踏み出す一歩   作:カシム0

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一年以上放置ごめんなさい。
筆が乗って前話の最後に八幡の変な独白入れちゃったもんだからどうしようか悩んでまして。
プロット大事。でも考えながら書いてるからあんまり重視してません。

じゃあどうぞ。


✕✕✕の考え休むに似たり

 ある日の奉仕部。普通の部活なら引退とかあるんだろうが、奉仕部にそんなものはない。なんというブラック部活。

 さておき俺も雪ノ下も由比ヶ浜もそれぞれに時間を過ごしていた。読書、紅茶、お喋り。いつも通りだ。

 だが、この後の出来事を知る俺としては気が気でない。覚悟はしていたつもりなんだがどうにも落ち着かない。

 

「比企谷くん。いつも異常なのに今日はいつも以上に異常ね」

「お前な。文章で読まないとわからないような罵倒してくるんじゃねえよ。ほら、由比ヶ浜(アホの子)がよくわからず混乱してるじゃねえか」

「副音声が聞こえてくるようだわ」

「え、え? ゆきのんの発音が、えっと、とにかくヒッキーがあたしをバカにしたのはわかった!」

「おいおい、そりゃ濡れ衣ってもんだ」

 

 態度に出ていたようで雪ノ下には見透かされていた。由比ヶ浜はいつもどおりで何よりだ。そのままアホの子でいてくれ。

 

「それで、どうしたのかしら」

「ヒッキーがソワソワしてるのはわかるよ、それくらい」

「む、まあそりゃそうか。自分でもおかしな動きしてる自覚はある」

 

 時計を見たり扉を見たり、チラチラ目線が動いてりゃバレるというものだ。

 

「そろそろだと思うんだが」

「下校時刻まではまだもう少しあるわよ?」

「誰か呼んでるの?」

「ああ。ちょうど来たみたいだ」

 

 廊下から姦しい声が聞こえてくる。よく聞き慣れた二人の少女の声だ。

 

「こんにちわーっ!」

「お邪魔しまーすっ!」

 

 元気というより喧しい。我らが生徒会長一色いろはと我が最愛の妹比企谷小町である。

 勝手知ったるとばかりに椅子に座り込んでくる。

 

「いらっしゃい一色さん、小町さん」

「もう生徒会の仕事終わったの?」

「今日は早めに切り上げちゃいました」

「珍しくお兄ちゃんからのお呼ばれなので」

「ヒッキーの?」

 

 そう。いつもいつも呼んでいないのに現れるこの二人だが、今日ばかりは俺が呼び出している。

 必要な四人が揃ったので、俺も行動を開始しなくてはなるまい。

 

「ヒッキー、小町ちゃんたち呼んだの?」

「ああ。奉仕部への依頼があってな。二人とも来てくれて助かる。依頼人呼んでくるから待っててくれ」

「あ、ちょっと先輩」

「珍しいこともあるものね」

 

 確かに、珍しいだろう。俺が奉仕部に入ってから自ら依頼人を連れてくるのは、戸塚以来か。雪ノ下は一度もないが。

 四人の視線に送られ、俺は奉仕部を後にする。

 そして、深呼吸を一つ、二つ。覚悟を決めろ。

 そして、ガラリと扉を開ける。

 

「いらっしゃ、あれ、ヒッキー?」

「お兄ちゃん、依頼人ってもしかして」

「ああ。俺だ」

 

 四人揃った段階でその場で相談を始めればよかったのだが、様式美は必要だ。というか、俺の決心がか。

 

「面倒な真似をしてまでの相談、ということかしら?」

「ああ。俺では手に余る問題なんでな」

「それこそ両手では足りないほどありそうだけれど」

 

 そりゃそうだろうが、本当に困ってるんだ。本気で助けを求めている。

 一色と小町が空気を読んで雪ノ下と由比ヶ浜の隣に座ってくれたので、俺は相談者の定位置、彼女らの対面に座る。

 面接はこのような感じだろうか。そういやそろそろ受験対策が、と現実逃避しそうな意識を保ち、意を決して、俺は口を開いた。

 

