キーノの旅   作:ヘトヘト

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【# 最終話 オーバーロード 前編】

日が暮れ始めた時刻、魔法のコテージの一室。

大好きな人が触れた小さな胸を押さえながら、キーノは今日も儀式を執り行う。

魔力を急速に回復させる方法。

詠唱する呪文の綴りは『サトル』。

いつも温かな安心感を覚える儀式は、今日に限って反応が違った。

回復どころか怖いくらいに魔力は高まり、溢れんばかりに動かない心臓で集結して渦巻く。

 

何かが違った。

何かは解からない。

キーノは違和感がぬぐえないまま、一人で部屋に籠もって過ごすことにした。

サトルの名を唱えて起きた魔力の上昇。

本人を前にしたら、何か起こりそうで不安だったからだ。

 

コテージでサトルと一緒でないのは久しぶりだ。

不意に生まれた一人の時間。

いい機会だ、気持ちを整理して落ち着かせよう。

備え付けの寝台に寝そべり、これまでの日々を思い返す。

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………………………………………………

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……………………………………

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……サトルが大好きだ。

 

彼のいない世界など考えられない。

幸いなことに、相手も自分も不死者の身だ。

死さえ二人を分かつことは出来ない。

望めば望むだけ、この先も永遠に楽しい日々は続くだろう。

 

吸血鬼になって良かったと思える日が来るなんて想像すらできなかった。

大いなる災いの中の、たった一つの幸い。

いや、今となっては全てが幸福と言っていい。

 

横たわったまま宙に手をかざす。

視界に入ったのは、左手の指で光るオモチャの指輪。

サトルのいた世界の結婚式を教えてもらった時の品だ。

 

身を起こして、着ている赤い衣服のフードを被った。

誕生日にプレゼントされた火蜥蜴を素材にしたローブ。

微かに残っていたサトルの匂いは薄れ、今では彼にあげた香水の香りがした。

 

この身を包む全てはサトルのおかげだ。

今でも十分に幸せなのに、これ以上を望むのはワガママだろうか?

 

「……サ、サトルの……お、おっ、おおおお嫁さんに……」

 

声に出して耐え切れなくなり、ゴロゴロと寝台を転がる少女。

彼がいてくれるのなら他に何も要らない。

そう思える程、キーノは恋の魔法に陥っていた。

アンデッド特有の精神の完全耐性が嘘に思えるくらいに。

 

 

 

その夜、異変が起きた。

 

 

 

……何で……だろう……?   ……喉が…………渇……く………………

 

当初キーノは気のせいだと思った。

サトルから飲食不要のアイテムを借り受けて装備しているから。

病気だろうか?

念の為にサトルに魔法で診てもらったが、ステータスは正常だと言われた。

 

確かに正常かもしれない。

むしろ渇き以外は正常というか、心身が活性化しているような感覚さえある。

心配げなサトルに「大丈夫か?」と問われて肯定の返事を返した。

喉の渇きも我慢できない程でもない。

 

サトルがキーノの額に手を当てて、首を傾げる。

「ステータスは正常なんだが、何だか熱っぽくないか?」

顔が赤いのは、きっとサトルの距離が近いからだ。

額に押し当てられた手も、ちょっと前に自分の胸に触れたものだし……。

 

動かないはずの心臓がドキドキとして、鋭い嗅覚がサトルの臭いをとらえる。

もしかして私、サトルに興奮してるのかな?

はしたないと、サトルに嫌われたりしない?

ぐるぐると思考が回って、小さな頭は熱暴走で処理を放棄しそう。

その様子に不安を感じたサトルがさらに距離を近づける。

 

キーノの目を覗き込み、光をうかがうサトルの顔が近い。

脈絡もなく、ふと『 キスしたいな 』と想いが浮かんで、キーノは自身の衝動に硬直する。

高まって言葉にならない思考と感情。

緊張と困惑で、もっと喉がカラカラに渇いた。

 

渇きは夜が明けるまで続いた。

もちろん、ステータスは正常なのだ―――吸血鬼としては。

 

 

            ※  ※  ※

 

 

