近い避難所へと走り始めた。葉山グループや雪ノ下達を含めてもせいぜい20人前後しかいなかったため、この避難所はすぐに人気がなくなった。

他の人が外に出ると、残ったのは雪ノ下、由比ヶ浜、葉山だけになった。

 

「……期待通りだったよ、葉山」

「そうかい?」

「ああ、本当に期待通りだ」

「君にはできないことだもんな」

 

そういうと葉山は俺に得意げな視線を向けて外に出て行った。

 

「ぬかせ。その通りだよ」

 

実際、俺にはあんなことできない。逆の立場なら、俺は多分他の人の不安を煽ってここから逃げるように仕向けることしかできないだろう。

 

「比企谷くん」

「ヒッキー」

 

二人の声が聞こえてそちらを見る。表情にはまだ恐怖が色濃く残っているが、二人とも毅然とした態度が戻ってきている。俺もだいぶ持ち直した。

 

「大丈夫か」

「ええ、あなたよりはね」

「そうだよ!あんな漫画みたいに突っ込んできたヒッキーの方が大丈夫じゃないでしょ!」

「普通なら、な。あいにく今は普通じゃないんで」

「あなたが普通な時なんてあったかしら?」

「ヒッキーいつも普通じゃないじゃん」

「おいこら」

 

そんなやりとりをして3人で顔を見合わせて軽く吹き出した。本当ならこんなことをしている場合ではない。敵はすぐそこまで迫っていることがレーダーでわかるし、足音も聞こえ、気配も近い。恐らく足音は二人にももう聞こえているためそれを理解しているだろう。

 

「じゃあ行け。お前らが狙われても少なくとも逃げ切るまでの足止めくらいはしてやるから」

「……ええ」

「……うん」

 

もう姿を確認できるレベルまで来てる。二人を庇うように前に出て敵に向き直る。

 

「比企谷くん」

「ヒッキー」

 

二人の声に頭だけそちらを向く。

二人はいつも学校前で別れる時と同じようにこういった。

 

 

「「またね」」

 

その言葉に一瞬答えに詰まる。

 

「……ああ」

 

俺のその言葉を聞くと二人は走って葉山達の元へ向かった。

残された俺は敵を見ながら右手に弧月を持つ。

しかし……『またね』、か。

 

「『じゃあな』雪ノ下、由比ヶ浜。『縁』が続けば、また今度」

 

今日が最期になるかもしれない。そうわかっている以上、俺は二人に『またな』と返すことができなかった。死ぬ気は毛頭ない。だが、迅さんが見た未来の俺だって死ぬ気は無かっただろう。なのに死んだ。だから俺なりに最善を尽くしても死ぬ可能性はあるのだ。それをわかってしまい、そしてそんな風に考える自分が恨めしい。

 

言葉の意味と重みを感じながら、俺は自嘲気味に嗤い、敵に向かっていった。

 

 

 




次回、恐らくニムラ登場。


加えて最強のあの人と原作最強のあの人も出てくると思います(多分)

次回もよろしくです。

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