目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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相変わらず執筆がクソ遅い作者です。
ついでにタイトルがマジで思いつかなかったです。

お待たせの那須さんデート回です。軽く那須さんの性格捏造してるかも。


19話 作戦とはいえ、美人と出かけることは彼にとってハードルが高い。

6月16日土曜日。時刻は10時50分。場所はショッピングモールの時計塔の前。俺は1人立ち尽くしている。別に誰かに見捨てられたとかではない。

ではなぜ俺はこんなとこにいるか。普段ならこんな日は家から出ない超インドアな俺が。

 

理由は、那須と出かけるからだ。

 

一応断っておく。デートではない。これはあくまで作戦の一環だ。いや本当だよ?

今日は那須の誕生日だ。だから那須隊のメンバーがサプライズとしていろいろやるらしい。小町や佐々木さんや横山もそれに付き合ってる。つまり俺は除け者。なにそれ悲しい。

まぁ、平たく言えばそのサプライズするのには那須が家にいると準備ができない。だから那須を連れ出せって話だ。

そこで疑問がある。なぜ連れ出すのが俺なのだ。そこは普通熊谷とかがやるだろ。よりにもよって俺かよ。一応言っておくが、別に那須が嫌いとかでは断じてない。

ただ、知っての通り那須はかなり美人だ。ぶっちゃけるとボーダーの女性陣はほとんど美人なんだけどね。綾辻もだが、那須も横切る人が思わず見てしまうほどのレベル。そしてそんな美人の横にいるのが腐った目をした冴えないやつ。周囲からの視線がどんなものか想像するだけで胃が痛い。なにそのシチュエーション。死ねる。

え?綾辻の時は別にこんなこと言ってなかったって?だって綾辻とは昔からの付き合いだし今更感すごい。

 

そしてなにより、今回の作戦がひどい。

だって指令で連れ出せとか言われたからもうセッティングしてあると思ってたのにいざ聞いてみたら

 

熊谷「え?比企谷が自分で誘ってよ」

 

ふざけんな。俺みたいな元コミュ障学校プロぼっちの人間にそんなことさせるとか死ねるぜ?え?どうやって誘ったかって?いいぜ、教えてやろう。俺のコミュ力の低さを。

 

LINEにて(時刻はランク戦後)

「最近体調どうだ?」

『うん、大丈夫。最近は調子いいよ』

「そうか。たまにはどっか外出した方がいいだろ。熊谷とか誘ってどっか行かないか?」

『え、いいの?』

「おお」

『じゃあいこ!あ、でもくまちゃんも茜ちゃんも明日予定あるって言ってた』

(ええ知ってますとも)「そうか。なら小町とか誘うか?」

『たまには師弟で出かけるのもいいんじゃない?(笑)』

「まぁ、なんでもいい。誘いたきゃ誘ってくれ」

『うん。じゃあ明日の時間決めよっか』

「おう」

 

中略

 

残念ながら俺にはこれが精一杯だったぜ……。

そんなことをぼんやり考えながら待っていると、那須が来た。俺に気づくと小走りで近寄ってくる。

 

「ごめん比企谷くん。待った?」

「いや、問題ない」

「そっか。よかった。じゃあいこ」

「おお。……あ、その前に一個言っとくぞ」

「え、なに?」

「お前、体弱いんだからさっきみたいな小走りでもあんま走ったりすんな。体に障るぞ。それと、ちょっとでも体調悪くなったり疲れたりしたらすぐに言え。いいな」

 

これは絶対だ。こちらとしても倒れられたりしたら困る。対処の仕方なんてわからないし、それにこいつはこの後サプライズが待ってる。下手に体力消耗させたくない。

……那須はなんか俺の顔見てぼんやりしてる。ん?既に体調悪いの?

 

「……どうした?」

「え?ああ、いや。やっぱり比企谷くんは優しいなって」

「はぁ?」

 

いや、人としてこれくらい当たり前じゃね?

 

「比企谷くんが私の師匠でよかった」

「……なぜに?」

「なんでも。じゃ、いこ」

 

そう言って那須をは歩き出す。……なんか普段より元気だな。なんかいいことでもあったのか?

