キャラ崩壊が…
令呪に僅かながらの魔力を流すと、カチリと何かが噛み合い、パスが繋がる。
そして、その令呪に繋がるパスの方向に顔を向けると、
「むぅ、
妙に高飛車な態度を取る、金髪赤目の小柄な少女が霊体化する。
年は10歳くらいだろうか?
何処となくあの慢心の権化たる英雄王の様な雰囲気を持つ少女だ。
そして、少女は士郎が問いを投げかける前にビシリと指をさすと可愛らしい声で、士郎に命じた。
「我はお腹が空いたぞ! 早くご飯を持って来い!」
「いや、その前に君は一体ーー」
だが、彼女はそんな士郎の言葉に耳を傾けず、更に驚愕の言葉を発する。
「この英雄王たる我の勅命だぞ。光栄に思え雑種!」
英雄王。エイユウオウ。えいゆうおう。えーゆーおー。AUO。
この少女が、英雄王。
「はぁぁぁあ⁉︎ なんでさ‼︎」
だから、朝早くから自室で大声を上げた士郎は悪く無い…筈だ。
「はあ、朝から不幸だ…」
早朝から大声を出したために叩き起こされ、機嫌の悪いセラに問答無用で家から叩き出された士郎は、制服姿で公園のベンチに腰掛ける。
ノックも無しにいきなり部屋に入られた時はさすがに肝が冷えた。
英雄王だという少女が奇妙な程に気が利き、咄嗟に霊体化する事で事案が発生する事なく事無きをえた。
そして、制服に着替えさせられ家から放り出された士郎は霊体化したままの英雄王を連れてコンビニへと入り、今へ至る。
まだ、時間は6時前。空は薄暗く肌寒い。
そして、士郎を悩ませるもう1つの悩みは…。
「ううむ…。この、めろんぱん? という奴はなかなかに普通なたべものであるな」
はむはむと、士郎の隣で小動物の様に両手でメロンパンを掴み頬張っている少女である。
「じゃあ、食うなよ。人類最古の英雄王様」
士郎は食べ終わったおにぎりの包装をポケットに突っ込みながら皮肉る。
「何を言う! きさま、この我からごはんを奪う気か⁉︎ いかに、強者と認めてやった奴とはいえ、許容出来ぬ事もあると知れ!」
「いや……。もう何でもいいや」
はぁ、とため息1つ。チラリと横目で満面の笑みで公園に来る前に寄ったコンビニの袋から新たに取り出したクリームパンに齧りつく英雄王を見る。
いや、英雄女王と言うべきか?
彼女によれば、この世界は自分たちの元いた世界の並行世界で、開きっぱなしだった王の財宝の中から運良く世界移動の宝具が溢れ、発動したらしい。
彼女も良くわかっていないそうだ。
遠坂辺りが聞いたら発狂しそうな適当具合である。
「はあ、こんなのが英雄王だなんて…。とてもじゃないが、想像出来ないよなぁ…」
「む? 失礼な奴だな。この王たるふうかくをまとうに相応しいのはてんじょーてんげ、この世のすべての中でも我しかおるまい?」
えっへん、と薄い胸を張る英雄王の姿は、どう見ても背伸びをしたいお年頃な少女そのものである。
「まぁ、確かにおとなであった時はいささか傲慢が過ぎたがな。それは我も反省していない事も無いな。許せよ、雑種」
ぽんぽんと英雄王は項垂れる士郎の頭を軽く撫でる。
「はぁ」
これが、あの慢心の王そのものであったのなら、記録の様に敵意を持って相対する事が出来たのかもしれない。
だが、目の前にいる少女は少し生意気が過ぎる少女そのものなので、士郎としてもあまり強く出る事が出来ないでいるのだ。
「ううむ。我はこのくりーむぱんとやらがいたく気に入ったぞ! 雑種、もう1つ献上せよ!」
「メロンパンはダメでクリームパンはいいのか? あと、雑種はやめてくれ」
「このくりーむぱんは金色が入っているではないか! 王たる我が食べるに相応しいとは思わぬか、しろうよ?」
雑種はやめてくれとものは試しと言ってみたがあっさりと受け入れられて少々驚く。
「やけに素直だな。お前、本当にあの金ぴかか?」
「我は強者と認めてやった者には寛大なのだ! あの器の小さき大人と一緒にするでない!」
「仮にも自分自身だろう…。いや、だからこそ色々と思うところがあるのか? まあ、いいか」
「うむ! 細かい事をあまり気にするな、ハゲるぞ!」
「わかったわかった。あと、クリームパン買ってやるからいちいち声を張り上げないでくれ」
「おお、そうか! っ…いや、そうか。感謝してやろう」
「素直でよろしい」
英雄王の頭を撫でると士郎はもう一度コンビニへ行こうと立ち上がるが、ふと今まで流してきた事を聞こうと後ろを振り向く。
「なぁ、ところで英雄王」
「なんだ? そてと、我の事は名前で呼べ。許可してやろう」
「ああ、じゃあギル。お前と契約している事もそうだが、お前はなんで子供に、それも女の子になってんだ?」
「なに?」
士郎の質問が理解できないギルはきょとんとした表情を浮かべるが、次の瞬間ああ、と納得した表情に変わる。
「ふふふ。しろうも我のますたーとしてはまだまだであるな。契約は、あの空間で、双方が生きたいという本能に従い行ったから。我がこの姿になっているのは、そういう宝具のせいだ。若返りと女体化だな」
さも当然とばかりに言い切るギルに、士郎はああ、こいつはこういう奴なんだな。と納得してしまう。
「なんかもう考えるのもバカバカしくなってきた…。コンビニに入る時はちゃんと霊体化しておけよ。こんな早朝から幼女を連れ回してるなんて下手したら通報されかねない」
「あいわかった! さて、それではこんびにとやらに再び参ろうぞ!」
ぱたぱたと走っていくギルの背中を見ながら士郎は少し微笑んだ。
「まぁ、なる様になるか。この世界でも、オレはきっと正義の味方を張り続けてみせる」
思い出すのは、この世界では未だに存命な養父との月下誓い。そして、剣の荒野にてあの弓兵に宣言した自分自信のあり方だ。
「だから、きっと守れなかったイリヤだって、他の人達だって守ってみせるさ」
士郎はそう、誰に向けるでもなく呟く。
「おーい! しろう、早く来い! くりーむぱんが待っているのだぞー!」
「わかったから、叫ぶな。近所迷惑だろ」
そうして、士郎は小走りにギルの後を追いかけた。
幼女ギル様を描いてみたかったがための小説ですし。おすし。
そして、漂うこのやっちまった感。
最早誰? ってかんじですね。ハイ
まぁ、後悔はしていない(キリッ