目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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開始当初から書きたかったとこに差し掛かりました。

54話です。


54話 好きの反対は、嫌悪でなく無関心である。

「失礼します」

「来たか」

 

作戦に参加する旨を予め連絡して伝えておき、その後本部長室に来るように言われたため全員で本部長室に出向した。出向って言い方なんかよくね?あ、そうでもない?

 

「予めお伝えしたように、本作戦には参加させてもらいます」

「助かる」

「で?呼ばれた理由は?」

「迅に伝えられた作戦の日時と概要の説明だ。迅は今、玉狛の方でやることがある」

 

やること……それが今回の作戦の核となることだな。

 

「作戦は70時間後、遠征部隊が帰還してすぐだ」

「あと3日弱ってとこっすね」

「それも迅くんからの?」

「ああ、迅の未来視で得た情報だ」

 

便利すぎでしょ未来視。万能じゃないにしても有能すぎ。俺の超直感とか下位互換じゃん。

 

「こちらは君達と嵐山隊、そして迅で迎え撃つつもりだったのだが…」

「嵐山隊は俺らが落ちた時の保険にしてもらっていいですかね?別に簡単にやられるつもりはないですけど、念のために」

「…比企谷隊のみでやることにこだわっているようだが、理由は聞いてもいいか?」

「………そろそろ向き合うべきだと思ったというか、言われたというか」

「向き合う……三輪か」

「ええ、まぁ」

「わかった、そう言うなら止めはしない。嵐山隊にも伝えておこう」

「すんません、お願いします。あ、あといいすか?」

「どうした」

「今回、なんでこんなことになったんすか?」

「…そうだな、君達にも伝えるべきか」

 

そう言って少し間を空けて本部長は話し始めた。

 

「今回は空閑遊真という隊員を守るための戦いだ」

 

空閑遊真……あの白髪チビか。

 

「あいつ、やっぱネイバーなんすか」

「知っているのか?」

「ええ、三門第一中襲撃の時に、ちょっと」

「なら話が早い。彼は向こうから来た存在であり、彼の父親が旧ボーダーの設立に関わっていた空閑有吾という私の先輩にあたる方の息子なのだ」

 

思ってたよりすごい話なんすけど。なに?旧ボーダー設立に関わっていた人の息子?すげーなおい。

 

「ならその親父さんが話つければ…」

「有吾さんは、亡くなっていた」

 

親父さんが死んで、なおかつその息子が城戸派に躍起になって追われてる……あっ(察し)

 

「親父さん、黒トリガーになったんすか」

「ああ。そのトリガーを奪取するために城戸さんは刺客を差しむけるつもりだ」

「それが遠征部隊と、三輪隊ってことね」

「そうだ」

「それ、強盗じゃないっすか」

「だからこそ、我々は城戸派を止めなければならない」

 

はー、思ったより政治チックな話になって来たなぁおい。

 

「まぁ、空閑に借りはないけど本部長にはたくさん恩があるんで協力しますよ」

「助かる」

「それに、ここで空閑に貸しを作っておくのもいいことかもな」

「でたよ捻デレ」

「おい」

「素直じゃないなー」

「待てコラ」

 

なんで俺がそんなお人好しみたいに言われにゃならんのだ。

 

「まーまー、とりあえず遠征部隊が帰ってくるまでに作戦立てちゃおうよ。迅くんも交えてさ」

「後で覚えてろ横山」

「殴り合いであたしに勝てると思うな?」

「トリオン体ならわからんだろ」

「それは確かに」

 

謙虚か。

 

「じゃ、失礼します」

「よろしく頼む」

 

ーーー

 

「さーてどーすっか」

「え、なに?ノープランでうちらだけでやるって言ったの?」

「戦闘面ではノープランだな」

「アホ」

 

スパーンと頭を叩かれた。おお、いい音した。痛かったけど。

 

「それはこれから詰めればいいよ」

「そーそー」

「ノープラン男がなに言ってんのよ」

「ほっとけ」

 

しょーがねーだろ。そもそも作戦のこと言われたの今日だぞ。そんな具体的な策立てられるか。

とりあえず、迅さんに色々聞かねーとな。

 

「佐々木さん、迅さん呼んでもらっていいすか」

「いいよ。ちょっと待ってね」

 

ーーー

 

