目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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全体ではとうとう50話ですね。一年以上経って50話か……遅いな。



49話です。


49話 不測の事態は、予測できない時に来るから『不測』という。

三輪に追い返されて自宅に戻り、飯を作る。今日は肉が安かったため肉野菜炒めにしよう。

 

野菜を炒めつつ今日のあのトリオン兵の有様を思い返す。バムスターはモールモッドやバドに比べて装甲は厚くかなり硬い。あの装甲をぶち破るには二宮さんや俺レベルのトリオンで威力高めのアステロイドやトマホークをぶっ放すしかないだろう。太刀川さんならバムスターの装甲も真っ二つにできるだろうが、あの有様はブレードでやったものではない。弾丸か打撃のどちらかだろうが、俺の勘だと打撃だ。なんだ?もしかしてハンマー使いか?頭殴ってスタンでも狙うのか?いやそれモンハンだな。今度出水とかと一狩りしてこよう。

 

あれをやったのがもしネイバーなら、最低一人ネイバーがこの街に潜伏してるってことになる。

 

三輪が恐らく血眼になって探すだろうが、俺はそのネイバーが敵になるとは思えない。なぜなら、あの場であの中学生チンピラどもを助けているからだ。

あの場で中学生チンピラを見捨てていたら恐らく奴の存在に俺たちは感づきもしなかった。だがネイバーはそれをしなかった。ならば、最低限話ができる奴だと俺は思う。

 

………それに、あの中学生チンピラの制服。どっかで見た気がする。随分着崩しているから誰が着ていたかはイマイチよくわからん。

 

これは完全に思いつきだが、もしかしたらネイバーはあの中学生チンピラの中学校になにか関わりがあるのかもしれない。

 

「よし、できた」

 

そんなことを考えながら俺は肉野菜炒めを完成させた。

 

 

 

そしてその夜、あのバムスターをバラしたのはボーダーのトリガーではないことが発覚した。

 

 

翌日

 

雨が降る中、俺は一人でコミュニティセンターに向かっていた。由比ヶ浜はなんかやることがあるらしく雪ノ下もそれに付き合っているようだ。あれ?俺ハブ?いつものことか。でもなんか涙出そう。出ないけど。

昼休みの一件もあり、なんとなく足取りが重い。

 

「あれ、比企谷?」

 

コミュニティセンターの前に来たところで折本と遭遇する。

 

「よお」

「よっす。なに?今日は一人?」

「大体いつも一人だ」

「なにそれウケる」

 

なにがウケるんだよ。

 

「他の二人は?」

「あとから来る」

「そっか。てか比企谷、毎日来てるけどボーダーの方いいの?」

 

なんだ、こいつが俺に気を使うなんて珍しい。

 

「今は仕事ないからな」

 

こいつにまで休暇のことまでいう必要はないだろうから適当なことをいって誤魔化す。いや実際仕事はないから嘘ではない。

 

「……そーいやさ、前から気になってたんだけど、比企谷ってなんでボーダー入ったの?」

「なんだ突然」

「いや、なんか突然気になったから」

「なんだそりゃ……んな大した理由じゃねーよ」

「じゃあどんな理由」

 

…………。

 

「別に、ただ金が要る。それだけだ」

「……ふーん」

 

なにかを察したのか、折本はこれ以上追求してこなかった。

 

ーーー

 

会議室でパソコンを叩く。なんか、ボーダー休みなのに仕事してるって俺永久に仕事から逃げられないように仕向けられてるんじゃないのかって思うわここ最近。

 

「八幡くん」

 

そんな仕事に対する憎悪を押し殺し隣の綾辻に目を向ける。

 

「どした」

「予算が、その、何回計算しても全く足りないの」

「……まぁ、足りるわけないよな」

 

現状やろうとしてることがバンド、ジャズ、クラシック、聖歌隊、パイプオルガンの発注演奏だ。そこらへんは大体この時期忙しくしてるから早めに予約入れないとやることはできない。そろそろ予約しなければできなくなるであろう時期なのだが、予算が無いから予約することもできない。

 

「となると、やる内容を削るかカンパしかないよね」

「カンパとかぜってー嫌なんだけど」

 

