ステージ上ではキラキラと輝きながら様々な色に変わる照明の中で、ダンス同好会とチアリーディング部によるオープニングステージが行われている。
あー、チア部の服可愛いなぁ……。小町に着せたい。
え?俺の状況?俺は……
「先輩?聞いているのかしら?」
「はい、勿論でございます」
絶賛説教中ですよ。正座で。
ちなみに、この様子は雪ノ下さんと俺のインカムにより全文実へ実況されている。何もここまでしなくていいじゃないか、ゆきのん!
「はぁ……。あなたはインカムと文実の耳を壊すつもり?」
「雪乃ちゃん?みんなの前では先輩と呼んでくれない?ほら、俺一応先輩だからさ。威厳とかあるじゃん?」
「は?」
「すみません」
怖いよ!いや、本当に全部俺が悪いんだけどさ!そこまで睨まなくてもいいじゃんよ……。
『あの、副委員長……。そろそろ曲あけるんですけど……』
俺の謝罪で目つきが少し緩んだところでPA部門から連絡が入る。
「……了解。相模委員長。スタンバイします」
その報告を聞いて雪ノ下さんの目線は再びステージへと戻っていく。
なーいす!PAちゃんなーいす!でも正座は解かせてくれないんですね。
チア部達がステージ袖へはけていくと、司会のめぐりが再び壇上へ現れ委員長ちゃんを呼び込む。そして、マイクのハウリング音から始まった挨拶はまるで聞けたものではなく、予定の時間を大幅に過ぎていく。
それを見かねた雪ノ下さんがタイムキーパーである八幡へ巻くよう伝える。しかし、八幡も先程から指示を出しているようで、委員長ちゃんはそれを確認する余裕もないらしい。
まあ、あれだけテンパっていれば周りが見えなくなるのは当たり前だよな。
そうこうしている間にインカムから聞こえてくる会話は痴話喧嘩へと発展していく。
まったく、この二人は仲が良いんだか悪いんだか……。
『あの、副委員長。みんなに聞こえてます……』
そこで一人の文実からそんな言葉がインカム越しに伝わる。
うん、ばっちり聞こえてましたねー。人のこと言えないじゃん!
「……以降のスケジュールを繰り上げます。各自そのつもりで」
文実の言葉を聞いた雪ノ下さんは顔を若干赤くして今後のスケジュールを皆に伝えた。
「……痴話喧嘩」
俺のそんな言葉に無言の蹴りとインカム越しの複数の笑い声が俺を襲った。痛い。
二日ある文化祭のうち、今日の一日目は校内だけのお祭りだ。校内はオリジナルTシャツを着た生徒達で溢れかえっている。
今日は生徒会執行部の主な仕事である来賓対応がない為、執行部の生徒、そして仕事があまりない文化祭実行委員の生徒は今日という日を目いっぱい楽しんでいる。
そのことをクラスの奴に伝えると、手伝いの時間を急遽二時間増やされた。なぜだ。
というわけで、ただいま店番中です。
「いらっしゃいやせー。らっしゃっせー。焼きそばいかがっすかー」
「比企谷君、その格好でそのセリフはないよ……」
教室の前で客の呼び込みをしていたのだが、教室から出てきた同じクラスの女子に呆れた顔で見られてしまった。まあ、確かに執事服でさっきの言葉は違和感バリバリかもしれないが。
「そっか。じゃあ、安いよ安いよー!地域の祭りで出す結構高い焼きそばより断然安いよー!あ、そこの兄ちゃん!焼きそば!焼きそば食ってけ」
「変わってないよ……。確かに地域の祭りの食べ物は高いけどさ……」
だよね。絶対三百円くらいのものが五百円したりするしね。ジュースだけでもコンビニで買うより倍くらい違うもん。
ちなみに、教室内で出す焼きそばは流石に教室内で作ることはできない為、中庭で作ったものを定期的に教室へ運んでくる。火事になったら大変だもんね。運搬係も執事服やメイド服を着てるのはどうかと思うけど。
「はぁ……。そろそろ、中に入って接客してくれる?めぐりも一二三君ももうすぐ来るから」
「了解。それでは、おつかれさまでぇいっす!比企谷入りやーす!」
「お前は居酒屋の店員か!」
そんな調子で教室へ入っていくと、入り口付近に立っていたクラスの男子にツッコミを入れられる。
「ほらほら、執事服着てるんだからお嬢様の前では静かでいないと」
「お前に言われたくねぇよ!はぁ……。さっきからお前を指名してる人がいるんだよ。さっさといけ」
「りょうかーい」
そしてクラスの男子に教えてもらった席へと向かう。
「……」
「どうした、比企谷。こういう時の常套句があるんだろ?早く言え」
そこに座っていたのはいつもの白衣を身に纏った平塚先生だった。
てか、教師がなんで普通に接客されようとしてんの……。ん?あれは鶴見先生?あっちは科学の橋本先生!?教師結構いるし!自由にも程があるだろこの学校!
