目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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月末に出すと言ったな?あれは嘘だ。

い、いや、私にしては頑張ったんですよ?普段一ヶ月かそれ以上かかる執筆が三週間弱で、しかも難しい戦闘描写がほとんどで、原作との矛盾点がないかを調べたりしながら書いてた割には早くできたと思うんですよ。
え?結局言い訳であることに変わりはない?

はい、ごめんなさい。間に合いませんでした。

そして毎度誤字報告してくださる皆様、ありがとうございます。
そして今回もクソ長いです。一万五千くらいあります。

55話です。


55話 思いの外、人それぞれというのは理解できても許容はできない。

風間蒼也は目の前で壁から生えてきた斬撃を辛うじて避けた。

 

迅がプランBとやらに切り替えてから本気で獲りに来ていることが太刀筋と気迫でわかった。迅のライバルであった太刀川は嬉々としてそれに応えているが、彼らの任務はあくまで玉狛の黒トリガーの奪取。ここで下手に時間とトリオンを削られるのは得策とは言い難い。それどころか長引くほど任務の成功率は下がる。

迅は狙撃手からの狙撃によって動きを少しではあるが制限されている。しかしその狙撃手は1人。古寺が落とされなかったらもっと動きが制限され、より倒しやすくなったかもしれない。しかしその場合、他のメンバーが落とされていたと考えられるため、結果としては変わらない。

 

風間蒼也はちらと視線を自隊の2人に向ける。

 

歌川と菊地原。どちらも優秀な攻撃手であり、風間は信頼を置いている。しかし彼らの実力では迅相手にはせいぜい足止めか時間稼ぎが関の山だ。それほどにまで黒トリガーを使用した迅の実力は高い。まともに斬り合うことも彼らのトリガーの性質上難しい。なにしろスコーピオンは防御ができない。いや、正確にはできるがとても向いてるとは言い難い性質だ。

 

「………」

 

この状況においては狙撃手や銃手がいてくれた方がいい。戦闘狂である太刀川が迅相手にサポートに回るということはない。だがチームを組んでない太刀川が風間隊のメンバーと即興で連携をできるとも思えない。

ならば三輪隊と出水、そして先ほど向かった当真を足止めしている比企谷隊のメンバーを早めに倒してこちらに加勢させた方がいいだろう。奈良坂によって多少動きは制限されているし、少なくとも太刀川と風間は風刃の性質を理解している。

 

「菊地原」

「はい」

「お前は今から比企谷隊の方に向かえ。これ以上ここで時間とトリオンを削られれば任務の達成が難しくなる。だが早急に比企谷隊を叩き全員で迅を倒して玉狛に向かえばまだ望みはある」

「…わかりました」

 

すると菊地原はカメレオンを起動して比企谷隊の方に向かった。

 

「……さーて、あいつらも踏ん張ってるんだし、おれも頑張りますか」

 

迅はそれを見て1人呟いた。

 

 

「そらよ!」

 

出水がメテオラをばら撒き周囲を爆撃する。爆撃から逃れるために下がりながらバイパーを放つが、結局爆発するため視界が奪われる。

爆煙から逃れるため後ろに飛んだ。その瞬間、目の前の爆煙が米屋の旋空によって斬り裂かれた。その旋空を逆手持ちした短い弧月で防ぐとすぐさま三輪の鉛弾が襲ってくる。

それをそこらへんの石ころをぶつけて無力化し、アステロイドで反撃。シールドで防がれるが佐々木さんの旋空がシールドを破壊しつつ三輪と米屋に攻撃を加える。致命傷は負わせられないが、傷をつけられたためそこからトリオンが漏れ出す。

 

「バイパー」

 

出水のバイパーが佐々木さんを襲うが佐々木さんは凄まじい身こなしとシールドでそれを掻い潜る。

出水の目の前まで来た佐々木さんはそこで唐突に姿を消す。

 

「出水!後ろだ!」

「っぐぅ!」

 

テレポーターで背後に瞬間移動し、弧月を振り下ろすが、三輪の警告のおかげで致命傷は避けた。足を僅かに削られたが、この程度では機動力に大した影響はないだろう。

追撃を加えようとしたところで背後から米屋が槍を振り下ろす。佐々木さんは柄の部分を掴むと米屋を床に叩きつけた。

 

「アステロイド」

 

佐々木さんに鉛弾を放とうとしていた三輪にアステロイドで牽制。憎らしげに俺を見る三輪はアステロイドを放ってくるが、それをさらに俺のアステロイドで打ち消す。

 

「邪魔を、するな!」

「邪魔するために来たんだよ」

「減らず口が!」

 

振るわれる三輪の剣を短剣で防ぐ。真戸さんの新型トリガーが開発されて使うと決めた時から佐々木さんに稽古つけてもらってたから防ぐ、いなすということはそこそこできるようになった。攻撃は結局バイパーとかでやるからいらない、とまでは言わないがそこまで重要視してない。

三輪の大振りをいなすと、できたスキにゼロ距離射撃のアステロイド放つ。

 

だがそれは少し離れたとこにいる出水の遠隔操作シールドによって防がれた。

同時に三輪が鉛弾を放ってくるが、短剣で防ぐなりかわすなりして後退して仕切り直しにする。

 

「おい三輪、お前が落ちたらまともに指揮取れるやつがいなくなんだ。あんま感情的になんなよ」

「…ああ、助かった」

 