 

 

現在俺たちがうろついてるショッピングモールはこの前綾辻と行ったとこではなく、三門市内にあるものだ。ただ連れ出すだけだからわざわざちょっと遠いとこにいく必要もないだろうし。

そして今いるのは服屋。……前も思ったけど女子ってみんな必ずと言ってもいいほど服屋入るよな。そんなに服みたいかね?

ちなみに俺の服装はVネックのちょっと良さげな黒Tシャツにジーンズだ。これも小町コーディネート。適当にきてったら多分また二宮さん並みの酷評くらっただろうし。那須は白いスカートに淡いグレーのカットソー、その上に水色の薄手の上着を着重ねた格好だ。那須の雰囲気によくあってる。清楚とはまさにこのことだろう、多分。

 

「比企谷くん、これどうかな」

「ああ、いいんじゃね?」

 

ぶっちゃけよくわからん。

 

「むー…」

「な、なんだよ…」

「もうちょっと何か言ってくれてもいいんじゃない?」

「いや、俺服センスないし……」

 

そんな軽くふくれんなよ。わかんねーんだもん本当に。

 

「……たまにはちょっと違う雰囲気の色のやつでもいいんじゃね?」

「雰囲気の違う色、か。例えばどんなの?」

「うーん……。なんかお前は白とか水色とかの清楚な色のイメージが強いから、そこであえて明るい色にしてみるとか……?ほらランク戦でも今まで使ってなかったトリガー使うとそれだけで不意打ちになるだろ?それと似た感じだ」

 

……うん。自分でも何言ってんだろうってなってる。服とランク戦全然違うだろ。でもこの服屋という周囲の現状と周囲からの視線によって俺の精神的ライフポイントがゴリゴリ削られてるから。

 

「そう?うーん…じゃあ比企谷くん選んでよ」

「は?」

「まだちょっとよくわからないから。お手本としてどんなのか選んでみてくれない?師匠」

 

そう言って微笑む那須。うーむ、やはり美人……ではなくて。いやそこ師匠関係ないでしょ。センスゼロの俺に服選ばせるとかある意味公開処刑よ?しかし言われた手前、やらない訳にも行かない。

 

「……これとか?」

 

そう言って俺が取り出したのはピンクの七分袖のカットソーだ。……ぶっちゃけ前に綾辻と出かけた時に綾辻が着てた服を参考にしただけ。

 

「あ、いいかも。じゃあちょっと試着してみるね」

 

試着すんのかよ。

そう言って試着室へと向かう那須。当然俺は外で待ってるだけ。すると店員が近いてくる。

 

「何かお困りですか?」

「ああいや、ツレが試着すんの待ってるだけなんで……」

「そうですか。『彼女』さんにはこちらのカットソーもいいと思いますよ」

「……」

「あとは……、あれ?どうなさいました?」

「あの、彼女じゃないです……」

「あ、これは失礼」

 

俺は別にいいけど那須に気をつかえよ。

で、適当に店員と雑談してると那須が出てくる。……心なしか顔が赤い気がする。気のせいか?

 

「ど、どうかな?」

「ああ、似合ってんぞ」

「そっか、よかった。じゃあこれ買ってみようかな」

 

……え、買うの?

 

「俺のセンスで選んだもの買うのかよ……」

「比企谷くんが選んでくれたのだからね」

 

うむ、綾辻の時も思ったが、みんな俺のセンスがいいとでも思ってるのか?小町のファッションチェックで酷評しかくらったことのない俺のセンスに任せたら後で後悔するぞ、絶対。サイドエフェクトでもできないことはある。

 

「やっぱり彼女なんじゃ…」

 

そう言った店員の声は俺には届かなかった。

 

 

少し場所は変わり、現在はカフェに入っている。時刻は正午に近くなったというのもあるが、那須の体調を気遣っての休憩というのもある。

俺はサンドイッチとホットドッグ、あとアイスコーヒーを頼んだ。那須はサンドイッチとクロワッサン、カフェラテを頼んだ。……病弱だからだろうがこいつ、かなり少食だ。前に熊谷がうちの作戦室来て食ってた佐々木メシは結構な量だったし、日浦もそこそこ食う。なのに那須は驚くほど少食だ。

