当然ながら今年最後の更新です。良いお年をお過ごしください。
なお、0話も投稿しております。よければそちらもどうぞ。
52話です。
その後、那須と雑談をした後に連絡が来たため合流した。
ジェットコースター系アトラクションに乗っていたため、雪ノ下と一色はだいぶグロッキーになっていた。雪ノ下は体力ないためまぁそうだろうなという感じはするが、一色は演技にも見えてしまった。葉山に介抱されるためにわざとじゃね?と思ったがどうやら本気らしい。あわよくば葉山に〜とか思ったかもしれんが、姉御体質の三浦に世話焼かれてた。トップカーストのトップだから意外と面倒見もいいのかもしれない。
だが次のアトラクションに乗る頃には雪ノ下は完全に復活していた。
そう、次のアトラクションはパンさんのバンブーファイトだった。
「行きましょう」
そう言って雪ノ下は先陣切ってアトラクションに乗り込んだ。
……うん、まぁ予想はしてたけどね、好きすぎじゃね?
「ほら、玲ちゃんも行こ!」
「うん」
そう言って由比ヶ浜は那須の手を引いて雪ノ下のとこに乗り込んだ。さすが由比ヶ浜のコミュ力。これがリア充の真髄…!
まぁそんなアホなこと考えてると俺と俺をわざわざ待っててくれた奈良坂は取り残されるわけで。
「行くか」
「ああ」
他の葉山一派も既に乗り込んでいる。
残された俺と奈良坂は全く似合わないアトラクションに乗り込むのだった。
ーーー
アトラクションは思ってたよりクオリティが高いものだった。
パンさんが音楽に合わせて飛び回り、なんか色々やってる。
「へぇ、思ってたよりクオリティ高いな」
「そうだな」
我ながらこのアトラクションに似合わないと思うが、まぁそんなもんだろう。
ついでだし、ちょっと聞くこと聞いておくか。
「どーだ、極秘任務」
「……米屋あたりから聞いたか」
「それ以前に三輪が任務申請したとこから知ってたけどな」
「そうか。……まぁ、三輪は怒るだろうが、お前にならいいか」
「そうかい」
「未だに三雲は尻尾を出さん。意外と用意周到なのか、それともなんとなく感づいて隠してるのかはわからんがな」
「へぇ」
……まぁ、多分気づいてはいないのだろうが、迅さんあたりがうまく隠してるのだろうな。
「今日は監視しなくていいのか」
「今日は司令からオフだと直々に言われていた。一応学生だし、働きづめにさせたくないんだろうな。お前らのような例もあるし。まぁ三輪は独断で今日もやってるらしいが」
うへぇ、執念すごいな。
「で、三雲がネイバーと繋がってたらどーすんだ」
「どうもしない。上の判断を仰ぐさ。必要なら……」
「……消すってか」
「ああ」
やれやれ、こんな平和な空間でなに剣呑な話してんだかねぇ。始めたの俺だけど。
「とりあえず俺は邪魔しねーから、そこは安心しろ」
「もとよりするとは思っていない。三輪が絡んでくる以上、お前は無理に関わろうとしないだろう」
「まーな」
いちいち口喧嘩すんのも嫌だし。
「比企谷はどう思う」
「どうとは?」
「三雲はネイバーと繋がってるか?」
…………。
「さぁ」
「…そうか」
俺がやることはないし、言うこともない。
ぶっちゃけた話、三雲はネイバーと繋がりがあるだろう。空閑は多分ネイバーだし。
だがそれは俺がここで言おうが言うまいがいずれ本部にバレる。空閑がどうするかは知らんが三雲みたいな馬鹿正直な奴は隠すのが下手だろうし、監視がついてるなら三雲が空閑と行動してるとこをいつか見られる。それを下手に報告したら俺までネイバーと繋がってると思われかねない。上層部はともかく、三輪が。
その後、俺たちは無言でアトラクションに乗っていた。時々感嘆の声を漏らすくらいはあったけど。
*
バンブーファイトを降りると、他の奴らは全員土産屋にいるとか。
土産屋に入るとそこまで広くないためすぐに合流できた。先に行ってたのもそれも見越してのことかもしれない。
どうせだし、小町への土産もここで買っていこう。
「雪ノ下、小町になにかいい土産ないか?」
「あら、小町さんパンさん好きなの?」
「お前ほどガチではないだろうが、少なくとも嫌いではない」
はず。
「そう……なら、いくつか見繕ってみるわね」
「お、おう」
そう言うと雪ノ下はスタスタ歩いていき、真剣な眼差しで物色を始めた。いや、そんなガチでやらなくていいよ?