ただでさえ余裕のない家計なんだ。こんなクソみたいなことに削られてたまるか。

 

「次の会議で決を採るしかないよね」

「そーだな」

 

と、そこで一色が来る。

 

「先輩、そろそろ飾り作り終えちゃいそうなんですが、どうします?」

「……ツリーの組み立てと飾り付けは?そろそろ時期もいいころだし、少し早めに置くことができないか交渉してみたらどうだ」

「そうですね、そうします」

 

そういって一色は小学生の方に戻っていった。

 

「…………」

 

時間稼ぎはとりあえずこれでいい。

だが問題は一向に解決しない。

まずこのイベントの前に総武高校の生徒会がバラバラなこと。これは先ほどのやり取りでもわかる。一色が綾辻ではなく俺に意見を求めるあたりからそもそも間違っている。恐らくまだ互いに遠慮があるのだろうが、そんなことも言ってられない。そのことは以前綾辻が危惧していた。

次いでこのイベント。立場上、俺らはあまり口出しできないし、そもそも玉縄が話を聞かない。いや、正確には聞くんだが、『否定』に対しては一切聞かない。案を却下する、という会議の基本に対してやたら否定的なのだ。

 

さすがに玉縄相手にちゃんと言わないと無理だ。このイベントは成り立たない。いや、成り立つには成り立つが、ものすごくしょぼいイベントになる。

 

今ここでできる行動を取るべく、俺は一枚のプリントを持って玉縄の元へ向かった。

 

ーーー

 

「なぁ」

「ん?」

 

声をかけると玉縄は爽やかスマイル(擬き)を向けて出迎えた。

 

「たくさんあった案、こっちでできそうなのとできなさそうなのを分けてみた。まぁ大半は予算の都合上できないんだが」

 

さぁ、どうでる。

 

「おお、ありがとう。これで問題点はハッキリしたね。じゃあみんなで考えよう」

 

デスヨネー!

 

「いや、それはダメだ。時間がない。みんなで決めるってことに固執した結果まだやることすら決まってない現状だ。これ以上なにをやるかだけで会議をしてたら作業時間がなくなる」

「うんうん、でも、バンドとかは外注できるところ結構あるし、組み合わせ次第で僕らなりのイベントができると思うんだ。だからまず、みんなで検討しよう」

 

………………。

 

「お前それ、本気で言ってる?」

「ん?もちろん」

「聖歌隊やジャズとかはクリスマスの時期はかなり忙しい。どんなに遅くとも1週間前には予約を入れないと来てくれない。お前のやり方で会議してたら今日もやる内容が完全に決まらずに終わる。その時点でそこらへんはタイムリミットだ。そもそも、そこらへんは呼ぶのにかなりの予算を使う。どう足掻いてもやれる内容は削るしかないんだが?」

「そうだね。確かに予算の問題は重大だ。だからこそみんなで考えて解決すべきなんじゃないかな?」

 

思わずアステロイドをぶっ放そうとしてしまうほどイラっときたが、そもそもトリオン体じゃなかった。仮にトリオン体でもぶっ放すことはしなかっただろうが、それでもイラっときたのは確かだ。

考える考える言ってるが、漠然と考えても一生決まらない。そうやってみんなで考える方向性のままでいくとどう考えても問題が山積みになっていくだけでその問題を解決するには至らないのだ。

 

だがそれを玉縄は理解していない。いや、理解しているのか?そういえばその線を考えていなかったな。今までは理解していないと決めつけていたが、もし玉縄がそれを無意識にでも理解していたら?