「よぉ、実力派エリートが来たぜ」

「実力派なのは認めますけどエリートなのかはちょっと疑問ですね」

「比企谷いきなり辛辣すぎない?」

 

いやぁ、この人の普段の行動見てるとエリートなのかはちょっと疑問だよな。大学行ってないし、ボーダーでも常に働いてるわけでもないし。もちろんこの人の行動は無意味なものはないとはわかっているが普段は女性隊員にセクハラしてぼんち揚食ってるだけじゃねーか。エリートとはちょっと言い難い。

 

「で?今回の作戦はなにが目的なんすか?」

「そら決まってるだろ?遊真を平和に入隊させることさ」

「マジで言ってるんすか?」

「なんだ比企谷、反対か?」

「別に反対はしてませんよ」

 

だが水面下でそんないざこざが起きてる時点でそれ平和じゃないよね?

 

「ただ、わざわざ迅さんが隊務規定違反してまでやることなのかなって思って」

 

正直、本部とそこまでガチで喧嘩してまでやることなのかと思った。空閑本人に害意はないだろうし、あいつは多分相当できるやつだ。ボーダーに入ればこちらにはメリット盛りだくさんだろう。

だがあいつはもともとネイバー。直感ではあるが、今まで派手に攻撃してきたやつらとは無関係だが、それでも反感を持つ人は腐るほどいる。特に城戸派の上層部は簡単には認めないだろう。

少なくとも、こちらが返り討ちにする程度では。

 

「さすが比企谷、わかってんな」

「ならさっさと教えてもらえます?」

「お前ら、遊真と会ったことは?」

「俺は一回」

「僕も」

「あたしは無い」

「夏希ちゃんだけわかんないか。まぁ後で会わせてやるよ。で、その遊真なんだが、詳細は後で話すけど、あいつ結構ハードな人生送っててさ。そんで俺はあいつに楽しい時間を与えてやりたいんだ」

「楽しい時間?」

「そう。俺はな、太刀川さんやハイセとバチバチやり合ってた時が最高に楽しかった。比企谷がきた時にはもうS級になってたからあんまやってないけどな。あいつは昔の俺に似てるからきっと毎日が楽しくなる。そんな楽しい時間を影ながら作ってやりたいっていうただの先輩心さ」

「なるほど…」

 

向こうから来たということは恐らく毎日が闘いのときもあったということだ。俺よりも年下なのにそんな過酷な人生歩んでる仲間がいたら、そら楽しい時間作ってやりたくもなるのかね。

 

「だいたいわかりました。んで、細かいとこはどーするんすか?」

「とりあえずプランは2つ用意した。プランAとB」

「まずAは?」

「Aは向こうが俺らを無視して力づくで黒トリガーを獲りに行こうとするまでだ。引き気味に戦って向こうのトリオンを削る。あわよくば…」

「トリオン切れで撤退、ってことね」

「そーそー。夏希ちゃん冴えてる」

「でも引き気味に戦ってたら向こうも気づくんじゃないですか?主に風間さんあたりが」

「多分気づくな。ちょっとでも引き気味にやってたら多分気づく」

「そこでBがでてくるんだね?」

「そう。撤退させるのが無理なら、結局倒すしかない。でもただ倒したからといって城戸さんが入隊を許すとは思わない。そこでおれは……」

 

ーーー

 

「こんな感じだ。どうだ?」

「それ、マジで言ってるんすか?」

「大真面目だ」

「………」

 

確かにそれなら確実に空閑は入隊できるだろう。だが、それでもその代償となるものがそれって……。

 

「迅さんがいいって言うなら俺らはどうこう言うことじゃないですけど…」

「迅くんは、本当にいいの?」

「ああ。遺されたものを大事にするのはいいことだけど、でも今あるものを大事にするのはもっと大切だろ?」

「そういえば君もお人好しだったね」

「まぁな。ハイセほどじゃないと思うけど」

 

……迅さんがこうするってことは多分この行動にも意味があるのだろう。なら俺らが言うことはない。

 

「じゃ、そういう方向でいいってことっすね」

「ああ」

「そうなると残りは俺らの方だけっすね」

「作戦立てるなら協力するぜ」

「言われずとも」

 

飄々としてるから忘れがちだが、この人も色々喪ってる人だったな。

 

 

三日後

 

遠征部隊が帰ってきた。

 

