雪ノ下陽乃
魔王。颯爽と現れてはいろんなことをかき乱していくいろいろとはた迷惑なことをする自由人。高校のイベントにも参加したりしていて割と暇なのかもしれない。実はシスコンだが側からみたらただ虐めてるようにしか見えない。国立理系に通っており、大学で本当の意味で友達と呼べるのは加古さんくらい。八幡とは違う意味でぼっち(笑)。
比企谷小町
どう考えても初登場じゃない。忘れてた?いいえ、やる機会が無かっただけです。
比企谷妹。常に八幡の嫁候補を探し、そして八幡を女子と2人で行動させようとする策士。綾辻を筆頭に八幡ヒロインのメンバーとの交流も完備しているし、その他のボーダーのメンバーとも割と交流がある。なんだかんだで嵐山隊などのA級隊員とも交流があるのでもしかしたら八幡の知らないところでラグビーをやっているのかもしれない。高校に入学したらボーダーに入る気でいて、ポジションは親友の日浦と同じ狙撃手志望。
相変わらずタイトルのセンスがないですね。
昨日きたショッピングモールの広場的な場所に現在俺はいる。いや、正確には俺たち、といった方がいいかもしれない。
「ごめんなさい、休日に付き合わせてしまって」
「いえいえ〜。小町も結衣さんのプレゼント買いたかったですし、雪乃さんともお出かけできて感激です!」
雪ノ下と小町と俺という謎のパーティが出来上がっていた。
なぜこんなことになってるのかというと……
回想
奉仕部部室にて
「由比ヶ浜さんと、何かあったの?」
「あ?」
俺がクソ苦手な数学と格闘している時に唐突に雪ノ下は聞いてきた。
「別に、何も」
「喧嘩でもしたの?」
「いや。そもそも喧嘩というのはある程度仲いいやつがするものだ。俺と由比ヶ浜がするものではない」
事実だ。あいつが俺をどう思ってたかは知らんが、俺は別にあいつと仲がいいと思ったことは一度もない。……いや、知らんわけではないか。あいつは俺に『あの事』の負い目から関わっていたのだから。
「そう。なら、諍い?」
「当たらずとも遠からず、か」
「戦争?」
「遠くなった」
「なら殲滅戦?」
「人の話聞け」
なんでそんなバイオレンスな方に行くんだよ。イシュヴァールじゃねぇんだよ。
「すれ違い、といったところかしら」
「さぁ」
知らんしそもそもあいつと関わることなどもうないだろうし。
と、そこで扉が開く。平塚先生だ。
「なんだ、今日も由比ヶ浜は来てないのか。彼女にはそれなりに期待していたのだが……」
そう言ってため息をつき、俺の隣に座る。……何しに来たのこの人。
「あの、なんか用があったんじゃないんすか?」
「おおそうだ。例の勝負についてだ」
「それが、なにか?」
「これからはバトルロワイアル形式にしようと思ってな」
なぜバトルロワイアル。この人、自分好みの展開にしたいだけじゃないの?……え、違うよね?まさか教師がそんなことしないよね?
