っていうか一年以上放置って、酷いな、ホント。
交通事故、インフルエンザ、一人暮らしから二人暮らしにと、色々とありまして、はい。
今回は会話メインです。誰がしゃべっているかわかりやすいように努力はしましたが、難しかったら私の書き方が拙いせいです。ごめんなさい。
言い訳はともあれ、どうぞ。
「真希ちゃん、今日の放課後って時間ある?」
今日の部活が始まる前に、留美ちゃんがそんなことを言ってきた。
今日は、というかいつものことなんだけども、私は特に習い事とかしていないし、部活後に会うような人もいない。彼氏とかいたらまた違うんだろうけど、周りの男の子たち見ちゃうとねえ。
……八幡さんだったら、うん、まあ、会ってみたいかな。もちろん留美ちゃんと一緒にだけど。
「大丈夫だけど、どこか寄ってく?」
「駅前のサイゼなんだけど、今日私の友達に会うから、真希ちゃんを紹介したいなって思って」
「え、留美ちゃんの友達?」
留美ちゃんは学校での友達が少ない。綾瀬さんによるネガティブキャンペーンが終了したこともあって、留美ちゃんや私に話しかけてくる子が増えてきてはいるんだけど、あくまで話しかけてくる程度のクラスメイトの域を出ない距離感の遠い子たちばかり。小学校が同じ子たちも留美ちゃんを遠巻きに見ているような子が大半。
留美ちゃん自身も言っているんだけど、学校で友達と言える存在は私くらいしかいないみたい。
留美ちゃんは、本人が望むかは別にして人気者になれる要素満載のすごくいい子だ。それがぼっちめいた状況になってしまったのだから、反省はしたようだけど直接留美ちゃんに謝るまで私は綾瀬さんを許せる気にはならない。留美ちゃんが人気者になっていたら、私は今のように留美ちゃんと仲良くなれなかったかもしれないけれども。
さておき、そんなわけで私が聞いた留美ちゃんの友達というと、八幡さんの同級生だとか、後輩だとか、妹さんだとかの高校生のお姉さんたちじゃなかったかな。
「うん、私の大切な友達。すっごいいい人たちなんだ」
「私も会ってみたいけど、どうして急に?」
「学校でこんないい子に出会えて、友達になれましたって、伝えたくて」
おうふ。留美ちゃんのまっすぐな言葉に頬が赤くなりそうだ。っていうか、絶対なってる。
留美ちゃんの困った状況を知っている人たちで、八幡さんがメインで解消してくれたけど、その人たちも力になってくれて、それから仲良くしてもらっているんだったっけ。
ああ、そういえば時々色んなことを相談してるとか。
「うん、わかった。私も会ってみたいし、予定もないし大丈夫だよ」
「ありがとう。それじゃ、連絡しておくよ。それと真希ちゃん」
「ん?」
「覚悟しておいてね」
「へ?」
留美ちゃんは、にっこりと可愛らしく笑うんだけど、その意味は答えてくれなかった。え、何が起きるんだろう。
部活が終わり、私と留美ちゃんはいつもと違うルートで帰宅している。
何の覚悟をしなきゃいけないのか留美ちゃんは相変わらず答えてくれないので、心の準備はしておこうと思う。くそう。楽しそうに笑ってるし。
そんなこんなでサイゼに到着。家族で来る以外にファミレスに行くことはないし、留美ちゃんとは喫茶店にはちょいちょい行ってるけど、ファミレスは初めてだ。
時間帯からして学生が多い様子。とはいっても高校生が大半で、私たちみたいな中学生はほとんど見えない。どうして三つしか違わないのにあんなに大人っぽいのかな。やっぱりスカート丈かな?