『そろそろ当真と菊地原がそっちに行く。警戒しとけ』

『どーも』

 

唐突に入った迅さんからの通信に警戒を強める。恐らく当真さんは当たらない弾を撃たないために、そして菊地原は風間さんからの指示だろうな。俺らを潰せば迅さんを全員で叩ける。そうすりゃ、迅さんが相手でも任務の黒トリガー奪取もどうにかなるだろう。

 

さて、どうするか。俺は狙撃効かないけど、佐々木さんはそうもいかない。この人は俺や迅さんみたいなサイドエフェクトは持ってない。カメレオンに対する気配感知は得意だが、狙撃相手にはその気配感知はほぼ意味をなさない。

 

「………」

 

レーダーを見る限り、まだ菊地原は近くに来てない。いや、もしかしたらバッグワームを使ってるのかも。そっちの方が有力だな。

 

『横山、この辺りで射線が通りにくいとこは?』

『あんまないね。迅さんのとこが一番通りにくい』

『……ならいいや。狙撃ポイントのマークだけ頼む』

『了解』

 

佐々木さんにも当真さんがもうすぐ来ることを伝え、狙撃の警戒を強めるように言っておく。多分当真さんが狙うのは佐々木さんの方だ。そして菊地原は俺の方に来るだろう。

 

『少し下がりましょう。ここまで来たらもう半分無理矢理くらいでもポイントまで誘導した方がいい』

『そうだね、でもあんまり露骨過ぎると三輪くんにはバレるよ』

『そこはまぁうまくやりましょう』

『そうだね』

 

出水の放つアステロイドをシールドで防ぎつつ距離を取る。

 

「距離を取らせるな。早急に仕留める」

「はいよ!」

 

突っ込んで来る米屋の前に佐々木さんが立ち塞がり槍を防ぐ。幻踊や旋空を織り交ぜながら攻撃してくるあたり、こちらの距離を取らせないつもりだろう。

幻踊で刃を変形させながら放たれる鋭い刺突を弧月とスコーピオンで防ぐ。だが幻踊を織り交ぜなおかつ勢いづいた米屋を仕留めるのは難しい。そして俺は俺で周囲の警戒と三輪、出水への対応に追われてる。さながら詰将棋のように少しづつ押されて来た。

トリオン気にせず全力でやればもう少し押し返せるが、今後を考えると少しでもトリオンを温存しておきたい。

 

だからこその誘導だ。

 

数瞬、思考に持っていかれた瞬間、旋空が俺の顔を掠めて通り過ぎる。

 

「あっぶね!」

「ボサッとしてると首飛ばされるよ」

「ちょっと今後を考えてたんすよ」

「進路のこととか?」

「んなバカな」

 

こんな場面で進路のこと考えてるほど余裕はない。人数的に明らかに不利なのだし、ここから増援が来ることを考えると1人くらいはここで落としとかないと厳しい。

 

「ま、もう落とすけど」

「いってろ!」

 

予想通り米屋が少し深追いしてきた。

 

少し(・・)

 

これが大事なのだ。

 

「……?」

「三輪?」

「…いや」

 

やばいな、そろそろ三輪が気づく。

そもそも下がってるとこで違和感がある。いや、その違和感も僅かなものだと思う。人数的に不利だから下がってるのは別におかしくない。だが下がり方(・・・・)に違和感があるかもしれないため三輪が気づく恐れがあった。

 

でももう、必要なとこにきた。

 

『佐々木さん』

『うん』

「そら!」

「待て!米屋!」

 

もう遅い。

出水の言葉と同時に路地から弾丸が飛んで来る。

 

「うお⁈」

 

頭まっすぐ飛んできた弾丸を米屋はしゃがんで回避する。

だが回避したことにより弾丸同士が接触し、爆発する。

 

「置き弾⁈」

「メテオラかよっ!」

 

爆発により前転するようにして米屋は吹き飛ばされる。

 

「ってぇ!」

 

転がりつつも体勢を整えようとした瞬間、地面が米屋ごと爆発した。

 

ーーー

 

米屋がベイルアウトしていくのを見届けることなく、

 

「っ」

 

背後からの斬撃を直感で躱す。

ステルス状態になっていた菊地原からの斬撃だった。そうなると、当真さんももうこっち着いたな。機をうかがってるってとこかね。

 

「……なにをした」

「それを答える義理はねぇよ」

「地雷でも仕掛けておいたか?」

「どうだろうな」

 

三輪の予想はあたりだ。

米屋は予め仕掛けておいた地雷に引っかかったのだ。射手用のトリガーをいじって仕掛けておいたのだ。

つまり、射程、弾速0で威力100のメテオラがそこら中に埋まってるということ。これは横山の処理で俺や佐々木さんにはどこにあるかハッキリわかるようにしてあるためうっかり踏むことはない。いや戦闘中にどうしようもなくて踏むならあり得るけど。

それにいくら威力100のメテオラでも踏むだけじゃ足を吹っ飛ばすくらいが関の山だ。米屋は転がってる時に引っかかったためトリオン体が吹っ飛ばされただけだ。

警戒は必要だろうが、一撃必殺ではない。

 

「相変わらず嫌なこと思いつくねぇ」

「嫌な性格してますよね」

「めっちゃディスるなお前ら」

 

傷ついちゃうよ?