「2人で?」
「そう、だから君たちには人員補充をしてもらう。できれば2人、少なくとも1人は来週の間に確保したまえ」
めんどくせぇ。なんでんなことせにゃならんのだ。
「比企谷、顔に面倒くさいと書かれているぞ」
「現に面倒くさいです」
「全く…。まぁとにかく人員補充は決定事項だ。早急に取り掛かりたまえ。ああそうだ。由比ヶ浜についてだが、これ以上来ないようなら退部ということになる」
まぁそうだろう。自分から入りたいといっておきながら長らくサボるようなやつは退部させられて当たり前だ。
そんな話をしていると、下校時刻が近くなってくる。
部室を出て先生が鍵を閉める。そして先生は職員室に戻っていった。
「どーすんだ、人員補充って」
「入ってくれそうな人に心当たりはあるわ」
「へぇ。あ、戸塚?戸塚か?戸塚だよな」
むしろ戸塚以外は認めないまである。
「由比ヶ浜さんよ」
「は?やめたんじゃ…」
「ならまた入り直せばいいでしょ?平塚先生は人員補充をすればいいと言っただけなのだから」
「大抵、離れていったらそのまんまってのが普通だけどな」
時と場合によるかもしれないが、大抵はそうだ。離れた人間に再び近づくとか気まずさMAXだし。
「6月18日、何の日か知ってる?」
「いや」
「由比ヶ浜さんの誕生日よ。メールアドレスに0618って入ってたから」
「直接確かめたわけではないのか」
「……」
「さすがだな」
軽く睨みつけてくるが、怖くない。
「だから、誕生日のお祝いをしてあげたいの。由比ヶ浜さんがこれから先もう奉仕部にこないとしても、これまでの感謝はしっかり伝えておきたいの」
「そーか」
「ねぇ、比企谷くん……。その、付き合ってもらえないかしら」
「は?なんで」
「その、私、同年代の子にプレゼントなんて買ったことないから、わからなくて……」
まぁ、俺もしても気を使わせた詫びもしないってのはちょっとアレかなと思っていた。もう関わらないなら何も思わないけどこの様子からすると多分、由比ヶ浜はもう一度雪ノ下によって奉仕部部室に来る。その時多分俺も同席させられるだろう。なら何かしら用意しとくべきかな。
そして日曜日に俺と雪ノ下は由比ヶ浜のプレゼントを買うことになった。だが俺も女子への贈り物などわからん。綾辻のだって宇佐美にいろいろ聞いた結果だし。なので小町を同行させることにもした。
回想終了。
というわけでプレゼント買いにこのショッピングモールにまできたというわけだ。さっさと終わらせちまおう。
「よし、効率重視でいくぞ。俺こっち回る」
「じゃあ私はこっちに」
「じゃあ小町あっちに…」
「ストップです☆」
「いっ⁈」
この野郎、指へし折りに来やがった。ていうか指超痛え。
「せっかくなんでみんなでまわりませんか?その方がアドバイスしあえておトクです」
なーんかしょうもねぇこと考えてんじゃねぇだろうな。
「でも、それだと全部回りきれないんじゃ」
「大丈夫です。小町の見立てによると、結衣さんの趣味的には………おっ、この辺りを抑えておけば問題ないと思います!」
小町が指差したのは女性向けの商品が並ぶとこだった。ふむ、確かにここならそういうものもあるかもしれない。
雪ノ下と小町が並んで歩きその少し後ろに俺がついていく。売ってるものがものであるので若干受ける視線がきつい。しかもそれなりに人もいるため気をぬくと小町たちを見失ってしまいそうだ。
「この辺りかしら」
「さぁ、そこは小町に……ってあれ?小町?」
あいつ、どこに行きやがった。取り敢えず電話だ。
『はいはーい?』
「お前今どこいんだ」
『え?あ〜、小町欲しいものあるからすっかり忘れてたよ』
「一緒に回ろうつったのはお前だろ。妹の頭がここまで残念になってることにお兄ちゃん軽くショックだよ」
『はー…。お兄ちゃんにわかれってのが無理か……。遥さんや玲さんにもアレだし……』
「何が言いてぇんだよ」
『まぁ小町あと半日くらいかかるから、あとは2人で頑張って!』
そういって電話は切られた。物買うのに頑張るもクソもねぇだろ。
ため息をつきつつ雪ノ下の方を見ると、なんかやたら目つきの鋭いぬいぐるみのニギニギしてる。
「……雪ノ下?」
「……小町さんなんだって?」
ぬいぐるみをそっと戻しながら俺に向き直る。……そのぬいぐるみについては突っ込まない方がいいだろう。面倒事の予感しかしない。俺のサイドエフェクトがそう言っている。
「いや、なんか欲しいものがあんだとさ。あとは丸投げ」
