その横顔にキスをして   作:チョコましゅー

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まずは導入です。




プロローグ

「あら、陽向ちゃん。またずいぶんと分厚い本を読んでいるのね」

 

 寮の共用スペースであるソファで本を読んでいると、そう声をかけられた。活字の世界から現実に引っ張られ、顔をあげてみるとそこには銀髪の美女が立っていた。

 

  あれ?私ってばいつの間にファンタジーの世界にでも入ってしまったのだろうか。そう思えるくらいに、その人は現実離れした容姿をしていた。

 

「あ、千早お姉さま。これはですね、ライトノベルという種類の本なんですけど」

 

「ライトノベル?」

 

  千早お姉さまは少しだけ苦笑いをする。それはそうだろう。この本はライトと言うには少しヘビーなページ数のある本なのだから。

 

「まあこの本は少し特別で、普通はもっと薄いですね。このジャンルの小説は文体は軽めで、挿し絵も入っていてお手軽に暇潰しに読める、まあそんなような本ですね」

 

「そうなの。貴女は本当にさまざまなジャンルの本を読むのね」

 

  そう言ってお姉さまは私の向かいのソファに座る。

 

「なにかオススメのものはあるかしら?」

 

「千早お姉さま、暇なんですか?」

 

「ええ。今日は勉強の方も一段落したし、でも寝るにしてもまだ早い時間ですからね。そうしたら陽向ちゃんが本を読んでいたので、またなにか借りようかと」

 

 厚かましいかしらね、といいながら微笑む千早お姉さまはやはり、なんというか、素敵なんですよね。別に香織理お姉さまとか薫子お姉さまが素敵じゃないというわけではないけど、一線をかくすような感じでしょうか。どこかはかない印象をもつ千早お姉さまですが、でもすごく意思のしっかりした女性(ひと)で、そして誰にでも優しい。頭もいいですし運動も薫子お姉さまに勝るとも劣らないと聞きますし、まさに完璧超人のようなお人だ。

 

「では僭越ながら私めがおすすめをば」

 

 そう言って少し手を止める。はて、そういえば私は千早お姉さまの好みを知らない。私のおすすめをと言われたけれど、お姉さまの好みがわからないとおすすめしにくい。いや、だれが読んでも楽しめるものをすすめる自信はあるけど、そこは好みにあっていた方がよりおすすめしやすい。

 

「どうかしたのかしら?」

 

 手を止め考え事に入った私をみかねて、お姉さまが声をかける。

 

「もしかして迷惑、だったかしら?」

 

「いえいえ、とんでもないです。あの千早お姉さまに本を紹介してるなんて、クラスで自慢できることを私がみすみす逃さないですよ」

 

「自慢って、そんな大袈裟な」

 

「まあ、それは冗談ですけど」

 

 いや、八割くらい本気だけど、

 

「千早お姉さまの好みがわからないので、どれをおすすめしようか迷ってしまって。千早お姉さまはどんなお話が好きですか?」

 

「…そうね」

 

 少し考える素振りを見せると、少しだけ意地悪な笑みを浮かべながらこういった。

 

「逆に、陽向ちゃんは私がどのようなものを好んで読むと思いますか?」

 

「むむむ。それは私に対する挑戦ということですか?」

 

「そんな大袈裟なことではないわ。ただ私は、陽向ちゃんの目には私はどううつっているのかと、気になったの」

 

 …くあー。そんな笑顔を見せられたらそっちの趣味がない人でも、1ラウンドKOですよ!

 

 まあ私はこの寮で過ごしてもう4ヶ月になる。そろそろ耐性がついてきたと自負してます。

 

 そりゃもうはじめの頃は大変でしたよ。このお姉さまは自分の容姿のレベルに自覚が全くないようなので、時おり見せるあどけない顔や困った顔、笑った顔や毅然とした顔、まあ要するにすべてにおいて破壊力が抜群なのですよ。なので、4ヶ月経ってもいまだに不意にでる笑顔がドキッとします。

 

「では、これなんかいかがですかね」

 

 そんな内心を悟らせないように、私はひとつの本をすすめる。

 

「恋愛もの、かしら?」

 

 ライトノベル特有の長いタイトルをみて、小首をかしげながらそうあたりをつけるお姉さま。

 

「ええ。それはライトノベルにしては話の構成も、登場人物もしっかりとしたもので、私見ですが普通の文庫で出てもおかしくないレベルのものです」

 

「貴女は、私が恋愛ものを好んでいると思ったの?」

 

「いえ、単にわたしが大好きなものです。で、千早お姉さまにもそれを大好きになっていただけると私的には、すごく嬉しいことなので」

 

「そうですか。作家志望の陽向ちゃんがすすめるのだから、期待しようかしら」

 

「やめてくださいよう。私はまだ卵にもなっていないただの女子高生ですよ」

 

「ふふ、冗談です。ではお借りするわね」

 

 お姉さまはそういうと、そのままそこで読み始める。

 

 部屋に戻って読むと思っていた私は、これはチャンスと言わんばかりにそのお顔をじっくりと観賞させてもらう。

 

 すでに活字の世界に没頭したお姉さまの顔つきは少しだけ凛々しくなる。その表情がなんというか、普段の千早お姉さまとはまた違った魅力があり、個人的にはこの表情が一番好きだ。そんな私の邪な視線には気づかないようで、黙々と小説を読み続ける千早お姉さまをみて、私は改めてこのお姉さまはやはりはいスペックなお人だなーと思った。

 

 その後、ずっと人の顔をみているのも失礼だと思い、私も読みさしの本に没頭していった。

 

 




陽向と千早の絡みですね。
原作だとほとんど(むしろまったく?)ない二人きりの会話です。
健全な男女交際になるはずですが、見た目はまるっきり女性同士なのでガールズラブタグをつけました。

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