そもそも思いついたのも実行したのも俺じゃないし(・・・・・・)

そんな俺のボヤきなんぞ知るかと言わんばかりに菊地原、三輪が突っ込んで来る。ただし、地雷を潰しながら。

トリオン反応をオペレーターに探らせれば見つけるのは難しくない。そしてそれを三輪のアステロイドで撃ち抜けば地雷は潰せる。

 

だからこそ、ここで俺の新トリガーを使うのだ。

 

地雷が少なくなり攻撃手である菊地原が斬撃を放って来る。佐々木さんが立ち塞がり斬り合いになるが、技術では佐々木さんの方が上であるため出水がカバーに入りつつ、三輪が俺に迫って来る。

放たれた鉛弾を回避しつつバイパーを放ち攻撃するが、シールドでうまく防がれる。本来ならもっと嫌なコースで撃つのだが、ここでは少し甘めに撃った。

 

「ふっ!」

「っと」

 

三輪から離れると、出水のサポートによって押されている佐々木さんが見えた。弾丸の処理も考えるとスピード系の攻撃手である菊地原が相手だと手数が足りなくなる。特に佐々木さんは両手持ち弧月がメインであるためもともと手数が多い方ではない。サシでやればそうそう負けないが、今は出水のサポートもある。

スコーピオンを左手に出して使っても重さのバランスが悪いから扱いに違和感を感じてしまい、この状況ではそれが隙になりかねない。

 

そして菊地原の攻撃を防いで少しのけぞったところで、遠距離から弾丸が放たれた。

 

「っぐぅ!」

 

持ち前の反射神経で右手にシールドを纏わせてどうにか狙撃を防ぐが、その衝撃で持っていた弧月が飛ばされる。

そしてその隙を菊地原が逃すはずがない。

 

俺は佐々木さんの剣が弾かれるのとほぼ同時に俺の持つ短剣の弧月を佐々木さんに向かって投げた。

三輪はその進路にいたためしゃがむようにしてそれを躱す。

佐々木さんは俺が投げた短剣を見ることなく左手で掴み、菊地原のスコーピオンの一閃を振り抜くことによって防ぎ、刃同士がぶつかる。耐久性のないスコーピオンはその防御の一閃により砕ける。

佐々木さんはその振り抜いた勢いを利用して手首をひねり、スナップをきかせて俺の短剣を自分の上に軽く投げ上げた。

 

その瞬間、俺は新トリガーを起動。上げられた短剣の元に瞬間移動して短剣を掴み、菊地原に振り下ろした。

 

菊地原は驚愕にほんの一瞬固まったがすぐにスコーピオンを出して防ごうとするが耐久性のないスコーピオンでは防ぎきれず斬撃を受ける。肩を深く斬られ多量のトリオンが漏れ出すがベイルアウトには至らない。

そして背後から追撃してこようとする出水が見えたため短剣を近くの廃屋の屋根の上に投げつけてそこに瞬間移動する。佐々木さんも同様にスコーピオンを投げて退避した。

 

「……今のは?」

「テレポーター、だと思うが」

「……さっき俺が比企谷と闘っていた位置から佐々木のいた位置まで移動したとすると、クールタイムに5秒はいる。だが今のやりとりからあいつらがあそこに移動するまでの時間はどう考えても2秒を切っている」

「となると、新型トリガーか?あそこ開発室No.2の真戸さんと結構交流あるから新型トリガーでも不思議じゃないぜ」

「………」

 

どうやら新型トリガーのことで色々考えてるみたいだな。ぶっちゃけそんな難しい設定じゃないしすぐに気づくだろう。

しっかしこれまだ慣れねーな。移動した時の体勢のコントロールがまだうまくできん。

 

「……恐らく、投げた武器のとこにテレポートしてるのだろうな」

「視線よりも移動先がわかりやすくなったぶん、連続して使えるようになったってとこか」

「だろうな。だが恐らく他にも制約があるだろう。でなければクールタイムを無くすか、あそこまで短くすることなどできない」

 

当真さんの居場所は大方割れたが、もう移動してるだろう。

 

「佐々木さん、腕動きますか?」

「うん。ちょっと違和感あるけど普通に戦う分にはなにも支障ないよ」

 

先の狙撃で佐々木さんの右手の一部が抉られた。今はそこをスコーピオンで覆うことによりトリオンの漏出を防いでいる。

 

お互い手は出し尽くした。あとはこれを使ってどうやって詰めて行くかだな。

 

『横山、合図出すから出した瞬間に指定の番号の地雷を爆発させてくれ』

『指定の番号なんて初耳なんですけど?』

『今から言う。番号つけとけ』

『無茶振りねぇ』

『できんだろ?』

『当たり前よ』

 

さすが鬼才とまで呼ばれたオペレーターだ。変人とも言うけど。

 

『ハッチ、なんか今不名誉なこと考えなかった?』

『気のせいだ』

 

俺の周囲エスパー多すぎない?

