やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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やはり平塚先生には敵わない。

 夏休み。

 それは俺達三年生にとって大切な時間だ。

 受験生は入試に向けて夏期講習などを受け、就職希望者は履歴書やその他諸々の作成に取り掛かる。特に就職希望者に関しては夏休みが明ければすぐに試験となる。受験生にしても近頃は早い時期に推薦やらAOやらの試験を行う学校もある。

 そいつらに限っては夏休みとは追い込みの時期。

 そんな夏休みに俺は何をしているかというと。

 「小町、そこ違うぞ」

 「あっれー」

 「さっきも同じところ間違えたよな」

 「あっれー」

 机の対面に座る小町はそっぽを向きながら同じ言葉を繰り返している。

 俺が現在行っているのは小町の宿題の手伝いだ。まあ、小町はいつも夏休み中盤くらいには終わらせているし俺が見る必要もないんだけどな。

 ただ小町と一緒に居たいだけだ。

 あれ?今の彼氏みたいじゃね?や、やめろよ……。照れるだろ?……きめぇ。

 「……ん?」

 一人で気持ちの悪いことを考えていると、机の上に置いていた携帯が震える。

 最近携帯が恐怖の始まりになっていることを考えると携帯を手に取るのも躊躇ってしまう。

 「颯お兄ちゃん、電話なってるよ?出ないの?」

 「ああ、ちょっとごめんな」

 携帯を見つめながら固まっている俺を不思議そうに見る小町の言葉に我に返り、携帯を持って小町の部屋をあとにする。

 「えぇ……」

 携帯に映る『平塚静』の文字を見て俺は思わずそんな声を出してしまう。

 夏休みという学校のことを考えなくても良い時期にこの人の名前を見てしまうとは……。いや、受験生の俺が学校のことを考えなくても良いっていうのもおかしいけれども。

 夏休みに入って二週間という時が経ち、受験生向けの補習も一段落した矢先にこれだ。この人絶対狙ってるだろ。

 「はぁ……」 

 かといって出ないわけにもいかない為、しかたなく通話ボタンを押す。

 「もしもし」

 『やあ比企谷、補習ぶりだな。私と会えなくて寂しくなってきた頃だろう?』

 んなわけねえだろ!できることなら名前さえ見たくなかったわ!俺の携帯の通話履歴には、八幡と小町とめぐり、奉仕部の二人だけでいいんだよ!陽乃さんがいないのは忘れているわけではないぞ!

 「別に……」

 『なんだ釣れないな。まあいい、先程から君の弟にメールや電話をしているのだが、返事は来ないし電話にも出ない。どういうことかね?』 

 どういうことかね?と聞かれましても、面倒くさいことに巻き込まれたくないんじゃないですかね。八幡の気持ちはよくわかるぞ。

 「はぁ……。それで、俺にどうしろと?」

 『妹と協力して連れ出せ』

 あー……、流石平塚先生だ。八幡の動かし方を良く分かっていらっしゃる。

 「そう言われましても、俺どこに行くかも何をしに行くのかも聞いてませんし……」

 『千葉村に行く。そこで小学生が林間学校をするのだが、私達はボランティアとして手伝いをする。他の奉仕部メンバーには伝達済みだ』

 つまり、夏休みの奉仕部活動ということか。殊勝な心掛けだこと。まあ、どうせ俺も連れていかれるんだろうけど……。

 「拒否権はないんですよね……」

 『別に拒否してもいいんだぞ?もれなく陽乃とのデートが待っているがな』

 「無いのと同じじゃないですか……」

 あれはデートなんて可愛いものではない。ただの地獄だ。

 「わかりました。どうせ小町は喜んでやるでしょうしね」

 『話が早くて助かる。それでは頼んだぞ』

 その後、集合場所と時間を告げると平塚先生は電話を切った。

 いまいち気は乗らないのだがしょうがないか。どうせ海やらプールなんてものは行く予定もなかったし、ちょっとしたバカンス気分で行かせてもらうとしよう。少し川で遊べるみたいだしな。

 「小町~……」

 「小町は準備おっけーだよ!」

 「はえぇよ」

 平塚先生抜かりなさすぎ。

 

 

 「さて、電話に出なかった理由を聞かせてもらおうか」

 「……」

 バスロータリーに止められたワンボックスカーの前に立つ平塚先生を見た瞬間、八幡は手に持っていたバックを思わず落としてしまう。

 いやん、そんな目で俺を見ないで!俺だって来たくなかったんだよ!信じてはちまーん!

