目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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とてもお待たせしました。
最近本当に自分の学科に来たことを後悔してます。あの教授マジ許さん。とは言っても太刀川さんみたいなダメ人間になるわけもいかずしかも教習にもいかなきゃでマジで忙しいここ最近。

今回はランク戦です。評価が上がったり下がったりしてますね。
今回は超長いです。


26話 師匠の前でのランク戦は、思いの外緊張する。

8月6日金曜日

今日はランク戦第2戦だ。相手は加古隊と嵐山隊。

 

「間も無くA級ランク戦第2戦、夜の部が開始されます。実況担当は風間隊の三上。解説は………No. 1攻撃手の太刀川さんと、No. 1射手二宮隊隊長二宮さんです」

「どうぞよろしく」

「………」

 

今回の解説二宮さんかー……。やばいなー負けたらなにされるかわかったもんじゃない。ガチでやろう。というかせめて何かいいません?

 

「さて、比企谷隊が選んだステージは『展示場』。これはどういう狙いがあると思いますか?じゃあ太刀川さん」

「…お、俺か?」

「さっさといえ」

「んだよ二宮〜そんなカリカリすんなって」

「………」

「こ、怖いからそんな睨むなよ……。まぁ今回のこのステージの意図は単純に比企谷を活かすためでしょうね。比企谷隊は比企谷も佐々木もどっちもエース級の実力を持っているけどどっちかって言えば比企谷の方が強いし、佐々木もサポートがうまい。だから多分比企谷をメインとした中距離戦にしてくるはずだ」

「二宮さんはどう思いますか?」

「俺も概ね太刀川と同じだ。展示場なら開けた場所が多く射撃の的になるやつを見つけやすいしやりやすいだろうからな。まぁそれは比企谷隊だけでなく他の嵐山隊、加古隊も同じだ。メンツを見ても全ての隊が中距離戦メインの隊だ。撃ち合いになるのはまず間違いない」

 

嵐山隊も嵐山さんと時枝のタッグに加え木虎がいる。普通に中距離が得意な連中の集まりだ。中距離戦は願ったりだろう。ん?一人足りない?知らんな。

加古隊も加古さんが基本点取り屋だ。黒江はまだ佐々木さんには及ばないまでもB級ならトップクラスのエースになれる実力を持っている。………あと、鬼門なのが喜多川だ。あいつの出方次第でいろいろと変わってくる。

 

「さぁスタートまであと僅か!全部隊転送開始です!」

「さて、やるか」

「もうちょっとやる気だしてハッチ」

「やる気より二宮さんへの恐怖が勝ってる」

「それはそれで……」

 

あの人が見てるところで無様な試合はできない。頑張ろう。でないとしばかれる。

 

 

転送が完了する。

 

俺が転送されたのは展示場の外だった。そして天候は夜に加えて大雨。視界は超絶悪い。これは佐鳥封じの為だ。

 

「横山、視覚支援」

『あいよ』

 

視界がクリアになる。レーダーを見ると、どうやら佐々木さんの近くに誰か転送されたようだ。多分木虎。俺のサイドエフェクトがそう言っている。一人二人レーダーステルス状態だ。恐らく佐鳥と喜多川だろう。そして二人こちらに近づいている。

 

「おっと」

 

アステロイドが大量に飛んでくる。

 

「さすがにこの程度の不意打ちは効かないな」

「どーも、嵐山さん」

 

相変わらずの爽やかフェイス。昔は苦手だったなー……。

……上か!

バックステップでその場から離れる。すると先ほどまで俺がいた場所にアステロイドが降り注ぐ。

 

「あっぶねー…」

「さすがですね」

「まーな」

 

どうやら時枝はテレポーターで俺の上に移動してそこからアステロイド投下。嵐山さんをミスディレクション的に扱ったか。

佐々木さんはどうやら木虎と当たったらしい。まぁ、大丈夫だろう。多分。

 

「ハウンド」

「やべ」

「シールド!」

 

上からハウンドが降り注ぐ。これは加古さんだな。

 

「あら、避けられちゃったわ」

 

うーむ、中距離戦専門の人達が集まっちゃった。タイマンならともかく、メインがバイパーで若干火力が足りない俺は少し不利かも。

 

ま、そんなこともいってられんか。

 

「いくぞ、充」

「はい」

「じゃあいくわよ」

 

負けねぇぞ。

 

 

一方、展示場屋上。

 

「うわー高いなぁここ」

 