 

「ん?」

 

遠くで爆発に似たような音がし、一筋の光が飛んで行くのが見える。誰かベイルアウトしたな。

 

「誰か落ちましたね。まさか迅さんじゃないっすよね」

「それはないよ。黒トリガーにはベイルアウトついてないし」

「確かに」

 

さすが迅さん、有言実行だ。普段セクハラばっかしてる人には思えん。

 

「こりゃ早くしねーと本当にやばいな」

「…わかっている」

 

「さーて、あとは僕らが仕事するだけだね」

「嫌な響きだ」

 

仕事、したくないわ。自分から首つっこんだとはいえ、一応休暇中だし。

そんなことを思いつつ、俺はバイパーで三輪達を攻撃するのだった。

 

ーーー

 

「うお!」

「ちっ」

 

菊地原のスコーピオンが俺の眼前を通り過ぎる。さっきの俺に対抗してか、スコーピオンをぶん投げてきやがった。だがさすが本職というべきか、その鋭さは俺より上だ。

俺に突っかかろうとした菊地原の前に佐々木さんが出てその足を止める。そこで斬り合いになるが、うまく三輪と出水の援護によって思うように攻めることができない。

 

『横山、5秒後に6番と10番爆破させろ』

『おっけー』

 

その通信と同時に俺と佐々木さんは武器を後ろになげ距離を取る。その距離をすかさず詰めてきた瞬間、地雷が爆発する。

 

「うぉ⁈踏んでねーぞ⁈」

「オペレーターに爆破を指示したのだろう」

「本当姑息」

 

瞬間的だが視界が塞がれたな。ここだ。

 

「アステロイド」

「旋空」

 

「ちっ」

「くっ」

 

取れはしないが手傷は負わせる。それでトリオン切れになればいいんだが、あいつらみんな平均以上のトリオン持ってるしそう簡単にはならないだろう。

 

…この感じ、狙撃!

 

「佐々木さん下がって!」

「うわ」

 

急にくる狙撃を俺の集中シールドで防ぐ。ぶっちゃけイーグレット相手なら普通のフルガードで防げるが、ここは念のため。

……しかしなんだ?最近、というか休暇になってから調子がいい。動きではなく、直感の方が。俺の直感が周囲の仲間のことまで察知する。普段は基本俺だけなのに。やっぱ休みって大事ね。なんなら四六時中休んでた方がいいんじゃね?違うか?違わない。え?違う?そんなバカな。

そんなアホな考えを断ち切り未だ上がる爆煙に潜む菊地原に向かって短剣を投げつける。そして短剣が目の前に来た瞬間テレポートし掴みかかる。

 

「な!」

 

動揺してスコーピオンを振るう菊地原から蹴るようにして離れるとさらに上に投げてテレポートする。そしてその上からアステロイドを放った。

 

菊地原はそれをシールドで防ぐ。そして間髪入れずに出水がメテオラを降らせて爆撃を行う。

その瞬間、佐々木さんがスコーピオンを出水に向かって投げつける。だがそのスコーピオンを三輪が弧月でガードしにかかる。投げつけたスコーピオンにテレポートした佐々木さんは三輪の目の前に瞬間移動するとスコーピオンを振り下ろした。弧月とスコーピオンがぶつかり火花が飛び散る。どちらも傷を負うことはなかったが、三輪はそこで鉛弾を佐々木さんに至近距離から放つ。銃口を向けられた瞬間、佐々木さんはスコーピオンを近くの家の屋根に向かって投げつけ、鉛弾を躱す。

そしてさらに空中にスコーピオンを投げてそこに瞬間移動すると、佐々木さんはスコーピオンを消し遠心力を利用して光る何かを投げつけた。

 

というか、メテオラだった。

 

「うおお⁈」

「くっ」

「やば」

 

地雷と同等の威力を持つメテオラが急にぶっ放されたのだ。誰でも焦る。そして誘爆するかのように周囲の地雷も爆発する。

これで落とせたらラクなんだが、そうもいかないのだろうな。

 

「バイパー」

 

そこにフルアタックバイパーを放ち少しでもダメージを稼ぐ。

そして爆煙から姿を現した三輪はトリオン体の足や肩が少し抉れておりそこからトリオンが漏れ出している。出水や菊地原も同様でそこそこの量のトリオンが漏れ出していた。

 

「2人とも、動けるか?」

「なんとか…にしても…あーあ、トリオンがもったいねー」

「地雷を仕掛けたのは佐々木さんなんですね」

「誰の入知恵かは知らんがな」

 

そこで俺を見るな。考えたのもやったのも佐々木さんだ。

 

「ただ、これ以上ダメージ受けると落ちるな」

「それは俺もだ」

「本格的にやべーな」

「早急に片付けるだけだ」

 

三輪がそういうと同時に出水はメテオラで再び爆撃。

そしてその爆煙から菊地原が突撃してきて佐々木さんに斬りかかる。弧月で佐々木さんは押しもどすがその瞬間鉛弾が爆煙から飛び出してきた。それを俺がバイパーで撃ち落とすが、その瞬間三輪が俺に剣を振り下ろし、俺はそれを短剣で防ぐ。右手でバイパーを放ち突き放そうとするが、シールドであえなく防がれる。三輪の剣を横に流し蹴りを入れるがその瞬間また出水の爆撃がくる。

後ろに瞬間移動して避けたが、それがむしろ悪手だった。

咄嗟の瞬間移動だったため、移動後の体勢が悪かった。それを立て直そうとしたが、爆煙からの鉛弾が飛び出してきて、体勢の悪かった俺はそれを防げず右手で受けてしまった。凄まじい重さの重しがつけられ機動力が下がるのがわかる。