……どうしよう、適当に小町パンさん多少好きみたいなこと言っちゃったけど実際どうか知らない。まぁ、小町ならきっと大丈夫。お兄ちゃん信じてるから。
「パンさんってかわいくなくなーい?目つき悪いし〜。それよりあーしおしゃまキャットメリーちゃんのとこみたいんだけど」
おおーっと不吉な言葉が聞こえますねぇ。こんな言葉雪ノ下が聞いたらあーしさん完全論破されて号泣するビジョンしか見えませんよ。
「………」
バッチリ聞いてるじゃないですかやだー。
どーすんのこれ。ビジョン通りになっちゃうの?俺も未来視のサイドエフェクトに目覚めちゃうの?
「そーですかー?これとか超かわいいと思うんですけど〜。ね?葉山先輩」
その言葉に雪ノ下はうんうんと頷くが、一色がかわいいって言ってるのはあくまでかわいいと言っている自分のことで多分パンさんそのものはどうでもいい。
……まぁ雪ノ下の機嫌が良くなったし良しとするか。
と、そこでスマホが振動する。一瞬また緊急呼び出しかと思ったが、鳴ったのは俺の私物の方のスマホであったため呼び出しではないことがわかった。
『佐々木琲世』
おろ、佐々木さんなんの用だろうか。
「はい」
『あ、比企谷くん。今大丈夫?』
「大丈夫っすよ」
『周囲騒がしいけどどこいるの?』
「ディスティニーっす」
『へぇ!この時期に君が行くなんて珍しい』
「まぁ、ちょいと付き合いと取材で」
『例のイベントのことだね。僕はちょっと手伝いに行けるかはわからないなぁその時期だと』
「いや来なくていいっすよ。それよりどうしたんすか?」
『あ、うん。年末のことなんだけど、今年もうちに来る?年越しそばと御節の材料注文するから今の内に聞いておきたいんだ』
「佐々木さんさえよければ、またいきたいっすね」
今年は小町が受験だ。正月にいらん体力を使いたくないし、そもそも佐々木さんの御節うまいから注文したり買ったりするよりもいい。
『わかった。今年は父さんいるけど、小町ちゃん大丈夫?』
「平気でしょ。俺で大丈夫だったんすから。それに有馬さん、なんだかんだいい人だったので。寧ろ久々の親子水入らずみたいな感じなのに俺らが行っていいんすか?」
『例年のことを父さんに話したら今年も呼ぶといいって言われたから大丈夫だよ』
「そっすか。じゃあ今年もお呼ばれになります」
『うん。じゃあまたね。楽しんで』
「うす」
そう言って電話を切った。
やれやれ、あの人の世話焼きになんだかんだかなり世話になってるな。
「比企谷くん、誰と電話してたの?」
知らぬ間に近くに来てた那須がそう聞いてくる。
「佐々木さん。年末、毎年あの人の家で過ごしてるから」
「そうなんだ」
「ああ。あの人の親父さんほとんど家に帰って来ないみたいだし、ほぼ一人暮らし状態だからな。年末だろうと人呼べるんだとさ。かく言う俺と小町も似たようなもんだし」
ほとんどどころかもう二度と帰って来ないけど。
「………そっか」
「ま、そんな感じよ。そっちは年末どーすんだ?」
「私は、家族と過ごすよ」
「そうか」
まぁそういうのは友人同士でやるとこも家族で過ごすとこもあるだろう。
と、そこで雪ノ下がパンさんグッズを色々持ってこちらに来た。……うん、そうなる予感はしてた。でもね雪ノ下さんや、そんなガチでやらんでもええんよ?