元々キーノは我慢が強い方だ。

ただ、泣き虫なだけで。

サトルと出会うまで、死者が徘徊する廃都で独り過ごした時間があったから、耐えることには慣れている。

それでも夜な夜な湧き上がる喉の渇きには、さすがに心の平穏を乱されずにはいられなかった。

水やスープでは癒えない欲求。

一週間も苛まれれば、気づくこともある。

渇きは決まってサトルが視界に入ったり、他の五感で彼の存在を感知した時に限ってだ。

 

迷惑はかけられない。

無意識の想いが、サトルを避けるように距離を取らせる。

彼に触れないように。

彼の姿を視界から外すように。

彼と過ごす一緒の時間を減らして。

 

しかし―――

いったん『好き』と自覚して行動した以上、相手を想うことは止められない。

昼間に離した距離と時間を埋めるように、夜間に訪れる渇きは激しさを増す。

サトルとは別の寝台の上で。

「……ッ……フゥ……」

苦悶の呻きをサトルに聞かれたくなくて、唇に自身の二の腕を押し当てた。

気を紛らわせなければ。

目蓋をきつく閉じ、彼の姿を想像して想いを込めた『キス』をした。

いつか来る日の為の練習だと、自分を励まして。

瞳をそっと開いて愕然とする。

少女の二の腕には、自身が強く噛んだ()()()()()()()ついていた。

 

この時、キーノは身に起こっている異常の正体を悟った。

夜に訪れる渇きの正体。

サトルという存在に結びつく欲求。

『キス』と二つの牙の跡。

少女が嗚咽を漏らす頃には、吸血鬼の持つ高速治癒の特性が腕から歯跡を綺麗に消し去っていた。

 

 

            ※  ※  ※

 

 

余談だが、『アンデッド(UNDEAD)』はブラム・ストーカー作の小説『ドラキュラ』で初めて使われた表現である。

いうなれば語句として、アンデッドの始まりは吸血鬼なのだ。

アンデッドは皆、食事不要で眠らない存在―――という訳ではない。

サトルのようなスケルトン種はむしろ珍しい方だ。

例えば屍喰鬼ことグールは名前の示すように屍を喰らい、ミイラ男ことマミーは棺桶で眠る。

 

そして吸血鬼。

死体を食すグールとは違い、彼らは生き血をすするアンデッドだ。

シャルティア・ブラッドフォールンのような種族としての吸血鬼とは異なり、職業(クラス)である吸血『姫』もまた。

 

飲食不要のアイテムがなぜ効かなかったのか?

それは異世界の吸血鬼にとって、吸血行為には二つの意味があるからだ。

 

一つは哀れな犠牲者を蹂躙する吸血―――これならばアイテムは効いていた。

もう一つは吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)などの同族や、眷族に招き入れるほど執着(アイ)した人間を対象とする求愛。

後者が求めているのは食事としての血ではない。

味わうのは生前から失った温もりと、不死者の渇きを癒やす為の『愛』だ。

 

性的な快楽さえもたらす『愛』の吸血は、人間における性交―――体液の交わりという意味で等しい。

事実、人間の血と精液は成分としては近しいと言われている。

愛している相手の温もり(血液)を求めるのは、吸血鬼としてごく自然のこと。

ゆえにステータスの異常ではない。

愛に飲食不要の効果は及ばない。

 

少女は文字どおり吸血鬼として成長したのだ。

サトルと出会い、経験(たび)を重ね、彼を愛することによって。

 

 

            ※  ※  ※

 

 

最近サトルは非常に気まずい。

夜な夜なキーノの部屋から、押し殺した吐息と声、ベッドの上で身じろぐ振動が伝わってくるからだ。

 

出会った時から誕生日を迎えてキーノは13才。

人間でいえば思春期まっただ中、性の目覚めがあってもおかしくはない。

微妙に距離を取られ、接触を避けられていたり、時おり顔色が興奮したように赤いのも納得だ。

見て見ぬふりをしてやるのが、大人としての対応というか武士の情けだろう。

 

(女の子の方が男よりも先に大人びるって言うからなぁ……)

 

肉体の成長は止まっているキーノだが、最近は不思議と色気というか艶めいた雰囲気がある。

視線を感じて振り返ると、熱っぽく潤んだ表情をしていてドキリとすることも増えた。

いけないと思うが、夜な夜なの気配は少女が乱れている状況を否応にも想像させる。

 

(俺はペロロンチーノさんじゃないんだ。エロゲみたいな展開は望まない……!)