そして佐々木さんの左手も狙撃で吹き飛ばされる。即死しなかったのは位置がよかったからだろう。

 

「やっべ」

「トドメだ」

 

いつの間にか目の前に来ていた三輪から逃れるように瞬間移動してどうにか距離を取る。

そして重い腕を短剣で斬り落とした。これでだいぶ楽になったが、左手一本でこのトリガーセットはあまりよろしくない。バランスが崩れる。

 

『いったん路地に入ろう。そこなら同時に相手しなくて済むから』

『そっすね』

 

そうして俺たちは路地にいったん入った。

 

ーーー

 

「お、路地にはいったぜ?袋のネズミか?」

「……いや、あの新型テレポーターならばカウンターで返り討ちにすることもできるだろう」

「カウンター狙いか。あり得るな」

「どうしますか、三輪先輩」

「……比企谷を落とせば佐々木もすぐに落とせるだろうが、そう簡単にいくものでもないだろう。当真さん、狙撃で佐々木を落としてください」

『そう簡単にもいかねーだろ。サッサン、さっきから俺の狙撃悉く避けてやがるから、多分大方の狙撃ポイントは夏希ちゃんが洗ってあるんだろう。後ろからできればいいんだが、あいつらの後ろに回るとなると警戒区域を超えかねないぜ』

「どーするよ三輪。このあたり一帯俺のメテオラで更地にするか?そうすりゃ射線も通るぜ」

『過激だな出水、捨てられても人ん家だぜ?』

「任務果たすには比企谷隊(あいつら)倒さなきゃ厳しいんだろ?なら多少過激でもさっさと決めた方が良くないですか?」

「多分更地にしても落とせるのは佐々木さんだけですよ。比企谷先輩なら狙撃も効かないしあの新型テレポーター使えばこちらのトリオン切れになるまで粘るでしょうし」

「……処理する情報が多ければ比企谷でも対応しきれない。そこを仕留める、と言いたいが」

「なんか問題あるのか?」

『その後の本来の任務で使うトリオンが無くなるってことだろ?』

「ああ」

「珍しく冴えてるね、当真さん」

『おいコラ』

「現時点でかなりトリオンが削られてる。正直、これ以上トリオンを消耗するとなると、任務が果たせない。一撃必殺を狙う」

「どうするんです?」

「まずはおびき出す。そこからだ」

「どうやって?」

「奴らの役目を利用する」

 

ーーー

 

「……追ってこないね」

 

地雷を通り道に仕掛けながら佐々木さんは呟く。

 

「持久戦、ではないだろうな」

『そーでしょ。刺客部隊の役目は玉狛の黒トリガーの強奪。持久戦でこれ以上下手にトリオン消費したら任務果たせないし』

「だよな」

 

出水なら爆撃してきそうだが、その様子もない。

 

「気配はどう?」

「探ってみます」

 

目を閉じて気配感知を最大にする。

すると気配が少し遠ざかっているのがわかる。

 

「…佐々木さん、レーダーあげてもらえます?」

「うん」

 

佐々木さんがレーダーの精度を上げると、レーダーに映された三輪達が迅さんの方に向かってるのがわかる。

 

「あー…迅さんのとこ向かってますね」

「みたいだね」

「ほっといていっすかね?」

「役目は?」

「いや、迅さんならぶっちゃけどうにかしちゃうと思うんすけど…」

「否定しないけど、そうじゃないでしょ?」

「わーってますよ。言ってみただけです。じゃ、手はず通りに」

「うん」

 

ーーー

 

「お、来た」

 

十字路で1人突っ立ってると三輪達が向かってくるのが見える。

 

『佐々木さん、見つけましたか(・・・・・・・)?』

『うん、見つけたよ。あとは移動だけ』

『さすが』

『僕より夏希ちゃんに言ってあげて』

『いぇい!』

『はいはい、お疲れ』

 

ドヤ顔の横山が目に浮かぶ。

 

「比企谷、みっけ!メテオラ!」

 

いきなり爆撃かよ。

バイパーで撃ち落としながら警戒を続ける。

 

「大方、比企谷を囮にして佐々木で奇襲といったところだろう。この状況で比企谷が囮になるとしたらそれくらいしかない」

「でしょうね。佐々木さんはアサシンとか呼ばれるくらい奇襲がえげつない。ならそれを利用しない比企谷先輩じゃないでしょう」

「地雷も周囲に仕掛けてある。俺が地雷を削っていく。菊地原は比企谷をやれ」

「はい」

「出水は俺と共に地雷を潰しながら菊地原の援護。佐々木が奇襲してきたら俺が潰すが、やれるなら当真さんがやってくれればそれでいい」

『はいよ』

「OK」

 

……さすがに3対1はきついな。

 

『横山、29番から35番まで』

『はいよ!』

「うお⁈」

「ぐっ…」

 

地雷の爆発により攻撃手の菊地原は押し戻され、三輪や出水もシールドを展開してガードに回らなければならないような状態になった。

 

ここだな。

 

「バイパー+アステロイド」

 

瞬時に合成弾をつくりあげる。無論、出水の方が早いが。

 

「コブラ」

 

コブラを最初にシールドを解いた菊地原に向けて放つ。

地雷、地雷の爆発による爆煙、佐々木さんの奇襲の警戒、新型テレポーターへの対処、そして俺自信への対処。処理する情報が増えた菊地原は爆煙の中から突然現れた合成弾に対処できず、コブラに貫かれてベイルアウトした。

