やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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城廻めぐりは友達である

 「んー……」

 カーテンの隙間から差し込む光を避けるようにベッドの上に座る俺の思考回路は、現在完全に停止している。ついでに体も思うように動かない。瞼は何度も降りかけている。

 要するに何が言いたいのかというと、俺は朝が苦手だということだ。

 「おー……」

 この世で最も忌むべき存在である目覚まし時計に起こされ早三十分。このように、先程から言葉にならない声を出し続けている。

 時計の針は六時半を指している。そろそろ準備を始めないといけない時間だ。しかし体は動かない。

 「どーしたもんか……」

 すでに小町の作る朝飯の匂いが俺の部屋まで漂ってきていた。俺の腹も小町の朝飯を欲しているのか徐々に主張を激しくしてくる。

 「兄貴、入るぞ」

 「おー、はちまーん」

 そこに遠慮気味にドアをノックして八幡が入ってくる。

 「いい加減一人で降りて来いよ。毎朝迎えに来る俺の身にもなってくれ」

 「よいではないか、よいではないかー」

 「お前は悪代官か何かかよ……。いいから、飯はもうできてるから行くぞ」

 「ういー」

 未だ思考回路は停止したままの俺の腕を八幡が引っ張りベッドから降ろし、そのままリビングへと向かった。

 朝に弱い俺を部屋まで迎えに来るのは八幡の仕事だ。放っておくと確実に遅刻だからな。それを防ぐために毎朝こうして迎えに来てもらっているのだ。

 一度動き出せば徐々に覚醒していくのだが、その動き始めるまでが問題なのだ。

 「おはよう、小町」

 「おはよー、颯お兄ちゃん」

 こうして小町に会うまでにまともな挨拶ができるくらいには覚醒できる。

 「そんじゃあ、いただきます」

 夕食と同様、俺の挨拶を合図に三人で食べ始めた。

 

 

 「よし!行くぞ八幡!」

 「へいへい」

 「れっつごー!」

 玄関を出た俺と八幡は自転車に乗り学校へと向かう。

 八幡の後ろには小町が乗っている。

 自転車を走らせ、しばらくすると小町の通う中学校へとたどり着いた。

 自転車を停めると、小町は八幡の自転車から降り鞄を持たずに校門へと向かっていく。何やってんの小町ちゃん。

 「おにいちゃーん!」

 涙目で戻ってくる小町に俺は可愛すぎて悶え、八幡は呆れたように溜息を吐いた。

 「何やってんだよお前は」

 「可愛いなぁ小町は」

 「それでは今度こそ行ってまいります!」

 鞄を受け取った小町は敬礼のポーズの後、改めて校門へと走っていった。

 「あざと……」

 「小町の場合はあざと可愛いだけどな。さて!俺達も行くぞー!」

 「へいへい……」

 俺達は校門をくぐっていった小町を見届け学校へと自転車をこぎだした。

 

 

 「おはよーさん」

 我が三年C組みの教室に入るとクラスの連中へと挨拶をする。クラスの連中からはパラパラと挨拶が返ってくる。

 「おはよー、颯君」

 「おはよう、めぐり」

 自分の席に着くと、隣に座る女子生徒が俺に挨拶をしてくる。

 このほんわか系、癒しの塊女子の名前は城廻めぐり。この総武高校の生徒会長であり、俺と三年間クラスが同じ数少ない生徒である。

 「今日は生徒会の集まりはなかったのか?」

 「基本朝はやらないよー。私が自主的に生徒会室にいるだけで、会議をしてるわけじゃないんだよ」

 「そうだったのか。てっきり集まりでもあるのかと思った」

 めぐりは基本朝は俺より遅く教室へ入ってくる。その時間は生徒会室にいるらしい。

 「生徒会が朝集まるのは、校門の前に立って挨拶運動をするときくらいだよ」

 「あー、あれな。冬とか寒そうだよな」

 「さむいよー。超寒いよ」

 あれは、いつもよくやるなーと思ってみていた。それでも笑顔を絶やさないめぐりは流石だと感心したのを覚えている。

 「じゃあ、今日は生徒会室行かなかったんだな」

 「うん。今日はほら、日直だから」

 「あーなるほど」

 確かに連絡黒板の右隅に城廻と書かれていた。

 「そういえば颯君。今日の放課後、珍しく生徒会の集まりがないんだけど、一緒に学校の近くにできたケーキ屋さん行かない?」

 「ん?ケーキ屋なんてできたのか。そういうのには疎いからなー。よし、別に予定はないし行ってみるか!めぐりと遊ぶのも久しぶりだしな」

 「うん!約束ね!」

 「おう」

 めぐりが生徒会長に就任してからというもの、生徒会の関係で放課後にめぐりと遊ぶ頻度がめっきり減ってしまった。久しぶりすぎて若干わくわくしてきた。

 