「小町さんに、どれがいいかしら」
「……いや、そんなガチでやらんでも」
「いいえ。人に贈るものである以上、中途半端なものはあげられないわ。特に小町さんはパンさんが好きみたいだしね」
「え?そうなの?」
「………あ、ああ」
やっべーどうしようこんなことになるなんてわかってたらあんな適当なこと言わなかったのに。
「ねぇ、雪乃ちゃん。私にも選んでくれる?」
「あら、那須さんもパンさんが好きなのかしら?」
「雪乃ちゃんがそんなに好きだからちょっと興味出て来ちゃった」
「そう、いいことね」
なぜ誇らしげなのだよ雪ノ下。
「おい、あんま下手なこというと後で面倒だぞ」
「大丈夫よ」
そう言って片眼をつぶってこちらに微笑む那須は女神のような笑みでした、まる
……やっぱ那須って美人だよな。俺の弟子なのにこんなふつくしい方が俺の弟子でいいのでしょうか。今更ながら不釣り合い感でて来ちゃったよ俺。もう遅いけど。
「?どうしたの?」
「………いや、なんでも」
「??」
見惚れてましたなんて言えるか。
その後、雪ノ下セレクションの中から適当なものを小町への土産として買ったのだった。
*
夕方
そろそろパレードの席取りやらなんやらで少し道端が混んでくる。パレードそのものはまだ先だが、パレード見たい勢は寒さなど知らんと言わんばかりにパレードが見やすいとこで陣取っている。
ちらと横を見ると、だいぶ疲れているであろう那須が見える。
もともと病弱ゆえにほとんど運動などしない那須だ。体力なんぞ生身では皆無だ。みんなを気遣って気丈に振る舞っていたが、さすがにそろそろ限界だろう。
「大丈夫じゃないな」
「そこは大丈夫かどうか聞くところじゃないの?」
「そう聞いてもお前は絶対大丈夫って言うだろ?大丈夫じゃなかったとしても」
「それは……」
口ごもっていたが、そこそこ長い期間師匠として射手のことを色々教えて来たのだ。体調のことやら強がりやらは大体わかる。
「奈良坂、那須がそろそろ体力限界だ。だから次のはお前らだけで行ってきてくれ」
「ああ、わかった。伝えておこう」
「頼む」
これで俺たちが抜けても問題ないだろう。雪ノ下と由比ヶ浜には少し気を使わせるかもしれんが、明日ぶっ倒れられるよりもマシだろう。
「いくか」
「うん。ありがと」
「ん」
*
近くのベンチに腰掛け、暖かい紅茶を渡す。
「ありがとう」
「ああ」
そういいながら俺はマッカンの缶を開けた。うむ、この甘さ。やはりマッカンは至高。
「今日はみんなに気を使わさせっぱなしだったなぁ。やっぱ来ない方がよかったかも」
「意外だな。そんなこと言うなんて」
「楽しかったのは事実だよ?でも、やっぱ気を使わせるのは、悪い気がするから」
「葉山達はどうか知らんが、雪ノ下と由比ヶ浜はお前がいてよかったと思うぞ」
「そう、かな」
「でなけりゃ由比ヶ浜はともかく雪ノ下があんなにお前に話しかけにいくなんてことはねぇだろ」