 

だが処理する情報が増えたのは俺も同じであり

 

「喰らえ」

「げ」

 

爆煙から姿を現した三輪の鉛弾への反応が遅れた。

結果として鉛弾は直感でギリギリかわせたが、代わりに出水のアステロイドを食らった。ベイルアウトするほどではないが、いろいろとトリオンを使ったからこれ以上トリオンを消耗すると俺も落ちかねない。

 

「終わりだ」

 

三輪が弧月をふりおろそうとするのが見えたため、反射的に腰の短剣を抜き、そして投げつけた。

 

「バカが」

 

だがそれを三輪と出水は読んでいたのか、投げつけた短剣の方に視線を向け、三輪は鉛弾を、出水はアステロイドを放った。

 

だがこの時点で俺の勝ちは確定した。

 

2人が攻撃を放った瞬間、2人の右手は消えた。

俺がバイパーで撃ち抜いたのだ。

 

「はぁ?」

「なっ」

 

これまでなんども新型テレポーターを使ってきたのは、短剣を投げたら必ずテレポーターを使用する、という固定観念を相手に植え付けるためだ。そしてなんども目の前で新型テレポーターを使用すればすぐに投げつけた武器のとこに瞬間移動できることくらいわかるだろう。

だからこそそれを利用した。

俺が『瞬間移動しなければならない』ような状況で『反射的に』短剣を投げつければ、これ以上トリオンを消耗したくない奴らなら必ずそれを利用する。そうわかっていたからこそそれを利用しない手はない。

 

「やりやがったな!」

「……まだだ!」

 

残った左手でハンドガンを向けてくる三輪の後ろで一筋の光が本部に向かって飛んでいくのが見えた。

さらに遠くで2つ。

 

となると……

 

「任務完了ってか」

 

 

時は少し遡る。

三輪、出水、菊地原が比企谷に向かっていくのを当真はマンションの屋上から見ていた。狙撃銃を構え、いつでも撃ち抜けるようにして。

だが敵の攻撃手である佐々木の姿が見えない以上、自分のとこに来る可能性も捨てない。常に背後に気を配りいつでも逃げ切れるように警戒は続けていた。

 

「さーて、サッサンは来るのか。それとも向こうの奇襲にいくのか」

 

こんな軽口を叩きつつも伊達にNo.1スナイパーではないだけあり、背後への警戒は全く怠らない。ここは屋上。背後に誰か来ればすぐにわかる。幸い、今日は月明かりによって視界もいい。気づいたら後ろにいた、などという愚行はないだろう。菊地原ほど耳は良くないが、バッグワームを装備している以上、バッグワームがはためく音や衣擦れの音を聞き漏らすなどということはない。それほどまでに当真は集中していた。

 

だが、急に来た上からの衝撃には対処できなかった。

 

「がっ!」

 

後ろから押さえつけられ、瞬時に両足を切り落とされる。

 

「おいおい、マジかよ」

 

視線を背後の存在に向けると、そこには佐々木琲世がいた。

 

「警戒を怠ったつもりはねーぞ?」

「上からの警戒はしていたかな?」

「……上?」

 

捨てられたとはいえアパートの屋上だ。ほかの家に比べたら高さがある。そのため上からの警戒は完全に怠っていた。

 

「どーやって上から?つか、なんでオレがいるとこわかったんだよ」

「新型テレポーターを使えばそれくらいできるよ。それに、うちのオペレーターは優秀なんでね」

「レーダーからはどーやって逃れた?今あんたバッグワーム使ってねーじゃん」

「まずアパートの壁を駆け上がる。そして屋上付近になったとこでスコーピオンを君の視界に入らないくらい高くなげる。最高高度に達したとこでバッグワームを解除、テレポーターを使用。そしてレーダーに感知される前に君にスニークキルする」

「スニークキルとかFPSかよ…」

「レーダーが感知してから表示するまで、2秒ほどかかる。それを知っておくべきだったね」

「……はっ、完敗だな」

 

それだけいうと当真のトリオン体に琲世はスコーピオンを突き刺し、ベイルアウトさせた。

 

 

『三輪くん、作戦終了よ』

「っ!」

 

どうやら、作戦終了したみたいだな。向こうで太刀川さんに風間さんもベイルアウトしたみたいだ。さすが黒トリガー。

 

「っかー!作戦失敗かー!」

「………」

 

三輪が無言で睨みつけてくるんだけど。怖いからやめてくれない?いやほんとマジで。

とそこでスコーピオンの刃が俺の横に突き刺さり、佐々木さんが姿を現した。

 

「お疲れっす」

「うん、比企谷くんもね」

「あ!サッサン!当真さんどうやって倒したんすか?」

「アサシンとか言われてる僕だよ?」

「おっとぉ、そうだった」

 

そんな会話を遮るように怒気を露わにした三輪が血を吐くように俺に言葉をぶつけてきた。

 

「比企谷隊……お前らはいつか必ず後悔する。迅もだ。ネイバーを庇ったことをいつか必ず後悔することになるぞ」

「そんなことするような奴なら、そもそももう本部にそれなりのダメージがいってるだろ」

「黙れ!」

 

そう言いながら鉛弾を俺に放ってくるが、それは佐々木さんの弧月とスコーピオンによって防がれる。

 