「あ、いたいた。ほら真希ちゃん、あそこにいるのが私の友達」
「うん、どれど……れ」
留美ちゃんに指さされてみた先は、高校生が四人いた。そして驚いた、びっくりした、というかちょっと引いた。
距離はあったけど、そこにいた人たちがみんな綺麗で可愛い人たちというのが見て取れたからだ。
うわー、留美ちゃんと初めて会った時にこんなに可愛い子がいるのかと思ったけど、世の中可愛さのジャンル違いってあるんだな。
留美ちゃんがお友達のところへ腰が引けてきた私を連れていく。取って食われるようなことはないとはいえ、ちょっと緊張。
「お待たせしちゃいました?」
「ううん、大丈夫だよ。久しぶりだね、留美ちゃん!」
留美ちゃんは私たちに手を振って呼んでいた人に声をかけて席に着く。遠目で見て可愛らしい人だってのはわかっていたけど、近くで見るとこの人の体形すごいや。おっと、あんまり見てちゃ失礼だ。留美ちゃんの隣に腰掛ける。
席は六人が座れるファミリーシートだ。私の隣に留美ちゃんと、もう一人。そして対面に三人。うーん、みんないい人そうなのに圧迫感がすごい。オーラというべきか。
「この子が、私の友達の山北真希ちゃんです。同じクラスと同じ部活で、帰り道も途中まで一緒なんで、学校だとだいたい真希ちゃんと一緒にいます」
「えっと、初めまして。山北真希です。皆さんのことは、留美ちゃんからよく聞いてます」
「あ、じゃあわたしの名前とか、わかるかな?」
ペコリと頭を下げて挨拶をすると、奥に座る人がそんなことを言った。なんという無茶ぶり。あ、でもわかるかも。
茶髪で華奢な雰囲気で、全力で女の子をしていて、ちょっとあざとい感じ。うん、ぴったりだ。
「違ってたら失礼ですけど、いろはさんですか?」
「おー! 当たりだよ。わたし、一色いろは、総武高校二年の生徒会長やってます!」
ビシッとウインクしながら敬礼を決めるいろはさん。うん、あざとい。可愛い。あざと可愛い。綾瀬さんとは違って洗練されてる感じがする。
「あ、じゃあじゃあ、あたしは!?」
はいっとばかりに手を上げる、私たちに手を振っていた人。髪をお団子にしていて天真爛漫に可愛い笑顔。間違いないと思う。
「えっと、結衣さん、ですか?」
「わー、当たり! 由比ヶ浜結衣だよ」
嬉しそうに体をはねさせる結衣さん。そして揺れる揺れる。おっきいのに体のラインが崩れてないって、どうなってるんだろ。
「ここまで来たらみんな言ってほしいかなー」
「二分の一の確率だったら消去法ですらない気はするけれど」
そして私の対面に座っている人と、留美ちゃんの隣に座っている人。確かに消去法になってしまうけど、この二人もわかりやすい。というか、留美ちゃんの表現が的確。
「小町さんと雪乃さん、ですね」
「おー、正解! 比企谷小町だよ!」
「外す方が難しいでしょう。雪ノ下雪乃よ」
小柄で明るく八重歯が印象的な、どことなく八幡さんに似ている小町さん。そっか、本物の八幡さんの妹さんか、この人。私や留美ちゃんみたいな妹みたいなもんじゃない、本当の妹さん。ちょっとうらやましいかも。
そして、長くて綺麗な黒い髪、すらっとした体形、大人びた雰囲気。ちょっと信じられないくらい綺麗な人。だからってわけじゃないけど、留美ちゃんと似てる。いや年齢的には留美ちゃんが雪乃さんに似ているんだろうけど、姉妹でも通じそうなほどだ。
「さて、紹介も終わったことだし、とりあえず飲み物を取りにいかないかしら?」
「あ、サンセーです。二人が来る前にドリンクバーは頼んでおいたから、行こ?」
「あ、はい。それじゃ行こうか留美ちゃん」
「うん」
みんな綺麗で可愛い人たち。ちょっと腰が引けていたけど、みんないい人そうだ。
これからどんな楽しい時間が待っているのかと思うと、かなり楽しみだ。
少し話せば、その人の好きなジャンルのお話の傾向が見えてくる。
結衣さん、いろはさん、小町さんの三人はいわゆる女子高生的なお話が好きみたいで、クラスの子が見ているようなキャピキャピした雑誌を見ながら、ファッションとか小物を見ている。私も興味がないではないけど、ちょっと位置的にも知識的にも話に混ざるのが難しい。
雪乃さんはその話に混ざることはなく、時折話を振られて返事をするくらいだ。雪乃さんの興味は私や留美ちゃんの学校生活にあるようで、部活や勉強のことを聞かれた。