………ここで考えても無駄だな。

 

「……なら次の会議でやる内容を完全に決めてくれ。でないと作業時間的に不可能だ」

「もちろん」

 

そう言って玉縄は自分の作業に戻った。

こいつ本当にわかってんだろうな………。

 

深くため息をついて元の席に戻った。

 

「どう………って、聞くまでもないか」

「ああ……ダメだった。だが次の会議でさすがに内容は決まるだろう。逆に決まらなかったらこのイベントは方向性を考え直す必要があるな」

「だね…」

 

そして俺がやるべき作業もなくなりどうすることもできなくなった。ここは上司に仕事をもらうしかない。やだ、なにこの社畜思考。

 

「なんかやることあるか?」

「うーん、事務作業はこっちで全部できるし……あ、小学生の飾り作りの手伝いとかは?ほら、あそこで歌歩ちゃんの妹さんとかがやってるし」

 

そういって綾辻が指差した方には、三上妹と鶴見留美がいた。

 

「そだな。あいつら二人だけで大変そうだし」

 

一応言っとくが、俺はシスコンではあるがロリコンではない。

 

ーーー

 

「よぉ、飾り作ってんのか」

「あ、比企谷さんだ」

「なんでいんの?」

 

おおうなんだこの対応の差。三上妹は割と普通なのになんで鶴見はこんなドライな対応なの?

 

「で、なに?」

「手伝うぞ」

「他にやることないの?」

「ないんだなぁこれが」

「比企谷さん暇人なの?」

「残念ながら暇人だ」

 

なんなら年中暇人になっていたいまである。いや、それだとさすがにつまんねーな。

そんな無駄思考を働かせながら飾り付けの材料に手を伸ばす。

 

「いい。私たちだけでできる」

「そーかい。でもな、俺の方がもっとできる」

「ほんと?」

「おお」

「じゃ、一緒にやろ!その方が早く終わるし!留美ちゃんもいいでしょ?」

「…いいんじゃない?」

 

なんだ、この子ただ素直じゃないだけか。ま、それはそれで可愛げがあるしいいか。

飾り付けの製作に入る。昔からこの手の工作は比較的得意だったため割とサクサク作っていくと、関心したように二人がこちらを見てくる。

 

「なんだよ」

「いや、ほんとにうまいなーって」

「ね。実はちょっと見栄張ってたのかなーとも思ってた」

 

なんでだよ。

 

「小学生の前だし、ちょっと見栄張っててもおかしくないかなーって」

「アホか」

 

軽くツッコミつつ、飾りを黙々と作り上げていく。

 

ちらと横の二人を見ると二人で談笑しながら楽しげに飾りを作り上げていく様が見て取れた。どうやらあの一件から二人の仲は良好らしい。鶴見単体だとまだ他の集団と少し距離を図りかねてるようだが、三上妹とその仲間たちとは仲良くやっていると三上から聞いている。

 

もうこのことは心配なさそうだな。

 

 

飾りを作り終えるとちょうど終了の時刻となった。

 

小学生二人と別れ、いつの間にか来てた雪ノ下と由比ヶ浜の話を聞く。どうやら二人は平塚先生に予算の追加を相談しに行っていたらしいが、やる内容もまだロクに決まっていないこの現状では予算の追加もしようがないらしく保留という形になったとか。

 

「まぁ、それについてはしょうがねぇよな。やる内容決まってなけりゃどれくらい追加すりゃいいのかもわからんだろうしよ」

「そうね。まずは内容を固めなければならないのだけれど、どう?」

「玉縄に言いに行ったんだが、ダメだった」

「あーやっぱり……」

 

多分、解決する方法は一つしかないのだろう。

 

「……まずは一色さんをどうにかすべきよね」

「そうだな。向こうと一番太いパイプがあんのは一色だ。つっても、ほぼ言うこと聞いてるだけなんだが」

「でもやっぱり、向こうのことより自分たちのことが先だよね!」

「そうだな。でも綾辻だけじゃちょいと厳しそうだから俺らがある程度やんなきゃダメだろうな」

 

ここ数日、綾辻は一色にできるだけ関わろうとしているのだが、仕事の都合上どうしても接触できる時間が少なくなってしまう。互いにやることがあるから仕方ないだろうが、ここまで来たらそんなこと言ってられない。

 

「明日あたり、早めに生徒会全員を生徒会室に集めるか」

「そうね。そうしましょう」

「そういえばヒッキー」

「ん?」

「昼休み、急に出て行ったけどアレどうしたの?」

「…………」

 

***

 

昼休み

 

