やはり三浦優美子の青春ラブコメは幕を開けたばかりだ。 作:Minormina
さて、まぁ細かいことは置いておいてとりあえず本編をどうぞ。
朝の一件からしばらくして休憩時間。トイレから教室へと戻る途中、平塚先生に声をかけられた。
「比企谷、放課後に雪ノ下と由比ヶ浜と一緒に部室に集まってくるように」
「……あの、平塚先生?」
「何かね?」
「俺、今年受験なんですけど?」
「だからどうしたっていうんだ?みたところお前はまだ更生していない。それだから今年の奉仕部の活動計画を立てる、だから放課後に部室に来いよ」
冗談じゃない。今日は喧騒に包まれた分磨り減った体力を家で回復させようと思っていたのに。……朝の一件にせよ、物事はうまくいかないものである。だから、一応こう尋ねてみる。
「……拒否権は?」
「あると思っているのか?比企谷?」
笑顔で拳を握ってポキポキ鳴らすのやめてください。先生のパンチはマジで痛いです。……もしかして某ヒーローのそげぶといい勝負するんじゃないか?なんて思っていたら本当にパンチが飛んできそうなのでやめておこう。
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昼メシ。俺はいつものベストポジションで朝買った菓子パンをかじっていると、ケータイのロック画面にLINEの通知が1通来ていた。
☆YUI☆ お昼休憩部室でゆきのんと待ってるからね~
…いつも思うが由比ヶ浜は本当は相当なビッチなのではないか?本人には失礼だけども、そんな気がしてならないんだが……。とりあえず、500円玉から化けたパンを片付けて、部室のある部活棟へと足を運ぶ。
「……おーい、邪魔するぞ」
「ひゃはろ~、ヒッキー。久しぶり~」
「…久しぶりね、比企谷くん。春休み以来かしら」
「そうだな」
扉を開けたら、弁当を食べていたらしい由比ヶ浜が手をブンブン振ってくる。一方の雪ノ下はというと、もう食事を終えたのか小難しそうな文庫本を読んでいる。とりあえずいつもの位置に座り、授業中に凝り固まった身体をぐっと伸ばす。
「それで、どうかしたのか?」
そういうと由比ヶ浜は足元に置いたかばんからなにか取り出して、机にぽんと置いた。その様子はいつも活発な由比ヶ浜ではなく、どこかもじもじとしている。
「あのさ、ヒッキー・・・。この間ゆきのんと一緒にクッキー作ってみたから食べてみて欲しいんだ」
少しうつむきながらもすすっと弁当を入れる袋よりも一回り小さい袋を俺の目の前にもってくる。それを開けてみると、やや小さめのタッパーの中には、形の不ぞろいなクッキーが所狭しと並んでいた。去年みたときとは違う、クリーム色をした普通のクッキーに見える。・・・この一年で由比ヶ浜になにがあったんだ・・・?
「比企谷くん、それは由比ヶ浜さんが春休み中にわたしの家でお菓子作りの練習をした成果なのよ。味は保障するわ」
いつのまにか本を閉じた雪ノ下が俺をみて言う。・・・雪ノ下が「味は保障する」というのなら味は大丈夫なのだろうが、どうしてこんな時期に俺にクッキーなんかを作ってくれたんだ?そうすると、
「意味がわからない、って顔ね」
一発で見抜かれた。雪ノ下は、やれやれと呆れかえった顔で、
「由比ヶ浜さんは、去年作ったクッキーのリベンジをしたいらしくてわたしの家に来たのよ。・・・比企谷くんにおいしい手作りのクッキーを食べて欲しいって」
「・・・そういうことなのか?由比ヶ浜?」
「うん・・・・・・」
由比ヶ浜のほうを見ると赤くうつむいてこくんとうなづいた。なぜそこで顔を赤くするのかはよくわからんが・・・。まぁせっかく作って来てくれたわけだし、食べるとするか。俺は透明のタッパーを開けてクッキーをひとつまみして口へ放り込むと、ほのかな甘さとバターの風味が口の中にじわっと広がる。チョコチップやナッツといったトッピングなしのプレーン。そしてほどよい食感がなんともいえない。・・・ってこれ、売り物に出してもいけるレベルじゃねぇか?
