旅館大和においでやす   作:たくみん2(ia・kazu)

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年末いかがおすごしでしょうか?ぎりぎり今年中に新作ができました。そろそろ本編(飛男さんの作品)がどんどん進んで行くのを見てプレッシャーに押されながらも書きました…。

今回の話は、大和は少なめですが、主人公が今後置かれる状況を整理したような話になります。さらに前後半に分かれていますので、後半を楽しみにしつつ、前半をご覧いただければ幸いです。


第三話 幸福?不幸?(前編)

目覚めの悪い朝。俺は掘りごたつに足を入れ、朝食のトーストをのんびり食べていた。

昨日は大和が来てくれたことに嬉しく、幸せだと思っていたが、その感情が正しいのかわからなくなっていた。今現在、俺の目元にはクマが出来ており、いつも以上にダルさを感じていた。ほんと、あんなことがなければ…

 

それは、昨日の夜の事である。いや、正確に言えば、今日の3時くらいと言った方が良いだろうか。

俺は不意に目が覚めた。ちょうど隣くらいにある時計を見て、まだ朝が早いことに気が付いた。こんな時間に起きてなんもすることがなく、二度寝しようとした。ところが急にトイレに行きたくなった。俺は寝ぼけながらも、立ち上がる―いや、立ち上がっているはずだった。

しかし、目線の景色は変わらず、俺は理解に苦しむ。ふとこのまま二度寝しようと考えたが、この歳にもなって漏らすという可能性がないとは限らない。

しばらく懸命に体を動かそうとするも、やはり言うことを聞かない。そろそろやばくなる。急に腹が痛くなった。俺は必死に腹を押さえる。

その時、俺はふと異変に気づいた。漏らしたわけではない。ただ、この動けない状態にある理由が分かったのだ。これが金縛りって言う奴か!?とまで考えたのだが、どうやら違うらしい。これは・・・後ろをふりかえると、そこには茶色でロングの髪毛があった。

「やっ、大和!?」

大和が、俺のベッドに入ってきていたのだ。それもご丁寧に、背中から抱きしめられている。おまけに、胸のアレまで俺の背中に押し付けられている始末だ。

本当なら、男にとってこの状況は大変喜ばしいことだ。他の大和提督がこの事を知ったら、俺の急所を金属バットで、跡形もなくなるまで叩かれてもおかしくないだろう。正直とても、複雑な気持ちである。

とりあえず、状況を整理しよう。まず初めに、大和が俺のベットに入っていることはおいておこう。それなら事故の可能性もある。って、人の布団に入り込む事故って一体なんだよ。おかしいだろ。しかし、今それを深く考えるわけにはいかない。一番おかしいのは・・・

 

俺に抱き着いている事だ!

 

これは明らか故意があってやっている。それ以外考えられん。しかも、結構がっちりと俺の腕ごと抱き着かれている。そのため俺が腕すら取り出すことができず、どんだけ力をいれても全然びくともしない。

ともかく現在俺は身動きが取れず、更にはトイレにいきたいという最悪の状態におかれているのだった。やべえよやべえよ。まだ、この状態から寝ようとすると寝られると思う…。いや、無理だ。トイレに行きたいという生理現象がうまく働いて、寝ることができない。ここで、漏らすことは一生の恥になる。もう、お婿さんになれない・・・と思ったっきり意識が遠のいていった。

 

 

まあそんなこんなで、俺は何とか漏らさず朝を迎えることができた。死に物狂いで耐えようとして、結局眠りについてしまったようだ。不幸中の幸いにより漏らさず済んだため、漏らしていないという結果だけが残った訳だ。

そんな、俺の体と残りの人生を危険に晒した大和は、俺の祖母と楽しそうに会話していた。初めて互いに顔を合わせたのが、つい2時間ほど前なのに、親睦がだいぶ深まっている。どうやら大和は、コミュニケーション能力が高いようだ。俺にもそんな能力がほしいよ…。

「そうだ拓海、せっかくナゴミちゃんがいるんだから、勉強でも教えてもらいなよ」

「お、おう」

ちなみにナゴミというのは大和のことである。この事は昨日の夜に決めた。フルネームは、大田 和 で通すつもりだ。これなら俺が普通に大和って呼んでも、おかしくない状態ができる。ちょっと無理矢理感もするが、もうこれでいいのだ。