俺はベストプレイスで戸塚と二人で飯を食っていた。戸塚と、二人で。ここ重要。

ここ最近、テニス部は戸塚のやる気に乗せられる形ではあるが、昼休みにも練習をしているらしい。部長の戸塚が提案したら思いの外すんなり部員は受け入れたとか。

そんな二人の時間を満喫していると、突然ボーダーの黒いスマホが振動した。

 

「どうしたの?」

「緊急呼び出し……!」

 

ここ最近使われてなかった機能だから軽くビビってしまったが、即座に対応する。

 

「はい」

『比企谷か』

「本部長。どうしたんすか?」

『警戒区域外に、ゲートが出現した』

「はぁ⁈」

 

今までそんなこと一度もなかった。鬼怒田さんの開発したゲート誘導装置だかなんだかで警戒区域外にゲートは一度も出てこなかった。なのに警戒区域外にゲート?どーなってんだ。

 

『場所は三門市立第1中学校だ。これよりオペレーターは真戸に変わる。即座に現場に向かってくれ』

「はい」

 

通話を切ると傍にいた戸塚に目を向ける。

 

「戸塚、緊急事態が起きた。これから俺は現場に向かう。授業は多分6コマ目は出れるけど5コマ目は多分無理だ。先生に聞かれたらそう言ってくれ」

「わ、わかった!気をつけてね八幡!」

「ああ」

 

走り出しながらトリガーを取り出し、起動する。

するとすぐに無線が入って来たため、無線機のスイッチをオンにして対応する。

 

『比企谷、聞こえるか?』

「どーもアキラさん。早速ナビゲートしてくれます?」

『そのまま北西に向かえ。それだけだ』

「どーも!」

 

真戸暁。開発室のNo.2で佐々木さんをこき使う人のNo.2でもある。バイパーを開発したのはこの人らしい。つまりある意味恩師とも言える。

 

「他の部隊はなにしてんすか?」

『防衛任務中の部隊はこれから向かう三門市立第1中学校とはかなり遠くてな。なにしろ警戒区域内だ。場所的に一番近かったのが君とハイセだというだけだ。嵐山隊も向かっているが、恐らく間に合わん』

 

佐々木さんも来てんのか。

 

『まったく、休暇中とは思えんな。疫病神でもついてるんじゃないか?』

「変なこと言うのやめてくれます?」

『冗談だ。真戸ジョーク』

 

そんなこと言いつつも足は止めずに走り続ける。

 

「比企谷くん」

「お、佐々木さん」

 

そこで佐々木さんと合流する。どうやら総武高校付近の行きつけの喫茶店でまったりしてたところを呼び出されたとか。

 

『事態は一刻を争う。ハイセ、先行して敵の動きを止めつつ一般人の保護を最優先にしろ』

「了解。比企谷くん、サポートよろしく」

「はいよ」

 

そう言ってスピードを上げる佐々木さんの足元にグラスホッパーを出現させる。何枚も続けて出現させて、佐々木さんの加速を手助け。

そして最後に佐々木さんはその勢いのままテレポーターで瞬間移動。中学校の敷地に入った。

 

敵の位置をサイドエフェクトとアキラさんのトリオン反応位置探査で把握。バイパーを放った。これで動きは止めたはず。

 

「旋空弧月」

 

飛び上がった佐々木さんがトリオン兵のみをぶった切るのが見えた。

 

ーーー

 

現場に到着すると、佐々木さんが現場検証を行っている最中だった。

 

「佐々木さん、状況は?」

「僕が倒したモールモッドの他に、もう一体三階にモールモッドがいたらしいんだけど、アキラさんの話だともう倒されてる(・・・・・・・)らしいんだ」

 

もう倒されてる?おかしい。ここにきた部隊はうちが一番のはずだ。それなのになぜもう倒されてる。

 

「………佐々木さん」

「……後で言うよ。今はやることがある。比企谷くん、念のため三階見てきてくれる?僕は先生方に生徒の安否を聞いてくるよ」

「了解」

 

グラスホッパーと壁キックを利用して三階まで一気に上がる。するとそこには見知った顔とまったく知らない顔があった。

 

「三雲……?」

「あ、比企谷先輩」

「む?オサム、知り合いか?」

「あ、ああ」

 