他の三人が私たちに興味ないわけじゃなくてちょいちょい話に混ざってくるけど、メインとしての傾向はこんな感じだった。
「あ、そうだ留美ちゃん」
「はい?」
「先輩とのデートのお話し、改めて留美ちゃんから聞きたいな」
不意に、いろはさんがぶっこんできたその話題に、一瞬空気が凍った。
「八幡とのデート、ですか?」
「うん。ほら、簡単な流れは聞いたけど、ちゃんとは聞いてなかったしさ。それに、私の時とどう違うのか興味あるし」
おっといろはさん、八幡さんとデートしたことあるんだ。っていうか、今の私も八幡さんとデートしたんだよって、けん制なんだろうか。留美ちゃんが言っていた八幡さんのことを好きな人が何人かいるって、いろはさんたちのことなのかな。みんな仲がいいようだけど、そこらへんどう折り合いつけてるんだろうか。
「そ、そうだね。あたしも気になるし」
「小町はみんながそれを聞いて、お兄ちゃん争奪戦が激化してくれたら嬉しいですねえ」
「この子は……、まあ、私は別に比企谷くんがどうなろうが知ったことではないけれど、留美さんに妙なことをしていないか確認するのは必要よね」
わお。結衣さんは興味津々だし、小町さんはもっと争えーみたいな顔してるし、雪乃さんは興味を隠しきれてないし。みんなわかりやすいなー。
「いいですよ。まず、お昼ご飯を済ませた後に駅前で待ち合わせました。何でかわかりませんけど、その時すっごい疲れた顔してました」
「ああ、陽乃さんに会ったって言ってたよ。あ、陽乃さんってのはね、雪乃さんのお姉ちゃんね」
「姉さんに会ったのだったら、色々といじられたでしょうね」
「あ、あはは。陽乃さんってそういうとこあるからね」
陽乃さん、雪乃さんのお姉さんか。すっごい美人さんなのは予想がつくけど、聞いている限り雪乃さんみたいなクール系じゃなさそうな感じ。うーん、いつかお会いしたいな。
「あ、そう言えばさ。留美ちゃんの格好にお兄ちゃん何か言ってた?」
「格好ですか? 今日も可愛いなとは言ってくれましたけど」
「へえ……わたしの時は何も言ってくれませんでしたけどねー」
「ヒッキーだし、思ってても絶対言ってくれなさそうだよね」
「小町には結構適当に言いますけどね」
「八幡さんだって男なんで、可愛い人の可愛い格好みたら、何か思うところはあるんじゃないですか?」
「あー、そう言えば卓球してた時とか、目線が。顔近づけると赤くなってるし」
「その浴衣いいな、は言われたことある、かな」
「似合っている、は言われたことあるかしら。あと水着の時とか挙動不審になっていたような」
「……みんな、八幡に意識されているんじゃないですか?」
八幡さんの傾向として、妹もしくは妹扱いの子には言葉に出して、それ以外の子には口に出さずとも反応はするって感じだろうか。
女として見られてないよね、これって。可愛いって言われたら嬉しいけど、留美ちゃんも複雑そうだ。……私も言ってもらえるのかな?
コホン。みんな考え込んでしまってしまったので、ここは私が話を進めなければなるまい。
「それでその後は? すぐにスポーツクラブ行ったんだっけ?」
「うん。駅前のスポーツクラブに歩いて。友達と行ったことがあるって言ってたんだけど、戸塚さんってどんな人なんですか?」
「あー、ヒッキーさいちゃんと行ってたんだ?」
「さいちゃんっていうと、やっぱり女性なんですか? 八幡が変な反応していたんで気になってたんですけど」
留美ちゃんの質問は、クールな雪乃さんですら飲み物を吹き出しそうになるほどの反応を引き出した。え、戸塚さんって人、どんな人なの?
「戸塚先輩は男の人だよ、多分。うん」
「え、と。戸塚さんって方、可愛かったりするんですか?」
「そ、それはその……何というか。小物選ぶセンスとか仕草とか……ねえ、ゆきのん」
「……本人はそこを気にしているらしいのだけど。正直言って、かなりね」
「あ、そう言えば小町写メありました。留美ちゃん、真希ちゃん。これ戸塚さんね」
「……え?」
「あらー」
小町さんが見せてくれた写メには、ぱっと見華奢で可憐な美少女が写っている。だけどみんなが言うように、男の人、なんだよね?
え、リアル男の娘?