「友達の女子中学生に好かれているんだが、俺はどうしたらいいだろうか」

 

 俺が俺からこんな質問を受けたら、頭を心配するか、病院へ行けと言うか、蹴り飛ばすかだろう。

 俺のことをよく知る彼女らなら同様のことをしてもおかしくはない。

 だが、思いの外沈黙が続いた。

 

 

 

 

 

 沈黙を破ったのは、雪ノ下だった。

 

「あなた、自分が何を言っているのか、わかっているのよね?」

「ああ。この上なく正気だ」

「異常者は自分を正気だと思い込んでいるものと聞くけれど」

「同感だが、正気だ、と思う」

 

 実際のところ、俺が変な勘違いをしているだけならば俺がベッドに潜って身悶えすればいいだけなので問題はない(問題しかない)。現実なのが問題だ。

 

「とりあえず、現状の説明をさせてもらっていいか?」

「あ、えと、あの……女子中学生って留美ちゃん、のこと?」

「そうだ。留美とのあれこれだ」

「あれこれ……」

 

 何やら慌てた由比ヶ浜がアワアワ言っている。

 対象的なのが小町と一色だ。何夢見ちゃってんですかぁ、とか言いそうなものなのに。

 

「まずは先輩のお話聞きましょうよ雪乃先輩、結衣先輩」

「え、ええ、そうね」

「う、ん。聞く」

「それじゃお兄ちゃん、どうぞ」

「ああ。と言ってもお前たちも知ってることなんだが」

 

 そうして、俺は留美が如何に俺に好意を抱くかに至った経緯を話す。自分でも馬鹿らしいとは思うのだが。

 

 

 

 

 

 まず、今年始めに留美が総武高校まで来て、俺を名指しで相談に来た時だ。あの辺りで懐かれているとは思っていた。

 年度が変わってしばらくして、お前たちも知ってるニセコイの相手に俺を選んだのは、まあ同じ学校の生徒には頼めないだろうし、学校が違えば詮索されることはないだろうし、俺くらい離れた関係なら迷惑かからないだろうから俺を選んだのだと思っていた。

 そしてこの間の体操の大会の応援。あれだってお前たちがいたし、晴れ姿を見て欲しかったからだと、そう思っていたんだ。

 

 

 

 話してしまえばこれだけのこと。聞かされた彼女らもどういう顔をしていいのかわからない様子。

 だろうな。俺だって説明不足だと思う。

 

「あの、お兄ちゃん? それだけだと、ただの勘違い野郎なんだけど」

「ああ。他にも夜に電話したり、外で会った時に一緒に遊んだり、色々ありはしたんだが」

「電話してるんだ。わたしもしたことないのに」

「いろはさん、そういうのは後にしましょう」

「まあ、なんだ。俺がそう思ったのにはちゃんとわけがある」

「無駄にもったいぶらないでさっさと吐きなさいな。楽になるわよ?」

「尋問かよ。いや、そうなるのを恐れているというか」

 

 これ話すとお前らの視線が怖くなりそうでためらっていたわけで……ええい、話さねばならんか。

 

「さっき言った演劇とかニセコイとか大会とかの時に、な。まあ、その、何だ……キスをせがまれて

「ん、ん? 聞こえなかったです。もう一回大っきな声で言ってもらえません!?」

「いや、そこまでちっさくなかったろ」

「比企谷くん。もう一度、みんなに聞こえる、大きな声で、言ってもらえるかしら」

 

 ふえぇ、怖いよぉ。

 くそ、ぜってえ聞こえてたろ。幼児退行しても解決するわけじゃなし、改めて、覚悟を決める。

 

「ええと、だな。最初は演劇見た帰りの公園で、次はニセコイデートの帰りの喫茶店で、大会の時は体育館の裏で」

「で? 三回も何をしたって、お兄ちゃん? 回答次第では小町の右ストレートが火を吹くよ」

「……キスをしてくれと、言葉にされたわけじゃないが。それで、した」

 