 

 そして放課後。

 日誌を返しに行くというめぐりを職員室前で待っていると、職員室の扉が開き一人の生徒が出てきた。

 「お、雪ノ下さんだ」

 「……?あなたは……面識はあったかしら?」

 おー、近くで見るとやっぱり美人だな。思い出そうとしているのか首を少しかしげているのがよく似合う。

 「うーん。俺が一方的に知っているだけだよ。君は有名だからね。俺は三年の比企谷颯太っていうんだ。よろしくね」

 「そう。それじゃあ失礼します。先輩」

 「うん。またね」

 そう言うと、雪ノ下さんは小さな会釈と共に特別棟の方へと向かっていった。

 ふむ。やっぱり特別棟か。何か関係あるのかね?

 「颯君、お待たせ」

 「おう。じゃあ行くか」

 「うん!」

 雪ノ下さんのことを考えていると、ちょうど職員室からめぐりが出てくる。

 まあ、考えても仕方ないか。さ!ケーキだ!ケーキ!

 「ケーキって何が美味いのかな」

 「友達の話だとチョコレートケーキが美味しいらしいよ」

 「チョコかー」

 「颯君好きだったよね」

 「おう、大好きだ!」

 俺はチョコが大好物だ。

 今年の二月にめぐりからもらったチョコ、美味かったなぁ。確か手作りだって言ってたし、今度また作ってもらおう。

 その後も未だ見ぬケーキに期待を膨らませながら校門へと向かった。

 職員室の中で行われている出来事も知らずに。

 

 

 「う、うめぇ……!」

 「ほんと美味しいね」

 あれから目的のケーキ屋へとたどり着いた俺達は、無事お目当てのチョコレートケーキを頼むことができた。

 その味は文句なしの一品だった。甘すぎず、苦すぎず。そんな絶妙なバランスの取れたチョコが俺の好みど真ん中だった。

 「めぐり、今度はこのぐらいの甘さのチョコ作ってくれよ」

 「了解。今度作ってくるね」

 「よっしゃ!今から楽しみだな!」

 よし!やったぜ!まじめぐりいいやつだな!

 そういえば、このケーキ持ち帰りもできたよな。小町と八幡にも買って帰ってやろう。

 八幡はあのマックスコーヒーを愛飲しているほどの甘党だからな。小町も女の子だし、ショートケーキでも買って帰れば喜んでくれるだろう。

 「弟と妹の分買ってくる」

 「ほんと弟さんと妹さんが好きなんだね、颯君は」

 「そりゃあ、大事な弟と妹だからな」

 「そっか。……うらやましいな」

 めぐりが小さく俺に聞こえるか聞こえないくらいの声で呟く。まあ、ばっちり聞こえてるけどな。

 「それじゃあ行ってくる」

 「行ってらっしゃい」

 俺は再びレジの前へ立つ。

 「ご注文はどうされますか?」

 「ショートケーキ三つで」

 まあ、あいつも大事な友達だからな。うん。

 

 

 「戻ったぞー」

 「おかえりー」

 俺は箱のテープを綺麗にとり、中からショートケーキを一つ取り出す。

 「ほい」

 「え?」

 「大好きな友達へ。いつも俺ばっかり貰ってちゃ悪いと思ってな。いらないなら俺が食うけど」

 「いる!いるよ!頂戴?」

 「おう!食え!たぶんこれも美味いぞ!」

 小さなイチゴの乗ったショートケーキをめぐりへと渡す。あのチョコレートケーキが美味かったからこっちも美味いはずだ。

 「……ありがとね。颯君」

 「なんのことやら?」

 

 

 「ただいまー!」

 「おかえり、颯お兄ちゃん」

 帰宅すると小町が迎えてくれる。

 わざわざ玄関まで出てきてくれる小町は本当に可愛いな。

 「ケーキ買ってきた。食後にでも食べな」

 「ほんとー!?やった!ありがとう!颯お兄ちゃん!」

 ケーキの箱を渡すと嬉しそうな顔を浮かべる小町。

 これだけ喜んでもらえれば買ってきた俺としてもうれしい限りである。

 「八幡は帰ってるのか?」

 「ううん。まだだよ」

 「珍しいな」

 すると玄関のドアが開き、見慣れたクセ毛が目に入る。

 「おう、おかえり八幡」

 「ただいま。なあ、兄貴」

 「ん?」

 「俺、部活することになったから」

 「……は?」

 おいおい、明日は雪か?


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