なんで三雲がここに……こいつはC級。本部以外でのトリガーの使用は禁止されてる。いや、そもそもこいつの実力でモールモッドは殺せないだろう。

 

アレ(・・)やったのはお前か?」

 

真っ二つになったモールモッドを指差しつつ三雲に聞く。

 

「……は、はい」

 

嘘だ。

 

そう答える三雲相手にまず真っ先に俺はそう思った。サイドエフェクトがそう言っているってのもあるが、なによりこいつの実力じゃモールモッドを殺すことなんぞできるはずがない。火事場スキルでも発動したか?いやアレ攻撃力上げるだけだった。

だがここでそれを追求しても意味がないな。

 

「……そうか。まぁとりあえず下に降りて先生方に無事を知らせろ。そこの一般人(・・・)もな」

「はいよ」

「…………」

 

あの白髪のちっこいやつ、あいつはなんだ?なんか、違う。そう違うのだ。なにが違うのかはわからない。だが普通の一般人ではない。それは確かだ。

 

まさか……?

 

いや、ここで考えるのはやめよう。どうせ今考えてもわからない。

 

ーーー

 

外に出ると嵐山隊が現着していた。

 

「おお、比企谷」

「うす」

「ハイセから状況は聞いた。一体はハイセが倒して、もう一体は別の人が倒したんだってな」

「ええ。もう出て来ますよ」

 

そういって校舎の入り口の方に目を向けると三雲と白髪が出てきた。

 

「……彼が?」

「ええ、そう言ってますよ」

「そうか!」

 

それだけ言うと嵐山さんは三雲の方に向かった。

 

「君がネイバーを倒してくれたのか?」

「……はい。C級隊員の三雲修です。他の隊員を待っていたら間に合わないと思ったので、自分の判断でやりました」

「C級……⁈」

 

……なるほど、こいつはとんだペテン師だな。思ってたより堂々と嘘をつける。ある意味才能だ。

さて、嵐山さんはどう判断するか。本来なら厳罰処分だが……。

 

「そうか!よくやってくれた!」

 

だよな。

 

「え?」

「君がいなかったら犠牲者が出てたかもしれない!うちの弟と妹もこの学校の生徒なんだ!」

 

そういうと嵐山さんは弟妹の方へ走り出しブラコンシスコンぶりを発揮していた。

俺が小町にアレやったらしばらく口聞いてくれなくなるなと思いつつ、佐々木さんが上から運んできたモールモッドに目を向ける。

モールモッドのブレードは比較的柔らかい関節付近を的確に切り裂きボディは装甲の繋ぎ目を的確に突いて真っ二つにしている。これほどの芸当は多分攻撃手の中でもできる人間は限られてくる。俺は射手だから詳しいことは言えないが、最低でも熊谷レベルはいるだろう。

 

「いやしかしすごいな!ネイバーの装甲の弱い部分を的確に突いている!こんなこと正隊員でもなかなかできないぞ!」

 

加えてそれがC級の訓練用トリガーだ。出力も下がってるハズなんだがな。

 

「木虎、お前ならできるか?」

 

そういうと木虎はスコーピオンで佐々木さんがぶった切ったモールモッドを一瞬でバラバラにした。さすがだな。

 

「できますけど、私は訓練用トリガーで戦うほどバカではありません。そもそもC級隊員が訓練以外でトリガーを使用することは規約違反です。違反者を褒めるようなことはしないでください、嵐山先輩」

 

なーんでこいつこんなに機嫌悪いんだ?俺がいたから?そうだったら泣くぞ俺。ライバル視はされてるけど嫌われてはいないが俺の勝手な印象だったから。あれ、そうだよね?間違ってないよね?