 沈黙。

 遠くから聞こえる賦活の喧騒、吹奏楽の楽器の音色、ガタガタと震える机、って雪ノ下の持つカップが震えて、いや由比ヶ浜と一色のもだ。それぞれが震えているから机まで揺れてやがる。

 ああ、なんだ。俺の命日は、今日なのか。

 俺がガクブル震えているのを救ってくれたのは、やはり最愛の妹、小町だった。

 

「……ふう、落ち着きましょう皆さん」

「え、で、だ、だって、ヒッキーが留美ちゃんと、キ、木、気、キスしたって。天ぷらのキスじゃないよね」

「由比ヶ浜さん、天ぷらをするっておかしいわよ。天ぷらは揚げるものであって」

「雪乃さんも落ち着いて。よく考えてください。お兄ちゃんですよ? ゴミでヘタレでおなじみのゴミいちゃんですよ?」

「ちょっと、小町ちゃん? ひどくないかね」

「お兄ちゃんは、いやゴミいちゃんは黙ってて」

 

 言い直さなくても合ってたよ?

 

「キス、キズ、傷物にしたとか」

「ああ、それなら……ギルティ」

「いや、聞き間違いじゃない。俺は留美と、キスした」

 

 再度沈黙。

 カップとソーサーが触れるカチカチとした音がして、全員が紅茶を飲む。

 俺も自分の湯呑に手を伸ばそうとしたが、睨まれてやめた。誰にって? 全員にだよ。

 

「そ、そうなのね……比企谷くんが、留美さんと、キ、キッスを、接吻を、ベーゼをしたと、そういうのね」

 

 いや、言い換えなくても。

 やはり、全員が可愛がっている留美と俺がそういうことをしたと聞けば、冷静ではいられないのだろうが。問答無用で殴られないだけマシなのだろうか。

 

「いや、まあ、キスと言ってもおでことか鼻とか顎とかなんだが」

 

 またもや沈黙。そして、

 

「「「「それを早く言(いなさい)(ってよ)(ってくださいよ)(いなよ)!!!!」」」」

 

 ハモって怒鳴られたのだった。

 

 

 

 

 

 空になった紅茶を入れ直し、一息つく。

 

「それで、先輩は留美ちゃんのおでこや鼻や顎にキスをしたと、そういうんですね?」

「ああ」

「普通のキ、キスとは場所が随分違うけど、何か理由があるの?」

「それは……その話の前に、留美のプライバシーにかかることなんで確認なんだが、お前たちって留美の抱えてた問題ってどれくらい聞いてるんだ?」

 

 俺だけならいくらでも話していいが、家庭環境とかが絡んでくることもあり、話していい部分とそうでない部分がある。

 

「ご両親と真希ちゃんとギクシャクしてたってことなら本人から聞いてますけど」

「本音で話せなかったとか、そういったことは聞いてるよ」

「ん、なら大丈夫か。最初の演劇見終わった帰りの公園で、親御さんとちゃんと話してこいってアドバイスしたんだが、その時に勇気が出ないからちょうだいって言われてな」

「言われて、留美ちゃんどうしたの?」

「あー、まあ、いわゆるキス待ち顔っていうのか? 目をつむって顎を上げてたんで。その時におデコに」

「ムードバッチリ雪のちらつく公園で留美ちゃんのキス待ち顔……よくお兄ちゃん堪えられたね。小町なら唇奪ってると思う」

「うん。あたしも」

 

 小町なら冗談交じりなんだが、百合ヶ浜もとい由比ヶ浜が言うとガチっぽく聞こえる。

 あ、雪ノ下も妙な顔して由比ヶ浜見てるな。ひょっとしてあいつら、すでにしてるんじゃなかろうか。

 

「比企谷くん? 何か言いたそうね」

「そりゃあるぞ。当時小学生にキス迫られたからって応じるほどバカじゃない。というか、仮にも年長者としてキスしちゃダメだろ。だから、昔小町としたみたいなキスになったわけだ」