そんな場違い過ぎることを呟くのは佐々木琲世。

確かに彼の言わんとしていることは正しいのだが、この現状で言うようなことでは無いだろう。

 

「やる気あるんですか?」

「マジメにやって下さいね」

 

木虎、黒江の二人の美少女達に囲まれて現実逃避したい気分に琲世はなっていたのだ。

 

「ふぅ……ごめんごめん、ちょっと現実逃避したくなっちゃってね」

「したいのは構いませんが、手加減はしませんよ」

「双葉ちゃんが相手でも全力でやるわよ」

「そうですか」

 

相変わらず黒江は木虎相手だとやたらツンツンしている。なにか理由があるのだろうが、琲世はそんなこと知る由もない。

孤月を抜き、気を引き締める。

 

「僕だって、簡単にやられるわけにはいかない」

 

その言葉が開戦となり、全員のブレードが甲高い音を立てた。

 

 

「バイパー」

「ハウンド」

 

射撃戦が勃発していた。三つ巴とはいえ、二人分の火力がある嵐山隊が今の所有利だ。

だが俺のバイパーはシールドを避けながら放つことが可能。ハウンドは誘導弾であるが、シールドを避けながら放つことはできない。そのため一番押されてるのは加古さんだろう。

 

「これはちょっと分が悪いわね」

 

そう言うと加古さんはハウンドを放ちながらバックステップで建物の中へと下がっていく。

……………これは罠だな。あの人はこの程度の状況じゃ下がったりしない。多分、トラッパーの喜多川と連携してやるのだろう。俺のサイドエフェクトがそう言っている。

黒江は上で佐々木さんと木虎とやりあってるはずだ。

でもここに留まるわけにはいかない。2対1じゃきついし。

 

「グラスホッパー」

 

グラスホッパーでアステロイドを避けつつ、展示場へと入っていった加古さんを追う。

 

 

展示場内へと逃げ込む。今回はうちにステージ選択権があったからマップは全て頭に入ってる。

……後ろから嵐山隊が来てるな。一瞬だけ黙っててもらうか。

 

「メテオラ」

 

入り口を爆破してとりあえず足止め。

少しだけなら稼げるだろう。そして加古さんがいるのは……

 

「そこだ」

 

大きめの柱の陰に隠れている加古さんにメテオラをぶちかます。するとそこからバッグワームを着た加古さんが出てくる。なんでわかったのかって?勘だよ。

 

「ハウンド」

「ふっ」

 

ハウンドを躱しながら少し距離をつめる。

 

「アステロイド」

 

未だに放たれるハウンドを打ち消すようにしてアステロイドを放つ。そして残ったアステロイドはそのまま加古さんを

 

 

 

 

 

 

貫かなかった。

 

 

 

 

突然姿が消える。トラッパーの喜多川が仕掛けたスイッチボックスだろう。そしてワープした先から、アステロイドで集中砲火してくる。

 

予想通り。

ワープした先を勘で予測。そしてその場所にワープが完了して加古さんが攻撃態勢に入りきる前に

 

「バイパー」

 

バイパー両攻撃だ。

 

「!シールド」

 

ある程度は予測していたのか難なくシールドで防がれる。俺のサイドエフェクトの特性をよく知っている加古さんなら別段不思議ではない。

そろそろ嵐山隊もこっちくる。できれば喜多川を落としておきたかったんだが、仕方ないか。

と、思ったところで誰か飛ぶ音がする。

 

『横山、誰飛んだ?』

『多分喜多川ちゃん。サッサンの方は誰も飛んでないし望さんも健在だし嵐山さんととっきーも無事だから』

「となると……」

 

あのドヤ顔ツインスナイプ野郎か……。できれば俺が落としておきたかったが、そもそも場所もわからなかったから仕方ないか。まあ俺が佐鳥落しゃいいか。

手にキューブを出現させ、臨戦態勢をとる。

 

 

さあ、仕切り直しだ。

 

 

 

一方屋上

ブレードがぶつかりあい、火花が散る。

木虎がスコーピオンを振るい黒江が孤月を薙ぎ払い琲世が孤月で二人の攻撃を捌く。

 

(佐々木さん、相変わらず防御がうまい)

(三つ巴とはいえ、私どころか双葉ちゃんの攻撃も完全に捌くなんて……。さすが比企谷先輩の右腕ね)

(二人とも腕を上げたね。僕も本気でいかないと)

 

再びブレードがぶつかりあうと全員下がり距離をとる。

すると黒江のトリオン体から電気のようなものが発せられる。

 

「韋駄天」

 