「…さて、そろそろすか」

「そうだね」

「場所は、玉狛と本部のにある警戒区域内よね」

「そう聞いてる。まぁどーせ直前に迅さんから連絡くるから」

「じゃあ15分後に出発しようか」

「うす」

 

 

警戒区域

 

バッグワームを装着して刺客部隊が来るのを影からまつ。刺客部隊の正面には最初迅さんが立ちふさがる形になった。

 

『もうそろそろっすか』

『ああ、あと1分もすれば視界に入るさ』

 

その言葉通り1分以内に刺客部隊が視界に入ってきた。

 

「久しぶり、太刀川さん。みんなお揃いでどちらまで?」

 

気配は…あれ?10?1つ足りないな。

 

「うお、迅さんじゃん。なんで?」

「よう当真、冬島さんはどうした?」

「うちの隊長は船酔い(・・・)でダウンしてるよ」

 

あー…そういや冬島さん遠征艇で酔う人だったな。なんでも、ダメな人はとことんダメらしいからな遠征艇。乗ったことないけど。

 

「こんな所で待ち構えてたってことは、俺たちの目的はわかってるわけだな」

「うちの隊員にちょっかい出しに来たんだろ?最近、うちの後輩たちはかなりいい感じだからジャマしないでほしいんだけど」

「そりゃ無理だ、と言ったら?」

「その場合は仕方ない。実力派エリートととしてかわいい後輩を守んなきゃな」

「………」

「なんだ、いつになくやる気だな、迅」

「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』。隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな、迅」

「それを言うなら、うちの後輩だって立派なボーダー隊員だ、あんたらがやろうとしてることもルール違反だろう」

「……!」

「『立派なボーダー隊員』だと?ふざけるな、ネイバーを匿ってるだけだろうが!」

「ネイバーを入隊させちゃいけないなんてルールはない。正式な手続きで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句は言わせないよ」

 

三輪が普段の1.5倍くらい殺気立ってて、絶対俺のこと親の仇レベルで睨んで来るビジョンが見えるんですけど。とうとう俺にも未来視のサイドエフェクトが発現したのか?違うか?違うな。

 

「いや迅、お前の後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ。玉狛での手続きが済んでても、正式入隊日(・・・・・)を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めてない。つまりお前の後輩はまだただの野良ネイバーだ。仕留めるのになんの問題もないな」

 

…前から思ってたけど、この2人やり口似てるよな。迅さんはともかく太刀川さん頭悪いのにこう言う時は頭回るし。

 

「邪魔をするな迅。お前と争っても仕方ない。俺たちは任務を続行する。支部と本部とパワーバランスのことを抜きにしても、黒トリガーを持ったネイバーが野放しにされてる状況はボーダーとして見過ごすことはできない。城戸司令はどんな手を使っても黒トリガーを本部の管理下におくだろう。結局早いか遅いかでしかない。それとも黒トリガーを使って本部と戦争でもするか?」

 

おいおい、こちらの世界を守る組織が組織内で戦争なんてしてたら本末転倒だろ。さすがにそんなことするくらいなら空閑には向こうの世界にお帰り願うわ。

 

「そっちにも事情があるんだろうけど、こっちにも事情がある。そっちにとってはただの黒トリガーでも持ち主本人からすれば命より大切なものだ。戦争する気はないけど、おとなしく渡すわけにはいかない」

「あくまで抵抗を選ぶ、か。だが、いくらお前といえどもこの全員を相手にして勝てるとでも?」

「そこまで自惚れてないよ。あんたらの強さはよく知ってる。おれが黒トリガー使ってもいいとこ五分だろう」

 

あーそろそろ出番な気がする。本番入りまーす、って言われた役者の気分。想像だけど。

 

「おれ1人なら、な」

「なに?」

「ちゃーんと助っ人呼んできたよ」

 

そういって迅さんは屋根の上の俺たちを親指で指した。

 

「比企谷隊⁈」

「……比企谷!」

「佐々木さんもいるし」

 

呼ばれたしもうバッグワーム解いていいよね?下降りてもいいよね?というか三輪がすんごい睨んでくるんすけど。怖いわー。マジっべーわ。やっぱビジョン通りじゃないですかヤダー。

 

「忍田本部長派と手を組んだか」

「比企谷達がいればはっきりいってこっちが勝つよ。別におれらは本部と喧嘩したいわけじゃない。引いてくれると嬉しいんだけど」

「未来視のサイドエフェクト……ここまで本気のお前は久々に見るな。その予知を、覆したくなった」

「やれやれ、やっぱそうくるか」

 