「・・・・・・ヒッキー・・・何かいってよ・・・」
半分泣き出しそうな顔で俺を見る由比ヶ浜。よほど自分が作ったクッキーへの評価が気になるのだろうか。
「おぅ、めちゃくちゃうまかったぞ、これ」
「・・・ほんと?」
ぱぁっと顔を明るくして由比ヶ浜はそのまま「本当にありがとー、ゆきのん」って言って雪ノ下の背中にしがみつく。雪ノ下も少し「暑苦しい・・・」といいつつも由比ヶ浜のなすがままにくっつかれている。割と微笑ましい光景だが・・・二人合わせるとさしずめ百合ヶ浜っといったところだろうか。
「・・・・・・なにかつまらないことを考えなかったかしら?」
百合ノ下・・・いや、雪ノ下が俺のほうをぎろり、と鋭い目線で睨む。そんな様子に少し気圧されながらも、
「……そんなことないぞ?」
「……そうかしら」
「……ヒッキー?」
由比ヶ浜が訝しげに俺を見る雪ノ下の後ろで頭にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げる。ホントにこうして見ていると由比ヶ浜って従順な犬にも見えるよな。
「……まぁいいわ。とりあえずこれで由比ヶ浜さんのリベンジは果たせたわね」
「……うん!」
「……それはいいけれども、もうそろそろ離れてくれないかしら?」
満面の笑みで頷く由比ヶ浜。よっぽど嬉しかったのだろうか、目には少し涙を蓄えたまま、拭おうともせずその姿を俺に見せる。
(……なんでそんな嬉しそうな顔をするんだよ……)
どこかに隠していたはずの負の感情が、どこからともなく湧いてくる。確かにこの一年、雪ノ下や由比ヶ浜たちと過ごすのは楽しかったし、俺の価値観にも幾分か影響を与えたことには間違いない。だが、なぜそれを自分に見せる必要なんてある?
(……とりあえずこんなこと考えても仕方ない、か)
……ぼっちに慣れてきた俺にしてはまだわからないのだろう。
「ヒッキー……?」
「比企谷くん?」
不思議そうに覗き込んでくる由比ヶ浜ときょとんとした雪ノ下を横目に、残りのクッキーをかじっていると、話題を切り出すように由比ヶ浜が、
「そいえばヒッキーってさ、春休みどうしてたの?」
……そいつは愚問だぜ、由比ヶ浜?
「比企谷くんのことだから、ずっと家にいたんじゃないかしら?」
そっと雪ノ下がピンポイントで痛いところを突いてくる。まぁ間違ってはいないが。
「そんなことはともかく、今年の奉仕部の活動についてよ」
俺のことは「そんなこと」で片付けられたんだが……。
「……うーん、今年は受験なんだし、基本的に自由参加でいいんじゃないかな?」
「それじゃ特別な依頼がない限り、そうしましょうか。それで構わないわね、比企谷くん?」
「俺はそれでいいぞ」
雪ノ下がそういってあっさりと今年の部活計画が決まってしまった。……まぁいいか。
「……これから平塚先生に報告しておくからお前ら戸締まりよろしくな」
「わかったわ」
「よろしくねーヒッキー」
手をパタパタ振りながらいつもより2割ましでご機嫌な由比ヶ浜と、そのとなりでどこかにっこりとしている雪ノ下を尻目に俺は部室を後にした。
さて……完全に結衣ルートという感じがしてならない話でした。まぁヒロインは変えないつもりですが、なかなか結衣って子は書いてると面白くて描きがいがありますねー。まぁ本編ヒロインの友人として今後も登場する場面がありそうなのでどうぞお引き立てのほど。
追伸;絶賛このSSの評価募集中です。まぁまだ3話だしよくわからん、というもあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。(感想の方もよろしくね!)