今日最も意外だったのが、雪ノ下が割と積極的に那須に話しかけに行っていたことだ。雪ノ下は俺と同じで別に話すことがないなら無理に話にいこうとはしないタイプだ。由比ヶ浜は沈黙に耐えられないタイプだから話しかけに行くが、雪ノ下は違う。
その雪ノ下が積極的に話しかけにいくということは、短いながらも那須に対してそれなりに心を開いているということだ。四月の頃のあいつなら絶対あり得なかっただろうが、この一年で雪ノ下も何か変わったのだろう。
「そっか……それは嬉しいな」
「そうだろ。だからそんな気にすることねーって」
「うん」
しばし沈黙が流れる。
「ねぇ、比企谷くん」
「ん」
「前から聞きたかったけど、どうして私の師匠を引き受けてくれたの?」
「は?」
「失礼を承知で言うけど、比企谷くんってそういうこと得意じゃなさそうなのに、突然弟子入り志願した私をどうして弟子にしてくれたのかなって思ったの。もちろんあの時二宮さんの進言もあったってのもあると思う。でも、その後二宮さんはなにも言わなかったし、断ろうと思えば断れたと思うの」
……なんでか、ね。
「まぁ、那須の言ったように二宮さんの進言があった。ぶっちゃけそれが一番大きい。あの人は人を見る目もある。その二宮さんが弟子にしてやれって言うんだから才能とかも結構ある奴なんだろうなって思ったんだ」
「二宮さんのこと、信頼してるんだね」
「そりゃ、ここまで来れたのも二宮さんのおかげだしな。
……それに、なんか弟子入り志願してきた時の那須が、二宮さんに弟子入り志願した時の俺になんか似てたから、かな」
「似てた?」
「ああ。アポも取らずにいきなり来たろ?俺もそうだったんだよ」
なにしろ突撃して断られた瞬間土下座に切り替えるという暴挙に走ったからな。若いって素晴らしいわ。
「え、あの有名な土下座弟子入りって本当だったの?」
「…………残念ながら全て事実だ」
やだ、俺の黒歴史有名なの?
「……まぁ、当時の俺は昔の自分と重ねたのさ。多分、俺にいきなり仲介役も立てずに来たってことはそれなりに理由があったんだろうなって勝手に予想しただけだ」
実際はフィーリングなのかもしれないが、そこはなんでもいい。
「それに、俺は二宮さんにいきなり突撃して弟子入り受けてくれたのに、いざ俺の時になったらやらないってのもどうかと思ったんだよ」
「そうだったんだね」
渋々受けたことは間違いない。だが、それは那須が嫌というわけではなくうまく教えられる自信がなかったからだ。せっかく教えを乞うてくれたというのに俺がうまく教えられなかったら時間を無駄にしてしまう。そういう考えがあったのだ。
決して那須が美人だったから受けたわけではない。そこ重要。そんなリア充的思考は俺にはない。
「そっか、やっぱり比企谷くんは思った通りの人だね」
「は?」
「素敵な人ってこと」
「……………………」
そんな褒め言葉は言われたことがないためどうリアクションすればいいかわからず俺は手元のコーヒーを流し込むのだった。
わずかに顔が熱くなるのが、わかった。いやだって那須みたいな美人に言われたらコミュ力低い俺なんかこうなるのは仕方ないでしょ?