 

「そうだが、結果的に市民の命を救ったわけだし……」

「確かに、市民の命を救ったことは評価に値します。ですがこれを許せば他の実力のないC級隊員が同じようにヒーロー気取りで戦闘に出れば返り討ちにあい、二次災害を引き起こすことは火を見るよりも明らかです」

 

あー、これ三雲が褒められたのが気にくわないだけだ。

 

「ルールに則って彼は厳罰処分されるべきです」

 

確かにルール通りなら三雲は厳罰処分だろう。多分、除隊させられる可能性が高い。だがそれを決めるのは俺らじゃないぞ、うん。言っても聞かないだろうけどさ。

 

「お前、遅れてきたのになんでそんなに偉そうなの?」

 

そこで木虎に突っかかってきたのは先ほどの白髪だった。しかしこいつちっこいな。140くらいしかなくね?

 

「貴方は?」

「オサムに助けられた人間だよ。日本だと、誰かを助けるのにも許可がいるのか?」

「別にそんなことはないわ。トリガーを使わなければね。トリガーはボーダーの物なのだから、トリガーを使用するのにボーダーの許可がいるのは当然でしょう?」

 

「なに言ってんだ?トリガーはもともとネイバーのもんだろ?」

 

ご尤も。トリガーはもともとネイバーの技術を利用して造られたものだ。ネイバーのもの、という白髪の意見は至極当然だな。

しかしこの白髪、やけに肝据わってるな。

 

「それともなんだ?お前らはトリガー使うのにいちいちネイバーに許可取ってんのか?」

「あ、貴方ボーダーの活動を否定する気⁈」

「というかお前、オサムが褒められてるのが気にくわないだけだろ」

「な……!わ、私はボーダーの活動を…」

「ふーん。お前、つまんない嘘つくね」

 

なーんでこいつら喧嘩してんの?普段なら仲裁に入る時枝が佐々木さんと一緒に現場検証してていないし、嵐山さんもなぜか仲裁に入らない。

ここは、一番最初についた部隊として俺が行くか。非常に目立ちたくないんだが、この際仕方ない。これ以上喧嘩されても困るし。

 

「木虎、やめろ」

「比企谷先輩!でも!」

「でももへったくれもねーよ。現に俺らは間に合ってない。そもそも三雲の処分を決めるのはお前なのか?」

「………!」

 

そういうと木虎は黙り込みわずかに俺を睨みつけた。いや、行き場のない怒りを俺にぶつけようとしないでくれる?

 

「三雲」

「は、はい」

「俺らが到着するまでの間、市民の命を守ってくれたことを礼を言う。そして間に合わなくてすまなかった」

「い、いえ!そんな……」

「お前は多分わかっててルールを破ったんだろう。そうせざるを得ない状況にしたこちらの落ち度だ。そこは素直に非を認める。すまなかった」

「………!」

「だが実際ルールを破った。上に処分を軽くするように進言はするがどうなるかはわからん。それを最後に決めんのは俺らじゃないからな。ま、とにかく助かった。ありがとう」

「は、はい」

「だが今後はこういうことは控えろ。でないと、守れるもんも守れねーぞ。ちゃんと正規のルールに従いたかったら、さっさと力つけろ。本当の非常時だったら仕方ないけどな」

 

人命には変えられんと、ため息をつきつつ俺はそう呟き頭をガシガシとかく。

 

「……はい」

 

少し言いすぎたかもしれんが、これは必要なことだ。木虎の言ったように下手にヒーロー気取られても犠牲者が増えるだけ、というのも事実だ。

そこで俺は視線だけを白髪に向ける。なんか「話がわかる人もいるのですな」とか言ってるが、そこは無視。こいつにはこいつで言うことがある。

 

昨日(・・)のことだが、アレ、助かったよ」

「………!へぇ……」

「昨日?」

「いや、なんでも。お前、名前は?」

「空閑遊真」

「空閑か。じゃあな、三雲が世話になった」

「いえいえ」

 

これで確信した。確たる証拠はないが、多分間違いない。

ちょうど現場検証も終わったみたいだし、俺らはさっさと引き上げるとしよう。

 

「じゃあ嵐山さん、あとよろしくお願いしますね」

「ああ!」

「ちょっと、比企谷先輩も手伝ってくださいよ」

「俺らは本来休暇期間だぜ?来てやっただけありがたいと思えよ」

「じゃあまたね、みんな」

「ええ、お疲れ様でした。佐々木さん、比企谷先輩」

 

