今回の話はこの前の続きで、牛丼屋をでた後からになります。今後、拓海はどうなるのか?それを期待しつつ、ご覧ください!
午後一時半になって、ピッタリ授業が始まった。みんな教科書を開いてノートをとりはじめた。しかし、俺は動かなかった。それもそう、昼飯時の事があるからだ。もうどうしていいか分からなかった。ここがなくなればどうしていけば良いかそればかり考えていた。すると、友人が声をかけた。
「おい、どうしたんだ?また居眠りか?」
「ちげーよ。ちょっと考え事があってだな」
「おっ、もしかして彼女でも出来たか?」
俺はおもいっきりシバいてやった。
「アホ。そんなわけねぇだろ!」
「悪い悪い。おまえに彼女ができるわけないよな?」
腹が立ったがここはスルーした。
「そうだ。お前、このことを知ってるか?」
「なに?なんかあったのか?」
俺は、深呼吸した。そして、先生の目を気にしつつ、コイツに昼飯時の事を話した。
「マジで!?ここなくなったらもうお前をおちょくれないじゃねぇか!」
「アホ。でっけぇ声だすんじゃねぇ!」
もう一度シバく。シバいた後に気がついた。コイツと共に授業受けるのは残り少ない事を。そう考えると少し切なく感じた。すると、向こうもそう考えたのか、顔色を変えた。
「マジで困ったな・・・。進学も、お前と学べなくなるのも」
とても悲しそうだ。たった4ヶ月のつき合いだが、コイツとはたくさん思い出がある。互いに大学受験を失敗したことを笑い飛ばすくらい、こいつは笑っていた。しかし、今日は違って悲しそうな表情を見せた。こんな彼は初めてだった。そんな彼に俺は言った。
「この世の中、会おうとすれば会えるだろ。いくらでもカラオケとか呼んでくれよな」
彼は少しずつ表情が柔らかくなった。
「そ、そうだな。お前の言うとおりだ」
「約束だ」
「おう!」
友人としての約束だった。この約束をしている時、彼はいつも以上の笑顔だった。すると、彼は言う。
「だって俺ら…家に女子を泊めることすらできない、浪人フレンドだもんな!!!」
彼は、とても輝いて見えた。そんな彼に対し、俺は苦笑いした。というよりも、他のことが出来なかった。と言うのも、『家に女子を泊めることすらできない浪人フレンド』とは、大和が家にいる俺はが当てはまるのか・・・。しかし、この輝きを壊すことは到底できない・・・。結局この事は秘密にしておく事にした。だから苦笑いすることしか出来なかった。
*
午後5時半、今日最後の授業が終わった。全員帰る用意をしている。すると、一人の男が入ってきた。後から友人に聞くと、この男は塾長だった。
「みんな、席に座ってくれ」
みんな指示通り座った。というのもこういうことは一度もないのでよくわからなかった。すると、塾長がプリントを配りだした。もらった人から段々、教室がざわめきだす。だが、俺ら二人だけは違った。誰よりも早くプリントの内容を察していた。全員にプリントが回ると塾長が言った。
「とりあえず左面を見てくれ」
B4の左側を見る。そこにはやはり例のことが記載されていた。
「廃校の・・・お知らせ?」
俺の前の席に座っている女子が言った。すると、塾長が答える。
「おう、そうだ。ここは七月いっぱいで廃校になる」
もっと教室がざわめきだす。ちなみに俺ら二人は絶句である。すると塾長が大きな声で言った。
「静かに。話を最後まで聞かんかい!」
静かになる。そして、ため息を一つして、少しいらついた表情を見せながら言った。
「それでだ。右を見てくれ」
「ん!?」
