キーノの旅   作:ヘトヘト

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第1話

【#1 吸血姫】

 

アンデッドの心臓は動かない。

だが、サトルのことを考えると、動いたような錯覚を覚える。

それも跳ね上がるように大きく。

心の中でサトルの名前を唱えてみる。

恐る恐る、ゆっくりと大事に。

 

……サトル……サトル……サトル……

 

呪文は胸にしみ込んで、安心感と共に精神を温かく賦活させる。

この不死の冷たい身体に、失った何かを取り戻してくれる気持ちになる。

 

それは偶然に発見された、魔力を急速に回復させる方法。

キーノ・ファスリス・インベルンの大切な儀式だった。

 

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【#2 混乱と把握】

 

喧嘩するほど仲が良いという。

それは鈴木悟とキーノ・ファスリス・インベルンの2人にも相当する。

 

「サトル(魔法詠唱者)が私に勝てるはずないじゃん

 スッといってドス、で終わりなんだからねっ!?」

 

「ならば答え合わせといこうか?」

 

先手を取って、キーノの小さな体が男に抱き寄せられた。

仔猫のように腕の中で硬直する少女を微笑ましく思いながら、サトルは顎を金髪の上に載せる。

 

「言い忘れていたな。……私は非常に可愛たがりなんだ」

 

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【#3 赤顔の戦乙女】

 

絶対にサトルは自分の保護者きどりで侮っている。

あの余裕は何だかムカツク。魂的な何かで許せない。

だから後日、キーノは再戦を申し込んだのだ。

 

スッといって―――小さな唇が硬い骨の感触をつかむ。

「!?」

まるで電撃が全身を貫き、目から火を噴いたようにサトルが狼狽した。

しかし、その動揺も数秒で抑制されて鎮まる。

 

「冗談でも、女の子がそういう事を……」

 

言いかけて男は気づいた。

少女は顔を真っ赤に染め、立ったまま気絶している最中だった。

 

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【#4 PVN 前編】

 

姫を守る騎士なら、誓いと共にずっと側にいてくれる。

でも、サトルは騎士でなく魔法詠唱者。

それも神のごとき、想像もつかないレベルの。

 

そんな凄い魔法詠唱者が、自分みたいな何も返せない子供のお守りで終わって良いはずはない。

分かっているのだ。

対等な関係なんて、出会った初めから望むべくもない。

 

この成長しない体は、中身だけは育てていく。

知識・経験・感情―――積もり続ける想いと比例する不安。

 

サトル次第で私はまた独りになってしまう。

 

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【#5 PVN 後編】

 

子供の姿に乗じたちょっかいも、どこまで許されるのか試しているのだ。

いつまでも傍に居させて欲しい。

サトル。私は1つ以外は望まないから、どうか……

 

Pray  Vow    Near

祈り、  誓い、  近づく ――― どうか私を見捨てないで。

 

「キーノ?」

ローブの裾をつかんだ少女に、サトルがどうした?と首を傾げる。

 

「私は希少な吸血【姫】。お姫様なんだから、サトルは私を大事にしなさいよね!」

 

発言とは裏腹に裾を握る手は力がこもり、小さく震えて離そうとはしなかった。

 




初出は二次元裏@ふたばのオーバーロードスレ。


Twitterで丸山くがねさんの投下があった土曜日。
スレで仕事の早い手描き絵師さんが、寄り添うキーノとサトルの絵を投下して想像を掻き立てられたこと。

月曜日に#1を投下した所、読んだ人の一人が(たぶん冗談で)続きを希望したこと。
軽い気持ちで続きを書き続けた結果、読み飛ばしそうなので二次創作サイトに投稿してくれと書き込まれて現状に至ります。

元々タイトルのない副題だけの投下でしたので、その書き込みで言われた「キーノの旅」をタイトル採用させて頂きました。
銃も言葉を話す二輪車もありませんが、魔法を使う保護者は付いています。

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