「……八幡とは仲いいんですか、戸塚さん?」
「かなりね。比企谷くんは戸塚くんのことが大好きなようだし」
「さいちゃんもヒッキーのこと大好きだよね」
「お兄ちゃんが変な道に走りそうで心配なんだよね。でも、血迷うのもわかるレベル」
「フリーペーパーの時写真撮りまくってましたけど、あれ多分何枚か自分用に確保してますよね」
小柄で腕とか細くって色白で髪もサラサラ。うー、絶対この人私より可愛いよ。男の人に可愛さで負けるって、ちょっとショック。
留美ちゃんは、八幡さんと仲のいい恋のライバル登場、とか思ってたようで、神妙な顔をして写メを見ている。うーん、さすがにいくら可愛くても性別の壁を越えるようなことは……戸塚さんが可愛らしくて傍から見たらBLっぽさはないけども。
「そ、それでスポーツクラブに行ってどうしたの?」
「あ、はい。八幡が予約してくれていたので受付に行って、更衣室で着替えました。そこで、更衣室を出た時に同級生に会ったんです」
「同級生にデート目撃されて、色々あって学校で大丈夫になったんだっけ? その子?」
「はい。一番学校で絡んでくる子だったんですけど、更衣室から出てきた八幡を見て、学校で言いふらしてくれました。何があったのかわかりませんけど、当たりも柔らかくなってるみたいです」
「比企谷くんを見て、だったら変なのに付きまとわれている。俺が守ってやらないと、みたいに思うのがいないといいのだけれど」
「あー、それなら大丈夫ですよ。すっごく優しそうで大人っぽいイケメンな彼氏ということになっていますから」
綾瀬さんが抱いたらしい八幡さんの印象を私がそのままいうと、みんなが吹き出していた。先ほどはこらえていた雪乃さんですら口から空気が漏れていたし。最初聞いたときは私も女子ならざる反応をしてしまったし、気持ちはわかる。
「せ、先輩が、すっごく優しそうで?」
「お、大人っぽいイケメン。お兄ちゃんが、っくふ」
「な、何があったらそうなるのかしらね」
「ふふ、あ、あれじゃない? 眼鏡」
「結衣さん正解です。八幡が眼鏡かけて、金髪の人のマネをしたらそうなったみたいです。正直気持ち悪かったですけど」
金髪の人? 誰だろ。私の知ってる人に髪染めてる人いないけど、みんなは知ってるのかな。みんなお腹抱えていてちょっと疎外感。
「あー、隼人くんのマネしたんだ」
「先輩が葉山先輩のマネ……に、似合わない」
「でも、中身知らないで眼鏡かけてるお兄ちゃん初めて見たなら、一見優しそうで大人っぽくは見えるかもですね。お兄ちゃん、目さえ腐ってなければ、そこそこイケメンなんで」
「……あの目の腐り具合は緩和されていただろうけれど、それでもその評価はどうかと思うけれどね」
なんだか私もその八幡さんを見てみたくなった。眼鏡を掛けていない八幡さんの方が留美ちゃんは好きなようだけど、ちょっと興味ある。
「それで、その後テニスコートに行って八幡とテニスをしました」
「今更なんですけど、先輩ってテニス教えられるくらいには上手なんですか?」
「そうね。テニス部に入っていないインドア派な割に、ではあるけれど、基本はしっかりしているのではないかしら」
「うん。ヒッキー結構テニス得意なんだよ。優美子と隼人くんにゆきのんとダブルスで勝ったし」
「そういえば、卓球も結構うまかったんですよね」
「まあ、あれで兄は結構高スペックだったりしますし。野球とかサッカーも一人で黙々と遊んでましたからね」
「え、一人でできるものなんですか?」
どうやってたんだろ。テニスだったら壁打ちとかできるし、サッカーも個人技の練習はできるんだろうけど。野球……野球を一人で?