右の紙には[編入のお知らせ]と書いてあった。そういえばこの予備校もたくさんの教室を持っている。[東なんたら]や、[河なんたら塾]などどっかの大手とは劣るのだが、近畿圏に十数校はあるらしい。一番家から最寄りの学校に入るなら、入学金が免除されるというお知らせだった。このお知らせを見て安堵の表情を見せた人もいるが4割方の生徒はよく思っていなかった。俺もその一人だった。
*
日が暮れて、暗くなりはじめた夜の京都を自転車で走っていた。今日も赤信号に捕まる。俺はため息を漏らす。塾のことでとても悩んでいた。実はあの予備校が廃校になるならば、編入する際、俺は必然的に近くの柄が悪い所に入らなければならない。それは俺だけではなく、4割方の生徒に関係ある話だった。
実をいうと超行きたくない。もう死んでしまいたいほどだ。俺はずっとこんなことを考えて自転車を漕ぎ続けた。家につく頃にはかなり落ち込んでいた。家のドアを開ける。
「ただいま」
「おかえり」
ちょうど2階から祖父が降りてきた。
「ちょうど今、飯出来たらしいぞ」
「了解。俺もいくよ」
男二人、リビングに飯を求めて歩いて行った。リビングのドアを開けるととても美味しそうな香りが漂ってきた。
「拓海、おかえり」
「ただいま」
祖母が台所に立っていた。作業をしながら祖母が話しかけてきた。
「予備校どうだった?」
「普通だった」
なんも普通じゃなかったが、心配させないためもう少し黙っておくことにした。しかし、そこを狙うかのように祖母が聞く。
「普通って何よ」
「普通は普通だよ。何もなかったって事だよ」
俺はイライラしたが、ここは、ばれないためにも放置することにした。とりあえず、手洗いをするため台所へ向かう。その時に隣で作業していた祖母は、鍋にいろいろな具材を投入していた。牛肉に人参、タマネギにじゃがいも・・・、どうやら作っているのはカレーのようだ。そういえば、彼女の姿がない。聞いてみる。
「なぁ、大和は?」
「ナゴミちゃんかい?買い物頼んでるの」
「そうか、わかった」
今は出かけているらしい。迷子にならないか心配だが多分大丈夫だろう。複雑な気持ちだ。手洗いが終わると祖母が俺の上着をつついた。振り向くと、祖母が小さな声で、話し始めた。
「ちょっと、ナゴミちゃんったら、とてもいい子じゃない。おまけに家事とか手伝ってくれてとても助かったわ。あの子とならつき合うの、大歓迎よ」
俺は顔を赤らめた。
「ちょ、バ・・・バカじゃねえの。つ、付き合う訳ねぇじゃん。一応・・・親戚だし・・・ね?」
すると、祖母が笑った。
「そうね。『親戚』ならしょうがないわね」
やたら親戚を強調していた。その時、俺は気づいた。
「まさか!?」
祖母はグッドサインを送っている。どうやら祖母にはばれてしまったようだ。しかし、気遣ってくれたのか問い詰めてこない。とてもありがたく思った。だがそれと同時にその後が思いやられた。その時、玄関から扉の開く音がした。
「大和・・・あっ、ナゴミ、ただいま帰りました」
大和の声だ。なんか、祖母にばれた理由が分かった気がしたがこの際置いておく。俺は言い返した。
「おかえり、大和」
なんだか、嬉しそうにリビングに向かう影がみえた。
*
「このお肉美味しいです!」
「そうでしょ?この肉、私行きつけの店で買ってるのよ」
「本当ですか!?味が格別な訳です」
楽しそうな会話が続いていた。ほとんど大和と祖母の会話だが、珍しく祖父も嬉しそうだった。しかし、俺だけは夕方の事でいっぱいだった。
「タクミさん?どうかしました?」
「ちょ、ちょっとね・・・」
俺は下を向いた。すると、祖母が言った。
「拓海、変えってから少しおかしいわよ。あんたの事だし、変なことで心配してるんでしょ?もう私たちに言いなさいな」