「正しいと言えば正しいのだけれど、比企谷くんが言うと間違っているような」

「お兄ちゃん、ここで小町とのキスを言うのは、小町的にないわー」

「わたし的にもないんだけど」

「正直言えば、多分唇にしても怒りはしなかったとは思う」

「ダメダメ! ダメだよヒッキー!」

「お、おう。ダメだよな」

「あ、うん」

 

 由比ヶ浜の過剰な反応にまたもや沈黙。話す内容が内容なのでごたつくとは思っていたが、これほど話が進まないとは。

 

「それで、ニセコイデートの帰りの喫茶店だが、ぼやかしてはいたけど真希とすれ違ってたみたいでな。相談に乗ったんだが、その時もまた勇気が欲しいとか言って」

「喫茶店、ですよね。人目につくところでしたんですか?」

「俺もそれ言ったんだけど、そしたら留美が机の下に潜って顔出してきて、これならばれないからって」

「留美ちゃんが机の下から顔を出してきてキス待ち顔……よく堪えたねぇ。小町は嬉しいよ」

「お前は俺の何なんだ」

「妹だよ」

 

 そうだよ。かわいい妹だったよ。あ、そういや、これも言わなくちゃか。

 

「それでその後、お礼とか言って頬にチュッとな」

「ほ、ほぉー、ひっぱたかれたにしては変わった擬音ですねぇ」

「どう聞いたらチュッがビンタになるんだよ。留美からキスされたんだよ」

「……ですよね」

 

 一色の様子もおかしい。というかみんなおかしい。動揺しすぎだろう。俺が聞いたって動揺するだろうけども。

 

「んで、大会の後なんだけど」

「ああ、それはわかったよ。今度は顎でいいかって、そういう意味だったんだね」

「我ながらアホなこと言ったとは思うが」

「そういや、遠目だったけど、留美ちゃん顎に手をやってたよね」

「ですね。真希ちゃんから聞いて想いを馳せてたんですね……うらやましい

「え?」

「コホン。いえ、何でも」

 

 やめろ。俺は難聴系主人公じゃないんだ。聞こえるんだよ、小さく言っても。俺が混乱する要素を増やさないでくれ。

 

「んで、そん時もお礼にってな」

「留美ちゃんから二回目の、ほっぺたですよね!? まさか」

「お、おう。ほっぺただよ」

 

 なんで一色はこんなに当たりが強いんだ。いや、なんとなくわかっちゃいるんだが、落ち着きがなさすぎる。

 と、あれやこれやを言ったが、さすがにレオタードのことは言えないな。小町にも内緒にしていたようだし、状況が際どすぎる。

 

「そういやお兄ちゃん、留美ちゃんが家に来たと「まあ、そういうわけで、留美は俺のことを好きなんだろうと思ったわけだ」」

 

 危ねえ。小町がいらんこと言いそうになった。チラと見ると、把握してくれたようで何より。さすがにあの経緯は言えない。

 

「お前たちも知ってる通り、留美は賢く優しく芯が強い。そんな女の子が、軽い気持ちで男にキスをねだったりしないだろう?」

「……そう、ね。尻軽の男を弄ぶ悪女なんて留美さんの対極に位置する存在でしょうし」

「全くの同意なんですけど、先輩も雪乃先輩も留美ちゃんのこと好きすぎでは? わたしも大好きですけど」

 

 留美がとっても良い子なのはこの場にいる誰もが知っている。

 そんな子のアプローチだ。本気でないはずがない、と言うのが、俺が留美の気持ちを自覚するに至った理由である。

 

「思ったより積極的だったなー、留美ちゃん」

ふくへーがすごすぎた。あたしも、もっと、ちゃんと

 

 由比ヶ浜が何やら頭を抱えているが、さておいてだ。

 

「というか先輩。留美ちゃんに告白されたわけじゃないんですよね」

「お、おう。生まれてこの方されたことないが」

「ん? それじゃお兄ちゃん。どうしたらいいって、お兄ちゃんはどうしたいの?」

「それが依頼なんだよ」

 