「まだやるの?別にやるならいいけど、僕たちを倒しても保険として嵐山隊に来てもらってるからそっちの相手もすることになるよ?」

「はぁ?マジかよ!」

「……お前もだ佐々木。比企谷に全てを委ねるだけの思考停止したお前もいつか必ず後悔する」

「かもね。でも、僕が今回作戦に加わったのは、比企谷くんが参加するってだけじゃなくてただ単に君たちがやろうとしてたことが気に食わなかったからってのもあるよ」

 

基本佐々木さんは作戦だと聞かされればはいそうですかと大体のことはこなす。だがそれでも、彼も人間だ。気に食わないことだってあるのだ。

 

「お前らのように、自分のことしか考えていないような金の亡者供は喪うことの恐ろしさを知らないからそんなことが言える!ただ己のためだけに闘うお前らのような奴のことなど!俺は認めない!お前らは……喪ってもいないで!なにもわからない分際で!己が正義であるかのように振る舞う偽りの、偽物の体現者が」

 

 

「三輪ぁ!!!」

 

 

三輪の怒りによってヒートアップする言葉を、出水の馬鹿でかい声が遮った。

出水にしては珍しく本気で怒っているのが、長らく友人をやって来た俺にはわかった。出水が本気でキレるとこなど、俺はもしかしたら初めて見たかもしれない。

 

「…それ以上言うな」

「なんだと…?お前もあの愚かなことをする奴らを庇うのか?」

知らなかった(・・・・・・)とはいえ、それ以上言ってみろ。頭吹っ飛ばすぞ」

「知らなかった…?何をだ」

「それは俺が言うことじゃねぇ。本人から聞け」

 

そう言うと出水は俺に視線を向けた。その目は『もう隠す意味もないだろう』と言っている。

ああ、そうだな。なんならこのために、俺はここに来たまである。

 

「三輪、俺は、あの最初の侵攻で両親を亡くした」

 

その言葉を聞くと三輪の目は大きく見開かれた。

 

「お前の言う通り俺は金の亡者だ。金を稼ぐためにボーダーに入った。それも、俺や妹がちゃんと生きていくための金だけどな」

「な……あ……」

「だから、俺は俺なりにネイバーの危険性は理解してるつもりだ。それに迅さんだって、それに佐々木さんも母親をネイバーにやられてる。迅さんは師匠も亡くしてる。親しい人を喪う辛さは、わかってるだろう」

「………」

「ネイバーの危険性も喪う辛さも、俺たちは理解してる。それでもネイバーを守ろうとしてるんだ。迅さんには、迅さんなりの考えがあるんだと思う」

「……………」

 

……ここで話すのはここまででいいだろう。

 

「佐々木さん、帰りましょう。出水、サンキュ」

「うん」

「ああ」

 

これで、なにかが変わればいいのだがな。

変わるかどうかは、俺次第か。

 

 

会議室

 

緊迫した空気が会議室を包んでいた。

 

「一体どうなっとるんだ!迅と比企谷隊の妨害!精鋭部隊の潰走!そしてなにより、忍田本部長!なぜ比企谷隊が玉狛についた!なぜネイバーを守ろうとする⁈ボーダーを裏切るのか⁈」

「裏切る…?議論を差し置いて強奪を強行したあなた方がそれを言うか」

「!」

「もう一度言うが私は黒トリガーの強奪には反対だ。ましてや相手は有吾さんの子。これ以上刺客をさし向けるなら、次は比企谷隊ではなくこの私が相手になるぞ、城戸派一党」

 

その言葉に敵対する城戸派は全員表情を固くする。

表向き、正確には本部のトリガーを使う中ではノーマルトリガー最強の男が相手となると簡単に強奪はできない。

 

「……なるほど、ならば仕方ない」

 

その言葉に一瞬強奪を諦めるかと忍田は思ったが、次の言葉に驚愕する。

 

「次の刺客には、有馬くんを使う」

「な!」

 

黒、ノーマル。両トリガーを含めてボーダーにおいて本当の意味での最高戦力、有馬貴将。琲世の実父を使うというのだ。有馬が相手ではさすがの忍田も勝ち目はない。

 

「精鋭部隊を返り討ちにする迅に、忍田くんが相手となれば有馬くんを使う他ない。天羽でもいいが、彼を使うのはなかなかリスクが大きいからな」

「…………」

 

ここで有馬を使われれば本当にどうすることもできない。

どうするか思考を巡らせようとしたとこで、有馬本人から声が上がる。

 

「お断りします」

「なに?」

「なんだと⁈貴様、司令の命令が聞けんのか⁈」

「息子の琲世が忍田本部長の味方、ひいては玉狛の味方をしたとなれば、私が黒トリガーを強奪する理由はありません」

「命令よりも息子か、有馬貴将」

「ええ。やるなら相手になりますが、どうもその必要もないみたいです」

「なに?」

「あとは、迅本人から聞くといいでしょう。では私はこれで。明日も出張ですので」

 

それだけいうと有馬は会議室を出て、すぐ外にいた迅の肩を軽く叩いてその場から去った。

 

 

本部に戻り、少しラウンジの売店でなにか買ってこようと1人歩く。するとやはり、と言うべきか三輪がいた。

 