「まぁ、こちらからお願いしたのだし文句が言える立場ではないわね。あとは私たちだけでどうにかしましょう」
まぁ、そうなるよな。
ーーー
プレゼントを選び始めてから2時間。未だに決まってなかった。
サボってたわけではない。これは完全に雪ノ下が悪い。なぜなら選ぶ基準がおかしいからだ。
現在も服を見ているのだが、その選んだ服を引っ張ったりどんな素材を使用しているのかしか見ない。モンハンの防具選ぶみたいな判断基準になってる。どう考えても由比ヶ浜はそんなの気にしない。絶対あいつ服に防御力とか回避性能とか求めてない。
雪ノ下が戻ってくる。
「どーだった」
「ダメね、とても満足いくものがないわ」
「一応言っておくが、ダメなのはお前の判断基準だからな?由比ヶ浜、絶対服に防御力とか求めてないぞ」
「仕方ないじゃない。素材や耐久性でしか判断基準がわからないのよ」
「それは完全に事務用品選ぶときの判断基準だ」
「それも考えたのだけれど、由比ヶ浜さんは誕生日に万年筆や手帳をもらっても喜ばないでしょう?」
「なんだ、わかってんじゃん」
「でも万が一ということもあるから、昨日事務用品の下見に行ったのよ。他のものの下見もかねて。でもやっぱりもらっても喜ばないのがよくわかったわ。それで、あなたに会ったのはその帰り」
なるほど、昨日は下見に来てたのか。てかマジで事務用品選ぶ気でいたのかよ。とても現代の女子高生とは思えない。
2時間ぶっ続けでいろいろ回っていたためさすがに疲れたのでベンチに座って休憩する。こんな時はやはりマッカン。疲れた体にマッカンが染み渡る。
「私、由比ヶ浜さんがどんなものが好きとか、全然知らなかったのね……」
「そんなもんだろ。寧ろ半端な知識で知ったかされる方が腹立つ」
「そう、かしら」
「そうだ。半端な知識でソムリエにワイン贈るみたいなもんだぞ」
それこそ千葉県民に向かってよその落花生贈るみたいなもんだ。そんなことされたら俺は腹立つし。
「そう……。そういうことなら…」
どうやら、雪ノ下は何か掴んだらしい。
ーーー
入ったのは料理用品が売ってる店だ。並んでるものは見た所、可愛らしいものが多く女子高生などが使ってもおかしくない。そこで雪ノ下がエプロンを手に取り、試着する。
「どうかしら?」
「ん?いいんじゃね?」
「もう少し的確なアドバイスが欲しいのだけれど」
ぶっちゃけ早く決めろってのがデカい。俺はもう大体何買うか決めてるし。
「由比ヶ浜さんにはどうかしら」
「由比ヶ浜はもっとふわふわした頭の悪そうなやつの方がいいと思うぞ」
「酷い言いぐさだけど、的確だから反応に困るわね……」
どうやらこいつも由比ヶ浜がバカであることは認識しているらしい。まぁあんだけ素っ頓狂なこと言えば誰でもわかるか。
雪ノ下はピンクのエプロンを手に取った。ついでに最初試着してたエプロンも買うようだ。
……そこで得体の知れない感覚が体に走る。この場から一刻も早く立ち去りたい。そんな衝動に駆られる。
「あれ?雪乃ちゃん?」
そしてその衝動の元凶だったと後にわかる人物が現れた。
「……姉さん」
「あ、やっぱり雪乃ちゃんだ!」
この視線のきつい雪ノ下をちゃん付けで呼ぶあたり、相当メンタル強い姉なのだろう。そしてこの人がロクでもない人間であることが、一目見てわかった。
「陽乃〜どうしたの〜?」
なんか、聞き覚えある声だ……。
「あら、比企谷くん」
「加古さん」
なぜか加古さんもいた。
「なんでいるんすか?」
「陽乃と買い物に来てたのよ。そしたら陽乃が急に何か見つけたみたいでさっさと歩いていっちゃってね。それについていったら比企谷くんがいたのよ」
「望、知り合い?」
「ええ、ボーダーで一緒の比企谷くんよ」
「へぇ、彼もボーダーなんだ。まぁ取り敢えず移動しよ。ここだと多分邪魔だし」
ーーー
「陽乃の妹さん、よね。私は加古望。陽乃と同じ大学2年で比企谷くんとはボーダーで一緒なの」
「私は雪ノ下雪乃です。そこのとは、誠に遺憾ながら知り合いです」
「雪乃ちゃんの姉の陽乃です。あなたお名前は?」
「……比企谷です」
移動すると各々自己紹介を始める。俺としては一刻も早く立ち去りたいのだが……。
そしてベンチに座るのだが、配置がおかしい。
加古さん、俺、雪ノ下(姉)、雪ノ下
なんで俺年上美女に挟まれてるの?普通の男子なら狂喜してるとこだけど俺としては胃が痛い。いや本当マジで。
「比企谷くんは何してたの?まさかデート?」
軽く殺気を込めないでくれませんかね?