 

「相変わらず少食なのな」

「え、そうかな」

「そうだろ。熊谷とか結構食うじゃん。それと比べりゃかなり少食」

「くまちゃんはスポーツやってたから鍛えるために結構食べるんだよね。茜ちゃんも意外とよく食べるし。小夜ちゃんは…」

「……あいつは塩昆布ばっか食ってるからな」

「そうなんだよね……。佐々木さんが作ってくれたりしてる時もあるから、多少マシにはなってるんだろうけど……」

「まぁ、志岐はある意味どうしよもない感じがするけど、お前はもうちょい食ったほうがいいぞ」

「うーん、そうかな」

「そうだ」

 

佐々木さんがよく言ってる。「食べ過ぎはよくないけど、でもある程度の量は食べないと体壊すよ。僕の父さんも仕事中だとあんまり食べなくてよく倒れてたんだよ」と。佐々木さんの父親は見たことないしどんな人なのかも知らないが、佐々木さんがあれだけいうということはやはりそうなのだろう。人間、食べることにより身体を形成しているのだから。

と、そんな食の重要性を脳内で語っていると食事が届く。早速頂こう。

 

『いただきます』

 

そういって俺も那須も食べ始める。ホットドッグを口に運ぶ。うむ、味は普通だ。だがそこそこ量あるし腹にはたまる。値段も安いしなかなかだ。で、那須の方をチラッと見てみるが、やはり少ない。こんな量だとさらに体悪くすんじゃねーか?

ホットドッグの一つをひょいと那須のトレイに乗せる。

 

「え?」

「食え。少なすぎると体壊すぞ」

「え?え?」

「いーから食え。食わないともう稽古つけねーぞ」

「……」

 

ん?無言になった。そんなに嫌だった?

ビクビクしながら那須を見ると、なんか軽く嬉しそうに微笑んでる。なに?実はお腹空いてた?

 

「…なんだよ」

「心配してくれたんだね」

「そりゃ、弟子の心配くらいすんだろ普通…」

「そっか」

「それに……」

「?」

「まだ射手として教えること教えきってねーから、倒れられたりしたら困るんだよ」

 

誰だって、自分の身近な人には健康でいてほしいだろう。俺もそうだ。弟子に倒れてほしくなんかない。

 

「……」

「な、なんだよ」

「ううん。比企谷くんは、やっぱり捻デレだなって」

「おい待て、誰から聞いたその捻デレって」

「え?小町ちゃん」

 

小町ェ……。なに変な単語教えてんの。捻くれ者なのは認めるけどデレてはねぇよ。

 

「ありがとうね、比企谷くん」

「いや、別に……」

 

やはり、こいつは綾辻と同じくらい美人だ。隠れファンがいるのもわかる。並みの男子高生なら一瞬で恋に落ちて告白して玉砕するレベル。そんな美人が俺に笑いかけてくる。つまり何が言いたいかといいますとね。

 

周囲の視線が痛てぇ……。

 

 

場所は変わり、現在は本屋にいる。なにか欲しい本があるわけではないがなんとなく立ち寄っただけ。

那須はあまり運動とかできないから家で過ごすことが多い。だから本も結構読むのだ。あと映画もみる。

那須が今手にとってるのは有名作家の長編だ。上編中編下編2巻ずつある大作だ。映画化もするらしい。

 

「これ、好きな作家の最新作なんだ」

「ほぉ…。一冊500ページで6冊。かなり長いな」

「うん。すごい前から書いてたやつなんだって」

「は〜そりゃすげぇ」

「ねぇ、映画公開したら一緒に見に行かない?」

「……予定空いてたらな」

「うん、約束だよ」

 

ふむ、勢いで約束してしまったが、ぶっちゃけそんなに暇じゃないしなー……。まぁ、どうにかなるだろ。

 