祖母は自分の母が消えてからずっと母親の代わりになってくれていた存在だ。多分一番心配してくれているのだろう。他の二人も心配そうにこちらを見ている。どうやら隠し事は苦手なようだ。もう隠すことなどどうでもよくなり、全て俺は言った。
「そんなことが・・・」
大和が悲しそうに言った。
「まだ、決定じゃないけどもう近所のとこいくしか・・・」
「ダメよ、あなたのお母さんがあそこにいかないためにしてくれたの忘れたの?」
俺の発言を祖母が止めた。祖母や母の気持ちはわかる。母は近所の予備校へ行かせまいと予備校などにいろいろ面倒な手続きを押し付けられた。でも・・・でも・・・でも・・・
「でも、もういく場所なんてないだろ!!」
俺は叫んだ。すると、部屋の中が静まり返った。もうダメなんだ。ろくな就職も出来ず人生終わるんだ・・・。俺が働ける職業なんて・・・
「あるよ」
祖父が言った。言い終わるとくすくすと笑いだした。何が面白いかわからなった。半ギレで言い返す。
「何?何かあるの?」
祖父はとてもえらそうな顔になった。
「ちょっと友人に人が足りないっていう店があってだなぁ・・・」
祖父がぶっ壊れたとも考えたが、そういうことはなかった。祖父は時計を確認してから言った。
「ここに呼んでいるんだけどなぁ・・・もうすぐ来るかな」
どこまで準備満タン何だよ!?その時、インターホンが鳴った。
「おう、入れ。空いてるぞ」
祖父がいうと玄関から一人家に入ってきた。そして、リビングに来る。扉がほらいた瞬間、俺と祖母は大声で言った。
「京子おばさん!?」
「京子!?」
*
5人でテーブルを囲みお茶を飲んでいた。ちなみに、京子さんは祖母の妹だ。俺とは正月この家で会うくらいしか関係がない。 だからどんな仕事をしているのかも見当がつかなかった。ていうか、祖父の友人といってもまさか親戚だとは思わなかった。
「京子さん、この孫どう?」
京子おばさんは俺を5秒ずっと見た。すると、笑顔で言った。
「採用!」
マジかよ。面接通ったよ。俺は大和と会ったときくらい、驚きを隠せなかった。
「ホントにいいの?」
「いいのよ、姉さん。ちょうど新しい人欲しかったし、身内なら尚更大歓迎よ。明日から泊まり込みで頼むわね!」
「マジっすか!?」
「マジですよ!今夜、準備しておくのよ!」
話がどんどん進んで行った。とにかく明るい性格の京子おばさんは、俺を熱烈に向かい入れて、明日から働くことになった。どうなんだよ、これ…。すると、その話に入ろうと一人の声がした。
「あの・・・」
大和だった。何が言いたそうだった。だが、京子おばさんは何かを察したようだ。ニヤリと笑い大和に言った。
「まさか、ボーイフレンドがいなるから寂しいんでしょ?」
「そ、そんな関係じゃないですぅ!!」
「え?顔に出てるよ」
「えぇ・・・、そ、そんな事・・・」
京子おばさんは顔を赤らめた大和の肩を叩いて言った。
「あなたも採用!」
京子おばさんは笑顔で言った。なぜか、その姿を見て、涙が出てきた。
「た、拓海?」
祖母が俺を心配する。祖母、祖父、京子おばさんの三人のおかげで職に就く事が出来た。とても嬉しすぎた。そんないろいろな思いを胸に俺は急に立ち上がった。それに合わせて大和も立ち上がった。そして、二人同時に深くお辞儀して言った。
「よろしくお願いします!!」
するとおばさんもお辞儀をして言った。
「こちらこそ、頼むわね!」
三人お辞儀をやめた。
「おばさんの店、厳しいわよ。それでもしっかりついてくるのよ!」
「「はい!!」」
三人目を合わせて、不思議と笑顔が溢れた。