黒江は凄まじい速度で琲世と木虎に斬りかかる。その速度はトリオン体の限界を超えていた。

 

「っ!」

「ふっ」

 

しかし、手練れである二人は無傷とはいかないがかすり傷程度で回避に成功する。しかし、攻撃を加えた黒江自身もA級隊員であり、なおかつ感覚派射手加古望に才能を認められ、スカウトされたほどの実力者だ。ただ躱されて終わるわけがない。

 

「はぁ!」

 

連続で韋駄天を発動し、さらに攻撃を加える。

 

「グラスホッパー」

「はっ!」

 

琲世はグラスホッパーで空中に回避し、木虎はスコーピオンで黒江の孤月を受け流す。その際スコーピオンが少し欠けた。

 

「旋空孤月」

 

飛び上がった琲世は、空中のまま施空を連続で発動し黒江と木虎に攻撃する。しかし二人はバックステップでそれらを回避。

さらに木虎は空中の琲世にハンドガンでアステロイドを放つ。しかし琲世は空中で体を捻りアステロイドを回避。さすがの身のこなしである。

そして琲世が施空を使ったせいで屋上の屋根が斬り裂かれ崩落する。黒江はそのまま下の階に降り、木虎はスパイダーを使いワイヤーアクションをしながら降りる。そして琲世もそのまま着地。

黒江は着地した瞬間の琲世を狙って韋駄天を発動。相変わらず凄まじい速度ではあるが、

 

「甘い!」

 

既に韋駄天がコースを設定して使うものであることを知っていて、なおかつ先ほどの連続の韋駄天を回避したことにより、韋駄天のコース設定のクセを読んだ琲世はコースの通り道を確実に避け、その通り道にスコーピオンを置くように出現させる。

 

「っ!」

 

韋駄天使用中はコースの変更はできないが、多少体を動かすことなら可能である。スコーピオンが出現したのを瞬時に悟り、直撃を避けるために黒江は体を捻った。黒江の狙い通り直撃は避けたが、脇腹辺りに少し傷を負い、そこからトリオンが漏出する。

傷を負ったことにより体制が崩れた黒江は一旦距離を置くために下がるが、木虎がそれをみすみすやらせるはずがない。

スパイダーを駆使し、迅速に黒江に近づきスコーピオンを振り下ろす。不十分な体制だが、どうにかして黒江はそのスコーピオンを避けると施空を使い木虎と琲世を牽制する。

牽制に放った施空のため普段のようなキレはない。そのため二人は難なくそれを躱す。

そして全員距離をとる。

 

年齢や経験差もあるだろうが、この中では琲世の実力が他二人より一枚上のようだ。

 

(まさかこんな早く対策されるなんて……さすが佐々木さん、でも負けない。みんな倒して加古さんのとこに合流する。それが私の任務)

(このままだと佐々木さんが双葉ちゃんを仕留めて比企谷先輩と合流してしまうかもしれない。私の役目は佐々木さんの足止め、できれば仕留めること。ここらで勝負を仕掛けるべきね)

(機動力は僕と藍ちゃんが同等。でもスピードは双葉ちゃんがダントツで高い。どちらかだけなら巻けるけど二人いるとなると巻くのは厳しいな……)

 

三人の思考はそれぞれ違うが、最終的な結論は同じになった。

 

(((ここで、みんな倒していく)))

 

第2ラウンドが、開始された。

 

 

「バイパー」

 

バイパーを放ちながらどんどん下がる。でないとスコーピオンを入れてる加古さんや嵐山さんや時枝にやられてしまう。いくら体術ができるとはいえ、体術だけじゃ倒せない。レイジさんは例外。あの人筋肉半端ないから、俺にあそこまでの筋肉はない。というか、俺があんなムキムキなのはキモい。あれはレイジさんだからかっこよくみえるんだ。

 

「っと」

 

嵐山さんのメテオラが飛んでくる。嵐山さんのメテオラは連射タイプではないが一発の威力がデカく爆発の範囲も広い。こんな室内だと目くらましにうってつけになる。

 

「よっと」

 

メテオラで目くらましをし、そのスキに時枝がテレポーターで移動、そして十字砲火。さすがの連携だ。う、うちだって連携なら負けないんだからね!というかみんなで俺らの連携とめようとすんのやめて?いじめなの?

