キーノの旅   作:ヘトヘト

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近況を。
仕事が夜勤シフトになった為、以前のように夜ふたばのオバロスレに顔出しは難しいです。
あと文字数の関係で同じ内容の投下は厳しい。
逆にこちらでは投下できない、短い字数ものを休みの時にアップできればと思っています。



【#14 可能性】

塩や『水晶』(低温型石英)など、結晶性物質に圧力を加えて変形させた時、その変形に比例した電流が流れる現象を圧電現象(ピエゾ効果)という。

逆に結晶性物質に電流を流すと、その強さに比例して物質の変形が生じる。

この現象は圧電気といい、結晶性物質だけでなく『骨』や木材などの生体物質でも確認されている。

 

水晶は効果的な圧電体であり、電撃魔法との相性は抜群なのだ。

媒介させることで電撃を強化し、逆に水晶の種類によっては絶縁性を発揮する盾となる。

キーノのような水晶に限定特化した地属性エレメンタリストは、是非に電撃魔法を覚えるべきである。

( ※ Web版のイビルアイは切り札魔法が第五位階の電撃魔法<龍電(ドラゴン・ライトニング)>)

 

「アンデッドも電撃には縁があるものらしい。継いだ死体が雷によって動き出した(フランケンシュタイン)話を聞いたことがある」

「サトルは物知りだね」

「ホラー好きな人が仲間にいたんだ」

「えっ、ホラ話なの?」

 

キーノは見逃さなかった。

仲間と口にした瞬間、サトルの雰囲気が和らぎ、そして一抹の寂しさを交えたのを。

女の人だろうか?

もやもやと嫉妬めいた感情が生じたが、確定するのが怖くて詳しくは聞けない。

だから話をすりかえるように、雷で動き出した死体の話をせがんだ。

 

 

            ※   ※   ※

 

 

『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』。

これは1818年にイギリスの女流作家メアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン・シェリーに執筆された。

一般では『フランケンシュタイン』で知られる小説は、科学者志望のスイス人の青年・ヴィクター・フランケンシュタインが創造した、名前のない怪物を巡る物語である。

 

人間を超える体力と知性、そして心を備えた怪物は、醜い容貌の為に創造主に拒絶され、他の人間たちにも迫害を受ける。

孤独な身を嘆いた怪物は創造主に自身と同じ存在―――伴侶の創造を求め、願いかなえて貰えば二度と人間の前には現れないと誓う。

 

しかし、青年フランケンシュタインはこれを拒否。

絶望した怪物が創造主の妻や友人を殺害した為、青年は復讐心をもって怪物を追跡する。

 

その途中、北極海で青年は遭難し、北極探検隊に拾われたが衰弱して息を引き取る。

彼の最期を看取った探検隊の隊長の前に怪物が現れる。

創造主の死を嘆いた怪物は、北極点で自らを焼死するべく姿を消すのであった。

 

 

            ※   ※   ※

 

 

(タブラさんに聞いた話じゃ、映画は無口で暴れん坊な怪物だけど、原作だと複数の言語を数ヶ月でマスターし、弁が立つ存在なんだよな。

容姿が醜いだけで迫害されるって、今の俺も身につまされ―――ってアレ?)

 

やけに静かと思ったら、キーノが全開で涙目だった。

創造主にすら拒絶された名前のない孤独な怪物。

人間から忌み嫌われる存在は、キーノも思う所があっても不思議じゃない。

 

「おいで、キーノ」

「…………」

 

涙をこらえるので懸命なのだろう。

恥ずかしがることなく、無言で素直に寄ってきた少女を迎えて、ローブの袖を彼女の目元に当てる。

それをキーノが受け入れて、顔をサトルの衣服にうずめた。

押し殺したような嗚咽と鼻をすする息遣い。

名前のない怪物のように人の心を持ち、人間からの拒絶と孤独を背負う存在は、心もとないただの少女だった。

 

「…………さんがいたら……」

「んっ、なに?」

「……お嫁さんを創ってもらえたら……幸せになれたのにね……」

 

実際はどうか分からない。

その後、数百年の間に二次創作として製作された映画や小説の中には、花嫁が怪物の醜さのあまり逃げ出す展開もある。

美女と野獣のように相思相愛とは限らない。

でも起きなかったことは、孵化しなかった卵であり、全て眠っている可能性だ。

温かで優しい夢であっても良いだろう。

 

「ああ、きっとそうだな」

「ねぇ? もしもサトルが創造主だったら怪物さんに何て名前をあげる?」

「そうだな。俺だったら―――」

 

直後、雰囲気は一変。

サトルの名誉の為に詳細は伏せておくが、キーノは怪物が名前を拒否する場面を想像し、涙が引っ込んだという。

こうして少女の悲しみは霧散した。

決してサトルが望んだ形ではなかったが。

 

 

最後に余談をひとつ。

もし二人の会話をホラー・マニアのタブラ・スマラグディナが見ていたら、奇縁に微笑んだに違いない。

特に少女を見て。

 

『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』。

この小説が誕生したきっかけは、作者メアリーを含む5人の男女が創作を披露し合ったディオダディ荘の怪奇談義(1816年)であった。

同じくこの怪奇談義をきっかけに、参加者ジョン・ポリドリにより執筆された作品がある。

 

タイトルは『吸血鬼』(1819年)。

有名なブラム・ストーカー作の『ドラキュラ』(1897年)に先駆けて、世界で初めて吸血鬼を主人公に置いた小説である。

 

 




補足でサトルは名前のない怪物をアンデッドと紹介していますが、実際は違います。
原典小説の扱いでは無生物に生命を宿す研究の成果。
負の力で動くアンデッドと違い、自然科学による人造人間です。
(ゆえに世界初のSF小説の評価も受けているのですが)

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