そういって俺らは三門第一中学校から去った。

最後に空閑の顔をチラ見すると、空閑も俺を見ていた。

 

「比企谷くん」

「……ええ、多分間違いないです」

 

佐々木さんの話によると、登ってきたモールモッドをぶった斬り地面に着地するまでの間で確かに空閑が武器を持っているところを見たらしい。向こうも多分それに気づいているがこちらがなにも言わないからそれに合わせたのだろう。そしてそのことに三雲は気づいていない。

そして空閑の制服を見てわかったが、昨日のチンピラ共と同じ制服だった。そこに三雲もいたと仮定し、三雲があのチンピラを助けようとしたけど返り討ちにあったから空閑がトリガーでバムスターをバラしたとしたら辻褄があう。

それにさっきのカマをかけて時、空閑は否定しなかった。多分もうバレてることに気づいているのだろう。

ここまでくればもう自明だろう。決定的な証拠はないから断言は出来ないし予測の域は出ないが。

 

 

空閑遊真は、近界民(ネイバー)だ。

 

 

***

 

 

「ヒッキー?」

「ああ、いや……ちょいとイレギュラーな事態が起きてな。まぁとりあえずは大丈夫だ」

「そっか……あんま危ないことしないでね?」

「いや仕事だから…」

「貴方からそんな言葉が出るとはね」

「おいこら」

 

おかしいな、今は休暇中のはずなのになんでこんな仕事してんだ俺は。真戸さんの言うようにやはり疫病神でも憑いてるのか?今度お祓い行こう。

 

「あれ、綾辻は?」

 

そろそろ帰ろうと思ったとこで周囲を見渡したのだが、綾辻の姿がない。普段ならいっしょに帰るのだが。

 

「綾辻さんなら先に帰ったわよ。本部に用事があるらしいわ」

「ほー」

 

昼休みのことで事後処理でもあるのだろうな。うち、今休暇中だし。

 

「ならいいや。さっさと帰ろうぜ。というかもう家から出たくない」

「それでよくボーダーが務まるわね」

「ほーんと」

「ほっとけ」

 

そう言って歩き出したのだが、どうも嫌な予感が昼休みの一件から消えない。しかもその嫌な予感が今になって強くなってきている。今日中になにかあるのか?いや、もう今日もほとんど終わりだ。俺のサイドエフェクトは迅さんみたいに映像が見えるわけでもないしそもそも的中率も100%じゃない。いやフラグだなこれ。

 

と、そんな俺の内心の冷や汗を嘲笑うがごとく

 

「………マジかよ」

 

血のような色の夕焼け空に真っ黒な空間が遠くで広がるのが見え、そこから忌々しい真っ白な巨体が出てくるのが見えた。

 

「え、あれって……」

「ネイバー、よね?」

「ひ、ヒッキー」

「……お前らはすぐに避難しろ。そこのコミュニティセンターなら多分シェルターなりなんなりあるだろ。親御さんへの連絡も忘れんな」

 

勤めて平静を装った声を出したつもりだが、多分所々震えていたと思う。

 

先ほどの雪ノ下の話によると、綾辻は本部に向かった。ならば本部に通じる連絡通路を使うはずだ。

このコミュニティセンターから一番近い連絡通路を使うなら、どっかで寄り道をしない限りあのネイバーが現れた付近を必ず通るだろう。

ここを出た時間が俺らと大して変わらない時間ならば、今綾辻がいる場所があの付近である。

 

「…………」

 

歯が僅かに震える。パニックに陥ってはいないが、思考がまとまらない。

 

「っ………!」

 

振り返ると、二人が不安げな表情でこちらを見ていた。警戒区域の外でネイバーが現れるなんてことは、あの最初の侵攻以来ない。

 

「比企谷くん…」

「ヒッキー…」

「大丈夫だ……危ないから、あの辺りには近づくな。さっさと、できるだけ遠くに避難、しろ。あと、荷物、頼むわ」

 

そう震える声で言い残し俺は荷物を放り投げるように雪ノ下に預け、走り出した。

スマホで綾辻にかけるが、繋がらない。このタイミングで出ないということはあの辺りにいることは多分間違いない。綾辻のことだ。あの辺りにいる人たちに避難誘導でもしてるのだろう。オペレーターもトリオン体になれるし、それくらいならできるはずだ。