 

「ハウンド」

 

加古さんがハウンドを放ってくる。いつも思ってたけど加古さんのキューブってキューブじゃなくてボールだよな。なんかポワポワしてるし。

 

「バイパー」

「もう、比企谷くんの射撃どうなってるの?なんで弾体の横にバイパー当てられるの?」

 

バイパーとハウンドでは射程の関係上ハウンドの方が少し威力高めになる。普通にぶつけたらバイパーが威力重視にでもしないと勝てない。ならどうするか。弾体に当てて弾を消滅させればいい。弾道設定できるバイパーならではの技だ。つってもできるの俺しかいないけど。

 

しかし、これ以上ここで射撃戦をしてトリオンと時間を削られるわけにはいかない。とっとと作戦の場所へと誘導しよう。

 

「グラスホッパー」

 

グラスホッパーで飛び上がり、上に逃げる。そして上の階にあるバルコニーに降り立つと、そこからメテオラを落として足止めする。落とし終わると付近の扉からホールに入る。ホール内の電灯を全てバイパーで破壊する。するとホールは真っ暗になる。そういや昔、夜中に道歩いてたらそこらへんの人にガチでビビられたな……。

 

「ま、んなことはどーでもいいけどな」

 

気を引き締め直し、仕込みを済ます。

どこまで通じるかわからんが、まぁどうにかなんだろ。

 

ーーー

 

爆音がして扉が破壊される。加古さんと嵐山さん達が撃ち合いながら入ってくる。派手な入り方だ。

 

「ども」

「………何を企んでるんだ?」

「さあ?」

「比企谷くんの考えることは怖いのよね〜」

 

それはどうも。

とはいっても……

 

「アステロイド」

 

容赦はしない。

避けづらい角度でアステロイドを放つ。

とはいえ、この人たちはこの程度ではかすりもしない。

 

「バイパー」

 

追い討ちだ。

 

「シールド」

「当たらないわよ」

 

全員シールドを展開しながら迂回するように移動する。

そしてその移動をした時点で詰みだ。

 

「っ!充!避けろ!」

「うっ!」

「わっ!」

 

ちっ、嵐山さんと加古さんは避けたか。

俺がした仕込みとは、鉛弾だ。鉛弾はシールドを通過し被弾者に重りをとりつけ機動力を殺すトリガーだ。そしてその鉛弾の色は黒。つまり暗闇で見えづらくなるのだ。

だが鉛弾には当然欠点もある。トリオンを重くなる効果にごっそり使ってるため射程と速度が格段におちる。当てるには相当近づいて動きながら当てる技術がいるだろう。

だがこうも考えられる。『速度と射程がごっそり落ちるなら罠として扱えばいいじゃない』と。罠は存在するだけで相手の気を散らすこともできるし、存在がしられてないなら罠がかかるように誘導すればいい。俺のサイドエフェクトならその程度簡単にできる。

 

我ながら外道なやり方だ。

だが、みすみす逃すはずないけど。

 

「アステロイド」

 

鉛弾で機動力がごっそり削られた時枝と、鉛弾避けるために体制が崩れた加古さんにアステロイドを放つ。

加古さんは普通に躱すが、

 

時枝の姿が消えた。

 

そして背後から突然姿を見せる時枝。テレポーターだ。

 

「知ってるよ、こうなることはな」

 

時枝がテレポーターで瞬間移動した場所に向かって、バイパーで集中砲火をする。鉛弾を受けた状況だ、時枝が避けられるはずもない。

 

「すいません嵐山さん、先に落ちます」

 

それだけいうと時枝はベイルアウトした。

 

「さすがだな」

「もう、嫌になっちゃうわ。いつこんな手を思いついたのよ」

「随分前に思いつきました。見せる機会がなかっただけです」

 

本当に思いついたのは随分前だ。多分、B級の頃。ランク戦とかでも何度かやろうかと思ったが、やる機会がなかったのだ。

 

「んじゃ、続きをやりますか」

「充がやられたからといって、簡単に倒されるわけにはいかないな」

「あら、最後に勝つのはこの私よ」

 

こちとら師匠の前だから負けらんねぇんだよ。

 

 

一方、攻撃手3人(1人は万能手)の闘いは未だに均衡を保っていた。

 

「ハァ!」

「せい!」

「よっ」

 

琲世と黒江は施空を駆使しつつ攻め立てる。それに対し木虎はスコーピオンを使用しているためオプショントリガーは無いが、ハンドガンとスパイダーを巧みに扱いそれをカバーする。

スパイダーの扱いがとてもうまい木虎は広間をスパイダーで埋めながら攻撃してくる。琲世はそれをグラスホッパーで避けつつスパイダーを除去しているが、他二人と比べると機動力の低い黒江は僅かながら押されつつあった。

 