ほんと、バトルバカだよなぁ太刀川さん。

さて、とりあえずプランAの方からだな。新トリガーも入れたし、ちょいと気合い入れますか。

 

ーーー

 

引き気味に戦って相手のトリオンをできる限り削るのが最初の作戦だ。基本防御で、時折致命傷にならないレベルの攻撃を与えてトリオンを漏出させる。引きすぎると、相手に不自然に思われるためそこそこの頻度でやり返す。数は向こうの方が上だからうまいこと俺がバイパーで数の不利をカバーする。

 

「ちっ、比企谷がウゼェな」

「相変わらず援護がうまいことで。出水、お前遠征行ってる間に抜かれたんじゃないか?」

「えぇ、嘘でしょ?援護スキル負けたらオレもうあいつに勝てるとこないっすよ」

「合成弾があるだろ」

「誤差の範囲っすよそれは。あいつの合成弾作成の速さもだいぶオレに近づいてきてますから」

「のらりくらりしながら、あいつかなりできるからなぁ」

「……ふん、大したことないでしょ」

「菊地原、大口叩くのは比企谷に勝ってからにしろ。太刀川、出水、無駄話はそこまでだ」

「……はい」

「へーへー。風間さんはお堅いねぇ」

 

まだ気づいてはいないか。さすがにここまでで気づくほど鋭い人がいたらそれは怖いわ。

狙撃手がちょこちょこ狙撃してくるが、俺や迅さんはサイドエフェクトで、佐々木さんは横山から送られてくる位置情報を頼りに難なくかわすことができてる。

 

そこで気配が動く。

 

太刀川さんが迅さんと斬り結ぶ形になり、それを出水、米屋が援護し、佐々木さんとは風間隊全員が競り合う形になった。迅さんはともかく、このままだと佐々木さんが落ちるため、バイパーで援護しようとしたら

 

「っ」

 

目の前を弧月が通り過ぎた。三輪の弧月だ。

 

「ちっ」

 

俺にヘイト向けすぎだろ三輪くんよ。

心配だった佐々木さんの方は迅さんがうまくカバーしながらやってくれてる。

 

「さっさと死ね」

「物騒すぎんだろ…」

 

距離が詰められたため俺は三輪に対して体術のみで向かうことになる。だがさすがにそれだと限度がある。はやいとこ距離取らねーと。

こちらが殺す気でかかればぶっちゃけどうにかなる。だが今回は状況が状況だ。とりあえず死なないようにするしかない。

弧月を持つ手を振り下ろしてきたのでその手をシールドを纏わせた腕で止める。

 

「射手が体術を使いやがって」

「使っちゃダメなんて規則はねーよ」

「減らず口の金の亡者が!」

 

そう言いながら至近距離で鉛弾を三輪は放ってくるが、直感でその手を横に弾いたため、鉛弾はあらぬ方向へ飛んで行った。

その後も何度かこのようなやりとりが続いたが、距離を取ることができない。やっぱ三輪って強いのな。

 

「終いだ」

 

三輪はそう言いつつ俺に弧月を振り下ろしてくる。シールドでは防ぎきれない。避けるのも無理。

こうなることがわかってたから、これを入れてきたんだな。

腰の部分にあるそれを抜きはなち、三輪の弧月を止める。

 

「……弧月、だと?」

「近接メインの人ばっかだからな。シールドよりも役にたつぜ」

 

ここにくる前にトリガーセットを変えておいたのだ。今回の相手は基本近接メインの人ばっかだ。遠距離もいるし、中距離もいるけど主戦力は近接。加えて三輪はオールラウンダーで弧月を使う。そして相手に俺がいれば確実に俺を近接で獲りにくる。だからこその弧月だ。

ただ普通の弧月と違い、長さはせいぜい短剣レベル。まぁそれにも意味があるんだけど。

無論、俺の近接トリガーのレベルは高くない。もともとやってた体術と直感を組み合わせてようやく熊谷と同じかそれ以下レベルだ。できるのはせいぜい防御と捌き、そしてちょっとした返し技だけだ。

でもそれをバイパーと組み合わせると、足止めにはかなり使える。長引いて困るのは向こうだからな。

加えて、三輪の鉛弾はシールドを透過する。なら弧月のようにトリオンが物質化してるものの方で防ぐ方がいい。

 