 告白されてもないのにどうしたらいいのか、なんて気の早すぎる話ではある。だが、この後の俺の行動はどうするのが正解なのか、そこがわからない。

 

「……比企谷くんは、その、留美さんの気持ちに気づいて、これから留美さんとどう向き合えばいいのかわからない、と。こういうことでいいのかしら?」

「そんな感じ、かな。正直な話、留美みたいな可愛いいい子に好かれて嬉しい。だけど留美と付き合いたいかというとよくわからん。一緒に遊ぶのも話していても楽しいのは間違いない」

「だったら付き合っちゃえばいいじゃんて、同級生の子なら言うとこなんだけど、うーん」

 

 小町が視線を由比ヶ浜と一色に向けると、二人は首を横に振った。何をしとるんだ、あいつらは。

 

「交際する意味で付き合うってのがどういうのかわからないってものあるが、そもそも俺が留美に抱いてる気持ちってのが小町と似た感じなんでな」

「小町ちゃんに、っていうと妹感覚?」

「そんな感じ」

「先輩? わたし前に言いましたよね?」

「覚えてる。妹扱いされて喜ぶ女の子はいない、だろ。とはいえ、年も離れてるし」

 

 同年代と付き合ったほうがいいとか言える立場じゃないし、俺みたいなやつ留美にはもったいないと思いはするが留美が決めることだ。

 

「告白されてもないのに考えることでもないと言えばその通りなんだが、これから留美とどう向き合えばいいのか、わからなくてな」

 

 気づかないふりしてこれまで通り付き合うのも不誠実だし、留美に俺のこと好きなのかと聞くのは馬鹿のすることだ。

 

「俺とは違ってお前ら異性に好かれた経験あるだろう? 告白されてないのにそのことに気づいたらどうしてるんだ?」

 

 雪ノ下は自分でも言っているが何回か告白された経験がある。由比ヶ浜は知らないが男子に人気がある。一色も同様。小町は……いてほしくないが俺と正反対でこれだけ可愛いのだから何某かの経験があるだろう。

 彼女らならば、俺の悩みに適正な意見を言ってくれそうな気がしたのだ。そもそも他に相談できるやついないし。

 

「どうとも思ってない人からそう言われたら、よく知らないから友達から始めましょうって言うところだけど」

「そもそも告られてないし、留美ちゃんが好きなのは間違いないし」

そもそもお兄ちゃんが異性に好かれた経験ないってのが、またちょっと

だよね。ここにいるみんな※♯♭

 

 だから、内緒話しても聞こえるんだっつの。最後の方は聞こえなかったけど。

 

「え、ええと、その、比企谷くんが留美さんに仮に、仮によ? その、告白されたとしたら、どうするのかしら」

 

 雪ノ下の言葉に他の三人が弾かれたようにこちらを見た。急に動かれるとビックリするんだよ。

 

「……正直、わからん。一色が言ったように俺が留美を好きなことは間違いないし、嬉しいのは間違いない。あんだけ可愛くていい子はそういない」

 

 断って留美と縁が切れるのは考えたくないし、付き合っていたら気が変わることもあるかもしれん。よく聞くお試しで付き合うなんてのも、誠実さに欠けるとは思うが、そういう形で付き合ったとして不幸になると決まったわけでもない。

 今現在の気持ちとしてわからんとしか言いようがない。

 

「じゃ、じゃああたしやゆきのんやいろはちゃんが……あ、ごめん。やっぱやめとく」

「お、おう」

 

 由比ヶ浜が意を決したように口を開くが、やめる。何を言いたかったのか気にはなるが、由比ヶ浜の顔を見るに聞かないほうがいい気がする。

 みんなして悩んでいる。俺が相談されたなら、告白されてから考えろと言うところだ。

 だが、いや、しかし……。

 無責任な解答を出したくはない。留美の信頼を裏切りたくはない。留美に慕われる俺でいたい、というのも間違いではないはずだ。

 この場の全員が頭を抱える。

 しばし沈黙が続く。

 そして、小町がいきなり立ち上がり、

 