(スパイダーが邪魔。韋駄天使おうにもこのスパイダーまみれの状況じゃ……)

 

黒江はこの状況に少し焦りを覚え初めていた。そして、焦りは迷いを生む。そして

 

「っ!」

 

狙撃により黒江の左手が飛んだ。

 

 

解説席

 

「お、動いたな」

「ここで佐鳥隊員の狙撃が炸裂!黒江隊員の左手を飛ばした!」

「佐鳥の腕を考えれば落とせてもおかしくなかったが、場所が悪かったな」

 

現在、琲世や木虎や黒江がいるのは展示場の最上階。そして佐鳥が狙撃した場所はまさかの電灯の上。しかも室内はガラスにより見えづらく標的もかなり高速で動きまわっている。加えて雨も降っている。当てただけでも佐鳥は賞賛に値するだろう。

 

「こりゃ佐鳥落ちたな〜。でも黒江の左手吹っ飛ばしたのは大きいぞ」

「どういうことでしょう?」

「攻撃手ってのはさ、割とバランスとか体幹とか大事なんだよ。ちゃんとした攻撃をするにはちゃんとした体制が必要だ。片手なくなるとバランス取りづらくなんだよ。それに普段手を吹っ飛ばされた状態で訓練なんてしないだろ?」

「確かにその通りですね」

「相手がスコーピオン使う木虎だけならともかく、格上の孤月使いの佐々木がいるのはきついな〜。あいつの攻撃は割と重いから片手だけじゃ捌くのはきついだろうな」

「一方ホール内では射撃戦がヒートアップしています!この状況はどうでしょうか?」

「単純な実力なら全員大きな差はない。だが鉛弾のトラップがある比企谷が少し有利だろうが、近寄られたら厳しいだろう。加古も嵐山もスコーピオンを持っている。近接戦闘になったら、まず勝機はない」

 

二宮が解説している間に佐鳥が黒江によって落とされる。

 

「ここで佐鳥隊員かベイルアウト!黒江隊員が一点をもぎとった!」

 

そしてその黒江を追い琲世が屋外に出る。いくら琲世と言えどもスパイダーをものともしない、というわけではないのだ。

 

「さあ、場所を変え再び攻撃手勢の戦いが始まります。左手を失った黒江隊員が少し不利か!」

 

雨の中の戦いが始まった。

 

 

 

現在のポイント

加古隊 1ポイント

嵐山隊 1ポイント

比企谷隊 1ポイント

 

 

さて、こちらは絶賛苦戦中です★

 

「うおっ!」

「逃がさないわよ!」

 

なんで射手なのにスコーピオン入れてんだよ加古さん。いくらなんでも感覚派すぎでしょ、そういう俺もグラスホッパーいれてるけどね。いくら体術使えてもこっちは近接戦闘だと丸腰に等しい。しかもスコーピオンだ、関節技とか極めても、その極めているところからスコーピオンだされてやられるなんてこともありかねん。というか、よくよく考えたら嵐山さんもスコーピオンいれとるやん。

 

「んのやろ……」

 

悪態もつきたくなるぜ、助けて佐々木さんのコーナーだわ、マジで。

クッソ、鉛弾トラップ全部壊されちゃったし、結構やばいかも。

 

『佐々木さん、こっちこれます?』

『ゴメン、ムリ』

 

お互い手一杯ですねわかります。

 

『ハッチ、望さんと嵐山さんの攻撃しのぎつつホールの南の方に行って。そこに非常階段があるから、そこいって壁ぶっ壊していけば、サッサンと合流できるよ』

『さすが……』

『あ、でもハデにやりすぎると多分藍ちゃんに狩られるよ』

『デスヨネー』

『その時は僕がフォローするよ』

 

さすが菩薩!頼りになるぅ!

よし、作戦は決まった。あとは……

 

「うおあ!」

 

この二人からどうやって逃げるか、だ。別に二人は連携してるわけじゃない。そもそも別チームだし。でもどちらも俺を重点的に狙ってるから避けきるのはきつい。

なら………

 

「メテオラ」

「!」

「なに⁈」

 

天井を爆撃。凄まじい爆音とともに天井が崩落する。

よし、今の内に……。

 

俺の直感がそこで反応する。

 

 

上か!