「………」

「風間さん?」

「……いや、いい」

 

そろそろ風間さんあたりが感づきそうだな。

 

ーーー

 

その後、15分ほどドンパチしていたが、互いに(主に向こうの方が)トリオンを削るだけで決定打を互いに与えられずにいた。

そろそろ潮時だろうな。風間さんは多分もう気づいてる。

 

「どうした迅、やけに消極的だな」

「………」

「この人たちを追い回しても無駄ですよ。どーせ今頃玉狛の連中がネイバーを逃してるんだ」

「……いや、違うな」

 

ああ、やっぱ気づくか。

 

「こいつらの目的は、トリオン切れ(・・・・・・)で俺たちを撤退させることだ」

 

あーあ、バレテーラ。

 

「なるほど、撤退か。その方が本部との摩擦が少なくて済むもんな。今のうちに後始末のことを考える余裕があるとはな」

 

バレたとなると、そろそろプランBに移行することになるか。

 

「風間さん、やっぱりこの人たち無視して玉狛に向かいましょうよ。僕たちの目的は黒トリガー。この人たち追い回してても時間の無駄だ」

「……なるほど、そうだな。玉狛に向かおう」

 

多分、菊地原は迅さんのことを過小評価してるからそういうことを言うんだろうな。風間さんは俺たちの逃げを封じる手だと思ってるんだろうけど。

 

「やれやれ、やっぱこうなるか」

 

すると迅さんの持つブレードから光の帯が現れる。

 

「!」

 

そのブレードで壁に切りつけると、凄まじい速度の光の筋が壁を伝っていった。

そして遠くで1人、ベイルアウトして行くのが見えた。

 

「なっ!」

「横山、誰が飛んだ?」

『多分古寺くん』

「仕方ない、プランBだ」

 

こっからは、思いっきり迎撃していいんだよな。

 

『比企谷、一度下がるぞ。今後の方針を伝えておく』

『了解っす。佐々木さん』

『うん』

 

その返事とともに佐々木さんは弧月を居合斬りの要領で抜き放ち

 

「旋空弧月」

 

生駒旋空(偽)を放った。

それで獲れるとは思ってないが、十二分に鋭い一撃だ。相手は全員距離をとり回避した。

そのタイミングに合わせて俺はフルアタックバイパーの雨を降らせ反撃されることを防ぐ。

それによって生じた隙を利用し俺たちは一度下がった。

 

ーーー

 

「で、こっからどーするんすか?」

「どーもしないさ。迎え撃つだけ。何人か比企谷達が請け負ってくれるだけでだいぶ楽になる。風間さんそっち行ってくれると嬉しいけど、こっち来るだろうな」

 

でしょうね。

 

「まぁ、俺がいる時点で三輪とあと出水もこっち来るでしょうね」

「米屋くんも来るかな」

「多分三輪隊は奈良坂以外全員こっち来るでしょう」

「ならこっちにおびき寄せて迎え撃つ方がいいかもね。仕込み(・・・)もあるし」

「そっすね」

「おれが言うことなくて頼もしいぜ」

「そっちもしっかりやってよ、迅くん」

「わーってるよ」

 

そんなこんなしてるうちに刺客部隊がこちらに来るのが見える。

 

「お、来たな。じゃ、しっかりやれよハイセ、比企谷」

「そっちもね」

 

ーーー

 

「……」

「……」

 

静寂の中、睨み合い(睨んでるのは三輪だけ)が僅かに続く。

その静寂を破ったのは三輪だった。

 

「聞くだけ聞いてやる。比企谷隊、なぜ玉狛についた。迅はネイバーをボーダーに入れてなにを企んでいる。

……いや、こう聞くべきか?今回の報酬はいくらだ?」

 

皮肉のつもりで言ってるんだろうな。悪いが全く響かないけど。

 

「報酬がいくらなのかも、迅さんの企んでることも知らん」

「なに?」

「報酬のことはこのことが片付いてからにした。迅さんがネイバーをボーダーに入れてなにをさせたいのかも知らん」

 

なんでボーダーに入れたいかは知ってるが、それを三輪に話しても聞く耳持たないだろう。

 

