その横顔にキスをして   作:チョコましゅー

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陽向の千早に対する好感度は並よりも少し高い程度になっています。
それを踏まえて読んでいただくと内容に不自然さが出にくいかもしれません


白銀の姫君と太陽

 暦の上ではもう秋のはず。しかしそれを嘲笑うかのように昨日といい今日といい気温は下がることを知らない真夏日だ。学園指定の制服は九月からすでに冬服に切り替わっており、この制服は見た目よりもしっかりとした防寒仕様になっているため些か、いや、かなり熱がこもってしまう。もう少し制服の切り替えに猶予を持たせて欲しいと思う生徒は少なくない人数いるだろう。

 

 千早は鏡に写った自分の顔をみて、苦笑する。そこにいるのはエルダーのお姉さまと呼ばれる妃ノ宮千早はおらず、ただこの暑さにうんざりしている一人の男の子だ。

 

 さて、と千早は自分の顔を手のひらでいじりながら今日の肌のコンディションをチェックする。正直、いまだに自分の顔に化粧を施すのはうんざりする千早だが、ノリがいいと内心で「よしっ」と思ってしまう。

 

(なんか、自分が男として立ち直れなくなるかもしれない気がする)

 

 朝からドヨーンというような効果音がつきそうな顔つきになる。果たして自分はこの学園を卒業したら男としてきちんと生活できるのだろうか。そんなことを思いながらも化粧は完璧に仕上がった。

 

「さあ、今日も頑張るとしますか」

 

 陰鬱な気分を払拭させるためにそう一人ごちると、千早は立ち上がり部屋から出ていくのであった。

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

 食堂に出ると、すでにいた後ろ姿に挨拶をする。

 

「おはようございます、千早ちゃん」

 

「相変わらず、早いですね」

 

「うーん、たぶんもうこれは治らない癖みたいなものですね。でもおかげでバッチリ健康です!」

 

 少女、皆瀬初音は向日葵のような笑顔をしながら胸の前で小さくガッツポーズを見せてみる。相変わらず可愛らしい人だ、と千早は思うだけで口にはしない。

 

「初音さんはいつも元気ですからね。病も尻尾を巻いて逃げちゃうのではないんですか?」

 

「あはっ、無病息災が一番ですからね。あ、千早ちゃん、紅茶のみますか?」

 

「お願いします」

 

 はーい、といいながらソーサーとカップを用意する初音の後ろ姿をみていると、誰かが食堂に入ってきた。

 

「おはよーございまーす!」

 

「おはようございます。陽向ちゃんも朝から元気一杯ね」

 

 

「まあ、それだけが私の取り柄みたいなものですから」

 

「そんなことないでしょう。それが一番の長所であって、その他に長所がないというわけではないのですから」

 

「おおっ、朝から千早お姉さまにありがたい言葉をいただいてしまいました。これは今日1日いいことがあるかもですね」

 

「私の言葉は占いかなにかかしら…?」

 

「お待たせしましたー」

 

 陽向と話していると初音が紅茶を持ってきてくれた。千早の前と、陽向の前にそれを置く。

 

「おはようございます陽向ちゃん。紅茶でよかったかしら?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 太陽のような明るさの子だな、と千早は常日頃から思っている感想をする。

 

 陽向をみていると、紅茶に口をつけて熱かったのかあわてて口を離してふーっ、ふーっ、としている。千早はついその仕草が可愛くて笑ってしまう。

 

「む、千早お姉さまに笑われている気がします」

 

「ごめんなさい。ちょっと可愛らしかったのでつい」

 

「か、かか可愛いですとー!?」

 

 陽向はあわあわと手を降って、そのご自分の顔を両手で覆ってしまう。

 

 おや、これは今までにない反応だなと千早は思い、天の邪鬼な心にスイッチが入ってしまう。

 

「ふふ、本当に可愛らしいわね。食べちゃいたいくらい」

 

「ち、ちはやお姉さま!?そのような冗談は精神衛生上よろしくないのですがっ!?」

 

「あら、陽向ちゃんは私が冗談でそのようなことをいうとお思いで?かなしいわ」

 

「ええっ?!いや、けしてその様なわけでわなく…」

 

 もはや陽向の顔は赤くなったままで、そんな顔をみながら千早は少しだけ意地の悪い笑顔を見せている。

 

「千早、その辺にしてあげないとこの子、知恵熱を出してしまうわ」

 

 そのやり取りをどこからみていたのか、食堂の入り口からそんな声が上がる。

 

「香織理ちゃん。おはようございます」

 

「おはようございます」

 

「おはよう初音、千早」

 

「おお、おはようございます香織理お姉さま!」

 

 少し大人っぽい雰囲気な神近香織理(かみちかかおり)の登場で少しだけ冷静になったのか陽向の顔は少しだけ赤みを薄くしていた。

 

「おはよう陽向。で?なんで朝から千早は陽向を口説いていたのかしら?」

 

「いえ、いつもはしないような反応を陽向ちゃんがしたので、少しおも…かわいかったのでつい」

 

「いま面白かったって言おうとしませんでした!?」

 

「そんなことないわ」

 

「ふーん。千早は陽向がかわいいと思わないってこと?」

 

「そんなことありません。陽向ちゃんはとても可愛らしい女の子です」

 

「あわわっ、またかわいいって…!」

 

 ふふ、かわいいなぁと千早が思っていると香織が隣に座って耳打ちしてきた。

 

「あなた、いま完璧に女ったらしの顔してるわよ?」

 

「そうですか?そんなことないと思いますけど」

 

「自覚してないとか、たちが悪いわね」

 

 香織理はため息をはくと、陽向のほうに目を向ける。どうやら陽向は演技とかではなく本気で恥ずかしがっているようだ。可愛いと言われなれてないだけでこんな恥ずかしがるものだろうか?

 

(これはもしや)

 

 香織理の中のある仮説がたった。しかしそれを口にすることはせずに少しだけ真剣な眼差しで千早をみる。

 

 当の千早はその陽向をみて微笑んでいた。それは、いつものお姉さまとしての顔ではなく、御門千早本人の顔に、香織理はみえた。

 

(まだ自覚はないようね)

 

 そう考え、少しだけ小さくため息をはく。

 

 そこで香織理の前に湯気のたった紅茶が置かれた。

 

「あら、ありがとう初音」

 

「朝から難しい顔してますね?」

 

「そうかしら?まあ難しいことを考えているわけではないから安心して」

 

 そう、難しいことではない。香織理にとっては日常茶飯事ですらある。

 

 しかし陽向はそうではない。香織理の妹ということもあり、そういう事もあると知識で知っているだけで、体験したことはないはずだ。

 

「ややこしくならないといいのだけど」

 

「なにがですか?」

 

「独り言よ」

 

 そう言って香織理は淹れたてのミルクティを口に運ぶのだった。

 

 

 

 




基本的に2話ずつくらい書留してから投稿します。
なので不定期更新になるかもしれないのでよろしくお願いいたします。

一応一週間以内には更新したいですねー

あ、あとお気に入りありがとうございます。これを励みに更新を頑張ります

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