 

 

バックステップで下がると、俺がいた場所にハウンドが降ってくる。天井を崩落させた直後に放ったのだろう。

 

「っぶねー」

 

それだけつぶやき俺は非常階段へと向かった。

 

 

『サッサン、もうちょいでハッチがそっちにダイナミックエントリーしに行くから』

『どんな登場方法だ』

(相変わらず夏希ちゃんはすごいなぁ……)

 

こんな場面でもなんの変化もない彼らを見て微笑ましく思いつつ苦笑し、そして同時に頼もしく思う琲世だった。

 

(さて、比企谷くんがくるまでやられるわけにはいかない。寧ろ彼の仕事を減らさなくちゃね)

 

あの仕事嫌いの比企谷だ。仕事が多いと内部通信で愚痴をこぼしかねない。

 

「施空孤月」

 

施空を黒江に放つ。しかし、今までと同じ施空ではない。

 

「なっ!」

 

琲世が放ったそれは、『突き』の施空だった。

本来、施空は『斬撃』として放つものである。

しかし琲世は敢えて『突き』で施空を放った。斬撃なら面の攻撃なのに対して、突きは点の攻撃。当然急所にでも当たらないと一撃必殺にはならない。だが通常の施空より速度は凄まじいため、避けるのは困難を極める。素人が使っても当てるのは難しいが、琲世レベルの攻撃手が使うと、かなりの脅威になり得るのだ。

琲世の放った突きは黒江のシールドを突き破り左肩を削る。

体制が崩れたところを木虎が仕留めようとしたその時

 

『今だよ、比企谷くん!』

 

その瞬間、凄まじい爆音と共に展示場の壁が破壊された。

 

「なに⁉︎」

 

その爆音に一瞬気をとられた木虎は黒江から視線を逸らす。そしてそれが命取りになった。

 

「韋駄天」

「しまっ……」

 

その一瞬を黒江は見逃さなかった。韋駄天によりトリオン体の限界を超えた速度で木虎に襲いかかる。

そして木虎はベイルアウトした。

そして爆発した場所から黒い隊服を着た男が降りてくる。

 

「遅くなりました」

「寧ろ早いと思うけどね」

 

腐った目をした、琲世の隊長だった。

 

 

結局、超ハデな登場するハメになったぜ。

横山からの指令。

 

『ハデに登場して誰かの気を引いて。そうすれば誰かしら落ちるから★』

 

それで佐々木さんが落ちたらどうする気だったんだよ。まあ通信入れたから大丈夫だったとは思うけどさ。

嵐山さんと加古さんも降りてくる。こっから混戦だな。

 

「じゃ、やりますか」

「うん」

「いくわよ双葉」

「はい!」

「俺も負けていられないな」

 

ーーー

 

混戦は、やはり嵐山さんが押され気味だった。人数の差だろう。

 

「下がって!」

「うす」

 

佐々木さんが俺を押して下がらせる。そしてその少し前の場所にメテオラが投下されて、爆発が起こる。

2人分のシールドで爆発をやり過ごすが、続けざまに爆発が起こる、連続投下か。

 

『ハッチ、サッサン。嵐山さんがレーダーから消えたよ。気をつけて』

『あいよ』

『了解』

 

恐らく、本気で獲りに来てる。トリオンを使い切ってもやるつもりか。だがサイドエフェクトで反応できる。やるなら加古隊か?

 

「っ!」

「はっ!」

 

煙の中からスコーピオンが飛んでくる。それを佐々木さんが孤月で砕く。一瞬だけレーダーに映った。左前方、そのあたりか。

再び爆音、今度は電灯も壊れ完全に視界が潰された。

 

闇、雨音、土煙。加えてレーダーステルスだ。不意打ちにはもってこいの状況だな。

 

ピクッ

 

「佐々木さん下がって!」

「!」

 

闇の中から出てきたアステロイド。俺は避けきれたが佐々木さんは右手を飛ばされてしまう。

そして

 

ドン!

 

誰かがベイルアウトした。恐らく黒江だな。

そして場所は大体わかった。そこに向かって……

 

「バイパー」

 

集中砲火だ。

だが撃ってる音が俺以外にもある。加古さんだろう、点はやらんぞ。

そして嵐山さんがベイルアウトする。どっちの得点になったかね……って今はそれどころじゃねーな。

 

『佐々木さん』

『ん?』

『これから俺の指示通りに動いてください』

『わかった』

 

さあ、ファイナルラウンドだ。

 

ーーー

 

土煙は晴れたが、相変わらずの雨と暗闇。

視界は最悪だが、サイドエフェクトにより俺はものともしない。

 

「アステロイド」

「バイパー」

 

威力差をどうにか技術と球数で埋める。しかし、さすが加古さん、置き弾とか使って、いやらしく攻めてくるし、スキがあれば、距離をつめてスコーピオンで襲ってくる。

 