「この作家のは、ほとんどもってるんだ」

「ほぉ。そんなにいいのか」

「うん。この作家の作品はね、『絶対的な悪者を作らない』し、最終的には『誰も不幸にならない』から」

「……へぇ」

 

こいつは優しいから、誰かが不幸になる話とか好きじゃないんだろうな。大体のやつ、俺もだが、勧善懲悪ものの方が読んでてスッキリするがこいつはそういうのも好きじゃないのだろう。

 

熊谷達は、いいリーダーをもったな。

 

 

現在はモール内を散策中。本屋をでて特に見たいとこがお互いなかったから適当に歩いているのだ。

と、そこで那須の息が軽く荒いのに気づく。疲れたのだろう。

 

「おい、大丈夫か?」

「う、うん」

「休むか」

「え、大丈夫…」

「うるせー休むぞ」

 

無理やりにでも休ませないと夜の予定に支障がでる。それは避けなければならない。

 

「とりあえずそこのベンチ座ってろ。なんか飲み物買ってくるから」

「うん、ごめんね」

「気にすんな」

 

モール内のベンチに那須を座らせ近くの自販機でお茶を買う。

 

「ほい、飲め」

「ありがとう。ごめんね気を遣わせて」

「別に問題ない」

「比企谷くん?」

 

なーんか聞き覚えのある声が聞こえるなー……。声のした方を見るとやはり雪ノ下だった。……ねぇ、なんで俺が女子と出かけてるとお前いるの?綾辻の時もいたじゃん。なに?ストーカー?

 

「あら比企谷くん、今度は違う女の子を連れてるのね。あなたがそこまで下衆だとは思わなかったわ。今警察を呼ぶから両手を括って待ってなさい」

「いや待て違う。俺は悪くない」

 

なんで犯罪前提で話進めんだ。

 

「比企谷くん、違う女の子とも出かけたの?」

「いや、その……」

「そこのそれはとりあえず置いといて、私は雪ノ下雪乃。そこのそれの捻くれた人格の矯正を請け負ってる者よ。あなたは?」

「あ、私は那須玲。比企谷くんとはボーダーで一緒で……。あ、あなた確か職場見学に……」

「ええそうよ。あなたもそういえばいたわね」

「うん」

「で、話を戻すけど、そこのそれとはどんな関係なのかしら?場合によっては断罪に手を貸すわ」

「あ、私は比企谷くんの弟子なの」

「弟子……?」

「うん、弟子」

「比企谷くん、一体どうやってこの純情な女の子を騙して弟子にさせたのかしら。あなたの実力があるのは知っているけど女の子を騙してまで弟子入りさせるのは犯罪よ」

「犯罪前提で話進めんな」

「あ、弟子入りは私から頼んだの。私の意思だから比企谷くんは悪くないわ」

「そうなの?ならあなたは騙されたりはしてないようね。よかったわね比企谷くん、女の子に庇ってもらえて」

 

いや、庇うもなにも俺はなにも悪くないし。

 

「ところで比企谷くん」

「ん?」

「この前一緒に出かけた女の子って誰?」

 

えーそれ聞くの?

 

「綾辻遥さんだったわよ、那須さん」

「なんで言っちゃうの」

「ふーん、綾辻さんか」

「比企谷くん、まさか浮気でもしてるのかしら?」

「違う、断じて。そもそも俺に彼女なんていない」

 

なんなんだ。なんなんだよ!気温がどんどん下がってきてるよ!雪ノ下からは絶対零度の視線がくるし、那須からはジト目で見られるし!俺悪くねーよ!

 

「むー……」

「なんだよ」

「綾辻さんとはやっぱり仲良しだなーって」

「いや、綾辻は昔からの付き合いだし仲いいってより腐れ縁?みたいな感じだから」

「……」

 

なんで無言?そんな気に障ること言った?