「………」

「よう」

「……まず、知らなかったとはいえ、色々勝手なことを言ったことを謝罪する。すまなかった」

「いいよ、知らなかったんだし。そもそも俺が俺の事情を広めようとしなかったのが原因だし」

 

三輪隊だと、多分三輪以外の全員が知ってる。いや、古寺は知らないか?俺から言った記憶はないし、知らない可能性もあるか。

 

「……極力お前とは関わらないようにしていたとはいえ、なぜ俺の耳にお前のことが入ってこなかった。あの様子だと、米屋も知っているのだろう」

「…俺のことを知ってる人は、俺が直接言った人だけだ。耳に入らなかったのは、俺が口止めしてたからだ」

「なぜだ」

「別に不幸自慢したいわけじゃない。無理に広めるようなことでもなかったからな。俺とお前の関係を知ってる奴がわざわざお前の前で俺の話をするとも思えんしな。……で?それだけじゃないんだろ?」

「……お前は両親を亡くしたと聞いた。ならなぜ、ネイバーを庇う。ネイバーが憎くないのか」

 

……ああ、これよく聞かれたな。

 

「憎くない、と言ったら嘘になるな」

「なら、なぜだ」

「別に空閑がやったわけじゃねぇんだろ?ならあいつを憎む理由にはならない」

「だがそれでもネイバーであることには変わりないはずだ」

「……お前がネイバーを憎むのは、姉を殺されたからだったな」

「…………」

「気持ちはわかる、と言ったら嘘か。お前の気持ちはお前しかわかんねーもんな。えっと、多分だけど………なにかを喪った人ってさ、その気持ちを切り替えるために、その悲しみの感情を別のベクトルに向けると思うんだ」

「……別のベクトル?」

「まぁ、あくまで持論だけどな。その別のベクトルがお前の場合憎しみで、俺の場合恐怖だったんだ」

「恐怖?」

「ああ。『また同じ思いをすること』への恐怖だ」

 

だからこそ、俺は小町を巻き込まないようにするためになにも相談せずボーダーに入ったのだろう。今になって思えば、ではあるが。

 

「なくしたもんへの思いが強いと、多分喪う原因への憎しみになる。で、今あるものへの思いが強いと恐怖になる。大きく分けてだけどな。俺は、残った妹まで喪うのが怖かった。その妹に、辛い思いをさせるのもな。だから俺はネイバーを殺すことより金を稼ぐことに重きを置いたんだ。この社会でちゃんとして生活を送るには金がいるからな」

 

両親という庇護下にいられなくなった以上、ちゃんとした生活のためには金が必要。そしてそれが結果として小町のためになると俺は思っていた。まぁ今でも思ってるけど、それが一番じゃない。

 

「だから俺は初対面の時、『金が第一でネイバーとか二の次』みたいなことを言ったんだ」

「…………」

「…失くしたもんを忘れないってのは大事だと思う。でも、俺は今、残されたものを大事にしたいと思ったんだ」

「……なら、喪ったものへの思いを募らせるのは間違っているというのか?」

「いや、そうじゃない。人それぞれ優先順位が違う。それだけだ。俺は今、そしてこれからが。お前は過去が、ネイバーへの感情の根っこにあるものだ。みんな違うんだ」

 

そう、みんな違う。前に雪ノ下にも言ったが、『こうでなければならない』なんてものは本来この世にない。俺たちの認識でそれが決まるだけだ。

 

「今あるものを大事にしていく。それが『俺』のここにいる意義だ」

「………両親への思いは、ここにいる意義ではないと言うのか?」

「ああ。両親を忘れるつもりはない。両親への思いもな。両親を殺した奴らはもちろん憎い。でもそのためにここにいるんじゃない」

「………やはり、お前とは相容れないな。俺は姉の復讐のためにここにいる。それが俺のここにいる意義だ」

「それでいいさ。憎しみを捨てろなんて言わないし、言えない。でもな、これが俺だ、『比企谷八幡』だ。許容も理解もしなくていい。でも、これが『俺』であることは認めてほしい。俺も、お前のことを認める」

「…………ふん、許容する気など初めからない。だが、それが『比企谷八幡』であることは、理解したし、認める。それがお前だとな」

「ああ。俺もお前を理解するけど許容するつもりはない」

「……邪魔したな」

 

それだけ言うと三輪は去っていった。

これでよかった、と言っていいのかはわからない。だが俺は、漸く三輪と向き合えた。あいつの憎しみを、漸く正面から向き合い、そして理解した気がした。

 

「やっぱ、人間って難しいわ」

 

俺は三輪がいなくなり1人になった廊下でそうつぶやいたのだった。

 




このテレポーターのネタがわかる人は同士です。

テレポーター(新)
攻撃手用トリガーを投げたとこに瞬間移動できるトリガー。開発室No.2、真戸暁によって開発された新型トリガー。
視線よりも移動先が読みやすくなっているため場合によっては狙撃のカモ。そのかわりクールタイムも必要ないため連続使用が可能。
だが武器の投擲距離=移動距離であるため、移動距離は通常のテレポーターよりも落ちる。投げてからテレポートするまでの間、姿を消すことができ瞬間的に無敵になるがその間トリオンを結構な勢いで消費し続ける。
使い勝手は悪くないが、トリオンに自信のある人間でないとすぐにトリオン切れになる。修レベルだとすぐトリオン切れになる。

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