 

手を取られ、幼い胸を押し当てられた事もあったのだ。

キーノが自分に向ける好意は、最早はっきりとしている。

それでも間違いを犯さないよう注意しなければ。

 

でも、『間違い』って何だ?

人の世の道を踏み外す(OVER ROAD)ことか?

人間ならば相手が幼い時、その成長を待って誠実に付き合うこともできる。

しかし、キーノはアンデッドとして時も死も止まった状態だ。

そもそも自分は少女の想いにどう応えるのか?

嫌いではない。

それはハッキリと言える。

彼女との旅は、仮想空間(ユグドラシル)で過ごした黄金時代の喪失以来、楽しいと思える時間だ。

異形種というくくりでも、アインズ・ウール・ゴウン時代の続きに等しい。

嫌いなはずがない。

()()失いたくない。

それだけはキッパリと断言できる。

 

 

            ※  ※  ※

 

 

キーノ・ファスリス・インベルンは誕生した時から吸血鬼ではない。

人間が転化した存在だ。

少女らしい幼さを精神に残した、大人を凌駕する異形種の身体。

太陽の笑顔を見せる、夜と退廃の似合わない吸血鬼。

収まっていた二律背反(アンヴィバレンツ)は均衡を崩していた。

 

欲求は我慢すればする程、高まるもの。

単純に渇きを満たすだけでなく、性的な快感さえもたらす吸血鬼の求愛は凄まじい。

しかも彼女が転化したのは大人ならぬ13歳。

ただでさえ育ち盛りで、思春期が始まろうとしていた年齢には、吸血鬼の衝動は地獄の責苦に等しかった。

 

吸いたい / 吸いたい / 吸いたい / 吸ったら嫌われる / 吸いたい    /

 衰退  /  衰退   /  衰退   /  衰退  /  吸い……好いたい……

 

求愛の衝動に耐えていた原動力は、皮肉にもサトルに迷惑を掛けたくない・嫌われたくないという思い。

キーノは精神を削るようによく耐えていた。

ある意味、愛の証明だった。

しかし―――

 

 

            ※  ※  ※

 

 

人里のない荒野や森林を突き進み数週間。

今日も魔法のコテージを展開して夜露をしのぐ。

キーノが距離を置くようになった、サトルの寂しい夜の時間に終わりが来た。

背中に、ぽすんと寄りかかる小さな重み。

久しぶりの感触が予想以上に嬉しくて困る。

甘えてくる少女に指摘をすると、へそを曲げ見栄を張って離れるかもしれない。

そう思って何気ない風を装い、振り返らずに黙って任せるままにした。

 

だから、キーノの異常に気づくのが遅れた。

 

虚ろな赤い瞳は光を放ち、闇の中で燃える炎のよう。

小さく可愛い八重歯は、鋭く伸びて犬歯に。

白く小さな手がサトルの胸元に伸びる。

 

サトルは失念していた自分を怒鳴りつけたい気持ちだった。

異形種のデメリット。

醜い外見や一部の能力に対する制限といった不利な特徴。

血を欲しない吸血鬼を、吸血鬼と呼ぶ訳がない。

加えて危機感が抜け落ちていたのだ。

自分は強力な装備や各種スキル、少女とのレベル差もあり、血肉を持たない肉体だから被害は及ばないと。

 

糞っ! 違うだろう、鈴木悟!

こんな時、傷つくのは俺じゃない! キーノの方だろうがっ!

 

 

「―――サトル……きらいに……ならない……で……」

 

 

胸にすがる腕は抵抗と恐怖で震えている。

苦しげな懇願を耳が拾い、サトルの腹は決まった。

迎えるように腕を差し出して、相手を胸元に抱き寄せる。

血肉はないが、キーノが落ち着くなら持っていけ!

