キーノの旅   作:ヘトヘト

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第3話

【#8 BIRTHDAY 前編】

 

私の誕生日はいつになるのかな?

人として生まれた時?

それとも異形となり、心臓が鼓動を止めた日?

 

そもそも成長しない身体に、誕生日なんて意味はあるのかな。

そう呟いて黙り込んだキーノに、困ったように見ていたサトルが口を開く。

 

「誕生日ってさ、プレゼントやご馳走じゃないよな。俺は……祝ってくれる誰かが居てくれるだけで良いよ」

 

詳しくは聞けていないが、サトルは自分と同じくらいの年には独りだったという。

口が重い様子を見るに、幸せな時間ではなかったのだろう。だけど、サトルと同じという点が少しだけ心を晴らす。

 

「じゃあ、私が祝ってあげる。サトルの誕生日はいつなの?」

「…………」

「…………」

「……い…」

「……い?」

 

「……五日前だったような?」

「…………」

 

唐突なサトルの爆弾発言に「なぜ黙っていたのッ!?」と少女が怒り狂い、

数日かけて機嫌が落ち着く頃に吸血姫は1つ歳を重ねた。

 

 

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【#9 BIRTHDAY 後編】

 

異世界の少女キーノと旅を続けて、早くも一年が経とうとしている。

茶釜さんの腕時計が無ければ、流れた時間もあやふやになっていただろう。

そんな時だった。

誕生日の話題で彼女の機嫌を損ねてしまったのは。

 

自分の誕生日に思い入れがない。

そう答えては、少女が迎えるその日も否定してしまう。

 

(プレゼントは用意しておいた方が良いだろうな。

しかし、この年頃の娘って何が良いんだ?

こんな事ならギルドの誰かに聞いておけば良かった……)

 

何か欲しい物はないかと聞こうにも、先日の件で機嫌を損ねてしまい取りつく島もない。

さんざん悩んだ挙句、用意したのは―――

 

「……赤い服?」

「ROBE of SALAMANDER。炎に耐性を持つ火蜥蜴を素材にしたローブだよ。

アンデッドは炎が苦手だろう?」

 

サイズが大き過ぎると思われたが、袖を通すとローブは収縮して丁度よくなった。

魔法の衣服なのだ。

 

(……サトルの匂いが少しする)

 

吸血鬼の鋭敏な嗅覚が、遠い昔の持ち主を伝える。

彼が今よりも未熟だった頃に着用していたのだろう。

 

そんな昔の持ち物を大事に取ってあるサトルの貧乏性が、今も変わらないことが可笑しくて。

彼の過去を共有するかのように、プレゼントとして譲り受けたことが嬉しくて。

包まれている幸せに少女は赤くなる顔を隠した。

 

この火蜥蜴のローブ、ちょっと熱い。

だから仕方なく涙で顔を冷やすのだ。




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ふたばのスレに投下した時より加筆しています。

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