「ネイバーをボーダーに入れるなんてよっぽどの理由があんだろ?あの人、基本無意味なことしないし」

「そんな……そんな曖昧な理由でネイバーを庇うのか!ネイバーの排除がボーダーの責務だぞ!!」

「ボーダーの責務はその隊員個人個人によって違う。確かにネイバーの排除はボーダーの責務だけど、それが隊員個人の最優先事項かどうかはまた別さ」

「なんだと…⁈」

「だって、そうでしょう?三輪くんはネイバーの排除が最優先事項なのに対して僕たちは守ることが最優先事項だ。つまり、そういうことだよ」

「っ……」

 

さすが佐々木さん、この手の口喧嘩は強い。

そこで出水がトリオンキューブを出現させ、臨戦態勢に入る。

 

「やるならさっさと始めようぜ。こっちはさっさと片付けて太刀川さんの方に加勢しなきゃなんないからな」

「………」

『佐々木さん、あのフルアタックはブラフです。多分フルガードしてるんで思いっきり弧月でぶった斬ってください』

『僕のトリオンでも出水くんのフルガードは破れないと思うけど?』

『そこに間髪入れずバイパーぶち込めばどうにかなります。どーせ三輪あたりが邪魔してきますけど。あと、当真さんがいるんでそのうちこっち来るかもしれないんで佐々木さんは警戒。横山は周囲の狙撃場所の割り出しを頼む』

『ほいほい、まっかせなさい』

『了解っ!』

「うおっと!いきなりかい!」

 

佐々木さんの放った旋空は出水のシールドにヒビを入れる程度で終わったが、それが開戦の狼煙となった。

ヒビの入ったシールドにすかさずバイパーを打ち込みシールドを割る。これで少しだがトリオンは削れるし、なおかつ態勢が整うまでの数瞬、出水は戦闘に参加してこない。

間髪入れず米屋が前に出てきて槍を突き出す。それを佐々木さんはいなし蹴りを入れ下がらせる。そこに三輪が鉛弾を放ってくるが、左手に出現させたスコーピオンを手首のスナップだけで投げてうまく盾代わりにする。

三輪が振り下ろしてきた弧月を最小限の動きで躱すと、手首を掴み後ろから迫ってきてた米屋に向かって三輪を投げつけた。その間に出水がアステロイドの雨を降らせるが、それは俺のシールドとバイパーで打ち消した。

体勢を立て直した米屋が旋空で攻撃してくるが、俺は直感で佐々木さんの後ろに回避、佐々木さんはその旋空を全て弾いた。

 

「はー、相変わらず防御に関しては神がかってんなぁ」

「……認めるのはシャクだが、『負けない』という意味ではあの部隊はボーダー最強だ」

「なにしろサッサンが防御うますぎんだよなぁ」

 

比企谷隊(うち)は攻撃よりも防御の方に偏ったパラメータになっている。『勝つ』ことよりも『負けない』ことに重きを置いているからだ。無論攻撃ができないわけではないが、佐々木さんが攻撃よりも遥かに防御がうまい。加えてその佐々木さんに体術を仕込まれた俺もそこそこ防御がうまくなった。そしたらこんな風に言われるようになった。ちなみに俺は攻撃の方が得意です。いやだって射手で防御の方がうまいってどうよ?しかも相方が攻撃よりも防御寄りのステータスだぜ?攻撃もできるようにならなきゃA級じゃやってけんわ。

 

「さて、どうしますか」

「うーん、人数の差があるからそこまで無理できないよね。どっちか落ちたらそのまますぐ終わっちゃいそうだ」

「そっすね」

 

まぁ保険あるしどうにかなると思うが。

 

「無駄にこいつらで時間とトリオンを使うわけにはいかない。さっさと始末して任務を続行するぞ」

「はいよ」

「よっしゃ」

 

「さて、俺らもやりますか」

「うん」

 

どのような結果になるにしても、こちらの勝ちはほぼ確定してる。俺らが負けても保険があるし、黒トリガーの迅さんならあのメンツでも負けないだろう。

三輪、初めからお前のやりたいようにはできないんだよ。

 

僅かに三輪を不憫に思いつつ俺は佐々木さんの援護に回った。

 

 




今回のトリガーセット
八幡
・メイン
バイパー
弧月(改)
シールド
??????


・サブ
バイパー
アステロイド
シールド
バッグワーム

琲世
・メイン
弧月(改)
旋空
バッグワーム
シールド

・サブ
スコーピオン
テレポーター(改)
シールド
????

ちゃんと月末にもまた更新します。

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