 

「じゃあ、今度また一緒に出かけてくれる?」

「……まぁ」

「うん、約束ね」

 

またその場の勢いで約束してしまった……。でも俺は悪くない。だってなんか那須がすごいムスッとしてたんだもん……。これからサプライズもあるし機嫌は損ねたくない。

 

「じゃあ私は行くわ。那須さん、そこのそれに何かされたらすぐに知らせて。徹底的に断罪するから」

 

そうして雪ノ下は去っていった。

 

「……比企谷くんの周りって、可愛い子が多いなぁ」

 

否定はしないけどその可愛い子の中にお前も含まれてるからね?

 

 

休憩を終えると付近にあった天然石アクセサリーの販売店に立ち寄る。なんとなく那須の目にとまったからだ。

 

「わぁ、これとか綺麗」

「紫水晶か」

「うん。アメジストとも言うんだよね」

 

俺は天然石の知識は全くないが、こういうものは素直に綺麗だと思う。好きな人は結構好きだろう。

あ、そういや誕プレ買ってねぇ…。ここで買うか。そろそろ『時間』だし。

 

「何見てるの?」

「ん?ああ。小町に何か買ってくかな〜って」

「小町ちゃんに?」

「まぁ、勉強頑張ってるからそのご褒美的な」

「あ、ならこれとかは?」

 

そう言って手に取ったのは、水色の石のついたキーホルダーだった。

 

「これは?」

「アクアマリン。小町ちゃんの誕生日3月だからどうかなって」

「誕生日はかなり先なんだけどな…」

「そうだね。あ、小町ちゃん、高校入ったらボーダー入るんでしょ?」

「ああ、日浦と同じ狙撃手志望だ」

「じゃあ正隊員になったらうちの隊に来ない?」

「そうだな、そうしてくれるとこちらも嬉しい」

 

那須隊なら小町も面識あるし、仲も良いから小町本人としても願ったりだろう。親友の日浦もいるし。

 

「楽しみだね」

「そうだな」

 

その後、小町がボーダーに入ったらの話をしながら適当に幾つかアクセサリーを買った。その中には小町への物以外のものもあったのは秘密だ。

 

 

「悪い、待たせた」

「ううん、大丈夫」

 

トイレから戻ると、再び散策を始める。指定された時間までもう少しある。どこで時間を潰そうか。

そこで目についたのはペットショップ。子犬やら子猫やら女子が好きそうなのがいっぱいいる。

 

「あ、ちょっと寄ってみない?」

「おお、いいぞ」

 

中に入ると我が家と似た感じの獣臭がする。動物特有の匂いだ。

 

「あ、この子可愛い」

 

目についたのは、なんかやる気のなさそうな目をした子猫。……なんか、誰かに似てる。誰とは言わない。

 

「毛もふわふわだし、この子大人しいし可愛い」

「なんかすげぇやる気のなさそうな目をしてんな」

「そう?でもそれも可愛いじゃん」

 

俺は、なんとなく那須の将来が不安になった。

 

 

気がつけば時間になっていた。だから帰ることにした。

 

「今日はありがとうね、比企谷くん」

「いや、誘ったのは俺だ」

「それでも。また行こうね」

「まぁ」

 

そんなこんなで那須邸到着。

 

「じゃあ、またね。今日は楽しかったよ」

「……那須」

「なに?」

「お前の人生は、これからも楽しいことがあるだろうぜ」

「?」

 

そう言って俺は立ち去った。

ちなみにさっきのセリフは俺が訓練生の頃に迅さんに言われたセリフだ。

 

ーーー

 

「ふぅ」

「お疲れ様、比企谷くん」

 

振り返ると、そこには佐々木さんがいた。

 

「どうだった?玲ちゃんとのデートは」

「デートじゃないっすよ……。ま、たまにはいいんじゃないっすか?」

「うーん、捻デレ」

「佐々木さんも言わないで下さいよ」

「事実でしょ」

「はぁ……」

 

どいつもこいつもなぜ俺を捻デレだというのだ。捻くれてはいるがデレてはいない。

 

「まぁ、佐々木さんもお疲れっした」

「僕は料理してただけだから特に疲れてないよ」

 

そこそこ量作ったと聞いたが、まぁこの人は料理が趣味だからな。

 

