ここまでが起承転結でいう起の部分になりますね。
次回から少しずつシリアスが混じるようになります。
あとこの話は陽向視点になっています。
ちょくちょく陽向の視点で書いていこうと思います。
千早視点は、今のところ予定にはありません。
「千早お姉さまって、噂で聞くよりもさらに何でも出きるんですね」
夕食後のいま、千早お姉さまが自室に戻ったあとに食堂に残っている薫子お姉さまと、香織理お姉さまにそんな話を切り出した。
「いきなり何の話?」
薫子お姉さまはキョトンとした顔でそう聞いてきた。香織理お姉さまは私の言葉でなにかを悟ったのか紅茶を口にしたままなにも言わない。
「いやー、今日千早お姉さまと華道部にお邪魔したんですけど…あ、私は見てただけなんですが、千早お姉さまは淡雪お姉さまと勝負?をして勝ってましたよ」
「ああ、そういう話ね。千早はねー本当に何でも出きるよね。まあ、それを才能とか天才だからとかで片したらダメだよ?千早の何でも出来る姿は、その分千早が努力した結果だからね」
「あら、薫子にしてはまともな言い分ね」
「なっ…!?」
香織理お姉さまの言葉に薫子お姉さまはショックを受けたのか、そのまま拗ねたように口を尖らせて文句をいう。
「どーせ、あたしはバカですよーだ…!」
「別にバカにしたわけではないわ。薫子は千早のことをよく理解してるわねって感心したのよ」
「べ、別に理解してる訳じゃないよ。ただ、
「千歳さんってどなたですか?」
私の知らない個人名が出てきたので聞いてみる。名前からして千早お姉さまの親類だと思うけれど。
「千歳さんは千早の双子のお姉さんよ。千早にそっくりなのだけれど、可愛らしさが千早の10倍くらいあるわね」
「そんなお方がいらっしゃるんですか!?」
たしかに千早お姉さまは可愛いというよりも美人というか、格好いいという名詞が似合うお方だけど、それにしてもあの千早お姉さまをこえる可愛らしい人がいるなんて思わなかった。
「千早と違って一人にすると危なっかしい人だったよ。それでも、千早が無理してるときとか、頑張ってる姿を一番近くで見てきた人だからさ、どんなに完璧に見える千早でも、千歳さんはその努力を知っているから千早のことは可愛いっていってた。そういうとこはやっぱり千早の姉なんだなって思ったよ」
「あの千早お姉さまを可愛いとおっしゃるところがすごいですね」
「そうね。でも後輩のあなた達から見たらそういう面は見えないかもしれないけど、私からしたら千早は十分可愛いところもあるわよ」
私や優雨ちゃんが見れない千早お姉さまの可愛いところも。それは今日千早お姉さまが言っていた、格好悪いところは見せたくないっていったのと関係あるのかな?
「理論武装の塊みたいな千早を好き勝手出きる香織理さんだからそういうこと言えると思うなー。私からしたら千早は、可愛いとかそういうことの前に敵わないなぁって思っちゃうもん」
「千早だって人間なのだから弱みの一つや二つあるでしょう?」
香織理お姉さま、それさらっと脅してるって言ってますけど。
「まあ話を戻すとさ、たしかに千早って何でも出きるけど、それを見て距離を感じたらダメだよって話。完璧な千早でも傷つくことはあるし、悲しくなることだつてあるだろうから」
「それは大丈夫です」
私は自信をもってそう答える。
「むしろ今日たくさん話していたら、千早お姉さまもちゃんと身近にいる人なんだなって思いましたから」
「へぇ、そんなことを思わせる話を千早がしたのかしら?」
「まあそれなりに、です」
今日の帰り際の千早お姉さまの台詞を思いだし、ついにやけてしまう。それがいけなかった。そういう感情の機微を見つけてつつくことが得意とする香織理お姉さまの前でその顔をしてはいけなかったと私は後悔する。
「それで陽向?千早のどこが好きなの?」
「へ?」
香織理お姉さまの言葉の意味が掴めなくてついアホみたいな返事をしてしまいました。
「ええー!陽向ちゃんって千早が好きなの?!」
「なんで薫子がそんなに驚くのよ?」
「だって、陽向ちゃんは女の子で、千早も女の子で、女の子同士でって?!!」
「はいはい、少し落ち着きなさいな」
香織理お姉さまは薫子お姉さまの頭をぺしっとたたく。薫子お姉さまはそれでも落ち着けないらしく、「でも」とか「だって」とか繰り返している。
私はというと、薫子お姉さまが盛大に慌ててくれたのでなんとか冷静にいられてる状態です。しかし、香織理お姉さまが薫子お姉さまがいるときにこういう話をふってくるなんて、ちょっとおかしいですね。
そこで私は気がついた。これはカマをかけられてるなと。
「それで、どうなのよ陽向?」
こういう時の香織理お姉さまは感情を隠すのがうまい。顔を見てもなにを考えているのかさっぱりわからない。
「そうですね、やっぱりなんと言ってもパーフェクトなところですね」
だから私はあえて恋愛感情がある上での話でも通じるように話してみる。
「勉強も出来て運動も薫子お姉さま並み。性格は少し意地悪だけとすごく優しくて、それでいて家事も完璧。まあ好きというよりも憧れますよね。どうやったら…」
「陽向」
香織理お姉さまは話を切るように私の名前を呼んだ。
「私が冗談でした質問と気づいてるなら、そういいなさいな」
「いや、確証はなかったのでー」
「全く、この子はこういうところが侮れなくてつまらないわ」
「ふっふっふー。香織理お姉さまの妹を名乗るからにはこのくらいどうってことありませんよ!」
そんなやり取りをしていると、薫子お姉さまが、ぽかーんとした顔でこちらを見ていた。
「薫子?なにそんなアホ面してるのかしら?」
「え?いや、だって」
「薫子お姉さまが盛大に慌ててくれたので私は冷静になれましたよ」
「う、あ…」
「まあ薫子だから仕方がないわね」
「うがー!!」
「うひゃあっ!」
「もう!なんなのさ二人して!まるで私が道化見たいじゃない」
「まるで、じゃなくてそのものだったわよ」
クスクスと笑いながら香織理お姉さまはそう言う。
「全く。香織理さんのそういうとこは嫌いだ」
「あら、私は薫子のことすきよ?」
「そうやってまた私のことを子供扱いするんだから。私、部屋に戻るからね」
ふんだ!と薫子お姉さまは食堂から出ていった。もうまるでプンプンという擬音が合いそうな感じで歩いていってしまった。
「じゃあ私はそろそろお風呂に入ってこようかしら」
「じゃあ私も部屋に戻ります」
「ティーカップの片付けば私がやるわ」
「そんな、それくらい私がやりますよ!」
「たまにはいいわよ」
ね、と言ってくる香織理お姉さまはなんだかやらせて欲しいというような雰囲気があったので、私はあっさりと引き下がってしまった。こういう有無を言わせない感じ、たまに香織理お姉さまから感じるけど、いったいなんなのでしょう?
「じゃあ、お願いしまーす」
まあいいか、と思い私は自分の部屋に戻ろうとする。
「陽向」
その時キッチンの方にいったお姉さまから声がかかった。
「はい?」
「本気じゃないのなら、覚悟がないのなら、止めときなさいね」
そう言った香織理お姉さまの顔は、しかし私の位置からじゃあ見えなかった。
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