だが戦うことはできない。あのトリオン兵は過去に見たことないタイプだ。A級の俺でももしかしたら手こずるかもしれない。もしかしたら捕獲用のトリオン兵なのかもしれない。

 

もし捕獲用で、綾辻が囚われたら十中八九トリオン器官だけ取られる。綾辻のトリオン能力は高くない。生け捕りにする価値は、恐らくない。

 

トリオン器官を取られ、胸から血を流しながら冷たくなっていく両親の姿がフラッシュバックし、その姿が綾辻に変わった。

 

 

「やめろ……」

 

 

雨の中、泣く小町の姿が、目を閉じた綾辻の体を抱きしめ泣く自分の姿に変わった。

 

 

「やめろ……!」

 

 

さらにその周りに小町や横山や佐々木さん、米屋や出水が横たわる姿が見える。

 

 

「やめろ!」

 

 

柄にもなく誰もいない道路を走りながら叫ぶ。

 

違う。そうじゃない。俺がボーダーに入って、二宮さんや佐々木さんに鍛えてもらったのは、もうそういう思いをしたくないからだ。

 

金のため。そう折本に言ったが、それよりこれ以上大事な人たちが傷つくのを見たくない。そういう思いから俺はボーダーに入ったんだ。

 

あの小町と泣くしかできなかった頃の俺ではない。全部守るための三年間だ。ここで発揮しなくていつ発揮する。

 

「トリガー、起動(オン)

 

静かに覚悟を決め、トリガーを起動。

 

 

「綾辻……!」

 

 

自分でもよくわからない感情のために、俺はネイバーの元へ跳んだ。

 

 

 

 




今回は少し八幡の弱い部分も出して見ました。

打ち上げ花火今更見てきました。
個人的には君の名はよりも面白かったですね。だれか典道となずなのアフターストーリー書いてくれませんかね。



アフターストーリー
人のを待つか?
自分で書くか?

人のを待とう。

初登場の人物
空閑遊真
白髪チビのネイバー。原作における主人公の一人。リアリストで本人曰く大したことしてないのに偉そうなやつが大っ嫌いとかなんとか。C級の時点で単純な腕は緑川より上で玉狛第2のエースとなるほど。主な武器はスコーピオン。戦闘における天敵はサッサンという設定があるが書くのは多分だいぶ先。好物に小南の作ったチキンカレーの他にサッサンの作った中華料理が後に追加される。八幡のことを「ヒキガヤ先輩」と呼び、サッサンのことは「サッサン」と呼ぶ。

三雲修
持たざるメガネ。番外編で出てきたが本編では初登場だからここで紹介することはなにも問題はない。異論は認めない。トリオン量は戦闘員の中で明らかになっている人の中ではドベだが、持ち前の頭脳と仲間の助力でB級中位以上の順位をキープしている。原作では上位に上がるたびに雑魚呼ばわりされ速攻退場したり、雑魚だけど放置してると面倒だから先に潰そうと集中して狙われたりと割と散々な扱いを受けている気がするがやってることが姑息だから自業自得。射手としての経験もリーダーとしての経験も着々と積み上げているがスタートが低いから完全に開花するのはまだ先だと思われる。がんばれ。

真戸暁
開発室副室長。バイパーの案を発案し、作り上げたある意味八幡の恩人。自由奔放な性格で鬼怒田はその自由奔放な彼女の性格に少々手を焼いているが腕は確かなため大目に見てる。だが生え際の後退の原因の一端が彼女であることには気づいていない。もともと開発室の一員だったがオペレーターとしての能力も高くオペレーターとしての基礎を夏希に教えた(叩き込んだ)人。それゆえ非常時はA級0位部隊(有馬隊)のオペレーターとして動く。多分次出るのは大規模侵攻。
余談だが最近警察官の彼氏と籍を入れた。そしてその事実が沢村さんをより一層焦らせていることを自覚しているし寧ろ楽しんでる節がある。つまりドS。

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