「いや、お母さま。わたしもそこまで賢くないですよ」

大和が謙虚になって言う。

「そうかい?拓海より何倍も賢そうだけど」

祖母は俺を睨む。超嫌みだった。その時、一本の電話がかかってきた。俺は立ち上がって受話器を取りに行こうとした。

「私がでます」

大和が言った。

「もしもし・・・」

とても丁寧に対応していた。まるで、どこかのお問い合わせセンターのスタッフのようだった。すると、大和が呼んだ。

「タクミさん、お電話です。予備校…の方かららしいです」

予備校の人から?俺はよく状況が分からないまま受話器を渡された。

「もしもし、拓海です」

「拓海さんですか?本日の予備校のことでお電話させていただきまして…」

電話は一分ほどで終わった。終わると祖母が聞いてきた。

「何があったかくらい、いいなさいよ」

「今日は午前中の授業がないってよ」

事情はよく分からんが、なにか予備校内部で何かあったらしい。まぁそんなことはどうでもよかった。俺は、今朝の事件のこともあって、相当だるい。故に今回、午前中だけだがのんびりできる時間はありがたいかな。少しでも有意義に使うことが出来そうだ。

俺は体を伸ばすと、目の前にあるお茶を一杯飲んだ。すると、隣で静かに朝食を食べていた祖父がふと声をかけた。

「そうだ」

「どうしたの?」

「せっかくナゴミさんが来ているんだ。四人で雑談でもどうだ?」

あまりにも唐突で内心驚いたが、祖父がこういう提案をするのが珍しかったので、従うことにした。

とりあえず、台所にいる二人は、食器を片付けた後に、俺と祖父が座っている掘りごたつに座ると、話を盛り上げるのがうまい『THE関西のおばちゃん』である祖母が、会話の先陣を切り出だした。最初は近所のしょうもない話だったが、その後に今の家族の話、昔の俺の話、さらには大和の話になった。「私は戦艦で・・・」という話をしないかヒヤヒヤしながら聞いていたが、昨日二人で考えた設定通り、就職間近で、良い物件を探している、新卒生のように話していた。

さて、会話が思いのほか弾んで約2時間続くと、祖父が外出時間になったため、自然解散になった。すると、祖母が何かを思いついた。

「ナゴミちゃん、今日おふとん洗濯しに行きたいんだけど手伝ってくれない?」

「はい!」

大和は二つ返事で答えた。

家のはす向かいに先日オープンしたコインランドリーがある。しかし、祖母一人では運ぶことは容易ではなく、本当なら俺が手伝う予定だったが、予備校が忙しく、手伝うことがでなかった。今後も手伝える日が来るという確証がないので、大和に頼んだのであろう。大和が手伝ってくれるということで、祖母も嬉しそうだった。

二人は立ち上がり、洗濯する布団を取りに行った。一人残された俺は一人のんびりするのも悪いので、足りない文具の買い出しにいくついでに、早めに予備校にいくことにした。俺も立ち上がり、自室へ向かった。そして、予備校の用意を持ち玄関へ行った。そこで、布団を抱えた大和にあった。俺は靴を履くためにしゃがんで大和に言った。

「あっ、大和。早めに予備校行ってくるわ」

「わかりました。気をつけてくださいね」

「おうよ」

ちょうど返事したくらいに靴紐を結んで立ち上がった。そして、三歩ほど歩いたあと、大和の方に振り返った。

「なぁ、大和」

「何ですか?」

俺は恥ずかしがった。少し照れながら言った。

「あっ、ありがとな・・・手伝いやってもらって・・・」

すると大和が微笑み、こう言った。

「提・・・拓海さんは一生懸命自分のしたいことをやってもらえれば良いんですよ。そのことに私が手伝わせてもらえたのなら、それで私は幸せです!」

この大和の言葉がずっと頭に響いていた。

 

 

予定通り文具を駅付近のデパートで買い終えると、駅へと向かった。ホームに出た時、ちょうど電車が来たので、すがすがしい気分で乗った。昼間という時間帯もあり、思っている以上に乗車率は高くない。

俺はロングシートの端に座ると、かばんの中からWALKMANと一冊の本を取り出した。ちなみに聞いているのは艦これのアレンジ曲であり、本は“効率の良い資材の集め方”という艦これの本という。提督業も、頑張っています。

さて、一つ二つ駅を過ぎ、徐々に乗客も増えてきた。4駅目にサラリーマンが俺の隣へと座ると、彼はすぐにノートパソコンを取り出した。そこまで大きくないサイズだったため、隣で迷惑がかからなかったのだが、どうしても、俺の目がパソコンの方を見てしまう。この世の中、移動中までも仕事をやらなければならなくなったと、少し憂鬱になった。