白骨に牙の刺さる小さな痛みは一瞬。

訪れた快楽に精神抑制が反応し、サトルは微かに発光した。

 

エナジードレイン。

精や魂を吸い上げることで、対象の能力やレベルを低下させる凶悪な特殊能力である。

悪魔種族のサキュバスも同スキルを持つが、彼女たちは不死者からは奪取が難しい。

不死者が宿す負の生命力が害になるからだ。

だが、同じ不死者である吸血鬼やワイト等はこの問題をクリアする。

 

失ったレベルは再び経験値を積むか、信仰系魔法の高位呪文<復活(リストア)>を使用することで回復できる。

もっとも、後者で回復できるのは1レベル分のみ。

強力な3レベルや5レベルのドレインを喰らった場合、一部しか回復することができない。

 

ユグドラシルでは未発見で終わった隠し職業(クラス)を取得すれば、レベルドレインを覚えるはずであった。

死亡のペナルティでなく、レベルを下げることができる。

これはフレンドリィ・ファイヤーが有効な異世界では、再レベルアップでスキルの再構成(リビルド)を行えるという事だ。

攻撃の手段としてのみならず、仲間をより強くする調整にも役立つ。

 

キーノの『吸血姫』は職業(クラス)スキル。

職業(クラス)とは生き方。

何が変化・成長の兆しになるか分からない。

例えば浮浪児が姫の護衛剣士になったり、平凡な村娘が将軍になる場合もあるだろう。

そして職業(クラス)のレベルが上がれば、新たなスキルを覚えることもある。

愛を知ったことで進んだ『吸血姫』としての成長は、秘められたドレイン能力を開花させたのだ。

 

 

気がつけばサトルの腕の中にいた。

罪悪感を伴った満足感。

視界が熱く揺れる。

 

「泣くほどお腹すいていたのか?」

 

空腹じゃなくて渇きなんだけど。

声を出すと嗚咽になりそうなので、キーノは首を振って否定する。

レベル差があり過ぎてキーノの身体や能力では、サトルの防御抵抗を突破できる訳がない。

だから、これは故意に装備や常時(パッシブ)スキルなどの守りを解いた結果。

彼の甘い、本当に甘い優しさだ。

 

「あ……ああ……っ……」

 

怖ろしかったのは、サトルから奪った精を『美味しかった』と感じたことだ。

大事な人を食物のような対象にしたこと。

これがシャルティア・ブラッドフォールンのような、生来の吸血鬼であったら悩まなかったに違いない。

食べちゃいたいくらい愛しいひと。

吸血行為は吸血“ 好意 ”。

魅力ある存在の血潮(いのち)を己の中に取り入れたい。

人間の女が好いた相手の子種を欲しがるように。

 

人間の心を持つ『吸血姫』には理解できない。

彼女は吸血鬼としても年月が浅いゆえに。

初恋の愛を抱く『吸血姫』には許容できない。

奪うことも愛の形の一つと知らないゆえに。

とうとう耐え切れずに、キーノの瞳から涙が零れ落ちた。

 

初めて吸血鬼としての自分を怖れて。

この愛は成就しない初恋であると悟って。

少女は決心した。

サトルと自分の旅は終わりが近づいている。

だったら、大好きな人の幸せを願おう―――

 

『吸血()』の想いは王子に愛される白雪姫(ヒューマン)でなく、相手の幸福を願う人魚姫(モンスター)のそれ。

ゆえに肉声(ほんね)を失い、地上を歩く度に初々しい足が痛みを伴う。

 

翌日からキーノがサトルと一緒に過ごす時間が復活した。

代わりに少女の笑顔は変化している。

冬の陽のようにどこか遠くて、そっとこぼれる表情として。

透き通った笑顔は不死者には似つかわしくない、まるで死期を悟った病人のようであった。

 

 

            ※  ※  ※

 

 

「ねえ、サトルのお友達のお話を聞かせて」

 

笑うことが少なくなったキーノが嬉しそうにするから、ほぼ毎日サトルは語った。

かつての仲間達の想い出。

人生で最も楽しく、時間とお金と情熱を費やした日々。

語る内に声に熱がこもり、瞳の輝きはあの時間に戻る。

サトルはこの時、気づかなかった。

キーノが嬉しそうなのは、好きな人が心から嬉しそうに見えるからだと。

 

(……決めた。名前はやっぱり―――)

 

「そういえば、最近キーノは何をしているんだ?」

「何のこと?」

サトルが離れた時を見計らって、少女が何かしている感じがあった。

教えないなら、もう仲間との日々は話さない。

そう問い詰めるとキーノは渋々と口を開いた。

 

「……新しい魔法を創っているの」

 

少女の趣味は魔法開発と実験だ。

以前その産物である香水をサトルは貰ったことがある。

地属性エレメンタリストらしく、また水晶に関係した内容だろうか?