「さて、小町も今日那須んち泊まるから晩飯どーすっかなー……」

「あ、僕の家来ない?なんか作ってあげるよ」

「え、いいんすか?」

「うん」

「じゃ、お言葉に甘えて」

 

そうして俺はその日、佐々木メシにありつき佐々木ハウスに泊まったのだった。

 

 

比企谷と別れて那須は家に上機嫌に入った。彼女は病弱であるためあまり外出できないのだが、今日は体調がよくしかも師匠である比企谷と二人で外出できた。彼女にとってそれだけで思い出に残る日になった。

 

(また一緒にお出かけできるかな)

 

上機嫌なまま部屋に入ると

 

破裂音と紙吹雪が舞い散った。

 

『玲(那須先輩)!誕生日おめでとうー!(ございます!)』

 

そこにいたのは自隊のメンバーである熊谷、日浦、加えて比企谷の妹の小町、比企谷隊のオペレーターの横山だった。

 

「え?くまちゃんに茜ちゃん。それに小町ちゃんに夏希ちゃんも……。どうして?」

「ふっふーん。今日はサプライズで玲の誕生日パーティーを用意してたの」

「ハッチとデートしてる間に玲のお母さんに許可とって準備してたんだー」

「那須先輩をびっくりさせようと思いましてねー」

 

思い思いの事を語るメンバーを目の前に那須は状況についていけなくなっていた。

 

「え、だってくまちゃん達みんな今日用事あるって……」

「これを用意するって用事があったからね」

 

なに食わぬ顔で熊谷は述べる。そして彼女らの前には『誕生日おめでとう』とホワイトチョコで書かれたチョコプレートの乗ったケーキやその他にも美味しそうな料理が並んでいた。加えてよく見たら部屋にも簡易的ではあるが装飾まで施してある。

 

「この料理は……」

「あ、これはあたしとくまとサッサンで作った」

「装飾は私と小夜子先輩と小町ちゃんでやりました!」

 

どうやら知らぬ間に佐々木さんまで協力してくれたらしい。

 

「玲がいたら準備できないでしょ?だから比企谷とのデートに行っててもらったのよ。玲にとってはそれが一番のサプライズだった?」

「もう、冷やかさないでよくまちゃん。……みんな、ありがとう!すっごく嬉しいわ」

「よかった。んじゃこれ誕プレー」

「これあたしからー」

「あ、私はこれです!」

「小町のもありますよ」

「わぁ、ありがとう」

『あ、私のもありますよ』

 

志岐だけは相変わらずパソコン越しではあるが、しっかりプレゼントは用意してくれたようだ。

 

「あとこれはサッサンからでー、これはハッチから」

「え、比企谷くんのもあるの?」

 

みんなからのプレゼントを開封してお礼を言ってる最中に横山から想いもよらぬ言葉に少し那須は固まる。まさか比企谷に加えて佐々木までプレゼントを用意してるとは思ってなかったようだ。開けてみると佐々木のは写真立てだった。以前にチームで撮った写真が入っている。那須にとってとても嬉しいプレゼントだった。そして比企谷のプレゼントを開封する。

 

「これは……」

 

入っていたのは天然石のブレスレットだった。ついてる石は、ムーンストーン。6月の誕生石だ。

 

「へぇ、比企谷にしてはいいの選んだじゃん」

「お兄ちゃんの割にはいいセンスしてますね」

「これ……」

「あ、気づいた?それ、玲とのデートの時に買ったやつだよ。ハッチさ、多分どっかでトイレ行ったっしょ」

「うん」

「その時サッサンと落ち合う約束してたの。そこでサッサンに買ったプレゼント渡して、なに食わぬ顔で戻ったってこと。ハッチもサッサンもあたしもこのサプライズに参加するって決めたの昨日だから。あ、サッサンはもうちょい前かな?だからプレゼント買ってなくてね。あたしとサッサンと小町ちゃんは午前中に、ハッチはデート中に買ったの」

「そうだったんだ……」

「あ、それと」

「?」

「ムーンストーンの石言葉は、『健康』だってさ。ハッチは『健康じゃねーと指導できないだろ』って言ってた」

 