「ブレイク!」

 

 と、手を交差して叫んだのだった。

 

 

 

 

 

 女子だけで話すからお兄ちゃんは席を外して、と告げ外に追い出す。

 お兄ちゃんに聞かせられないことを話しながらでないと、この相談は解決しない。

 

「とりあえず、結果が出たらお兄ちゃんを呼び戻すとして、どうします?」

「これは、そう簡単に答えを出せませんよ」

 

 みんな悩んでいる。小町はお兄ちゃんの人間関係が進歩したと喜びたいところではあるけれど、他のみんなも大好きなのだ。だから、誰も傷つかない答えが欲しいけど……無理だよなぁ。

 

「全くお兄ちゃんは、なんでみんなにこんなこと相談するかな」

「先輩はわたしたちが先輩のこと好きだって知らないもん」

「このような相談をするくらいには信頼されている、と考えていいのかしらね」

「それがいいこととは、あたしには思えないけど」

 

 結衣さんがちょっと凹み中。さっきのあれか。

 

「結衣さん。さっき言いかけたのって」

「うん。ごめん。あたしやゆきのんやいろはちゃんがヒッキーを好きだって言ったらどう思うのか聞こうとした。反則だよね」

「反則というか、留美ちゃんに乗っかった気がしてズルい感じはします」

「だよね。もう言わない」

「そもそも私は……いえ、それも卑怯よね」

「小町的には、恋は戦争なのでありと言えばあり……いや、うーん」

「だ、大丈夫。もう言わないから」

 

 今の幼稚園のかけっこみたいにみんなで仲良くゴール、敗者はいません、とはいかない。結衣さんが言い出したとして混沌とするとは思うし、お兄ちゃんがどう思うのかはさて置いて、意識させる手段としてありと言えばあり。

 競争だけどスポーツじゃないんだから、スポーツマンシップに則り正々堂々としなくてもいいけど蟠りは残る。

 全く知らない人ならともかく、みんながみんなのこと大好きなんだからややこしい。

 誰しもが納得する結末迎えたハーレムマンガってなかったっけ。

 うーん。なあなあにした延長戦、誰か一人を選んだ一番現実的なの、誰も選ばず主人公が死ぬ。いやいや、お兄ちゃん死んじゃだめ。

 うん。ないな。一番人気を選んでも、最初から主人公が一人しか見てなくても荒れる時は荒れる。お兄ちゃんがスケコマシ能力上げてるのが悪い。時々小町もドキッとさせられるし。

 ……誰も選ばず妹エンド、これだ!

 

「ってわけにはいかないよねぇ」

「小町ちゃん、どうかした?」

「ああ、いえいえ。何でもないです、はい」

 

 さすがにこれはない。小町的にはありだけど、今は言えない。

 いっそ全員選べたらいいんだけど現実問題無理だし。

 

「一夫多妻制の国に移住させるか」

「小町ちゃん、さっきから何言ってるの?」

「ちょっと現実逃避を、はい」

 

 これだけ考えても誰もいい案出せないんだし、結局お兄ちゃんが誰を選ぶかなんてわからないわけだし。

 そもそもお兄ちゃんのことなんだから小町が頭を悩ませることないのでは?

 いや、お兄ちゃんからの相談なんだからお兄ちゃんが答えを出せというのは簡単だけど。

 

「あ、そうか」

「小町さん、いい加減にしておいたほうがいいわよ」

「いやいや、気づいたんですよ」

「気づいたって、何に?」

「今考えるべきはお兄ちゃんが留美ちゃんににどう対応するかで、皆さんがお兄ちゃんに告白するかどうかじゃないんです」

「こ、告白って、そんな。そもそもそういう話はしてなかった、よね?」

「最初から留美ちゃんにどう接すればいいかの話だったじゃない?」

「あ、あれ、そうでしたっけ」

 