「スパルタな壁先生に習ったとか言ってましたけど」
「……ああ、壁ね。一瞬留美ちゃんが何言ってるのかわからなかったよ」
「言葉としては理解できても、脳が理解を拒否したようだわ」
「ヒッキー……」
うーん。八幡さんのボッチエピソードは心に来るものがあるなあ。その経験があってこそ今の八幡さんがいるのだとしても、昔に戻ってかまってあげたい気持ちになってくる。
「向かい合って打ち合って、サーブ練習をして、いったん休憩した後に試合形式で打ち合ったんですけど、1ゲームどころか1ポイントも取れずに負けちゃいました」
「うわー、お兄ちゃん大人げないな。初心者相手に」
「八幡に手加減しないようにお願いしたので。でも、結局は手加減されてましたけど」
「へー。わたし先輩がテニスしてるとこ見たことないんだけど、どんな感じだった?」
「八幡のくせにかっこよかったですよ。真希ちゃんが言うギャップ萌えみたいな感じですかね」
私のこと出す必要なくないかな。まあいいや。
っていうか留美ちゃん、くせにってどういう表現よ。いや、あの八幡さんがテニス上手いとか、確かに意外だけどさ。
「ところで留美ちゃん。ヒッキーに体触られた、っていうかふらち?な真似されたとか、留美ちゃんから抱き着いたとか、いろいろ言ってたと思うんだけど、どうだったの?」
「ラインで言った通りですよ。八幡と歩くときはだいたい手を繋いでますし、柔軟してる時に背中押したり乗ったり、髪結んでもらうとき頭撫でられましたし、転びそうになったのを抱えて助けてもらって、起こしてもらう勢いで抱き着いたり」
「あ、あれ!? なんか増えてるよ!」
「やっぱり留美ちゃんダークホース!? 先輩が年下好きになるのはいいことだけど、下過ぎてもなー」
「攻めてるなー留美ちゃん」
「留美さん、もっと自分を大切にしないと。いくら比企谷くんが自己保身に長けた小悪党でも、やらかしてしまう可能性がないとは言えないのよ?」
私は留美ちゃんから詳細を聞いているけど、さすがにみんなには言えないような内容だからか、ちょっとぼやかしているね。さすがにお尻触られたとかおっぱい触られたとか、状況からしょうがないとはいえ誤解を招くだろうし。
それにしても、留美ちゃんにけん制しているつもりはないんだろうけど、実際そうなってしまっているみたいだ。
話を切り出した結衣さんは探りを入れたつもりなんだろうけど興味が隠せていないし、いろはさんにいたってはこの人隠す気ないんだろうなってことを呟いていた。だけど、雪乃さんは正直読めない。普段を知る留美ちゃんは、雪乃さんも八幡さんのことを気にしているのは間違いないとは言っていたけれども、けなし方がすごすぎてツンデレではなくツンドラって感じだ。そういえばガハラさんも黒髪美女ではあったか。
「それで、更衣室に戻って着替えたんですけど、ここでちょっとしたトラブル、みたいなことが起きました」
「え、何々?」
「さっき話した同級生の女の子なんですけど、私と小学校が同じだった男子と一緒に来ていたんです。で、その子が、拗らせている? でいいんだっけ、真希ちゃん?」
「奥手とか純情とか若者特有の勘違いとか、そんな感じかな」
「私たちより下の真希ちゃんが若者特有とか……」
「え、えっと、何があったの?」
「小学校のころクラスの誰が格好いいか、留美ちゃんのクラスで話題になったことがあったらしくて」
「それで、誰かの名前を出さなきゃいけない空気に抗えず、ついその子の名前を出しちゃったことがあったんです」
あの空気って何なんだろうなぁ。いわゆる同調圧力ってやつなんだろうけど、あの逆らえない雰囲気、ホント苦手。
「あー、それでその子が真に受けちゃって、留美ちゃんは俺のことが好きなはずだ、って?」
「はい。先日、そう言って迫られたんです」
「え、大丈夫だったの!?」
「まあ、特には。それで、偶然だったんですけどその子もスポーツセンターに来ていて、私の彼氏である八幡に食ってかかっていったんです」
「ヒッキーが留美ちゃんの彼氏って聞くと、やっぱ複雑な気分。え、ええっと、ヒッキーに更衣室で? どんな状況だったのそれ?」
「更衣室で八幡が来るの待ってたみたいです。そこで八幡から電話をもらって、スピーカーモードで聞かせてもらいました」