*
その後、アトラクションから出て来た奴らと合流し、パレードを見た。雪ノ下がかなり真剣に写真撮ってて引いた。
パレードの後は少し移動し、雪ノ下曰くこの後花火があるらしいのでそれが見やすいとこに移動する。
雪ノ下と由比ヶ浜、そして那須の三人がパレードの写真のデータを見ているのを後ろから眺める。
「どうした?」
知らぬ間に隣に来る奈良坂。
「いや、今年も早かったなって」
「そうだな。もうすぐ今年も終わりだ。しかも来年は受験だ」
「今から気が重くなるからやめてくんない?」
「普段からやってるんだからそう気を重くすることもないだろう?」
「いや……センター試験とかマジ受けたくねぇ。数学よりガチでやらなきゃとか死ねる」
「国立は5教科7科目だからな。私立と比べるとなかなか厳しい。しかも国立三門大はレベルもそれなりに高いからな」
夢の国で超現実的な話やめない?この前の佐々木さんの模試の過去問横山と解かされたけどその時横山に15点も差をつけられて凹んでるんだから。
「数学は偏差値どれくらいなんだ?」
「平均50。悪いと余裕でそれを下回って良くても60には全く届かん」
「国語は学年トップなのにな」
「お前や雪ノ下がいなけりゃ一位だっての」
「数学はセンターまでだと思えばどうにかなるだろう」
「そう願うよ」
そこでふと人数が足りないことに気づく。
葉山と一色がいない。
「あれー隼人はー?」
「あー優実子、こっちこっち」
「え?ちょ、なによ戸部」
……一色のやつ、まーた戸部に無茶振りしたな。どうでもいいけど。
……ここは人が多すぎて気配がよくわからん。ワンピースの見聞色の覇気ほど便利じゃないからな、俺のサイドエフェクト。
と、そこで周囲が突如暗くなる。
「始まるわ」
雪ノ下がそう言いうと、花火が上がった。
周囲からは歓声が上がり、那須、雪ノ下、由比ヶ浜の三人も同様だ。
奈良坂は相変わらず表情が変わらないが、わずかに「おお」と言ってるあたり興味がないわけではなさそうだ。
そこでふと花火から目を逸らし人混みに目を向けたのが運の尽きだった。
シルエットしか見えないが、視界に入ったのは間違いなく一色と葉山だ。
一色の影が葉山にわずかに近づき、何かをいう。
葉山はそれに少し間を空けて返す。
一色はその言葉を聞くと、俯き、そして去って行き、俺たちの横を通り過ぎた。
葉山は少しの間花火を見上げていたが、その後人混みに消えていった。
「ちょ、いろはす?」
「一色さん?」
花火を見ててなにがあったのかわからない雪ノ下達はこちらに視線を向ける。
「……一色のとこに行ってやれ」
「…貴方は?」
「俺は、もう片っぽの方行くから」
「……そう、わかったわ。行きましょう、由比ヶ浜さん、那須さん」
「う、うん」
「奈良坂」
「わかってる。下手に首突っ込んだりしない」
「悪いな」
「いいよ。さ、行け」
「へいよ」
やっぱ、俺はこういう役割なのかねぇ。
*
人があまりいない暗がりにあるベンチのとこに葉山はいた。
こいつがどこに向かったかはわからなかったが、去った方向と気配感知全開にすれば見つけるのにそう苦労はしない。いや、そもそも全力の気配感知自体なかなかキツイんだけど。
「そういう暗がりはお前には似合わないんじゃねーの」
「………ああ、君か」
「なんだ、戸部の方がよかったか?」
「いや、君以外今の俺のとこに来る人はいないだろう」
なにが言いたいんだこいつ。
「……いろはには、悪いことをしたな」
「罪悪感持つくらいなら振るなよな」
「無理だよ。わかってるくせにそういうこと言うのは、性格悪いな」
「まぁな」
「褒めてないぞ」
「知ってる」
お前が俺を
「……いろはの気持ちは素直に嬉しい。でも、きっとそれは…多分、俺じゃなくて…」
「………」
「君はすごいな。そうやって周りの人間を変えていく」
「人間誰しも変わる。不変なんてことはねぇよ。お世辞ならもうちょいマシなことを言え。前にもいったろ」
「……ああ、そうだな。前にも言ったな。俺は君が思ってるほどいい奴じゃない」
「俺が今までお前をいい奴だと一度でも言ったか?」
「そうだな、君はいつも本質を見ることができるからな」
「見れるんじゃない。見ようと努力してるだけだ」