「ほれ、早く言わんか」
うぜえなぁ……。まあ、客は客だししょうがないか。
「おかえりなさいませ、お嬢様。ご注文はお決まりですか?と言っても焼きそばしかないですけど。てか、焼きそば食って早く出て行ってください」
「私への扱いが酷くないか?泣くぞ?」
いや、泣くぞと言われても……。なんでこの人は事あるごとに涙目だったり泣いてるんだよ。俺、この人に泣き虫のイメージもっちゃってるんだけど。
「はぁ……。これは失礼いたしましたお嬢様。あまりの美しさに照れ隠しをしてしまいました。お時間の許す限りおくつろぎください」
「う、うむ!くるしゅうないぞ!」
あんたはどこの姫さんだよ!年甲斐もなく照れてんじゃねえ!まあ、可愛いなとは思ったけど!この人美人だしな!ふん!
平塚先生の対応を終えた俺はカーテンで仕切られている控室前に立つ。
「あ、比企谷君。めぐりと一二三君来たよ。今着替えてる」
教室の様子を見に来たのか、カーテンから顔を出した女子が教えてくれる。
「おー、了解。二人の格好は見てないから楽しみだな」
「ふふふ!度肝を抜かれるよ!一二三君は当然比企谷君と同じくらいかっこいいけど、めぐりを見たら比企谷君動けなくなっちゃうんじゃない?」
「ははは!そんな馬鹿な!」
「お待たせー。って颯君!?」
「……」
「あ、やっぱり固まっちゃった」
俺の前に現れためぐりの姿を見た俺はそこから一歩も動けなくなる。
フリルの沢山ついたミニスカートタイプのメイド服。いつもは三つ編みにしているその綺麗な髪は結ばずおろしていて、それでいて俺のあげた髪留めはしっかりつけている。
語ろうとしてもひとつの言葉しか出てこない。
天使。
「まあ、こんなめぐりん見ちゃったら颯太が動けないのも納得できるけどな」
「あ、一だ」
「反応薄いなぁ。親友の執事服だぞ。もっと拝め、そして崇めろ」
そんな軽口をたたきながらカーテンの向こうから現れたのは執事服を纏った一だった。
「崇めるかよ」
「ねえねえ、颯君!似合う?みんなは凄く褒めてくれたんだけど!」
一とそんな冗談を交わしているとめぐりがとことこと寄ってきて自分の服を自慢してくる。
「おう。可愛いぞ。めぐり。最高だ」
「区切らないと喋られないんだな」
「うるさいぞ、一」
だって、しょうがないだろ。メイド服のめぐりが可愛すぎるのが悪い。
まあ、いい加減慣れてきたけどな。こんな可愛い姿、見ないのも損だしな。俺、順応するの早くね?
「どうせなら、髪留め外して前髪下ろせばよかったのに」
「ううん。だって颯君に貰ったものだし、これだけは外したくないなって思ったの!」
「はぅあ!」
思わずめぐりみたいな声が出ちゃったじゃないか。何この天使。俺を殺そうとしてる?天使なのに?もう反則ですわー。
「どうしたの?颯君」
「比企谷君ー!ご指名でーす!」
「よっしゃ!どんとこい!」
「あ、逃げた」
「逃げたな」
「んー?」
そんな言葉を聞きながら俺はご指名先へと向かった。
あと、ここはホストクラブじゃないぞ!ご指名ってなんだよ!
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「あら、なかなか様になっているじゃない」
教えられた席に向かうと、そこには優雅に足を組み、まるで本当のお嬢様のような雰囲気を漂わせた雪ノ下さんが座っていた。
いや、本当にお嬢様なんですけどね。
「……ゆきのん」
「もしもし姉さん?」
「やめて!ごめんなさい!」
ほんとにシャレにならないから!
「冗談よ」
「……雪ノ下さんはなんでここに?」
「見回りよ。校内行事とはいえ問題がないとも限らないし」
確かに、祭りの雰囲気にあてられ問題を起こす生徒がいないとも限らないだろうしな。そういう意味では見回りの重要性は高いだろう。
「そっか。さて、お嬢様。ご注文はお決まりでしょうか?まあ、焼きそばしかないですけど。あと水」
「……なぜ焼きそば?」
「わたくしに聞かれましても存じかねます。提案したのはわたくしめではありませんので」
いや、実際わかんないんだって。誰かが案を出して、それいいじゃん!決定!という鬼のスピードで決まったからな。彼等、彼女等の意図は全く分からん。
「……まあ、いいわ」
「お嬢様だけの特別メニューでわたくしとおしゃべりというものがありますが?」
「そう、ならそれで」
「かしこまりました」
そこから数分、俺は雪ノ下さんと雑談を交わした。途中から喋り方が気持ち悪いからいつも通りで良いと言われたけど。
やれ、八幡のクラスの演劇がおかしいだの、うるさすぎて頭が痛いだの、陽乃さんから明日行くねー?という意味合いのメールが何件も届くだの、ほとんどが雪ノ下さんの愚痴だったが。
まあ、気を抜くという意味ではよかったのかもしれないな。
その後、担当の時間が終わり、めぐりと文化祭を回ったのだが、お互いそのままの服で出てきた為、声を掛けられて仕方がなかった。
そんな風に楽しい時間はあっという間に過ぎ、文化祭一日目は成功という形で幕を閉じた。
どこに行っても委員長ちゃんの姿を見なかったのだけが気がかりだったが……。
どうもりょうさんでございます!
メイド姿のめぐりんがみたいよおおお!と感じるお話でした。
感想待ってます!次回もよろしくお願いします!
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