その時のものを加筆修正しています。
ショ・ガ・クウォー。
かつてサトルが元の世界で学んだという、貧しい者が属する事は難しい大金のかかる国家機関。
その話を聞いてキーノは納得した。
才能ある者しか学べない魔法詠唱者の師弟塾。
優れた血筋を集めるスレイン法国の神官組織。
世界が異なっても同じものだ。
サトルの操る高位階な魔法も、ショ・ガ・クウォーで育成された結果なのだろう。
強力な術者が優れた教師とは限らない。
しかし、目の前に居て言葉が届き、術理を得る機会があるのなら学ぶべきだ。
(サトルが師匠………… 一番弟子…………愛弟子って「愛しい」弟子だよね)
少女の内に情熱と意欲が湧いてくる。
その反応もまた、世界が異なっても同じものだ。
「えっ? 魔法を俺から学びたい?」
こくこくと首を振る様は可愛らしいが、少女への返答に困る。
プレイヤー鈴木悟の魔法はDMMO-RPGシステムの恩恵であり、教育でどうこう出来る類ではない。
この世界に転移したら、自然と扱えるように変化していたものだ。
「お願い! 私ね、真面目に教わるよ? サトルががっかりしなように頑張るからっ!」
「うーん、でも魔法で教えるようなこと……」
「何でも良い! サトルみたいな魔法使いになりたいの!」
そこまで言われると悪い気はしない。
「……分かったよ。じゃあ、キーノが今唱える事ができる魔法を全て教えてくれ」
「いいけど、そんなに多くないよ?」
「構わない。むしろ少ない方がベストだ。ただ、新しい魔法はキーノが自分で覚えること」
「えっ、サトルは教えてくれないの?」
「ああ、俺が教えるのは――」
サトルが不敵に笑った雰囲気をまとう。
「ガチ構成の指導と魔法の使い方だ」
今の鈴木悟の財産。
その1つはアインズ・ウール・ゴウンで過ごした日々だ。
自身は死霊魔法の使い手だが、メンバーには錬金術師や神官など異なる100レベルが所属し、様々な魔法を目にしてきた。
悟よりも強力な魔法詠唱者もいて、彼らの隙のない魔法選びの構成を覚えている。
そして魔法の使い方。
『誰でも楽々PK術』や『PVP』対策など、攻守に渡る戦闘術。
隙のない構成をする者にすら勝利を収めた、自分よりも性能に優れた者を打倒する工夫。
基本から応用までサトルはキーノに伝授する気でいた。
それがどれだけ怖ろしいことか、サトルは気づいていない。
恋慕という鎖に繋がれた少女は『褒められ』『認められる』喜びゆえに、愛しい人の血を吸うがごとく真摯かつ貪欲に吸収する。
ただでさえ吸血姫という希少な剣がより錬鉄され、研磨された鋭さを帯びるのだ。
二百年後―――
ある意味アインズ・ウール・ゴウンの後継とも言うべき、魔法戦闘術の結晶が完成するのだが、それはまた別の物語。
「<
「サトル知らないの? 本来は使用できない位階を発動できる、魔法の強化術だよ。魔力の消費が激しくなるけど……」
ユグドラシルになかった未知の魔法。
他にも聞いたことのない魔法の名前がキーノの口から語られる。
その多くが<絶望のオーラ>のように、元の世界では使えない効果だ。
しかし、この世界では有用という逆転現象が面白い。
(……香辛料を作る魔法ねえ。錬金術師だったタブラさん辺りなら目潰しとか、粉塵爆発に用いそうだな)
師が弟子を育て、弟子もまた師を高める。
独学では限界があっても、人は他人と触れて教え教わり、過去を振り返っては新しい発見を得る。
独りでなく二人だからこそ。
鈴木悟が出会った異世界の少女は、いつも新たな刺激を与えてくれる。
まるで
そういえば大昔の地球では、香辛料が黄金の価値だった時代があったという。
自分にそう話してくれたのは、ギルドの誰だったか?
懐かしい面々に思いを馳せるサトルを、黄金の輝きを宿した頭を傾けて少女が不思議そうに見つめていた。