そんないつも本質が見れたら、イレギュラーゲートの本質だってすぐに見つけられたろうに。
「……先に帰るよ。みんなには言っておいてくれ」
「自分でメールなりして言え」
「…はは。そうだね」
それだけ言って葉山は人混みに消えてすぐに見えなくなった。
「……本当に不憫な奴だな、お前」
俺のつぶやきは誰も聞いていない。
*
その後、何事もなく各自帰路に着いた。
奈良坂と那須は那須の親御さんの車で帰った。そのため今は俺と雪ノ下と由比ヶ浜、そして一色だけだ。
「……俺ら次の駅だけど、一色はどこだ」
「……」
無言で一色は疲れたように俺に荷物を押し付けてきた。そして素直に受け取る俺マジ紳士。
「先輩、荷物超重いです」
「買いすぎだアホ」
「うん、その方がいいかもね」
「じゃあ比企谷くん、一色さんをよろしくね。一色さん、なにかされそうになったらすぐ連絡なさい。社会的に彼を殺しにいくから」
「おいこら」
「冗談よ。じゃあまた」
「またね!」
「ああ」
「はい」
ーーー
電車を乗り継ぎモノレールに乗り換える。
時間が時間なため、人はいない。俺と一色だけだ。
「はぁ〜、ダメでしたね」
「ダメ元だったみたいな言い方だな。こうなることを予想してたなら行動に移さなくてもよかったんじゃねぇの」
「だって仕方ないじゃないですか。盛り上がっちゃったんですし」
「知らんわ。まぁ、お前は悪くねぇんじゃないのか」
「え⁈傷心に漬け込んで口説いてます?ごめんなさいちょっと無理です」
「アホか。一生言ってろ」
「ていうかまだ終わってませんし!この!この敗北は……敗北は、布石ですから……まだ、まだ終わってません…」
徐々に後ろの方の声に嗚咽が混ざってきて言葉が途切れ途切れになっている。
「頑張るのはいいが、たまには力抜けよ」
「ひっ、く……うぅ……は、はいぃ…」
ボロボロ泣く一色に俺はそれだけ言って口を閉じた。
*
「はぁ〜すっかり遅くなっちまった」
そう言って俺は夜の市街地を歩く。
既に時間は10時半を回っている。小町もとっくに家に帰り多分風呂にでも入っているだろう。
「さっさと帰んなきゃな」
バチ
わずかにそんな音が聞こえた気がした。
後ろを振り返ると
黒い『影』のようなものが目の前に迫っていた。
「っ!」
咄嗟に身を翻しその影をかわす。すると影は猛スピードで俺の横を通り過ぎた。
体勢を立て直しながらポケットからトリガーを取り出し起動する。
「あれ、今のかわすかぁ。やぁーっぱり君いると良くなさそうだなぁ」
そう『影』は言った。声は機械を通したようにノイズが混ざりまくってるためどんな声なのかはよくわからない。
「……ネイバー、か」
「ご名答!」
「……空閑か?」
「クガ?誰それ」
……しらばっくれてるわけじゃなさそうだな。
「まぁいいや。さぁ〜てと!」
すると『影』は身体から触手のようなものを出した。
あれは、やばい。
「死ぬ準備はいいですかぁ?」
猛スピードで顔に迫る触手を直感で避ける。さっきより明らかに速度が速くなっているが、考えるより身体が先に動いた。
「うわぁ今のもかわす?うーんこれはちょーっと厳しいなぁ…ってはい?え?もうバレちゃったの?……はい……はーい、わかりましたぁ」
内部通信か?多分仲間からの通信だろう。この隙にやるか?いや、多分意味がない。そう直感が言ってくる。
「あーあ、まぁ仕方ないか。じゃあ
それだけ言うと影は暗闇に溶けるようにして消えた。
「っはぁ……」
いなくなったことを確認するとトリガーを解除した。
追うことも考えたが、レーダーステルス状態になってる恐らく格上の相手を追うのはなかなかリスキーだし、そもそも追えない。
緊張感を解くと、頬に液体の感触がある。どうやら最初に攻撃をかわした時に掠ったらしい。
「……本部長にとりあえず電話で報告しておくか」
まずは家に帰る。それが大事だ。
冷や汗が一気に冷えて背筋を寒くさせた。その寒気が今後起こりうることを予期しているかのように。
不穏な空気で終わってしまい申し訳ない。
ちなみに『影』は黒いなにかが人の形をしているみたいなのを想像してください。
来年も遅い更新でしょうけどよろしくお願い申し上げます。
それでは皆様、よいお年をお過ごしください。