「まさか。冗談でもやめてください。同級生のプレゼント買いに来てただけっすよ」
「あらそう。比企谷くんもそういうことするのね」
なんでこの人若干嬉しそうなの?
「2人はいつから付き合ってるんですか〜?ほらほら言っちゃえよ〜」
どう考えても雪ノ下と俺が付き合ってるようには見えんだろうに。というかたった今デートではないと加古さんに言ったろ。
「ただの同級生よ」
「彼氏じゃないです」
「本当か〜?雪乃ちゃんを泣かせたらお姉さん許さないぞ〜。うりうり〜」
そんなことを言いながら俺の頬を突っつく雪ノ下姉。ついでに雪ノ下とは対照的な豊満な胸も押し付けてくる。絶対わざとだ。
ただ、この人の仕草一つ一つに違和感と悪寒が走る。
多分、違和感の正体はこの人の全ての行動だ。雪ノ下は凄まじくどぎつい性格をしている。虐められたから世界を変えるとか言っちゃうレベルでどぎつい。だからその姉はもっとやばいだろうと思ったのだが、蓋を開けてみたらこんなフレンドリーでやたらボディタッチの多い男の理想みたいな人だ。おかしいと思わない方がおかしい。つまり、この態度全てが偽物ということだ。
「姉さん、いい加減にしてちょうだい」
「陽乃、そろそろやめな。比企谷くん嫌がってるから」
雪ノ下の言葉と加古さんからの助け船によりようやく解放される。
「あ……。ごめんね、私ちょっと調子に乗りすぎたね」
……この人、勘だけど多分本気でヘコんでる。そんなに妹好きなの?すると再び近寄ってくる。すごく近い。離れろマジで。
「雪乃ちゃん、繊細な子だから比企谷くんも気をつけてあげてね」
「嫌です」
あ、やべ。素で返しちった☆。まぁでもいやなもんは嫌だ。
「なんで普段から毒しか吐かない女のことを気をつけてやらにゃならんのですか。冗談じゃないっすよ」
雪ノ下姉は惚けた表情をしている。もうここまで来たら全部言っちゃえ。
「それと、どういうつもりか知りませんけどその薄ら寒い演技をやめてもらえますかね。気色悪いんで。その程度の外面、俺相手には通用しませんよ」
「…………へぇ」
……絶対目ぇつけられた。だって今すっごく嬉しそうにしてるんだもん。新しいおもちゃを見つけた子供みたいだし。ついでに言うと加古さんもなんか笑ってる。なんで?
「あっはっは!比企谷くんすっごく面白い!」
バンバン背中を叩く雪ノ下姉。本当やめて。視線がきついから。
「じゃあ比企谷くん、今度私ともお出かけしない?」
なぜそうなる!
「私も比企谷くんとデートしたいな〜」
「俺はデートなんてしたことないっすよ」
「あら、遥ちゃんとはしたのに?」
なん、だと……?
「ハテ、ナンノコトデスカネ?」
「惚けても無駄よ。確かな情報スジ(琲世)から仕入れた情報だから」
「なんでそんなスパイ映画みたいになってるんすか?」
「ねーいいでしょ比企谷くん。私も比企谷くんとデートしたいなー」
加古さんは顔を近づけてくる。加えて雪ノ下姉もキラキラした目で俺に近づいてくる。なにこのシチュエーション、死ねる。
「へー望がそんなに気にする男の子って初めてね。私もなんか比企谷くん気になってきちゃったな〜」
「ダメよ陽乃。比企谷くんは私のだから」
取り敢えず、俺をモノ扱いするのはやめましょうね?加古さんのあだ名雪ノ下二号にしますよ?