 いけないいけない。脳内で先走り過ぎた。

 

「まだ告白されてないんだし、お兄ちゃんが留美ちゃんに告白するんでもないなら現状維持しかないですよ」

「……まあ、そうよね」

「お兄ちゃんが留美ちゃんに好かれてるのをいいことにあれやこれやするんならともかく、お兄ちゃんはそういうことしないでしょう」

「まあ、ヒッキー優しいから。そういうの嫌いそうだよね」

「そもそもお兄ちゃんが器用に振る舞えるわけないんだから、今まで通りにして告白されたらその時に考えればいいんですよ」

「それもそうだよね。別に不誠実なことするわけじゃないんだから」

 

 お兄ちゃんの知らない情報を小町たちが知っていたから相談に答えられなかったけど、結局現状維持しか手はない。

 これで、解決!

 

「でも、でもですよ。いつか必ず答えを出さなきゃいけない日が来るんです」

「そうだね。わたしにとっては、当面卒業式くらいまでには」

「そうなると、結衣さん。仮にお兄ちゃんと同じ大学に行ったとしても、お兄ちゃんには彼女がいるかもしれないんです。雪乃さんも」

「う、うん。そうだね」

「……わかって、いるわ」

「しっかりしてくださいね。最悪、お兄ちゃんは小町が引き取りますけど」

「「「それはダメ」」」

 

 ありゃ。みんなにダメ出しくらっちゃった。でも、これでなにか動きがあるのかも。

 誰もが幸せには無理でも、納得がいく結果になるといいな。

 

「ねえ小町ちゃん。あたしたちの知らない幼なじみとか、いないよね」

「ないとは思うけど、先輩の交友関係あんまり知らないしなぁ」

「いませんいません」

「……そろそろ、比企谷くん呼び戻しましょうか」

 

 ぽっと出のニューヒロイン大勝利エンドもあったか。

 

 

 

 

 

 しばらく校舎をうろついて、呼び戻されたのはいいが結局これといった答えは出なかった。

 

「まだ告白されてないんだから、お兄ちゃんは今まで通り留美ちゃんと接すること!」

「いや、本当にそれでいいのか?」

「答えのない問には回答できないでしょう? なら答えが出るまで考え続けるしかないじゃない」

「そりゃそうなんだが」

「ヒッキーはさ、留美ちゃんがヒッキーのこと好きだからって変なことしないでしょう?」

「当たり前だ」

「だったらそのままでいてください。でも、本当に留美ちゃんが告白してきたら、年の差だとか俺よりいい男がとか、そんなことで断らないでちゃんと考えてあげてください」

「お、おう」

 

 小町たちも同様だ。無駄に困らせるだけの変な質問をしてしまったか。申し訳ない限りだ。

 

「そういえばお兄ちゃん。なんでこのメンバーに相談したの?」

「それもそうですね。あてになるかはわかりませんけど、材木座先輩とか戸塚先輩とか、男性陣には聞かなかったんですか?」

「いや、あいつらは留美のことよく知らないし、それに」

「それに?」

「何となく、お前たちに聞いてもらいたかった、のかな」

「どういうことかしら」

「いや、俺にもわからん」

 

 仲がいいから、同じ女だから、とか色々あるだろうけど。

 

「お前たちのこと、信頼しているから、なのかな。似合わないこと言ってるとは思うが」

 

 多分、これが一番しっくりくる理由なのかもしれない。

 俺がそういうと、彼女らは黙ってしまい、

 

「どうした?」

「先輩、あざといです」

「何でだよ」

 

 よくわからないことを言われた。

 なんだっつーんだホントに。

 

 

 




題名の✕✕✕はヘタレでもボッチでも、童貞でも勘違い野郎でもお好きなのをどうぞ。
書いたり見てる分にはハーレムは楽しめるけど、登場人物たちには現実問題なので悩んでもらいました。
でも実際、こいつ俺のこと好きじゃね?って思ったらどうするのが正解何でしょうね。

それではまた。

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