ある意味では行動力があると言えるのかな、開成くんは。素直に留美ちゃんと付き合えるような行動すればよかったのに、って思っちゃう。まあ、あの開成くんを知っちゃうと、とてもじゃないけど留美ちゃんの彼氏になれるとは思えないけど。八幡さんだっていることだし。
「どんなこと言ってたの? 留美ちゃんと別れろ、とか?」
「そんな感じですね。その子が見た八幡が眼鏡をしてた時だったので、眼鏡なしの八幡を見て私を騙してるとか言ってましたね」
ここでまたみんなが吹き出した。うーん、眼鏡が八幡さんのイメージを一転させるのはわかったけど、すっごい興味出てきた。ぜひとも見てみたいな。
「八幡さんがなんかかっこいいこと言ってくれたんだよね。留美ちゃん」
「先輩が? どんなのかな、留美ちゃん」
「えっと……留美は俺が好きだ、俺は留美が好きだ、だから相思相愛のカップルの邪魔すんな、とか」
「おお、お兄ちゃんからそんな言葉が出るとは……何か感無量感がありますねえ」
「いいなー留美ちゃん」
「むう……やっぱ複雑」
「比企谷くんがそんなことを。あまり留美さんの彼氏面をするようなら刺さないとならないかしらね」
「刺しちゃだめですよ!」
「釘を、よ」
雪乃さん、わざと言ってるのではなかろうか。留美ちゃんを心配しているのか、八幡さんが留美ちゃんに取られて悔しいのか、話し方では判別できないや。いろはさんや結衣さんはもはや隠す気欠片もないみたいだけど。
「着替えた後喫茶店に行って、ちょっとお話しして、それでデートは終わりです」
「なんか最後があっさりしてる感じがするけど、告白はまだこれからにしても、女子のやっかみはこれで減りそうなのかな?」
「クラスで一番留美ちゃんを敵視していた子が、改心? って言っていいのかわかりませんけど、したんで多分」
「それなら作戦もデートも成功したってことでいいのかな?」
「そうですね。次のデートの約束もしましたし、それでいいかと」
「え、留美ちゃん、またヒッキーとデートするの!?」
「具体的にいつどこで、は決まってませんけど、また八幡は遊んでくれるって言ってましたよ。俺と留美が遊ぶのに理由はいらないだろって」
「ほほー、お兄ちゃんも言うねえ」
「わたしが誘うと何だかんだ理由を探して断ろうとするのに、留美ちゃんには自分から行くとか」
「……やはり、比企谷くんを刺しておく必要がありそうね」
「雪乃さん、それだと殺害予告です」
「あら、間違えてしまったかしら」
本当はデート後に私と会って色々あったんだけど、まあ別にここで話す必要はないよね。
「デートの後真希ちゃんと会って、真希ちゃんのお宅に泊まって、一緒にお風呂に入りました」
「ちょい留美ちゃん! そこ話す必要なし!」
なぜ言った留美ちゃん。あまりにも不意打ちすぎるよ。
「えーなになに? 一緒にお風呂入ったの?」
「仲良くなるには一緒にお風呂に入って一緒のお布団で寝ればいいって、結衣さんが言っていた通りでした」
結衣さんが元凶かーっ! 確かに楽しかったし仲良くなれたと思うけど、あの時はもう、恥ずかしかったよ、うん。
あ、雪乃さんが赤面してる。結衣さんの餌食になったのは雪乃さんだったか。
「あー、クリスマスで言ってたこと実践しちゃったんですねー」
「由比ヶ浜さん強引だもの。拒否が全く意味をなさなかったわ」
「留美ちゃんも強引でしたよ。嫌だったわけじゃないですけど」
「私をのけものにしたクリパでそんなことやってたんですねー」
なんか雪乃さんと分かり合えた気がする。被害者友の会的な意味で。
ワイワイガヤガヤと、一つのグループ内のあちらこちらでいろんな話をして。うん、年齢にちょっと差はあるけども、友達同士の会話、だよね。
しばらく話をしてそろそろお開きかな、なんて空気が見え始めたころ、不意に留美ちゃんが爆弾発言をした。
「あ、ところで言っておきたいことがあったんですけど」
「ん、どしたの留美ちゃん?」
「私、八幡のことが好きです」
ぶふぅっ、と今日一番の吹きだす音が聞こえた。私も吹いた。
おーい、留美ちゃーん。あまりにも吹っ切れすぎだよ、もう。心臓に悪いってば。
以前感想で言われたんですけど、もう真希ちゃんはいいやって。
でもごめんなさい。真希ちゃん視点だと書きやすいったらない。
もうちょっと真希ちゃんには付き合ってもらいます。
実はネタが足りなくなっています。時間を飛ばして留美の新人戦とか、受験に行ってもいいんですけど、うーん。