 いくら小町の頼みでも正直に伝えたら八幡がここに来ることはなかっただろう。そんな予想がついていた為、小町は勉強を頑張ったご褒美としてお出かけを所望した。その行先が千葉。まあ、千葉村だが。

 そんなことなど全く知らない八幡はまんまと小町の策にはまってしまったということだ。

 「ヒッキー、遅いし」

 八幡に向けて手を合わせていると背後から声をかけられる。

 そこにはパンパンに膨らんだコンビニ袋を持ったガハマちゃんと雪ノ下さんが立っていた。

 二人の服装は林間学校へ行くということで、いつもとは違う動きやすそうな格好となっていた。ちなみに、俺達も家を出る前に動きやすい格好に着替えた。

 小町に関しては八幡のお古のTシャツを着ていただけだったからな。流石にその格好で外に出すことはできん。この世から俺と八幡以外の男を消さなきゃいけなくなるからな。

 「結衣さん、やっはろー!」

 「小町ちゃん、やっはろー!」

 ずっと思ってたんだけど、その挨拶って流行ってるの?俺も時々使ってみるけど、めぐりは笑いながら首を傾げてたぞ。

 「雪乃さんもやっはろー!」

 「やっ……。こんにちは」

 ガハマちゃん達につられて同じ挨拶をしそうになった雪ノ下さんは顔を赤くしながら言い直す。

 「無理して言い直さなくてもいいのにー」

 俺はそんな雪ノ下さんをニヤニヤしながら見る。

 「……いたのね、変態お兄さん」

 「誰が変態じゃい!雪ノ下さんにそういうことした覚えは!……あるかな?」

 「明確な否定ができないのね……」

 しょうがないだろ!俺にとって雪ノ下さんやガハマちゃんは妹みたいな存在であり、無意識にそういうことをしている可能性があるからな。小町にも時々しちゃうし。

 「八幡っ!」

 俺達が談笑していると、可愛い声と共にこちらへ走ってくる可愛い女の子、ではなく男の娘が現れる。そう、戸塚君である。

 あれ?戸塚君がいるということは材木座君も来ていいはずなんだけど……。

 「彼には劇闘がなんだのコミケがなんだの締め切りがなんだのと断られた」

 すげぇ材木座君、平塚先生の誘いを断ったのか。

 平塚先生は断ってもらいたかったのかもしれないが……。

 「さて、それでは行くとしようか」

 全員揃ったところで俺達はワンボックスカーに乗り込もうとする。

 真ん中の二人掛けには雪ノ下さんとガハマちゃん、運転席には勿論平塚先生、後ろの三人掛けには既に小町と戸塚君が座っている。

 「兄貴」

 「八幡」

 「じゃん!」

 「けん!」

 

 

 「よし、小町、戸塚君よろしくな」

 「うん!」

 「はい!」

 楽しい移動時間になりそうだ! 

 「やあ、よろしく、比企谷弟」

 「……くそぅ」

 ドンマイ八幡。あの時パーを出していれば君がそこにいることはなかっただろうね。

 「戸塚さんって夏休み何してます?」

 ちょっとした優越感に浸っていると、小町が俺の隣にいる戸塚君へ尋ねる。

 「僕は部活かな。小町ちゃんは部活してるの?」

 「小町は生徒会なので部活には入っていないのですよ」

 「そうなんだ。お兄さんは夏休み何してました?」

 戸塚君から同じ質問が俺に来る。

 「俺?俺はねー、夏休み入った最初の方は補習に行ってたかな。今は小町の勉強を見たり、自分の勉強をしたりかな。他の時間は大体寝てるよ」

 睡眠大事。いくら寝ても足りないからね。

 「そうなんですね。じゃあ、小町ちゃんは高校に入って部活やる気はないの?」

 「あー、兄の世話があるので……。小町としては誰か兄を支えてくれる人がいれば助かるんですけどねー」

 そう言って小町は戸塚君を見る。

 おい小町、素で間違えてるぞ。戸塚君はダメだから。

 「すいません、素で間違えました」

 「あはは、困ったことがあったら言ってね?八幡のお世話ができるかどうかわからないけど」

 うぉ!まぶしい!戸塚君の笑顔がまぶしすぎる!こりゃ、八幡も惚れますわ。

 「笑顔がまぶしい!」

 小町も同じことを思ったようだ。

 「あ、そっちだと太陽がまぶしいよね。大丈夫?」

 「気遣いのできる大和撫子。うーん、小町的にはぎりぎりありかも?」

 いや、ないから。お願いだから弟増やさないでください。

 そんな笑顔の絶えない車内でした。いろんな意味で。




次回の更新は一月二十一日午前零時です。
理由?知っている人は知っている。

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