「んのやろ……」

「逃がさないわよ」

 

振るってくるスコーピオンを蹴りで軌道を逸らしアステロイドを放つ。

 

「避けんのかよ……」

「甘いわね、休隊して鈍ったのかしら?」

「訓練は続けてたんすけどね」

 

そんな愚痴をこぼしながらメテオラで土煙を上げる。雨無かったらもっと上がったんだけどな。あ、でも雨が無かったら、さっきの嵐山さんのやつ、もっと面倒だったか。

そのまま加古さんの背後に回るように動く。俺はバッグワーム入れてないからバレてるだろうが

 

(上からならわかんねーだろ!)

 

グラスホッパーで上に上がり、バイパーで集中砲火。レーダーは高度まではわからない。上に上がれば……

 

「甘いわね」

「ガッ!」

 

マジかよ……この人俺の策見破りやがった。

 

「やっぱり鈍ったわね、比企谷くん」

「ぐっ………そーですか?」

 

足を吹っ飛ばされ、腕も削られたからなすすべもなく床に叩きつけられる。痛くはないけど衝撃はくるからな。そしてこの状況じゃ、どうもできねーな。

 

「なんでわかったんすか?」

「土煙の変化が見えたのよ」

 

なるほど、土煙の中で移動すると、土煙も微妙に変化する。その変化によって俺の移動先を見極めたのか。

 

「あと佐々木くんも残ってるけど、彼がどんな方法で不意打ちしてきても私なら対応できるわよ」

「そーすか。なら一思いにやっちゃってくださいよ

 

 

 

 

 

 

 

なんてね★

「アステロイド」

「っ!」

 

まだ終わってねーよ。最後まで諦めないで足掻き続ける。それが俺の忍道(笑)だ。

 

「ハウンド」

「ガッ……」

 

トリオン体が破壊されかけてる音がする。

 

(佐々木くんは攻撃手、なら近づくときに必ず音がする。私には菊地原くんみたいな聴力はないけど近づいてきたらわかる!)

 

とか、思ってるんだろうな。

 

甘いぜ加古さん。

 

 

 

「すいませんね加古さん」

「ん?」

「今回は、うちの勝ちです」

「え?」

 

加古さんのトリオン体が袈裟斬りされる。

加古さんの背後には、漆黒のマントを着て、スコーピオンを手に持った青年がいた。

 

「俺は囮です」

「………やられたわね」

 

加古さんと俺は同時にベイルアウトした。

 

 

結果

比企谷隊 3ポイント+生存点2ポイント

嵐山隊 2ポイント

加古隊 3ポイント

 

勝者 比企谷隊

 

 

佐々木さんが戻ってくると同時に解説が始まる。

 

「中距離と近距離の二つの戦いが繰り広げられ、最後は混戦と化した今回の試合。振り返ってみると、どう思いましたか?」

「そーだなー、なーんか比企谷隊の作戦勝ちって感じだったなー」

「もう少しマジメに」

「マジメに?OK。一番デカいポイントは、やっぱり比企谷隊の選択したステージだな。あの雨が意外と厄介だった。本来、自分達の障害にもなりかねない条件だが、あいつのサイドエフェクトならそれもカバーできるからな。自分の強みをよくわかってるやり方だ」

 

自分の強いとこで勝負する。それが勝負の鉄則だからな。不利な部分でやりあっても意味ねーし。できるなら連携してやりたかったけどな。

 

「続いて、中距離メインのメンバーと近距離メインのメンバーどうしの戦いについて聞いていきたいと思います。まずは射手と銃手の方からお願いいたします。では二宮さん」

 

これは…………俺がディスられる予感。

 

「ふん………まず嵐山隊についてだが、今回は時枝がやられたのが悪い。嵐山は基本一人でも強いが、本領は時枝との連携にある。比企谷の作戦にしてやられた時枝が悪い」

 

さすが二宮さん、ズバズバ言う。でもあの人がズバズバ言うのは認めてる人だけだ。

 

「木虎は点を取れずに退場したが仕事としてはそれなりだ。木虎は佐々木を足止めした。佐鳥は喜多川を落とし、黒江の左手を削った。仕事としては十分だろう」

「では加古隊についてお願いいたします」

「ふん、昔から変わってない。感覚だけで戦っている。射手なのにスコーピオンまで使っているしな」

 

わーあの二人相変わらず仲良いなー(白目)

 