気を使ってくれたというか心配してくれた、ということだろう。比企谷は基本どうでもいい人間には気を使わない。だから少なくとも自分がその類の人間でないことに那須はとても嬉しい気持ちになった。

 

「んじゃ、玲のデート中のイチャイチャ話は夜に聞くとして、サッサンが作ったご馳走食べよ!」

「賛成!」

「小町もお腹空きました!」

「早く食べましょう!」

 

わいわい騒ぐメンバーを見ていると、熊谷が近づいてくる。

 

「ごめんね玲。騙したりして」

「ううん。私としてはこっちの方が嬉しいもん」

「そう?よかった」

「くまちゃん」

「ん?」

「ありがとう」

「いいえ。じゃ、食べよ」

「うん」

 

そしてそのまま、少女達の宴は夜まで続いた。

 

***

 

おまけ

その夜の話

 

その夜、横山、熊谷、日浦、小町は那須の家に泊まった。そして時刻は深夜。そしてその年代の女子が集まって夜中にやることなど決まっている。

 

「よし、恋バナしよ」

 

恋バナである。

 

「夏希がそんなこというとは思わなかった」

「夜でみんなでパジャマパーティーの時にやることなんて恋バナ以外ないでしょー。つっても、大体は玲の話聞いて終わりかもだけど」

「え、私?」

「うん。今日のハッチとのデートどーだったの?」

「え、言わなきゃダメなの……?」

「せっかくあたしがハッチを脅は……説得してデート行かせてあげたんだから、それくらいの報酬あってもいいんじゃない?」

(今夏希脅迫って言った……)

 

密かに熊谷が戦慄していたことを知る者はいない。

 

「ほらほら〜玲話しちゃいなよ〜」

「くまちゃんまで……。わかった。話すよ」

「おおー!お兄ちゃんがどんなことしたのか聞けますね!」

「まず最初は……

 

ーーー

 

で、最後に家まで送ってもらったの」

「お花畑だね」

「お花畑だ」

「お花畑ですねー」

「お花畑です」

『お花畑ですね〜』

 

満場一致でお花畑だった。そのことに僅かに頬を染める那須。

 

「私のはもういいでしょ。くまちゃんとかは好きな人とかいないの?」

「私?ん〜……」

「ホラ、タイプの人とかでもいいから」

「そーいう夏希はどうなのよ」

「核兵器なめんな」

「アッ、ハイ」

「茜や小町ちゃんや小夜ちゃんは?」

「私達は特には……」

『那須先輩、私が男性全般ダメなの知ってますよね?』

「小町も特には……。というかそんな人の話してるの兄にバレたら面倒です」

 

相変わらずのシスコンぶりに彼女らは軽く引いた。

 

「あ、くまサッサンとかは?」

「なんで?」

「よく指導受けてんじゃん」

「それだけでなんでそーなるのよ」

「じゃあタイプかタイプじゃないかだけでもさ」

「うーん……」

「くまちゃんはどんな人がタイプ?」

「そんなこと言われてもね……」

「じゃあ顔がいいか性格がいいかでは?」

「うーん、性格?」

「明るいか大人しいか」

「……大人しい?」

「頼りになるかならないか」

「………頼りに、なる?」

「勉強できるかできないか」

「そりゃできる」

「サッサンビンゴじゃん」

「そーいうのじゃないから……。まぁ、タイプではあるかなー」

「「「「おお……」」」」

「なによその反応」

「いやー」

「なんでもー」

「じゃ、もう遅いしそろそろ寝よう」

「そうですね。私も眠くなってきました」

「小町はまだいけますけどねー」

「寝よ寝よ。おやすみー」

 

女子が集まって夜中にやることといえば大体恋バナである。




一応言っておきますが、くまのアレはサッサンへのフラグではありません。これ以上恋愛要素ふやしたら作者が死にます。じゃあなぜ書いたかといいますと、恋バナのとこ書きたかったのでサッサンに犠牲になってもらっただけです。
あと前話の感想で総評が見たかったという感想を多数頂いたので書いてみました。すごく長いですけどよければ読んでください。

次回ははるのんでてきます。

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