「じゃあ比企谷くん、また今度予定決めましょう」
え、決定⁈
「比企谷くん、雪乃ちゃんの彼氏になったらお茶しようね!」
そう言って美人女子大生×2はさっていった。なんか、すげぇ疲れた。
「お前の姉ちゃんすげえな」
「あなたの知り合いの加古さんもすごいと思うのだけれど……。まぁそうね。姉に会った人間は皆そう言うわ。容姿端麗才色兼備。あれほど完璧な人間もそういないでしょうね」
「あ?んなこと言ってんじゃねーよ。んなもんおめーも大して変わらんだろうが。自慢なら他でやれ。俺がすげえつってんのはあの外面のことだ。常にニコニコしてて明るく話しかけてくれる。加えてボディタッチも激しい。まさに男の理想だ。だが所詮は理想。現実じゃない。だから違和感しかない」
「……腐った目でも、いや、腐った目だからこそ見抜けることもあるのね」
「それに……」
「?」
「あの人、ガラス玉みたいな目してるだろ。ただ反射してるだけ。中の黒いドロドロした『何か』には何も届いてない。そんな目ぇしてる人が、まともに見えるか?」
「……あなた、本当にすごいわね。たった5分足らずのやりとりで姉の本性をそこまで見抜ける人は今までいなかったわ。あなたはボーダーなら知ってるかもしれないけど、うちの父は大企業のトップでね。パーティーとかそういうのに長女としていろいろ連れまわされていたのよ。そして、そんな汚い大人の中で長い時間過ごした結果できたのが……あの仮面よ」
「なるほどな」
金持ちは金持ちなりにいろいろあったのだろう。
と、そこで向こうから犬が走ってくる。……どっかでみたような。
「い、犬が……」
「あ?」
「ひ、比企谷くん、犬が…」
なんか、犬にやたら怯えてる。犬苦手なのかね?
俺の目の前まで来た犬は俺に向かってジャンプして飛びついてきた。
「ひっ!」
「おっと。おい、飼い主どーした」
取り敢えず受け止める。なーんかやたら俺に懐いてるな、この犬。俺の知り合いに犬飼ってる人なんていたっけ?
「すいませーんうちのサブレが……ってゆきのんとヒッキー?なんで」
飼い主は、由比ヶ浜だった。面倒事の予感。
「え、え?なんで2人一緒にいるの?」
『なんでって、別に……』
綺麗に答えがかぶったが、これ以外なんと言えと。本人に向かってサプライズでプレゼント買ってましたなんて言えるか?言えない。サプライズの意味無くなるだろ。
「あ、そうだよね。あはは、なんで気づかなかったかな……。あたし空気読むの得意なのに……」
絶対勘違いしてる。大方、俺と雪ノ下が付き合ってるとでも思ったのだろう。勘弁してくれ。
「由比ヶ浜さん、明日、部室に来てもらえるかしら。私たちのことで話しておきたいことがあるの」
「あ、あはは。……あんまり聞きたくないかも」
雪ノ下、なぜわざわざ誤解をさらに生むような言い方をするのだ。
「じゃ、じゃああたしいくね」
「由比ヶ浜」
「……なに、ヒッキー」
「一応言っておくが、お前の思ってることとは違うということだけ言っておく」
「……?」
そして由比ヶ浜は去っていった。……あいつ、わかってないだろ。
*
次の日、部室に向かうと由比ヶ浜がなんか深呼吸してる。なーにやってんだか。
「なにしてんだ」
「うわぁ!ひ、ヒッキー!い、いやーその、空気がおいしかったからー……」
「この学校に澄み切った空気が存在する場所があるとでも?バカやってねーでとっとと入れバカ」
「バカっていうなし!……うん」
あーこれはアレですね。昨日の俺の言葉理解してないね。本当バカなのねこいつ。
取り敢えず部室に入る。
「由比ヶ浜さん……」
「や、やっはろー」
そのバカっぽい挨拶やめろ。
「由比ヶ浜さん」
「あ、えーっと、ゆきのんとヒッキーのことで話があるんだったよね……」
「ええ、私たちの今後のことで話を……」
「い、いや、別にあたしは……」
あーもーめんどくせぇなーとっとと済ませろこっちは防衛任務あんだよ。
「あなたに、その、今までの慰労と感謝を込めてお祝いをしたいと思っていたの」
「い、いやーあたし別に感謝されるようなことは……」
「それでも、私は感謝してるの。だから……」
「それ以上、聞きたくないかも……」
話が噛み合ってない……。これ以上長引くと防衛任務に遅刻して横山に殴られる。
「由比ヶ浜、昨日も言ったが、お前絶対勘違いしてるぞ」
「へ?」
ーーー