「比企谷隊については?」

「詰めが甘い。最後の混戦の展開になったら状況的にも比企谷が落とされる必要はない。嵐山が一人になった時点で嵐山だけを狙っていれば誰も落とされずに勝てた。なのにわざわざまどろっこしいやり方したせいで比企谷は落とされ、佐々木は右手を飛ばされた。そういうやり方を指示したのは恐らく比企谷だろうが、今回勝てたのは運がよかっただけだ。実力じゃない。加えて…

 

ーーー

 

(五分後)

 

……といった感じだ。やればできるのにどこまでもぬるいやり方しやがって」

 

……もうやめて、俺たちのライフはとっくに0よ……。どんだけあなたは俺らのことディスれば気がすむの……。俺だけじゃなくて佐々木さんと横山までグロッキーになってるし三上と太刀川さんも軽く引いてるぞ。

 

「で、では攻撃手勢の方を太刀川さんお願いいたします」

「お、おう。こっちは結構単純だなー。実力的には拮抗してたからちょっとのきっかけで差が出ちまったな」

「そのきっかけとは?」

「焦り、だな。黒江が合流を急いだせいで少しだが攻撃が雑になった。木虎ならメインは銃手だからともかくとして、佐々木がそのスキを見逃すはずがない。強いやつを先にやっておきたい気持ちはわかるが、あそこはもうちょい冷静に行くべきだったな。まあそこは経験の差だろうな。木虎も最後、比企谷のあの爆撃に気ぃ取られてなかったら結果は違ってただろうな〜。でも、ありゃしょうがねーな。俺でも多分一瞬気ぃ取られるし」

 

攻撃手は近距離戦闘がメインだから常に気を張ってる。だからそこに何かしらノイズを入れてやると簡単に気がそれる。チーム戦ならなおさらだ。

 

「ただ言わせてもらえば、佐々木なら黒江と木虎どっちも巻いて比企谷に合流することだってできたはずだ。そうしてりゃもっと楽に勝てただろうな〜」

「うーん……相変わらず太刀川さん、僕には厳しいな……」

 

そんだけ認められてるってことっすよ。

 

「でも今回で木虎も黒江もいい経験ができたから、多分次はこうはいかないだろうな」

「今回敗れた2チームですが、今回の試合での経験が次回から活きることが予想されます。そして今回合計5得点で勝利した比企谷隊は3位へと上昇。逆に前回の試合で敗れた冬島隊が4位になり、加古隊が5位、嵐山隊が6位という結果になりました。以上をもちましてA級ランク戦を終了します。お疲れ様でした。太刀川さん、二宮さんありがとうございました」

「ありがとうございました〜」

「………」

 

二宮さん怖いよ。あと怖い。

 

 

「あーやっと終わったー」

「もうあたしらも3位かー休隊前の記録超えたねー」

「そうだね、次は風間隊と太刀川隊か」

 

えーやだー……。勝てる気がしねぇ!

 

「というかニノさんディスりすぎでしょあたしらのことー」

「あの人は認めてる人にしか酷いこと言わないよ」

「ただ単に俺がいじめられてただけな気がするぞ……」

 

二宮さん……もうちょい優しくできないの?お願いいたしますよ俺の心が持たないんですよ……。

 

「あ、そうだ」

 

 

「比企谷くん、明後日空いてる?」

「明後日?ええ、まぁ……」

 

なんかあるんすか?

 

「明後日、君の誕生日でしょ」

「え?……ああ」

 

忘れてたぜ……。

 

「今年もパーティーやるよハッチ」

「あのバカ騒ぎまたやんのか⁈」

「バカ騒ぎになるかはわからないけど、やるよ」

 

十中八九バカ騒ぎになんだろ……。

 

「わかりました。どこでやるんすか?」

「僕の家」

「毎度お邪魔して非常に申し訳ないんすけど……」

「いいよ、どうせ父さん来月まで帰ってこないし」

 

………。

 

「何時からですか?」

「夕方くらいかな。準備とかあるし」

「そーだね。サッサン料理すんの?」

「もちろん」

「よっしゃ!佐々木メシにありつける!」

「まぁ詳しい時間は明日にでも連絡するから、明後日にあるってことだけ頭に入れててくれればいいよ」

「うす」

 

またあれやんのか……。バカ騒ぎは嫌だけど、祝われるのに嫌な気はしないな。

 

 

 

 

 

明後日が、楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 




次回は八幡の誕生日会

今回の八幡のトリガーセット
メイン
バイパー
アステロイド
鉛弾
シールド

サブ
バイパー
メテオラ
グラスホッパー
シールド

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