本もある程度読み終わり、暇だった。そのため、少しでも社会の勉強になるという言い訳をつけて、彼のパソコンをこっそり覗き見することにした。彼はワープロを開くと、かばんから資料と思われる紙を取り出した。その紙を画面の文字と照らし合わせている。一分くらいで作業は終了した。俺はこの作業の様子をずっと見ていた。このような作業を通勤時まで引っ張ってやるとはとてもすごいなぁと小学生並みに感想を頭によぎらせていた。

すると、彼はワープロを閉じた。しかし、ノーパソをそのままにしてかばんから別なる物を取り出した。黒い手の平サイズの電化製品らしい。彼はスイッチを入れた。すると、電気がついた。これを見て俺は理解した。ポケットWIFIだ。ノーパソでインターネットを開く。次の瞬間、俺は反応せざるを得なかった。

「ん!?」

口にまで出てしまった。俺も顔色を変えた。彼のノーパソからは音は流れていないのだが、聞こえた気がする。聞き慣れすぎて脳内再生していたのだ。

 

『か・ん・こ・れ』

 

 

俺は予備校からの最寄り駅を出て、線路沿いに歩いていた。すると、突然涙のようなものがでてきた。これは、つい、15分前に遡る。

提督サラリーマンは遠征を回収した後、建造に入った。数分資材を眺めていたが、決心が付いたらしく大型艦建造を行った。資材は4662で100個。完全な大和レシピだ。俺は、大和提督としてこれを見守らなければならないと思った。

彼は、両手を合わせた。俺も気持ちだが、成功するのを祈った。そして彼はクリックした。

その瞬間、隣から心の歎き声が聞こえた・・・気がする。なんせ彼のノーパソには・・・17分文字・・・。

 

車内で悲劇があったが俺は一生懸命忘れようとした。しかし、俺の記憶の奥深くに刻まれてしまった。そういうことがありつつも、なんとか予備校へ向かっていた。

ちょうど授業が始まる1時間前についた。中に入ろうとしたが、俺は昼飯を食べていなかった。道路を挟んで予備校の向かいに牛丼屋があるため、そこへ向かった。

俺は並の牛丼と、ミニサイズのうどんを頼んだ。よく考えればここに来るのは初めてだった。だいたい飯は家で食べるか、コンビニで買ったやつを自習室で食べるかの二択だった。さすがチェーン店だけあって出てくるのが速かった。熱々のうちにいただく。思っていた以上には美味しかった。

そのままずっと箸を進めていると二人組のおじさんが入店した。俺はこの二人を見て気がついた。彼らは塾の先生だった。俺が担当された事はないが、よく見る顔だった。二人は俺の後ろにあるテーブル席に座った。しかし俺には気づいていないようだった。俺は背後を気にしながら残りを食べていた。気にせず食べていたつもりなのだが、やはり後ろが気になった。後ろの様子はかなり落ち着いていた。なんだか、最後の晩餐のようだった。すると、右側に座った先生が話した。

「職場変わるの辛いなぁ」

「そうか?俺は家から近くなるし、結構嬉しいぞ。井上先生もそうでしょ?」

「そうやけどさぁ・・・。どうやら問題児が多いらしいねんなぁ…」

「最近の餓鬼はうっとうしいからね。俺んとこもやばいかもな・・・。気にしてへんかった」

二人は今後の心配をしていた。どうやら転勤組二人らしい。でも、こんな7月に転勤とは珍しいなと感じた。せめてでも9月くらいだ。まぁ大学浪人にはよくわからない事だった。すると、井上先生と呼ばれている人がお茶を一杯飲んで言った。

「まさかこんな事になろうとはな」

「ほんと、そうですな。ここはなかなか心地の良いところだったのに・・・。俺らにとっても。生徒らにとっても・・・」

生徒らにとっても?俺はこの言葉がどうも気になった。あの人らが転勤になることが俺らが影響される理由がわからない。担当されていた生徒には影響があるとしても、ただ二人の先生がいなくなるだけで、そんな大げさに言うとは思えないからだ。

その時だ。俺の脳内に予期したくないほどの可能性が頭に過ぎった。さらに、それを裏付けるかのように井上先生が言った。

 

「まさかここが、廃校になるなんてな・・・」

 

 

 

 


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