 

「どんな魔法なんだ?」

「ないしょ、だよ」

 

今度は脅したり懇願しても、決して教えてくれなかった。

「完成したら絶対サトルに見せるから」の一点張り。

 

「そんなの気になって仕方ないじゃないか! じゃあ、1つだけでもヒントを!」

「ダ~メ」

ヒントをくれないと悪戯しちゃうぞ(Trick or Hint)?」

「私サトルになら何されても良いもん」

「ちょっ!?」

 

キーノがささやかな胸を突き出す。

悪戯ってそっちじゃねえよ! と叫びたいが、いつぞやの触った時を思い出してサトルは怯んでしまった。

ただでさえ秘密が不満なのに、こうやり込められてばかりでは面白くない。

意外と負けず嫌いの彼が、つい口にしたのは―――

 

「ヒントくれたら一回だけ吸っても良いから」

「……っ!」

 

一瞬で少女の顔が蒼ざめて、サトルは己の失言を悔やんだ。

キーノのエナジードレイン。

先日は幸いにも、サトルの能力値やレベルを下げることは無かった。

高位魔法詠唱者がレベル99から100になる経験値と、未完成の中位魔法詠唱者がレベルを1つ上げる経験値では、余りにも桁が違う。

おそらくはレベル差があり過ぎて、未熟なキーノでは吸い切れなかったのだろう。

それでもキーノの渇きを数日も抑えるだけの莫大な精気(エナジー)は奪われているのだが。

 

「……ごめん、悪かった。もう聞かないから許してくれ」

「いいよ。さっき言ったでしょう? 私サトルになら何されても良いって」

 

弱々しく首を振りながら、キーノが額をサトルの胸元に押し当てる。

伏せた表情は彼からは見えない。

少女の口からヒントが一つ。

 

「絶対サトルに破れない魔法」

 

これは大きく出られた。

サトルも魔法詠唱者として、それなりの自信はある方だ。

自身が招いた暗い雰囲気を吹き飛ばすように、意識的におどけてサトルが笑う。

 

「何だよ、まるで超位魔法やワールドアイテムみたいだな」

「ワールドアイテム?」

 

世界に匹敵する効力を持つ、規格外の魔法の品々。

現在サトルも装備しているが、流石にそれは伏せておく。

軽く説明するとキーノは何気なく呟いた。

 

 

「でもね、私にとってサトルが世界みたいなものだよ」

 

 

至近距離で告げられて、愛おしさがサトルの胸にこみ上げてくる。

爆発的な感情でなく、器が満たされるような静かな温もりだった為、精神抑制は発動しない。

自然と手をキーノの頬に伸ばす。

小さな唇と歯並ぶ口が触れた。

 

事故によるものではない。

頬や額にする親愛の印でもない。

これはサトルが初めて明確に示した意志だ。

 

泣き虫の少女が頬を濡らす。

サトルは嬉し涙だと疑わなかった。

泣き虫の少女が喉を鳴らす。

己の罪深い衝動に耐えながら。

 

望外の幸せは彼女の絶望を加速させる。

それでも自分はサトルになら何をされても良い。

キーノが受け入れることで『吸血姫』としての成長が進み、職業(クラス)の限界レベルを目指し始める。

 

そして―――少女の魔法が完成する日がやってきた。

 

 

                              ― 中編に続く ―

 

 

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アンデッドにエナジードレインは効くのか?
この不安を解消してくれたのは、TRPG『D&D』が発端になって生まれた古典PCゲーム『ウィザードリィ』。

僧侶の召喚魔法で出現するアンデッドが、ボス戦でエナジードレインを喰らってレベル下げられているんですよ。
まぁ、首のないモンスター(スライムやウィル・オー・ウィプス等)の首を刎ねるゲームなので、本当は違う処理かもしれませんが。

イチャイチャな二人旅を期待した方々すみません。
こちらは前回から覚悟を決めておりまして。
本気でキーノにヒロインになってもらおうと考えた結果です。
最終的に背中を押したのはアニメ円盤6巻の特典小説なんですけどね。

完結する後編に期待して頂いて、今しばらくお待ちくださいませ。
副題の意味は次回に解かります。
独自解釈も多めになりますが、納まるとこに全て納まる予定ですので。

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