「え?じゃあ2人は付き合ってるとかじゃないの⁈」
「んなわけあるかバカ」
「由比ヶ浜さん、私だって怒ることくらいあるのよ。大体あれにまともな男女交際なんてできるわけないでしょ。そもそも人との付き合いができないのだから」
「雪ノ下、一応言っとくがそれブーメランだからな」
俺は男女交際なんてできないが、人との付き合いはできてるぞ。そもそもできなかったらチームの隊長なんてやってねーし。
「あ、あはは……。あれ?じゃあ感謝って……」
「あなたの誕生日を祝うのよ。それで、その……プレゼントも」
「プレゼントも⁈わー!ゆきのんありがとー!」
ゆりゆりしい。他でやれ。
「べ、別に私だけが用意したわけでは……」
「え、ヒッキーも⁈」
「ああ」
そう言って俺はプレゼントを机に置く。
「まさかヒッキーも用意してくれてるなんて。この前から、その、ビミョーだったし……」
「ああ、誕生日ってのもあるが、それ以外にもな」
「それ以外?」
「今まで気を使わせてた分だ。俺は別にお前の犬だから助けたわけじゃない。だからお前は別に俺を気にかける必要はない。だからこれで終わり。んじゃ俺は仕事あっから」
そう言って立ち去ろうとする。しかしそれはできなかった。由比ヶ浜に鞄を掴まれたからだ。
「待ってよ。なんでそんな風に思うの?あたし、同情とかそんな風に思ったこと一度もないよ?……なんか、わかんなくなって来ちゃったな」
「別に難しいことではないでしょ?比企谷くんには由比ヶ浜さんを助けた覚えはないし、由比ヶ浜さんも比企谷くんに同情した覚えはない。初めから間違っているのよ。だから、比企谷くんの終わりにするという選択は、正しいと思うわ」
「……でも、これで終わりなんて……」
由比ヶ浜の悲痛な声が、部室の壁に吸い込まれる。
「なら、また始めればいいじゃない。助けた助けられたの違いはあるけど、あなたたちは等しく被害者なのだから全ての原因は加害者に求められるべきだわ。それに、あなたたちは悪くないのだからまた始めることなんて造作もないでしょ?だから、ちゃんと最初から始めることだってできるわ。あなたたちなら……」
随分引いた言い方をする。まるで『自分にはできない』とでも言ってるようだ。どうでもいいけど。
「……私は平塚先生に人員補充完了の報告をしてくるわ」
そう言って雪ノ下はでていった。…………気まずい。なにこの沈黙の空間。俺もう防衛任務いっていいよね?
「ね、それ開けていい?」
「お好きに。一応言っとくが、犬のだからな」
「え、そうなの?……あ、かわいいこれ!サブレに似合いそう!」
俺が買ったのは犬の首輪だ。あんなにしょっちゅう飼い主の手を離れる犬なんだからせめて首輪くらいしっかりしたものにしといてもらわないとまた俺の二の舞の人間がでてきなねない。
と、そこでケータイが鳴る。
『横山夏希』
…………出たくない。出たくないよぉ……。でもでないと後で死ぬ。
「もしもs」
『くおらハッチ今どこだかーー!』
開口一番怒号が飛んだ。耳が痛いぜ。物理的に。
「わり、まだ学校」
『防衛任務あるつったじゃん!人の話聞いてた⁈遥に報告して叱ってもらうよ⁈』
「おい、そこでなぜ綾辻が出てくる」
『なんでもいいからさっさと来い。サッサン先に行かせちゃうよ!』
「へーへー悪かったよ。すぐ行くから」
『40秒でこっち来な』
「ドーラかお前は。てか無理だから」
『あ?』
「すいませんすぐ行きますごめんなさい」
『よろしい』
そう言って電話は切れた。……なんでオペレーターが一番強いんだよ。草壁隊じゃないんだから……。というか時間まだあるんじゃ……ってそうだ、急遽広報入った嵐山隊と変わったんだったな……。
「ヒッキー今の誰?」
「うちのオペレーター……。キレるとやばいやつ」
「あ、もしかしてなっちゃん?」
「誰だよなっちゃん」
「横山夏希ちゃんだよ。あたし、中学同じなの」
「そうか。じゃ、俺防衛任務あっから」
「あ、お仕事か。頑張ってねヒッキー。プレゼントありがとう」
「ああ」
そう言って俺も部室を後にした。
早く行かなきゃボッコボコタイムが始まっちまう。急がねば。
次から確か夏休み編でしたっけ。
次回は夏休み編か八幡の訓練生時代を書いた外伝をやります。どっち書くかなー……。アンケート出しときます。
あ、どっち先にやるにしても最終的にはどっちもやります。